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『コゼットの肖像』監督 
  新房昭之インタビュー(3)

小黒 前に別の取材で新房さんに話を聞いた時に、「萌えはよく分からない」とおっしゃっていたじゃないですか。でも今回、プロットは本格萌えものですよね。青年が本当に少女を好きになって。
新房 うーん、萌えとは違うんじゃない?
小黒 ああ、違うんですか(笑)。
新房 うん。
小黒 じゃあ本格ロリコンもの?
新房 そうですね。そうだと思う。
小黒 かなり純度の高いロリコンものですよね。
新房 そうとってもらえるとありがたいかな、というのはあるんですよね。……ポーズにしても、いろいろ参考にしたもんなあ。
小黒 え?
新房 (笑)写真集とかさ。
小黒 なるほど。
新房 だから本当は、そういう風に観てもらいたい部分もある。
小黒 御自身的には、そういったものはどうなんですか。
新房 いや、別に嫌いじゃないですよ。「嫌いじゃない」って言うのも変か(笑)。画としての美的な部分がありますから。そこをきっちり描くっていうのは、いいんじゃないかなと思った。
小黒 僕も、萌えものってよく分からないんですけど、小さい子を好きになったりとか、人形を好きになったりという事を、主人公自身が変だと思ってちゃダメなんじゃないですか。『コゼット』って、「自分は変な事をしている」と自覚してるじゃないですか。
新房 主人公が? あ、そう?
小黒 こんな事は他人に言えない、とか思っている。実在しない女の子を好きなのは変だけど、その想いを貫こうとしているわけでしょ。周りの人も「大丈夫かしら、あの人」という目線で見ているから、萌えものにならないんじゃないか、と。
藤本 なるほど。
新房 アハハハ(笑)。だけど、そういうのはあるかもしれないねえ。
小黒 お兄さんと小さい女の子の恋愛って変なんだけど、ほわほわんとした世界で、ほわほわんと描いてる方が、観ている人が入り込みやすいんじゃないですかね。って、そんな事を『月詠』を作ってる人に向かって言うのもなんですけど(笑)。
新房 まあ、そういうのもあって、1話の冒頭で、主人公が喫茶店の窓の外から見てる女の子に手を振る、という部分を付けてるのかな。だってさ、(大学生の男性が)見知らぬ小学生に、手を振れますか。
小黒 なるほど。
新房 (笑)ねえ。
小黒 あの小学生も、妙に作画が気合い入ってるんですよね(笑)。
新房 メインキャラみたいだったね。ただ、そういうところは、あんまり出せてなかった。
小黒 ロリコン風味ですか。
新房 うん(笑)。
藤本 『コゼット』って、そういうほわほわした世界に対してちょっと批判的だからなあ。現実を見せつけてる気がするんで。
小黒 大体、「痛い」という感覚を入れているのがすでにダメですね。
藤本 うんうん。多分、それがダメなんだろうなあ、というのを、今の話を聞いて思いましたね。
小黒 彼女への愛を貫くために、血がドボドボ出る。しかも、痛いけど愛のために耐えてしまう。そのノリは今の若い子にはきついのかもしれない。
藤本 そうでしょうねえ。(ナボコフの)「ロリータ」って、小説にしても映画にしても、嫌な話じゃないですか。あれに近いのかなあ、とか思ったんですよ。
新房 だから、女性に観てほしくて作ってる部分も『コゼット』にはあったよね。
藤本 むしろ?
