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「この人に話を聞きたい」 平田敏夫(4)
―― あまり話題になる事はないですけど、『はれときどきぶた』も、かなりキテる作品でしたよね。(注15)
平田 キテる(笑)。あれは小松原一男がいなかったら、成立しなかった。それと、あれもやっぱり丸さんが。
―― ええ? だって、あれはオープロの作品ですよね。
平田 オープロなんだけど、丸さんが来てくれてね。途中に挿入される日記のシーンの描き手がいなかったんですよ。それを、丸さんが振ってくれた。兼森さんでしょ。大橋学ちゃん、浜(崎博嗣)ちゃん。それから栗原(玲子)さん。マッドハウスのトップアニメーター達が、オープロ作品なのに参加してくれた。
―― 主人公が描いた日記の画が動くシーンですよね。いたずら描きみたいなアニメ。あれは鉛筆画なんですか。
平田 あれはクレヨン画。それを丸さんが仕切ってくれた。僕は、お釈迦様の手のひらの上を飛び回っている、孫悟空みたいだよね(笑)。美術は門野真理子でね。それを綺麗にまとめたのが小松原一男なのね。小松原一男っていうと、『ハーロック』みたいな作品で知られているけど、『はれぶた』も彼の世界なんだよね。小松原さんが亡くなってから、奥さんと話をしたんですけど、生前、「やっぱりね、こういう作品を大事にしなきゃね」と、いつも言われていたそうですよ。
―― 『はれぶた』も、平田さんにとって大事な作品なんですね。
平田 あれほど好きなように演出した作品は、他にはないかもしれない。『金の鳥』と『ボビー』と同じくらい愛着を持っている。原作も相当ぶっ飛んでいて。作者の矢玉四郎さんという方もぶっ飛んでいて。反骨の固まりで。よくああいう絵本を出版社がOKしたなと思うくらい。鉛筆が天ぷらになったり、消しゴムが薬だったりという、そういう生活のひっくり返しが、子供達にとって堪らない面白さだったりするので。原作のポリシー、構成はそのままにした。もっとストーリー性を加味するとか、そういう作り方もあったのかもしれないけれど、それはしかなった。ただ、映画としてのクライマックスは必要だよね、という事で、街がブタだらけになるところのアイデアを膨らましたくらい。ただ、原作では、舞台の街がどういう設定なのか、あまり見えなかった。門野真理子と小松原一男とそれについて考えてる時に「これなら、俺が住んでるところがぴったりだよ」って、小松原一男が言ったんです。
―― 小松原さんのご自宅って、金沢文庫の方ですよね。
平田 うん。原作に1ショット、飛行機が着陸するとこがあって、すると羽田空港の近くか。原作に、赤っぽい電車が走ってたから、じゃあ京浜急行か。それで、そこへ遊びに行ってみようかという事になって、カメラを持って行ったら、イメージ通りの神社があって(笑)、海があって。原作に海は出てこないんだけど。それで、そこをロケーションしたのね。ブタだらけになるクライマックスシーンに出てくる消防署、街並み、パチンコ屋、京浜急行の駅のガード下なんて、全部、小松原一男がここにしようって、提案したんだ。
―― クライマックスはあるものの、あの映画も、割とストンと終わりますよね。
平田 あれはストーリーじゃなくて、生活の断片だと思っていたから。明日も同じような日が続くのかもしれない。要するにあの子は、基本的には反省も何もしてない。反省して成長するという物語もあっていいんだけど、この作品の場合、それは要らないんじゃないと思った。「想像力というのはどういうものなのか」という抽象的なテーマでいいんじゃないと思った。
 あの映画に関しては、本当にみんながハッピーだった。原作が人気作だったから、スポンサーも乗りやすかった。僕らも「こんな面白いものが、アニメでやれたら最高だ」と思っていたのが実現した。子供達にも受け入れられた。結局、三百万人ぐらい動員したんです。原作者も大喜び。スポンサーも大喜び。作った人も大喜び。しかも、スケジュール通りに上がって、赤字を出さなかった。
