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いきあたりばったり放談 水島精二×小黒祐一郎
 その1 『鋼の錬金術師』とシャドー傘開き

 新春放談に続く、放談シリーズ第2弾です。今回登場していただくのは、人気作『鋼の錬金術』でお馴染みの水島精二監督。小黒編集長とは、以前からの呑み友達なのだそうです。さて、いったいどんな話が飛び出すか? 多少、無責任な事を言うかもしれませんが、酔っぱらいの言う事なんで、勘弁してやってください!

●2005年3月2日
対談場所/東京・新宿
構成/小黒祐一郎
撮影/馬場京子
PROFILE

【水島精二プロフィール】
アニメーション監督。1966年1月28日生まれ。東京都出身。主な監督作品は『ジェネレイター ガウル』『地球防衛企業 ダイ・ガード』『シャーマンキング』など。2003年から2004年にかけて放映された『鋼の錬金術師』は、幅広い層に支持され、ヒット作となった。現在は今夏公開の『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』を制作中。

【小黒祐一郎プロフィール】
アニメ雑誌編集者。1964年5月1日生まれ。埼玉県出身。「WEBアニメスタイル」編集長で、ニックネームはアニメ様。現在は「アニメージュ」(徳間書店)で「この人に話を聞きたい」を連載中。小黒の雑記帳は、スタジオ雄HP[http://www.styou.co.jp/]に。

