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傑作短編「COMEDY」で監督デビュー
 中澤一登インタビュー
 ショートフィルム連載マガジン「Grasshoppa!」vol.3に収録された『スウェットパンチ』の一編「COMEDY」は、『神秘の世界エルハザード』のキャラデザインや『ロードス島戦記 英雄騎士伝』のOP等で知られる、中澤一登の初監督作品だ。アイルランドを舞台に、村を救おうとする少女と、彼女が出逢った謎めいた「黒い剣士」の活躍を描いた童話的な物語。格調高くシリアスなムードと、いかにもSTUDIO4゚Cらしい先鋭的な映像と感覚、そして、いわゆるアニメ的なキャラ描写やアクションを絶妙のバランスで融合させた、才人・中澤一登ならではの作品だ。  
  また、「Grasshoppa!」のDVDには、この作品の「NORMAL ver.」と、ドラマに観客(?)の笑い声がかぶさった「LAUGH ver.」の2バージョンが収録されている。さて、この「LAUGH ver.」の意味は? そして、そもそもこの作品に「COMEDY」というタイトルがついている理由は?

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ショートフィルム連載マガジン「Grasshoppa!」創刊

●「Grasshoppa!」HP
http://www.grasshoppa.jp/

●2001年3月20日
取材場所/東京・吉祥寺
取材・構成/小黒祐一郎

PROFILE
中澤一登(Nakazawa Kazuto)

 1968年。新潟出身。血液型B型。東京アニメーター学院卒業後、マジックバスを経て、現在フリー。キャラクターデザインとしての代表作は『神秘の世界エルハザード』『課長王子』等。『VIRUS』のEDアニメーション、アイキャッチや、『ロードス島戦記 英雄騎士伝』のOP(演出・作画)等での鮮烈な映像も印象的。近年の代表作に『デジモンアドベンチャー02 ディアポロモンの逆襲』(作画監督)がある。イラストレーターとしても活躍中。