―― そうなんですか。
平田 全部ハッピー。あの作品で損した人はひとりもいない。珍しいケースだよね。
―― 先日、『小さな恋のものがたり』を観ました(注16)。章ごとに「SUMMER」「AUTUMN」「WINTER」とタイトルがつけられていて、最後に季節がひと回りして春に戻って「SPRING」で終わる。それで途中にポエムシーンが挿入される。凝った構成ですよね。
平田 止め画を入れるのは、僕の癖みたいだね。『はれぶた』もそう、『ボビー』もそうでしょ。『金の鳥』も『ユニコ』もそうだね。止め画だったり、イラストだったり。
―― あるいは、ミュージカルシーンとか。
平田 どうしても、そういうのを入れたがるんです。そういう意味では一貫している。画を大事にしちゃっている。「動きも大事だけど、止め画も大事だよね」という感じでやっちゃってるね。『小さな恋のものがたり』のポエムシーンは、雪室さんも大満足。原作者も大満足。あのポエムのシーンが入ったおかげで、構成が上手くまとまったと思う。そもそも雪室さんのシナリオが、そういう構成になっていたんだと思うの。
―― 全体を、春夏秋冬で章分けする構成ですね。
平田 そうです。それは僕が考えた事じゃないのね。それで『小さな恋のものがたり』のポエムシーンが形を変えて『あずきちゃん』まできているんだよね。結局、同じスタイルで同じ事をやってるんですね。
―― 別の取材でもおっしゃっていましたけど、平田さんの中では『小さな恋のものがたり』と『あずきちゃん』が直結してるわけですね。
平田 うん。雪室さんがその時の事をおぼえていて、『あずきちゃん』で毎回モノローグを入れる構成にしてくれたんじゃないか。僕は勝手にそう思っているんですけどね。(注17)
―― 『あずきちゃん』は、平田さんのお仕事の中では、印象的な部類に入ります?
平田 入りますよ。ものすごく大きいです。
―― 全話のエピローグのイラストですよね。
平田 うん。20秒間の時間とテーマを与えられて、「あずきちゃんは、何を感じたんだろう」と考えて。画の内容を考えて、画風も考えて、色味も考えて、毎週挑戦していく。「よくも3年もやったなあ」と思う。「週刊新潮」の表紙を描いてる人はどんなに辛いだろう、とか思った(笑)。画の内容については丸さんも、小島(正幸)監督も僕に任せてくれて、細かい注文は出なかった。毎週毎週どうやって観ている人を裏切って、楽しませてあげようかな、という事ばっかり考えていたでしょ。辛いというよりも、楽しい事の方が多い仕事だった。
―― エピローグのイラストって、カメラワークも平田さんがつけてたんですよね。
平田 そう。カメラワークは本当はいらなくて、フィックスでも良かったのかもしれないんだけど。つけるか、つけないか。選択肢はその二つしかないんだけど(笑)。1回つけたら、もうずっとつけざるを得なくなっちゃって。
―― あのイラストは、脚本を読んでお描きになっていたんですか。
平田 そうです。雪室さんの脚本を読んで描いていました。それでナレーションが脚本通りの時もあったし、小島さんがちょっとナレーションを変えていた事もあった。変えたナレーションがかえってイラストに合っていたりしてね。やっぱり小島さんが演出的な小味を効かせているんですよね。だからこの仕事も、僕が全部を好きにやったと言うと、ちょっと語弊があるんです。そうやって、監督がカバーしてくれていたところがあった。
―― 雪室さんとのお仕事というと、『カッパの三平』もそうでしたよね。雪室さんとのお仕事は何度かあるんですね。
平田 『あしたのジョー』は出崎統の監督作品だけど、その時に何度か、雪室さんの脚本でコンテをやっているんです。その後、『小さな恋のものがたり』まではないんですよ。でも、『小さな恋のものがたり』をやって「あれ、波長が合うのかな?」とか思っちゃったの。それからしばらくして、『カッパの三平』でご一緒する事になった。
