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アニメの作画を語ろう
animator interview
 大平晋也(3)
小黒 新章4話では、今まで見た事のないようなアニメの描写が続出して、僕らはびっくりしました。
大平 そうなんですか?
小黒 ええ。実際に画面になっている事の、どのぐらいまでがプランにある事なんですか? 例えば、カメラが振れるところとか。
大平 それはコンテの段階でちゃんとやってました。
小黒 あるいは、カメラが人間の目線になってて、カメラが瞬きする場面がありますよね。
大平 瞬きは、昔から僕はやっていましたよ。『骨董屋』の時も過去に行く時に、目を開くみたいな感じのところがあるでしょう。僕のパターンです。
小黒 制作には、どのぐらい期間がかかったんですか。
大平 ちょっと覚えてないですね。とにかく長い事やったような気がします(苦笑)。
小黒 逸話も多いですよね。キャラをもっと似せろと言われて、その場で大平さんが、「クニに帰る」って、荷物をまとめ始めたという噂を聞いた事がありますが。
大平 「クニに帰る」とは言ってないんですけど「もう辞めます」とは言ったかな。別の方がさらに修正をのせるという話が出たんですよ。それで、「湯浅さんが駄目なら、僕もやれない。そこまでしてキャラを売りたいか」って。プロデューサーからは「そういう作品なんだ」って言われたんですけど。
小黒 それは……どちらの言ってる事も納得はできます(笑)。
大平 ははは(大笑)。そうですね。わがまま言っちゃいましたね。AICのスタッフの方々には本当、迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい。
小黒 その後、見返したりはしてますか?
大平 今日のインタビューのために見返したんですけど、やっぱりアラが目立ってるシーンが気になりますよね。「このシーンさえ、もうちょっとなんとかなってりゃ、もうちょっとまともに見えるようになるのになあ」って。
小黒 いえいえ。新章4話って、比較対照がないんですよね。『八犬伝』の1話は、「リアルなアニメで、フォルム優先で描いてるんだな」みたいな理屈で判断できるんですけど、新章4話って「突然、違うものが出てきた」という印象があります。なんて言うのか、「表現」という言葉がありますけど、普通は、商業アニメというカテゴリーの中で「表現」をやってますよね。ところが、新章4話って、「表現」がカテゴリーを壊しちゃって、表現そのもので勝負してるというか。
大平 いやあ、どうなんですかね。やっぱり、湯浅さんの力が大きいですよ。
小黒 ええっ、そうなんですか? 「そうなんですか?」って言うのは、湯浅さんに失礼ですけど(苦笑)。
大平 このシーンは地味でもいいかな、っていうところでも、湯浅さんははっきりした――メリハリの利いた動きや画を描かれるんです。そこが、自分の考えから外れていたんですよね。その辺が自分にとっては面白かったのかな。だから、僕自身には、どうしてそう描くのか分からないところもありましたね。
小黒 と言うと、具体的には?
大平 信乃が床に伏せてウーッって唸ってるところ、とか。
小黒 ああ、あの時の信乃の顔?
大平 そうですね(笑)。
小黒 あの辺りもよいですよね。浜路が部屋から出ていく時に、襖を閉じると反動で戻るところなんか、感動しましたよ。
大平 ああ〜、はいはい。うん、そうですね。僕も、4話は画が面白かったと思いますけどね。
小黒 いや、相当に面白いですよ。冒頭で、白い着物着た2人が斬られるところの、肉の感じもよかったです。重たい感じがしてね。
大平 ありがとうございます。あそこは僕がやってるんですよ。晋治君の力を借りて、2人で8ミリビデオで撮り合ったりして、それを動きの参考にしてやってました。公園にある折れたバットを刀に見立ててね(笑)。撮ったり撮られたりしながら。
小黒 ああ、お互いに演技をして。
大平 代官は泡雪って言うんですけど、「泡雪になって、ちょっと走ってみて」って。「それじゃあ、デブの動きじゃないよ」なんて言ってね。2人とも、痩せてるんですよ。だから「もっと重い動きで」ってね(笑)。そういうのが楽しかったですね。
小黒 以前にもビデオに撮ったりした事はあったんですか。
大平 それはないですね。『八犬伝』の時が、初めてですね。
小黒 大平さん達以前にそういう事をやってる人っていたんでしょうか?