小黒 今日は、酒飲みながらざっくばらんに行こうよ。『鋼の錬金術師』で大ヒットを飛ばした水島さんが、業界の頂点に立って、その立場から何が見えたかという話が聞けるといいなあ。
水島 格好いい事を言えと言われても困りますよ(笑)。何も見えてないですけど。
小黒 何かあるでしょ。
水島 頂点と言ったって、1本ヒットしてそれに乗っかってるだけですからね。別に俺が偉くなったわけでもなんでもないんで。『鋼』が終われば、また別の作品で普通に監督やるだけだし。福田(己津央)さんと違って、続きがあるわけじゃないし(笑)。
小黒 『(機動戦士ガンダム)SEED』の福田さんとは、よく比べられるよね。
水島 枠も局プロ(竹田菁滋・毎日放送[MBS]プロデューサー)も同じですからね。現場に関してもボンズとサンライズの関係を考えたら、やっぱり比べられる事は多くなるんじゃないですか。
小黒 具体的に何かあったの?
水島 ううん、具体的には何も。基本的には仮想敵ですからね、自分の中では「『ガンダム』には負けねえ!」というのはありましたよ。だけど、それは『鋼』に限らず、どんな作品をやってても、枠やジャンルが近い作品を意識して作るんじゃないですか。
小黒 まあね。
水島 ライバル作品の監督が仲よしであっても、知らない人であっても、そのスタンスは変わらないんじゃないですかね。だって『(地球防衛企業)ダイ・ガード』と『(無限の)リヴァイアス』が同時期に始まった時は、『リヴァイアス』を意識してましたからね。放送が始まる何ヶ月か前に「おっ、ぶつかるじゃん!」というのが分かるわけですよ。それが分かったからといって内容を変える事はないけれど、比べられる事にはなるから「ちくしょう、あっちには負けねえ!」と思って作ってますよ。自分を奮い立たせる材料には使うんじゃないですか。
小黒 なるほど。じゃあ、先に『SEED』があったからこうした、みたいなところはないんだね。
水島 それは全然ないですね。『SEED』自体には対抗意識とかは全然なかった。何せ俺は観てなかったですから。
小黒 なるほど(笑)。
水島 でも、最初はアニメ誌とかには訊かれましたよ。「『ガンダムSEED』の後番ですけど、どうですか?」って。一番面白かったのは、ある雑誌で『ガンダムSEED』のベストエピソードを選ぶ企画があって、俺のところにも選んでくださいってきたんです。それで「すいません、観てなかったんで」と断ってしまった(笑)。
小黒 確かにそうだった。『鋼』が始まる前って「『ガンダムSEED』の後番組の『鋼の錬金術師』」とかアニメ誌に書かれてたよね。
水島 オモクソそうでしたよ。
小黒 『赤ずきんチャチャ』が盛り上がった時に、アニメ雑誌で「ポスト『セーラームーン』」として取り上げられた事があって、スタッフやファンが可哀相だと思ったのを思い出したよ(笑)。スタッフはそんなつもりで作ってるわけじゃないだろう、って。
水島 それまで俺は、20何局もネットする作品をやった事がなかったですからね。MBSさんと組むのも初めてだったし、ボンズで監督やるのも最初だったから。「人気の部分で『ガンダムSEED』に勝とう」じゃなくって、「そのフィルムには負けねえぞ」というところで奮起しましたよ。プレッシャーに関しては、どっちかって言うと身内からくる方が大きかった。
小黒 いいものにしろよ、というプレッシャーね。例えば、ボンズのプロデューサーの南(雅彦)さんからのプレッシャー?
水島 それもあるし、他の人からも。皆の期待に応えなくっちゃ、というのが強かった。
小黒 ボンズはどうだったの。
水島 ボンズはいい会社ですよ。アニメスタジオも各会社にカラーがあって、面白いですね。ボンズはあれだけのクオリティのものを作ってる会社だけあって、スタッフの意識が高いというか、いいもんを作ろうという気持ちは強いですね。そういう現場だったから、あれだけのものが作れたんですよ。別に俺が何かやったわけでは、ぜーんぜんないですよ。
小黒 いやいや。
水島 (笑)ホントに。だから「ああ、この人達だったら、このタイミングでコンテを流せばいいものになるだろう」とか、そういうやり方ですから。その辺はやっぱり、元々の会社が持ってる力が大きいんじゃないですかね。だから、クオリティを上げるために自分で音頭をとってワーワーやるという事じゃなくて、むしろスケジュールにどう乗っけるかを気にしてました。
小黒 逆に言えば、他社でやる時には、ここらへんで作監を呼んでこよう、なんて事を自分でやったりするわけだよね。
水島 よその会社ではやってましたよね。XEBECの『ダイ・ガード』の時は自分でスタッフ集めてやったんですが、2本めの『シャーマンキング』の時は内部の人間の事も分かってきたから、今度はXEBECの人を中心にやってみよう、みたいなやり方をしました。一緒にやってると、その人がどのくらいやる気があるのかが分かるんで、そこから引き出せるぐらいもので、みんなで楽しく作ればいいな――そうやって『シャーマン』は作ってましたね。制作が結構バタバタしてるんで、制作のケツを叩いたりとかっていうのは『シャーマン』がいちばん多かったですけど(笑)。まあ、それも面白かったですよ。
小黒 なるほど。それに対して、『鋼』ではボンズの恐らく凄くしっかりしているであろうスケジュール管理に──
水島 いや、スケジュール管理はしっかりしてないよ(笑)。
小黒 してないんだ!
水島 うん。でもあれかなあ、うちのスタジオは、『鋼』用に作ってもらったスタジオだったんです。まあ、他に作品が3本もあるから分けないとできないという事情もあったんですけど。若いスタッフ中心でスタートしたんです。そういう意味では、色がついてない分、やりやすかったかなあと思います。「キャラクター中心のものだから、いつもほどのクオリティまでは行かなくてもいいんじゃない」と僕が口にしていたので、肩肘張らずに作れたんじゃないかしら、と思いますけどね。
小黒 作画に関しては、よく乗り切ったよね。
水島 うん、序盤が一番ヤバかった(笑)。
小黒 ハハハハ! そうだね。
水島 あの時が一番「どうしようか〜?」と思った。
小黒 でもね、序盤の方が、なんかドキドキして楽しかった。
水島 序盤でグロス出しの回があったんですよ。やっぱり外注の管理は難しいなと思ったんですが、その時に総作監の伊藤(嘉之)さん達に助けてもらって。彼は「これを最低ランクにしようね」「これ以上崩すのはやめよう」と言ってやってましたね。実際、本当にそれ以上は崩れなかったんです。それはやっぱりボンズの力ですね。