小黒 『スウェットパンチ』の話は、どういう形で来たんですか?
中澤 田中栄子さん(注1)から「やりませんか?」という話がきて。何本かタイトルを並べられたんです。
小黒 その時、『スウェットパンチ』以外のタイトルもあったんですね。
中澤 他のは、みんな長そうなものだったわけですよ(笑)。長い作品ってストレスが溜まりそうだなあと思って。それで「これ、やらせてください」って。
小黒 なるほど。『スウェットパンチ』なら尺も短いし。
中澤 1人で、ほとんど全部やれちゃうっていうのが大きかったんですけどね。
小黒 企画上の縛りはなかったんですか?
中澤 本当に全くなくて、「何やってもいい」と言われたんです。他の面子を聞いて、なんとなくビデオの方向性みたいなのが分かったんですよ。「あ、サブカルだな」って思って(笑)。
小黒 それは『スウェットパンチ』だけじゃなくて、「Grasshoppa!」全体の方向性が?
中澤 そう。それも嫌いな方向性ではなかったんですけど。僕よりそういう方向が上手い人が山のようにいると思ったんで。せめて僕はコテコテのアニメでやろうと思って。
小黒 ああ、やっぱり。中澤さんのやつは「アニメ」を狙ったんですね。
中澤 そしたら、4本目の村木(靖)君のもそうだったんですけどね。
小黒 この場合の「サブカル系」っていうのは、「カッチョイイ系」というふうに捉えてよろしいんですね。
中澤 そうですね。感性が横向き型って言うのかな。自分は「笑われてもいい」と思ってやったんです。
小黒 え! そうなんですか!?
中澤 ええ(笑)。
小黒 いや、「COMEDY」も、カッチョよかったですよ。
中澤 まず、「漫画である」という事を否定しないところから始めようと思ったんですよ。そういう方向で技術を見せるアニメって、少なくなってきたでしょう。そういうのを、ちょっとやってみたいなあと思って。少し昔は、それが主流だったと思うんですけどね。
小黒 「COMEDY」の頭のあたりを観た時、「これはちょっとスカした方向かな?」と思って。
中澤 そうでしょう。
小黒 でも、クライマックスとかは、メチャメチャにアニメですよね。
中澤 そう(笑)。超アニメ。
小黒 超アニメですね。必殺技炸裂! みたいな。
中澤 迷ってはいたんですよ。音楽でシューベルトを使ってるでしょ。クラシックって音だけで画面がもっちゃうんですね。だから、本当に曲だけ聴かせる名曲アルバム風のものにするか、起承転結をつけるかでちょっと迷って。結局、起承転結をつける方向にいったんですよ。それで、アフレコをやってる時に録音監督に「4℃作品で、やっと僕にも理解できそうなのがきたよ〜」って言われて(笑)。
小黒 はははは! 確かにいつものSTUDIO4゚Cの作品に比べると、分かりやすいかもしれない。
中澤 今回は背景がよかったですから。それだけでもう成功でした。西田(稔)さんと、勝井(和子)さんという方にメインでやってもらったんです。お2人ともかなりのベテランなんですけど、ものすごくセンスがいいんですよ。巧いとかそういうのじゃなくて、センスがいいんですよね。木の枝ひとつにしてもソリッドな感じがするんですよ。今回、生まれて初めて巧い背景でやったと思った(笑)。
小黒 話はスルスルッと出てきたんですか?
中澤 元ネタが決めていたんで……。まあ、私はその辺りは開き直ってますから。元ネタの映画があるんですよ。話は「薔薇の名前」ですね。映像的にはアラン・パ−カ−とティム・バートン。自分ではなんにも考えてません(苦笑)。
小黒 オープニングやエンディング以外で、中澤さんのカラーで1本の作品を頭から終わりまで作ったのは初めてですよね。
中澤 そうですね。でも、アニメって本当にスタッフの力が大事だと思いましたよ。スタッフが揃わないと何もできない。色もそうだし、撮影もそうだし、エフェクトもそうだし。「COMEDY」ではスタッフ全体で、トラブルがほとんど起きなかったんですよ。大体、撮影や色指定とかでトラブルが起こるんですけど、今回はビックリするぐらいスムーズにできて。こんな事もあるんだなあという感じで。
小黒 なるほど。
中澤 難しかったののはノイズですね。ノイズが上手くいかなかったんですよ。デジタル画面を劣化させる事が、どうしても上手くいかなくて……。
小黒 古いフィルムみたいにしたかった?
中澤 そう。ハリウッドの映画とかを見てても、あまり上手くいってないんですよ。最初は既製のフィルターでなんとかしようとしたんですけど、結局無理だという事になって。段ボール箱をスキャンしたり、制作の畑田(理香)さんのマフラーをスキャンしたり(笑)。それを何重にも重ねたのが、あのフィルターなんですけど。
小黒 なるほど。お手製なんですね。
中澤 エフェクトは亀井(幹太)(注2)が全てやってくれたんで、失敗はないだろうなあと思ってましたけれど。まあ、2度と使えないネタですけどね(笑)。
小黒 それは内容的に?
中澤 内容的にも手法的にも。次があったら、また別のを考えなきゃ……。
小黒 今回のを観て思ったんですけど、やっぱり、女の子を可愛く描くのが好きなんですね。
中澤 当たり前じゃないですか〜!
小黒 (笑)
中澤 僕には姪がいるんですけどね、可愛くてね。
小黒 いくつなんですか?
中澤 まだ2歳(笑)。
小黒 そういう意味じゃないですよ(笑)。中澤さんは『(銀装騎攻)オーディアン』とかでも、女の子の芝居とかでギャグをやってたじゃないですか。
中澤 少女漫画を読んで育った世代ですからね。ああいうのやると、読んでいたものの影響が出るんだろうと思います。ただ、ちょっと上の方からものを見る感じがありますけどね。
小黒 と、言いますと。
中澤 客観的に見てるような映像になりがちだと思うんですよね。芝居とかも。カメラを近づけて撮ってるようなのじゃなくて。
小黒 ああ、ちょっと引いた感じに。