大平 それは分からないですね。気にした事もなかった。田辺さんなんか、やってんじゃないかと思ってましたけどね。
小黒 チャンバラのところもいいですよね。
大平 そうですね。よく動いてましたね。あそこは、森田(宏幸)さんが頑張ってくれたんです。
小黒 鼻のところで鼻水が飛び散るのもいいですよね。あんなの、思いもよらないです。
大平 ははは(笑)。とにかく、全体として、綺麗なものよりは、ちょっと下品な画ヅラが欲しかったっていうのはありましたね。「顔をくしゃくしゃにして、鼻水なりをダラダラ垂らしながら……そのぐらいの勢いで、やって下さい」って作画に言っていたんですよ。
小黒 ははあ。
大平 自分でも仕事を始める時に、「キャラ表は見ない」と言って、自分用のキャラ表を用意してましたから。自分にだけ見えるように、僕の机の前に貼ってました(笑)。
小黒 それは、湯浅さんにも渡してないんですか。
大平 一応、「こんな感じで行きたいんだけど」って見せたぐらいです。「これでやってくれ」って言われたら、やっぱり、気持ちよくないでしょうし、湯浅さんの思うところを、なるべく出してほしかったんで。
 でも、「旅してるんだから、服がこんなにしっかりしてるわけないよ」とは言ったかな。「もっとヨレヨレでいい」とか「もっと髭は無精の方がいい」とか(笑)。髭だけは、最後までプロデューサーに言われましたけどね。「髭を描くな」って(笑)。
小黒 プロデューサーの気持ちも分かります。
大平 言う通りなんですけどね。仕事なんだから。
小黒 他に、新章4話で思い出深い事ってあります?
大平 後半、雨のシーンが多かったんで、雨をどこまで綺麗に見せられるかというのが問題でしたね。当時よくあった傷セルじゃなくて、何か新しいものはないかと。それで鉛筆描きしたものをホワイトカーボンでマシントレスして、それをスーパーで入れてもらったんですよ。細かい撮影を何回もやり直してもらったのが印象的ですかね。
小黒 パースが付いたレイアウトがありますけど、あれは、どちらの持ち味なんですか。湯浅さんなんですか。大平さんなんですか。
大平 両方だと思いますよ。僕もパースが付いたレイアウトは元々好きでしたから。ペッタンコの画面は大っ嫌いですからね。ルーツは山下さんですから(笑)。
小黒 なるほど(笑)。湯浅さんにうかがったら、大平さんと会うまでは、パースというものは描いた事がなかったって、おっしゃってましたけどね。
大平 えーっ、そりゃ謙遜でしょう。だって、湯浅さんは、美大出てるんだから(笑)。
小黒 いやいや。パースというのは、理屈では分かってるけど、それまで、『しんちゃん』とか、『ちびまる子』だったから、描いた事がなかったって。
大平 今、挙げた作品でも描いてるじゃないですか。思いっ切りパース付いてますよね。何を根拠にそういう事言うんですかね(笑)。まあ、あの作品は、上手く湯浅さんと動かし合ってよかったかな、と思います。
小黒 大平さんの画風は、新章4話で固まってますよね。
大平 1回アニメーターを辞めちゃってますからね。
小黒 あ、そうですね。『八犬伝』新章4話でやり尽くして……。
大平 いや、やり尽くしてはいませんよ(苦笑)。
小黒 失礼しました。それでも、達成感はあったわけですよね。
大平 そうですね。
小黒 で、アニメ界から、一度引退された?
大平 ええ。
小黒 再びアニメ界に戻ってきて、最初の作品は何になるんですか?
大平 『BLOOD』のゲームですね。一昨年ぐらい前なんですけど。それは100カットぐらいやっているんですよ。で、途中で自分の画に飽きたので、なんとか絵柄を変えたかったんですけど、巧くいかなくて、そのままですね。
小黒 メカアニメーター時代と、その後って激しく絵柄が変わっていますよね。
大平 そうでしょうね。変わったと言うより変えられた、かな。
小黒 関わった仕事によって?
大平 そうですよね(笑)。
小黒 大平さんの中で、山下さんに憧れてメカアクションを描いてた頃から『八犬伝』新章4話に至るまでというのは、断絶はないんですよね。全然別の画を描いてるつもりはないんですね?
大平 ないです。さっきも言ったように、山下さんの真似が嫌われたので、変えざるを得なかったんです。
小黒 じゃあ、心には未だに山下さんへ憧れが?
大平 心はそうですよ(笑)。
小黒 他に大平さんにとって存在感のある人って言うとどなたになります?
大平 やっぱり、晋治君かな。もう長い事、彼と付き合ってるんで。色々と手伝ってもらっているし、それにプライベートな部分でも、お世話になってます(笑)。
小黒 橋本晋治さんから影響は受けてるんですか。
大平 どうですかね。そういう風に思った事がないですけどね。でも、お互い触発してるっていうのは、やっぱりあるでしょうね。
小黒 実写に対する憧れはないんですか。
大平 ないですね。
小黒 『八犬伝』新章4話って、写実的ではあるけれども、実写のようなリアルとは違いますよね。
大平 そうですね。実写にあるようなリアルを求めてたんですけど、そうならなかったですね。やっぱり、画で描いてあるとね。
小黒 そうですか。僕は逆に画である事を主張してると思ってました。
大平 結果的に、そうなっちゃいましたね(苦笑)。
小黒 すると、実写のようなリアルを目指したんですか。アニメだからできる生々しさじゃなくて?