新房 うん。元々少女漫画チックな、今の少女漫画とは違うかもしれないけど、昔の萩尾望都とか、そういうような雰囲気を……
小黒 ああ、繊細で、ちょっときらびやかな。
新房 うん、そういうのを入れたいなあ、と思ってた部分があって。そういう雰囲気で押して行けないかとは思ってたから。
小黒 ベネチアングラスの描写とか、確かに男性視聴者向きではないですよね。それにしても、どうして主人公がああやってどんどん傷ついて、つらくなっていく展開なんですか。それは脚本家の方の持ち味なんですか。
新房 それは大きいんじゃないんですかね。僕も、劇画チックなものは嫌いじゃないし。
小黒 この場合の劇画っていうのは、雑誌に載ってる劇画ですね。昔の「愛と誠」とか、そういう。
新房 それとか「子連れ狼」とかね、小池一夫節というか(笑)。
小黒 新房さんの好みは梶原一騎よりは、小池一夫なんですね。
新房 多分、そっちだと思いますね。やっぱり好きですから、どうしてもそっちの方に行ってしまう部分があるかなあ。
小黒 やっぱり好きなんでしょうね。この道具立てでここまで熱くせんでも、という気もちょっとしましたよ。もうちょっと、しっとり終わってもいいのに。
新房 そうなんだよね。
小黒 スペクタクルになりますもんね、毎回、エフェクトがビカビカビカーッとか出てきて。
新房 だから、次はそうならないのを作ってみたい(苦笑)。
小黒 WOWOWや今度のオールナイトでやる編集版は、どんな感じになるんですか。
藤本 編集版は、新房さんは関わってないんですよ。
小黒 あっ、そうなんですか。
新房 編集版は多分、自分ではやらない。
小黒 それは誰がやるんですか。
藤本 実写映画のHiguchinskyさんにお願いしています。今、編集してますよ。
新房 自分でやるんだったら付け足したり削ったり、カット直したりとかいろいろやりたいんですけど、今はその時間がないんで。時間がない中でやるんだったら、任せた方がいいかなあと思ったんです。自分でやるなら、あと30分ぐらい付け足して……。
小黒 付け足すんですか。
新房 付け足す。削って、付け足す(笑)。それはちょっとやってみたいかな。もう少し分かりやすい構成にしたいなあ、という気持ちもあるんですけど。
小黒 なるほど。ちょっと作画の話も聞かせてください。亡くなられた鉄羅(紀明)さんですが、かなり貢献なさってるんですか。
新房 うん。してる。
小黒 具体的には?
新房 原画をたくさん描いてもらったよ。1話の冒頭、喫茶店のシーンとかも鉄羅さんだもの。途中の化け物のところもちょっとやってる。『コゼット』の話じゃなくなっちゃうけど、『SoulTaker』とか、鉄羅さんがやった仕事を何らかのかたちで、まとめておきたいんですよね。同人誌でもいいから。
小黒 原画で中嶋敦子さんもクレジットされていますよね。
新房 1本めで言うと、永莉が(グラスの中にコゼットの姿を)見るシーンの中で、笑ったり、拗ねたりするコゼットを描いてもらったんです。「あ、こういう画なんだな! ファンが欲しがる画は」と思いました(笑)。原画だけパラパラッと見てても、僕には分からなかった。画面になってから「あ、すっげーや」と思って。
小黒 中嶋さんは、2、3巻もそういったところを担当したんですか。
新房 そうですね、可愛いコゼットを中心に描いてもらいました。2巻めだと、氷の国みたいなところでの永莉とコゼットのやりとりだったり。3巻めは、コゼットが木の上にいて永莉が下にいるあたり、ですね。そういうしっとりとした部分を。
小黒 他に作画の方で印象的なのは?
新房 作画で印象的だったのは、やっぱり佐藤(雅弘)さんの大活躍。『L/R』のキャラデザインをやられた方ですね。佐藤さんは、3話とも原画を結構やってもらって。かなり助かりましたね。
小黒 松竹(徳幸)さんもやってましたよね。
新房 松竹さん、やってますよ。やっぱり凄い人だなあ、と思いましたよ。基本的には、鈴木さんの人脈で参加してもらいました。
小黒 なるほど。鈴木さんも『らんま 1/2』から出てきた人ですものね。松竹さんは、どこをやったんですか。
新房 1本めだと、室内で永莉がコゼットを襲うところ。2巻めは冒頭、コゼットが骨董屋の店内を動き回ったりするところ。3巻めが、像が崩れるところ。……もっといっぱいやってほしかったなあ。
小黒 鈴木さん自身が原画を描いてるところはないんですか。
新房 多分、ないと思う。でも、他の人の原画を結構直してましたから。どこかで全部描き直したところがあるかもしれない。

▲ 右上が喫茶店のシーンの小学生だ。中嶋敦子さんの担当部分はかなりのインパクト 

小黒 鈴木さんが、まとめてやったのは、1巻の心霊手術?
