編集・著作:スタジオ雄
協力:スタジオジブリ
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「アニメラマ三部作」を研究しよう!
山本暎一インタビュー 第3回
──
『千夜一夜』『クレオパトラ』でヒットを飛ばし、ついに『哀しみのベラドンナ』の制作が始まるわけですけれども。これは企画の成り立ちからして前2作とは、違うわけですね。『クレオパトラ』までのヒットを受けて、ヘラルド側は「その路線で3作目を」とは言ってこなかったんですか。
山本
もう少し虫プロが続いてれば、「この路線の3作目を」と言ってきたと思いますよ。『ベラドンナ』は、それとはまた別に、さっき言った『イエロー・サブマリン』の路線を、というのがあって始まったものだから。
──
その別路線は、山本さんから提案した形なんですか。
山本
いや向こうから言ってきたんですよ。
──
え、ヘラルドから言ってきたんですか! それは「前衛的なもの」というような言い方だったんですか。
山本
やや前衛的な要素の入ったもので。一般にも受けなきゃいけないんだけど、ちょっと前衛的なもの。
──
エロチックなものというのも前提だったんですか。
山本
うん、それは客の入りがいいように。当時はまだ(大人向けアニメの)実績がないからね。エロチックというのは、必要な条件だったんですよね。それが3作、4作とできた後なら、エロチックなシーンがなくてもいいんですけど。
──
で、内容に関してはヘラルド側からは提案されずに、山本さんの方から出すかたちだったんですか。
山本
企画はね、結構いろいろ考えました。苦労したんだけど、最終的には「魔女」という小説みたいな、ドキュメンタリーみたいな、詩の本みたいなのを見つけて、それに基づいてやろうという事になったんですよ。とにかく、純粋に大人向きの大衆娯楽映画で、『千夜一夜物語』と『クレオパトラ』が、ごく一般向けのもの。それとは別の路線で文芸的な香りの高いもの、という事で、僕がやることになった。企画は結構苦労しました。
▲アニメロマネスク『哀しみのベラドンナ』より
──
で、かなり初期の段階で、イラストをカメラワーク主体で見せるかたちで作ろうというプランになったわけですね。
山本
それは僕が考えたものです。ヘラルドは違うと思ったようですよ。違うと言ってもどう考えていたかは分かんない。要するに、あんなには止まらないだろうと思っていたようで。
──
(笑)。でも、「虫プロ興亡記」だと、最初にイメージを伝えるためにカメラワークでイラストを撮ったようなものを観せたら、その反応がよかったと書かれているんですけど。
山本
最初のパイロットフィルムみたいなものを作ってね、渡したら、それは非常に反応がよかったんですよね。
──
それも全然動いてないわけですよね。静止画をカメラワークで見せてるだけで。
山本
うん、動いてなかったと思いますね。その時は「いや、これはこれでいいんだ」と思ったんじゃないかな。あの映画は一番最初に、白一色の画面に線が一本出てきてね、その線がいろんな風に形が変わって、キャラクターになって、色もだんだん増えてきて、というふうに始まっていくでしょ。あそこからすでに実験精神ですよね。それで、どんどん押してしまった。
──
「魔女」を原作に決めてから、深井さんの起用までは、どのくらい期間があったんですか。
山本
これはすぐでしたね。もう深井さんしかないという感じで。
──
その起用を決めたのは、山本さんなんですね。
山本
ええ。
──
深井さんを選んだ理由はなんだったんですか。
山本
若い頃に、深井さんは非常に変わった画を描いていて、画のバリエーションが毎週変わるものをやっていたんですよ。僕はそれを見てて。
──
それは媒体はなんだったんですか。