中澤 ちょっとね、遠くの方から見てる感じの(笑)。悪い癖ではあると思うんですけど、なかなか、そのあたりを切り崩せないんですね。
小黒 全然違う事を訊いていいですか。『餓狼伝説』でもコンテ切ってますよね。
中澤 ええ、劇場版ですね。
小黒 パーティのシーンで女の子が男のキャラクターに肘打ちして、次のカットになってもキャラが肘打ちしたポーズのままスライドしているというギャグがありましたが、あそこって中澤さんのコンテですか?
中澤 そうです。
小黒 ああ、やっぱり。あれは面白かった。
中澤 えへへ。あれ、石田(敦子)さんにウケたんですよね(笑)。
小黒 『オーディアン』とか「COMEDY」を観て、ひょっとしてそうなのかなと思ったんです。意外と愉快な演出が得意なんですね。
中澤 アクションシーンが苦手だと思われてるらしくて。コンテをやる時は、アクションのないところしか回ってこないんですよ。
小黒 「COMEDY」はDVDだと「NORMAL ver.」と笑い声の入った「LAUGH ver.」がありますよね。僕は、最初にNORMALの方を観て「すげえ、いいよ!」と思って。その後でLAUGHの方を観て、ちょっと混乱したんですけど。
中澤 はははは!
小黒 どういう意図でこの笑いをつけたんだろうかと思って。中澤さん的には笑い声がついた方が完成版なんですか?
中澤 最初から笑い声をつけるつもりでした。さっき言ったように、ちょっと古い感じで作ってるでしょ。それを自分で嘲け笑ってやろうかなとか、そんな感じもあったんですよ。「俺なんかこの程度だぜ!」とか。
小黒 はあ、つまり自嘲も入ってる。
中澤 そうそう。だけど、アフレコの時に、スタッフ全員に「笑い声はいらない」と言われてしまって(苦笑)。「いらないかなあ? でも……」と言ってたら、録音監督が「とりあえず録りましょうか」と言って。で、録ってみたら意外と面白かったので、田中(栄子)さんがアフレコスタジオから「Grasshoppa!」の事務所に電話して「副音声はできないのっ!?」って感じで。
小黒 (笑)。
中澤 それで、まあ、2パターンを作る事になったんです。
小黒 元々は、どういうつもりで笑い声を入れるつもりだったんですか。今の自嘲的な笑いっていうのは、半分シャレとして。
中澤 以前、アメリカのコンベンションに招かれたんですよ。それで日本のTVアニメが会場に流れると、わけがわからないくらい過剰に受けるんですよ。
小黒 笑うところでもないのに。
中澤 そうそう。色っぽいキャラが出てきて「あっは〜ん」みたいな事やったら、「ウオウオウオ〜ッ!」とか(笑)。それがおかしくてしょうがなくて。笑い声っていうのも面白いもんだなあと思って、それで入れてみたんですけど。
小黒 元々あの話を考えた時に、笑い声をつけようと考えたわけではないんですよね。
中澤 いや、ハナからやるつもりでした。
小黒 あの画と内容の真面目っぽい感じで、アニメっぽい表現を入れて、さらに笑い声というプランだったんですか。
中澤 そうそう。なんか「つられて笑ってくれるんじゃないかなあ」とか(笑)。
小黒 はっはっはっは! それでタイトルが「COMEDY」だったんだ。
中澤 そうそう。それもかけてたんですよ。それから「薔薇の名前」が元ネタだから(注3)。「喜劇」っていう言葉はインパクトあるんだけど、訳すと「COMEDY」にしかならないんですよね(笑)。COMEDYって言葉は、日本だと言葉の意味合いが違う感じになっちゃうんですけど。
小黒 で、今後はどうなんですか?
中澤 今後ですか。
小黒 監督業を続けていきたいという考えは。
中澤 ナイっ!
小黒 ないの!?
中澤 だって、人を使うのができないですもん(苦笑)。苦手なんですよ。
小黒 今回は原画を1人で描いたんですよね。
中澤 ええ。それについてはメチャメチャ気楽だったですよ。他の作品で演出やって、シートチェックとかするでしょ。ダメなんですよね。なんか「リテイク出したら、怒っちゃうかなあ……」とか思っちゃって。
小黒 (爆笑)
中澤 (爆笑)。原画がよくないと「俺のコンテが悪いのかなあ」とか思って。やっぱり、監督は無理だな! とにかく今回はスタッフの仲がよくて、いちいち遠慮が要らなかったのがよかったんですよ(注4)。共通言語もたくさんあって、逐一説明しなきゃいけないっという事がまずなかったんですよ。「おかしいな」とかいう時も「これ、なんとかしてくれ」って言えば、それですむ(笑)。これが話が通じない相手だと、理屈を話してから「だから、おかしいでしょ」って言わなきゃいけない。
小黒 僕としては、中澤さんに監督作品をもう2、3本やってもらいたいですね。
中澤 ……できないですねえ(笑)。監督という言葉があんまり好きじゃないんですよ。監督っていう職業に就くと、「監督」って呼ばれるでしょ?
小黒 まあ、そりゃそうですよね。
中澤 あれが嫌なんですよ(笑)。
小黒 ああ、よく分かんないですけど、なるほど。
中澤 えらそーだなあと思って。

(注1)田中栄子
スタジオSTUDIO4゚Cのプロデューサー。『スウェットパンチ』だけでなく、『デジタルジュース』等、クリエイターの個性が発揮されたオムニバスの短編アニメを数多く手がけている。
(注2)亀井幹太
アニメーター。『デジモンアドベンチャー02 ディアポロモンの逆襲』では中澤と一緒に作画監督を務めている。他には『サクラ大戦』シリーズ等に参加。
(注3)「薔薇の名前」
「薔薇の名前」と「COMEDY」の関係について気になる人は、映画本編を観てみよう。
(注4)スタッフの仲が良くて
全くもって余談だが、「COMEDY」のメインスタッフは全員の血液型がB型だったそうだ。結束がよかったのも、そのためなのだろうか?

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