新房 そこも原画じゃなくて撮影です。
小黒 作監と撮影ですか。なるほど。
新房 うん。だからあそこに関しては僕の手は入ってない。彼のものです。
小黒 新房さんが画に手を入れる時って、どうやって入れるんですか。
新房 他のシーンなら、上がってきたレイアウトに「こんな感じで」という指示を入れるんです。あそこは彼が撮影をやってるんで、僕は芝居を見たくらいで、あとは全部お任せですね。画面の入れ込みからタイミングから、彼が作ってる。撮影しながらいろいろ変えられるらしくて。インの仕方とか、いろいろ細かくやってましたよ。
小黒 なるほど。
新房 ……でも、『コゼット』は随分、時間がかかったなあ。コンテが上がってからが長かった。そうそう、あとね、音がかっこよくできた。だから、なるべく音のいい環境で観てほしいです。
小黒 今度のオールナイトの上映は、5.1chになるんですよね。
藤本 5.1chです。
小黒 オールナイトには、新房さんは来られるんですか。
新房 いや、来られない(笑)。
小黒 ダメなの?
藤本 いや、まだ交渉してないんです。来てくださいよ。
新房 んー、多分、行けない。
小黒 俺が司会なんですよ。来ないんだったら、勝手な話をしちゃいますよ。
新房 構わないですよ。
小黒 脇でニコニコ笑ってるだけでもいいんで、来てくださいよ。
新房 (笑)。
小黒 じゃ、もうちょっと『コゼット』の話をして終わらせましょう。新房さんの映像美学みたいなものが完成した作品かな、と思うんですが。
新房 「映像美学」なんて言えるものかどうか、分かんないですけどね。でも、仕事としては満足しました。何度も言うようだけど、もっと、人の目に触れてほしいなあ、って思う。
小黒 『月詠』のDVDを買ったら、『コゼット』も観よう、みたいなね。
新房 うん、それは本当に、そうしてほしい。でも観る人を選ぶのかもしれないですね、『コゼット』の方が。
小黒 そりゃあ、そうですね。
新房 口当たりがそんなによくないのかな、もしかしたら。でも、1話より2話の方が分かりやすいかもしれない。どうなんですかね。
小黒 うん。1話がいちばん分かりづらいですね。
新房 小黒さんが、観ていない読者に『コゼット』の解説をするとしたら、どういう風に言うんですか。
小黒 難しいですよね。最初は「カルトだよ」とか「分かんないところがいいんだよ」と言っちゃうのがいいかと思ったんですけど。3巻まで観ると、純愛ものとか、そっちの方も押した方がいいのかなあとも思いますね。
新房 それも入ってるよね。永莉側から見るのか、コゼット側から見るのかによって……。
小黒 でも、初めの頃はコゼット側から見るのは不可能じゃないですか。
新房 3本を1回通して観た後だと、それができるんです。それから、どこから偽物になったかが分かりづらい、っていうのはありますよね。
小黒 最初から偽物だったのか、とか。
新房 うん。他の人にも「ここからですか」みたいに言われて。
小黒 でも、そういうのは分かんない方がいいですよ。「さて、どこでしょう。あなたはどこだと思いますか」と言った方がいいんじゃないですか。さっきの新房さんの解説も、記事にする時に伏せ字にしておきますよ。
新房 (笑)そうだね。だから、ヒントは出てるけど、ヒントしか出していない、みたいな事もしてるし。やっぱり、好きな探偵小説の流れが入っちゃってるのかもしれないね、そういう意味では。
小黒 新房さんは、こんなに探偵小説が好きで、探偵小説ライクなものを作っているわりには、探偵ものは一度も作ってないんですよね。
新房 うん。「作りたい」と言っているのに、なかなか作れないんだよ。
藤本 『コゼット』の前の企画はそうでしたもんね。
新房 それをね、やりたいんだけど。少女探偵ものをやりたい。
小黒 それは猟奇殺人とか、幻想的な事件じゃないとダメなんですね。
新房 猟奇的じゃなくてもいいんだ。怪人、魔人の類が出てくれば大丈夫。だから、乱歩の少年ものに近いのかな。乱歩よりは、当時、高木彬光とかが書いてた少女向けのものがあって。そんな雰囲気のものを作りたい。面白いと思うんだけどなあ、ダメかなあ。
小黒 それはどこら辺がターゲットなんですか。子ども向けなんですか。
新房 おっきいお兄ちゃんかなあ。
小黒 (笑)。
藤本 本当はターゲットなんて考えてないでしょ?
新房 考えて……ないよ(笑)。
藤本 自分が作りたいものじゃないですか。
新房 うーん。とにかく、少女探偵はやりたい。
小黒 じゃあ、少女探偵ものがやりたいプロダクションならびにビデオメーカーの方はメール下さい。というところで、終わりにしましょう(笑)。


(05.03.17)
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