山本
雑誌の名前はちょっと忘れましたけど。
──
雑誌なんですね。
山本
ええ。大人の雑誌で。とにかく、画は抜群に巧いし、動物もいいし、何といっても女ですね。だから、深井さんに決めました。
──
制作開始時に、深井さんに「現場に詰めてください」とお願いしたんですか。
山本
そうです。毎日は無理なので、1日おきだったかな。
──
深井さんはアニメーションの経験がまったくなかったわけですが、山本さんとしては、どこまでのお仕事を期待してしたんですか。
山本
やなせさんと小島さんは、キャラクターデザインだけなんですよ。実際にフィルムにしていく段階では何もしてない。『ベラドンナ』は深井さんに(本編の画を)全部描いてほしかったんです。でも全部は無理なんで、一部をアニメーターが手伝うという形で。
──
原画は深井さんで、アニメーターが動画を受け持つぐらいの感覚ですよね。
山本
そう。実際問題としては、とてもそんなにはやりきれないんで。結構アニメーターもやってますけども。原則的な考え方としてはそうなんですよ。1人のイラストレーターが全部を描いてしまうという。
──
動きのあるカットに関しては、実際に深井さんがお描きになったものを原画として扱って、アニメーターが中割をしているんですか。
山本
……そういうシーンもあります。深井さんは動く絵は描かないわけです。元の絵は描きますけど。1枚描くだけで。
──
その場合、深井さんが描いた画を、アニメーターがクリンナップして、さらに動画を描くわけですか。
山本
そうです。深井さんの画をそのまま撮影してるところもあります。あるひとつのやり方で全部通してるわけじゃなくて、色んなやり方をミックスしてるわけです。
──
動きでみせるカットで、全く深井さんの元絵がない状態でアニメーターが作ってるところもあるんですか。
山本
いえ、それはないです。
──
全カット、深井さんが何かしら描いてる?
山本
そうです。
──
それはキャラクターがいるカットに関しては、という事ですよね。街の崩壊シーンとかは深井さんは関わってないですよね。
山本
崩壊シーンは違いますね。
──
例の『イエロー・サブマリン』的な、色々なイメージが登場するところも深井さんは関わってないですね。
山本
そうです。
──
キャラクターがいるカットは、深井さんが何かを描いてるという事ですね。
山本
ええ。崩壊のシーンについても、一番最後に空に骸骨みたいな人間が浮かんでいるでしょう。あれは深井さんが描いています。
──
(「虫プロ興亡記」を見ながら)ここに載ってる深井さんの原画は、動きを追ってますよね。これを見ると、まるで要所要所で深井さんが原画を描いてるみたいですが。
山本
これは僕が描いてるんですよね。
──
ええっ!?
山本
元を僕が描いたんです。(映画の後半で)ジャンとジャンヌに会いに来て、二人の気持ちが高まって、愛撫になって、それがベラドンナの花に収斂するところ、なんかをね。それで、それを深井さんに清書してもらったんです。まあ、いろんな実験的なやり方を、やってるわけです。だから、極端に言いますと、カットによってやり方が違うというかね。
──
イラストレーターのウノ・カマキリさんが作画協力としてクレジットになってるんですけど。
山本
ウノさんはね、描いてもらったんだけど、1カットしか使ってないんですよ。
──
どこですか?
山本
ペストが流行ってくる時のね、群衆の一つですね。人がいっぱい並んでる絵が一枚、1カット(笑)。それだけですね。
──
さっきも話題になった、ベラドンナが悪魔と契った後に、イメージシーンが始まりますよね。あそこはコンテはどうなってるんでしょうか。
山本
大体ね、コンテというのもないんですよね。決まった形が。
──
え、それは『ベラドンナ』全体として?