―― なるほど。
平田 『カッパの三平』は、僕がマッドハウスから外に出てやった仕事なんですよ。よそのスタジオに他流試合に行ったようなものでね。雪室さんの脚本がものすごく素敵で、「やりたい!」と思ったの。オバケ映画じゃなくって、少年のひと夏の物語だった。それが素敵だったのね。だけど、『カッパの三平』はちょっと制作面で予算的に厳しかったんです。マッドハウスでは、さっきも言ったように名優に囲まれて仕事をしていたけれど、マッドを離れたらそんな役者達は使えないんですよ。でも、頑張ってみよう。脚本が良ければ、作品は観られちゃうものだよ、と思って。エンディングでは「やっぱり人がやんない事やんなきゃなあ」と思って、カメラマンとカッパコレクション(板久河童コレクション)という河童のものが集められているところに行って、写真を撮ってきて。それをモンタージュして、カッパだらけのエンディングを作った。それで映画にちょっとひと味、加味したんです。作品としてはいい雰囲気のものになったと思う。雪室さんも「脚本を(ちゃんと)読んでくれてありがとう」みたいな事を言ってくれた。色々あったけど『カッパの三平』は割と好きな作品。それから、あれは丸さんの手の外の作品。
―― 平田さんに関して気になっている事がひとつあるんです。『はだしのゲン』以外にも、それ以降、戦中もの、終戦もの、あるいは広島を題材にした作品を、かなりの数おやりですよね。(注18)
平田 やっていますね。
―― だけど、平田さん自身が広島出身であったり、身近に被爆された方がいるわけではないんですよね。
平田 別にそういう事じゃないんですよ。それも基本的に、丸山の仕切りなんですよ。「そういった作品を、特に短編を器用にまとめるのは、平田であろう」と考えて振ってくれてるんだと思う。僕自身に広島に関して、何か考えている事があって作っていたわけじゃなかった。ただ、作るためには勉強をするし、勉強をしちゃうと、やっぱり知らなかった時よりは思いが強くなるよね。内容に入り込まないと、作品って作れないし。だけど、時々、そういった広島関係の記事で取材を申し込まれる事があって、それは困る。「俺は、そういう事のオーソリティーじゃないんだ」と思っているんだけどね(苦笑)。
―― ここで改めて平田さんのスタンスについて訊きたいんですが、アート的なアニメーションを志してやって来て……。
平田 違う違う。志はないよ。志はないけれど、そういう志向を持っていた。ストーリーから入るアニメーションっていうのがあるよね。りんさんみたいに2時間以上もの長さを、すごい力業の演出で見せちゃうアニメーションがある。今(敏)さんの『千年女優』みたいに構成力で見せる作品もある。だけど、その一方で、「画が動くんだ」というところから入っていくアニメーションも、あるんですよ。
―― 「画が動く」という素朴な喜びから始まるアニメーションが。
平田 そうそう。一方で、そういうものもある。ヨーロッパの短編アニメとか、『老人と海』とか『木を植えた男』とか。ああいうものも素敵だよね。僕はどちらかというと、芸術家とか作家タイプではないんだけど、そういうアニメーションと、普通のTVシリーズが歩み寄れないのか、上手く結婚できないものなのかなあとは思っている。
―― 面白いなあと思うのは、平田さんが、そういう志向をお持ちでありながら、たとえば南家こうじさんみたいな個人作家にならないところですよ。
平田 うん。
―― 『花田少年史』のオープニングもそうですよね。すごい映像なんだけど「俺様の作品だぜ!」というオーラは出てないんですよ。