大平 そうなんです。実写っぽさを目指したんです。
小黒 あ、そうなんですか『八犬伝』の1話の時には。気持ちのよさとリアルさだったら、気持ちのよさを採って描いてたって仰ってましたけど、新章4話は、リアルの方なんですね。リアルの側に、ウエイトが移っていったわけですね。
大平 そうですね、多分。
小黒 さっき『GALL FORCE 2』から変になっちゃったって、おっしゃっていましたけど、それは、悩むようになったという事なんですか? あるいは過剰にやるようになったという事?
大平 過剰にやるようになっちゃったって事ですね。
小黒 そうした過剰さは、質こそ違えど変わらずにここまできている、と言えるんじゃないですか。
大平 そうかも知れないですね(苦笑)。なんだかんだ言って、やっぱり、目立ちたがり屋なんでしょうね。地味なのより派手なのが好きだし。
小黒 普通のものよりは、ちょっと変わったものの方が。
大平 そうなんですよ。自主アニメ的なね、ああいうものが描きたくてしょうがない。動きはバラバラで作品としてまとまっていないんだけど、やりたい事は分かる、みたいな作品ってあるじゃないですか。
小黒 以前に、あるアニメーターの方がおっしゃってたんですよ。「みんな、『八犬伝』4話を、画がいいって言うけど、それは違う。あれは話がいいんだ」って。
大平 ああ、ありがたいですね、それは。そういう奇特な方もいるんですね(笑)。
小黒 「キャラクターの気持ちが凄く伝わってくる。声優の芝居もいい」というような事を仰ってたんですよ。確かに、特にクライマックスなんかは、キャラクターの気持ちのぶつかり合いの感じが、よく出てますよね。
大平 もっとネチっこくなると、よかったんですけどね。
小黒 まだ足りなかった?
大平 もっとドロドロにしたかったですね。
小黒 今後、アニメ界でたお仕事続けていくんですよね。
大平 ええ、そのつもりです。
小黒 オリジナルの作品をおやりになるつもりはないんですか。
大平 心の片隅にはありますけどね。現在は地方に住んでいるので、なかなか難しいでしょうね。元々アニメ好きなんで、考えるのは面白くて楽しいんですけどね。やっぱり、画を描く辛さが、かなり身に染みましてね(苦笑)。もう自分の中では、でき上がっちゃってるから、それを形にするのは面倒臭いんですね。それに、思い通りにはなかなか描けないものだし。
小黒 思い通りにいかない――と言うと、原画描く前に、「こういう動きだ」とか、「こういう画だ」ってイメージしますよね。その時にイメージしたものは、描けてるんですか。
大平 それが、なかなか描けないんです。
小黒 イメージは、クリアにあるんですね。
大平 大体は。でも、描いていくうちに、コロコロ変わりますけど(苦笑)。
小黒 実際に描く時間とその前にイメージする時間があるとすると、イメージする時間の方が長いんでしょうか?
大平 どちらかと言うと、イメージするのに時間をかけますね。絵コンテを見て、どういう俳優さんでやらせようっていうのを考えるんです。
小黒 例えば、キャラクターがいて、「俳優だったらこの人だ」とイメージする?
大平 そういう風にしないと、いつもみんな同じ動きになっちゃうじゃないですか。
小黒 つまり、自分に描きやすい動きになってしまう。
大平 そうそう。自分の持っているものだけでやってしまうと面白みがないので、なるべく新しいものを、という事で、いろいろ試行錯誤するんです。
小黒 とすると、理屈で描くわけではないんですね。あくまでイメージなんですか?
大平 イメージですね。理屈は嫌いですからね。カチッとしてるのが嫌いなんですよ。なんでもそうなんですけど。
小黒 それは、やり方にしても、実際の画にしても?
大平 ええ、そうですね。
小黒 うつのみやさんとは、対極ですね。うつのみやさんは、「僕は理屈だけで描いてます」みたいな事をおっしゃってたんですよ。「感性で描ける人が羨ましい」って。
大平 うつのみやさんだって、十分感性で描いてるじゃないですか(笑)。
小黒 最後に言い足りなかった事はありますか。
大平 橋本晋治君には、かなりお世話になってるんで、「ありがとうございます」って、記事に入れておいてください(笑)。

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