山本
うん。全体ね。大きな紙にいっぱい描いてるのもあるし、一枚の紙に数カットだけ描いたところもある。いろんなのがあるんですよ。
──
コンテは、一冊にはまとまってないわけですか。
山本
まとまってないんですよ。まとめられない。だから、そこをどういう風にやったかちょっと分からないんです。
──
『ベラドンナ』全体の構成は、山本さんの頭の中だけにある、という感じで作ってったんですか。
山本
そうですね。前の『千夜一夜』や『クレオパトラ』は、演出コンテを、つまりストーリーボードを作ってたわけですよ。『ベラドンナ』では、これが全然ないんですよね。
──
じゃあ衣装のデザインも、全部深井さんがやっているんですよね。
山本
ええ。
──
時代考証的には自由に描かれてるものなんですか。それともある程度18世紀の風俗にのっとっているんですか。
山本
そういう点では自由ですよね。ただ、「中世ヨーロッパに見えるようにはしてくれ」とは言いましたけど(笑)。でも、ジャンが税金取る役人になった時に、サングラスをかけてたりするんですけど。そういう点は自由でしたよ。
──
深井さん以外の方が色を塗る場合、色の選択はどうしていたんですか。
山本
色はね、基本的に深井さんですよ。後で、他の人が適当に決めちゃったって部分もあるんでしょうけど、基本的には深井さんですよ。
──
『ベラドンナ』のフィルムのバージョンについて確認させてください。制作過程で作られたダミー版は別にして、ベルリン映画祭に持っていったバージョン、最初に劇場公開された時のバージョン、劇場公開中にラストを変えたバージョン、後にリバイバル公開された時の女子高生バージョン、ポニーキャニオンでソフト化された時のバージョンがあるわけですね。
山本
最初はジャンヌが火あぶりになった後に、群衆の中に悪魔が立っていて、悪魔が笑って終わっていたんです。ですが、ベルリン映画祭に持っていった時に、それが不評だったので、日本に帰ってきてから、そこを切っちゃったんです。
──
ベルリン映画祭から帰ってきてから、日本での公開だったんですか。
山本
いや、並行していた(※編注:「虫プロ興亡記」によれば山本監督が帰国した時、すでに国内で公開中だった)。で、帰ってきてから切っちゃった。だから、(封切りの)最初の頃に観てる人はそれを観てると思うけど、途中から消えちゃってるの。
──
劇場公開時の初めの頃には、悪魔のシーンもあるんですね。
山本
ある。
──
フランス革命のくだりは、その時にはなかったんですか。
山本
それはないです。その後にまた封切りをしようという時に、今度は女子高生向けにエロチックなシーンを切ったわけですよね(※編注:女子高生バージョンとは、アート好きな高校生にも観てもらうために手を入れたバージョン)。
──
そのバージョンの最後が、フランス革命だったんですか。
山本
その時にフランス革命がどうだったかは、覚えてないですけどね。それからさらにポニーキャニオンのバージョンがあって、その時は、フランス革命がついているんですよ。
──
いつかは分からないけれど、新たに深井さんに作画をし直していただいて、ラストのフランス革命の部分が作られたんですね。
山本
うん。ポニーキャニオン用にそうしたのか、女子高生向けにもそうしたのか、そこがちょっと分からない。
──
悪魔が笑って終わる方が、お話的にはまとまりがいいですよね。
山本
いや、今の方(フランス革命で終わるバージョンの方)がまとまりはいいですよ。
──
あ、そうですか(笑)。
山本
僕としてはその、悪魔で終わるやつはいいけれど、それ以後のバージョンは、違うなという感じがするんですよね。だから(認めているのは)一番最初のと、一番最後のバージョンか。
──
悪魔で笑うか、フランス革命か。その二つが、どちらも完成形なんですね。
山本
うん。
──
『ベラドンナ』のクレジットに、カメラマンの森山大道さんの名前が入っているんですが。
山本
森山大道さんは、中間に挟む実写を撮ってもらったんですよ。で、結局使わなかったんです(苦笑)。
──
使わなかったんですか(※編注:「キネマ旬報」1973年7月夏の特別号の「KINEJUN 試写室」によれば、第1回目の試写では森山大道による実写パートがあり、その後、カットされたとある)。
山本
最初は使いたかったんですけどね。まったく現代の女の人なんですよね。現代の女の人が出てきてセックスシーンなんかあるんだけど。なんか合わないなあと思って。申しわけないけど、お手紙出して、カットさせてもらいました。
──
クレジットされてるという事は、結構な量だったんですか。
山本
そうです、結構あるんですよね。
──
悪魔と契った後に、ジャンヌが花畑みたいなところで目覚めますよね。あのシークエンスは、林静一さんが描かれてるそうですが。あれはグラスペインティングですよね。撮影台の上で直に描きながら撮影していく。
山本
あそこは彼に頼みました。まず、基本的な作画をしてもらったわけですよ。普通の作画で。で、「これでいい。これを油(絵の具)で描いてくれ」と言って。
──
あ! そうなんですか!