平田 あの作品の作家は、原作者の一色まことさんだからね。それと、監督の小島や作画の兼森さん達と一緒にやっているものだから。商業アニメーションという枠の中で、どういう風に自分が生きていくのか。それで自分にはどういう喜びがあるのか、そういうスタンスでやっているんだと思うのね。僕は作家ではないんだけれども、楽しい仕事としてアニメーションを選んだからには、アニメーションの良いところを忘れないでやっていきたい。音楽家でいうと、ソロのバイオリニストやピアニストって作家だと思うんです。独奏会を開いたり、オーケストラをバックに演奏したり。僕はそうではない。かといって大オーケストラに参加して、シンフォニーを奏でるのは、辛いところがあるんだよね(笑)。『メトロポリス』とか『千年女優』といった作品へ、今さら1人のスタッフとして参加するのは大変だあ、というのもある。
―― 『メトロポリス』や『千年女優』は、音楽に喩えるとシンフォニーなんですね。
平田 うん。それで自分は何に向いているんだろうと考えたら、カルテットとかね(笑)。4人なり、3人なりの息のあった仲間でクラシックをジャズで演奏するみたいな。自分に一番合ってる世界って、そういうノリなのかな。それは最近になって気がついたんだけどね。どちらにしろ、僕はタイプとしてはソロではないですね。芸術家じゃない。芸術家としてアニメーションをやりたいとは、そんなには思わない。憧れはあるけど、それは自分の手に余るというか。
―― 個人作家的な方向にいかない理由として、さっきおっしゃっていた「ストーリーも大事だ」というのもあるんですよね。
平田 うん。それと、共同作業の喜びも知ってしまった。刺激しあったりして、お互いに成長していくといった部分のよさね。
―― そういう作品作りのスタンスは、平田さんの性格的なところと関連しているんじゃないかと思うんですが。
平田 それはあるよね。自分の資質について考えると、メロディメーカーじゃないな。やっぱり、アレンジャーだなあと思うの。あらゆる技術を駆使して、作品を仕上げる。相当の手練れじゃないと、アレンジャーってできないから。自分が手練れだと自慢しているんじゃなくて、そういう生き方の方が合ってるのかも知れないと思っているという事。
―― なるほど。
平田 競走馬でいうとね(笑)、華麗な逃げ馬っていうのがありますよね。先頭を突っ切って、ワーッて逃げ切る人。僕は、そういう逃げ馬でもないし、強烈な追い込み馬でもないし、着実な先行馬でもないし、鋭い差し馬でもないし……って分かる?
―― (苦笑)。言われている事は、なんとなくわかります。
平田 それと別に、ジリ足ってのもあるんですよ。集団の中で目立たずトコトコ走ってて。それで、いつもいいとこには居るんだけど、目立たなくて。目立たないまま、毎回レース終わってしまう。で、間違って2着とか3着に来ちゃう時がある。「俺、ジリ足だなあ」って、自分で言うんですよ。他の馬は強烈な個性を持ってるんだけど、ジリ足はどこを取っても特徴がない。目立たないけど、みんな潰れた時なんかに、ひょこっと目立つ時がある。そういうタイプなんです。すごい喩えでしょ(笑)。

(注15)
ここで話題になっている『はれときどきぶた』は、ナベシン監督のTVシリーズではなく、オープロダクションが制作を担当した劇場作品。シュールな味わいが楽しい。美術の見応えもかなりのもの。
(注16)
正式タイトルは『小さな恋のものがたり チッチとサリー初恋の四季』。みつはしちかこの有名原作をアニメ化したTVスペシャル。脚本は雪室俊一。
(注17)
『あずきちゃん』では、その話の出来事を主人公があずきが振り返るエピローグ部分があり、その映像を構成するイラストを彼が描いていたのだ。各話ごとに趣向を凝らした、楽しいものだった。
(注18)
掲載した作品リスト以外にも、広島の被爆、反戦等をテーマにした作品を何本も手がけている。
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