山本
だから、元はあるんですよね。
──
それを下に敷きながら、あたりをとって、描いてるんでしょうか。
山本
下に敷いてはいないだろうけど、元になる作画はあるんです。
──
あのシークエンスは、色も含めて林さんに任せたって感じなんですか。
山本
そうです。
──
それから、いろんなイメージがめまぐるしく展開するところですけど。電車が走ったり、写楽が出てきたり、ゴルフクラブを振ったり(笑)。あそこはどなたが?
山本
あれはね、タカちゃんっていう。名字は児玉……。
──
あ! 児玉喬夫さん!
山本
そうです。児玉喬夫。
──
児玉さんが作画からやられたんですか。
山本
ええ。実写に換えてあれを入れてるんですよね。
──
そうなんですか。実写がなくなって、あのシーンが入ったんですね。いずれにせよ、あそこに強烈な何かが欲しかったわけですね。
山本
そうです。
▲上の4枚が児玉喬夫が担当したイメージシーン。下の2枚が林静一の手によるグラスペインティングのシーンだ
──
もう少し細かい話を聞かせてください。最初の方で、ジャンヌが領主に犯されるシーンがありますよね。脚がさけて、赤いコウモリが飛んだり。あそこの作画はどなたなんですか。
山本
脚が裂けるところは、杉井ギサブローですよね。
──
あっ! そうなんですか。
山本
ええ。杉井ギサブロー、プラス、前田庸生かな。コウモリが前田君なんですよ。コウモリも杉井君が一枚か二枚描いて、前田君が動かしていたんだと思う。
──
じゃあ、動きのタイミングとかはギサブローさんなんですね。
山本
そうです。
──
ああー。流石ですね。最初に悪魔が小さな姿で現れて、フルアニメでムニュムニュと動くところがありますよね。あそこはどなたの作画なんですか。
山本
杉井ギサブローです。
一同
(笑)。
──
なるほど。恐るべし、杉井ギサブロー! そういう、ちょっと緻密な事が好きそうなアニメーターとしては、吉田忠勝さんの名前もありますけど。
山本
吉田さんはね、最後の、火あぶりになるところがそうかな。それから、(彼が作画した)いちばん肝心なところはカットしてるんですよ。最初のシーンで、ジャンとジャンヌが紹介されて、2人の気持ちが高揚して、結婚式へ行くという事だったんですけど、そこを丸々カットしちゃったんです。
──
それはナレーションで「めでたしめでたし」と言う前?
山本
そう。「めでたしめでたし」の前です。そこが非常に長かったんですよ。
──
そこを吉田さんがやるはずだった?
山本
ええ。やりかけたんだけど、カットしちゃったの。
──
実際は予定されてたけど、描かれなかったとか、削ってしまったってシークエンスは他にもあるんでしょうか。
山本
他にもあると思いますけどね。どういうのかは忘れちゃったけども。
──
作画も完了しちゃったけどやめた、というのはないですか。
山本
それは、ないですよ。やめた部分は、多分、途中でやめてると思うんですよ。もっと長いのを短く使ったというのはありますよ。途中で魔女だっていうのが分かって、みんなに追っかけられますよね。あそこは細かく切っちゃってるんです。
──
ちょっとお話を戻して、深井さんに仕事を依頼された理由についてもう少しうかがいたいんですが。深井さんが週刊誌で連載をしてて、いろんなものをお描きになってたって、おっしゃってましたよね。その御覧になられた連載というのは、どういう内容だったんですか。
山本
それはね、ちょっとハチャメチャなストーリーでねえ、絵も、ハチャメチャな絵で、結構面白かったんだよね。
──
マンガじゃないですよね。
山本
マンガですよ。
──
マンガなんですか。絵柄は、『ベラドンナ』みたいな絵柄だったんですか。
山本
違います。もう全然違います。杉浦……。
──
えええっ!? 茂ですか?
山本
ええ。あんなような絵です。
──
じゃあ、それが『ベラドンナ』に起用した直接の要因ではないんですよね。
山本
いえ、それが深井さんを知った初めてですから。その後もいろいろ見てますからね。で、その中で、ちょっと「女が上手いな」と思ったんです。それで『ベラドンナ』の最初に、「こういう絵を描いてくれ」と言わないで、何枚か自由に描いてもらったんですよ。そうするとね、非常にいいイメージを描いてきたんですよね。で、それをそのまま使ったんですよね。
──
本編に使われてるんですか。
山本
彼女が、魔女だと言われて追いかけられるところありますよね。それで、家からも出て逃げてくじゃないですか、森の中へ。そうするとこう、這ってる彼女の身体に紫と赤の縞が入ってる画が。
──
ありましたね。あれは『ベラドンナ』の具体的なストーリーを知らないで描かれたんですか。
山本
ええ。
──
深井さんの女性を美しく描けるという画力の事もあるけど、山本さんはどちらかというと、そういった発想の方を買ってる?
山本
うん、面白いと思った。
──
なるほど。
山本
画を頼む時にも、抽象的に頼むわけですよ。絵描きさんて、抽象的に頼んだ方が上手く描ける人と、具体的に言わないと分かんない人がいるんですよ。深井さんという人は抽象的に頼むとピッ! と分かっちゃう。具体的に言うとダメなんですよね。
──
(笑)。
山本
だから、そういう点でやりやすかったですよね。
──
『ベラドンナ』を観た時に、ふたつ、画家としてイメージするものがあったんです。ひとつはクリムトなんです。クリムトの色彩感覚と、それとキャラクターの造形なんかの共通項がある。もうひとつは、この作品に声で参加してる米倉斉加年さんが、まるで『ベラドンナ』から影響を受けてるかのように、後に同じ「毒」を含んだ、イラストを描かれるじゃないですか。
山本
その頃、彼はもう描いてましたけどね。
──
それで起用したみたいな事はあるんですか。
山本
いや、それは違います。それは違うんですけど、偶然にも、あの人も似たような絵を描いてましたね。エゴン・シーレって作家がいてね。米倉さんは彼に(影響を受けたらしい)。
──
クリムトについては、意識されたんですか。
山本
クリムトだけじゃなくって、その、全体にマニエリスムっていう画風がヨーロッパにあって。それをやろうとしたんですよ。そういう中で、クリムトは割と多く使っています。別にどこにどう使ったとかという具体的な事はないんですけど。
──
19世紀末のヨーロッパ退廃美術というか、そういう匂いを入れたいみたいな感じが。
山本
うん。やっぱりアニメーションというのは、絵画で言えばね、マニエリスムとかね、ちょっと一手間加えたものに近い部分があるじゃないですか。それを実際に映像に取り入れたらどうなるかというのがあったわけですよね。
──
最後に『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『ベラドンナ』の3本が、山本さんにとってどんな作品なのか聞かせていただけますか。
山本
この3本はね、当時の僕が「自分はこれからこういうアニメーションをやってくんだぞ」という事を示す、プレゼンテーションだったんですよ。前にも言いましたけど、『千夜一夜』と『クレオパトラ』の一般大衆路線ですよね。もうひとつが、やや高級になるけど『ベラドンナ』みたいなものですよね。で、『千夜一夜』『クレオパトラ』の路線で言えば3作目、『ベラドンナ』で言えば2作目が、続かなかったんですよ。それはいまだに続いていないわけですよ。それを誰かがやらないと困るな、という気がしている。子供ものが発展したアニメでは、どこかに甘えがある。アニメに、黒澤明や大島渚や、ルーカスやスピルバーグが出ないといけない。虫プロが潰れた後、ドキュメンタリーをやってきて、アニメに戻って、僕が一番思うのがその事です。それを「虫プロ興亡記」に付け加えたい事として、言っておきたいと思います。
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