小黒 なるほど。
水島 『鋼』の凄いところはですね……って、自分で「凄い」って言っちゃいますけど、ダビング作業の時にオールカラーというのを決めていたんですよ。
小黒 おおー!
水島 それは絶対に割らないぞ! と思ってて。オールカラーで素材を入れとけば、効果とか物凄く細かくつけてもらえますしね。『鋼』では音を細かくやろうっていう意志が、社長の南さんにもあったんです。スケジュールがうまく調整できなくて、白い状態でダビングする事にはやっぱり忸怩たる思いがあったらしいんですよ。で、俺が『鋼』は「そんなに凄くこだわる作品じゃないから、ダビングの時には色つけようぜ!」と言って(笑)。
小黒 (笑)。この場合の「こだわる作品じゃないから」というのは、殊更に作画にこだわる作品じゃないという事だね。
水島 そういう事ですよね。どっちかって言うと僕がそういう事を言うように、南さんが仕向けてくれた感じですけどね。ダビングの時に色がついてないのは嫌だ、と俺はずっと口にしていたので。
小黒 今のご時世だと、それは難しいでしょ。
水島 本数多いですから、どうにもなんないところがありますよね。それは現場の力だけじゃないですからね。どこかの作品と締め切りが重なったら、どちらか落ちるわけですから。それで、ダビングまでに色がつかないって事が出てきてしまうから。でも、『鋼』は頑張って、ほぼオールカラーでダビングをやりました。
小黒 へえー。
水島 たまーに、ちょろちょろっと線撮りが混ざってるんですよ。それでも動撮にして、ちゃんと動きが分かるようにしよう、と心がけてやっていたので。それがあったので音にもこだわれたんです。他の現場だと、なかなかそこまではないんじゃないかな。でもね、『巌窟王』はオールカラーでカッティングやってるらしいですよ!
小黒 すげえー!
水島 びっくりしましたよ、それ聞いて。
小黒 ねえ! いや、もう放送は終盤だけど、いまでも凄い大変な事やってるよね。
水島 制作中に俺が聞いた段階では、アフレコの時に全部色がついていたそうですよ。
小黒 へえー。
水島 確かに最初は余裕のあるスタートをしてたはずだけど、普通はね、どんなにスケジュールをとっていても、4話ぐらいから普通の進行になるもんじゃないですか。
小黒 だろうね。『鋼』に話を戻すと、ハッチャケ作画が入ってても、キャラを整えてたのが偉いよね。
水島 その辺は伊藤さんやメインアニメーターの杉浦(幸次)さん、富岡(隆司)君の力ですね。かなりこだわりのある人達なんですけど、ちゃんとスケジュールに乗せるレベルで作業してくださったんです。伊藤さん達じゃなかったら、こうはいかなかったですね。そういう事は、あんまり雑誌で話題にならないけど、間違いなくあの人がいたからできた。「そういう事はアニメ誌で言え」って言われそうですね(笑)。こんなところで言ってないで。
小黒 いやいやいや、アニメージュより、WEBアニメスタイルの方が人の目に触れるかもしれないよ。ひどい事言ってるな(笑)。
水島 (笑)ひでえな。まあね、こっちはタダで見れますしね。
小黒 ああ、そうだ。読者にちょっと予告しておかないと。
水島 ん? 何?
小黒 (テレコに向かって)今日は、エドとかアルの話はしませんからね! 女性ファンの方々。
水島 ……ハハハハ、しないですね。
小黒 監督がどのキャラが好きか、なんて話はしないぞ、と。
水島 ああー。でも俺、アルは好きですよ。
小黒 アルなんだ。
水島 だって俺、弟だもん。
小黒 確か會川(昇)さんも、お兄さんがいるんだっけ。水島さんは弟だから、兄貴が弟に色々してくれる話が好きなんだ。
水島 なんだよそれ!? 『鋼』以外ないじゃん(笑)。もうすぐアルのキャラソンが出るんですよ。どんぐらい売れるのか楽しみなんですけどね。エドと、ロイのキャラソンは凄い売れたので。
小黒 はあはあ。
水島 ロイのやつは主役より売れた(笑)。
小黒 やっぱり同人誌とか買う人には、ロイが人気あるんじゃないの。
水島 そうじゃないですかね。同人誌の人気は、僕には分かんないですけど。『鋼』って、アンチアニメな原作ファンの怒りがすごくてね、同人誌即売会に足を運ぶような行為は、怖くてできなかったんで(笑)。
小黒 『(ジェネレイター)ガウル』の時とかは即売会に行ったって事?
水島 『ガウル』は行きましたよ。だって『ガウル』はムック本とか出してもらえなかったから、自分達で同人誌作りましたからね。
小黒 ああ、そうか。
水島 『ダイ・ガード』はあんまり同人誌ネタになるようなものでもなかったので、行ってはいたけど、その時は吉松(孝博)君のブースのお手伝いとかをしてました(笑)。『ダイ・ガード』の本もほとんどなかったですからね。『鋼』で凄く同人が多い、というのは知ってたんですよ。オンエアが始まってから冬のコミケでアニプレックスが企業ブースを出したんで、それに入れてもらって、カミさんと一緒に見に行ったんですよ。そしたら、物凄い数のサークルが出ていて殺気立ってるの。ホントに怖いのよ、近づいたら刺されるんじゃないかと思って(笑)。俺は結構、度胸ある方なんだけど、『鋼』が始まってからは怖くてコミケには行けなくなった。
小黒 監督は刺されねえべよ。
水島 いやいや、雑誌にバンバン出ていて、面が割れてましたからね。俺が言うのもおかしいけれど、『鋼』ファンの中でも、アンチアニメの人って大勢いるんですよ。
小黒 あ、いるんだ。
水島 いるいる! もう怖い怖い。「俺ちょっと行けないから、行ってきて」と言って、カミさんに様子を見に行ってもらったんだけど、人でごった返してて、10mぐらい進んだら反対側からきた波に呑まれてそのまま押し出されてきたんだって。「もう行きたくない! 凄すぎる! みんな怒ってる! ギラギラしてる!」って(笑)。
小黒 怒ってるの?
水島 殺気立ってるんだよ。欲しい本を買おうとして。
小黒 水島さんもそこに行って人気の過熱ぶりを体感してきた方が、いい思い出になったんじゃないの?
水島 なんでよ、やだよ(笑)。本当に刺されるかもしれないと思ったんだから。だって2ちゃんねるとかでも、「腐った卵を投げつけてやる」とか書かれてましたからね。
小黒 何それ?
水島 あったんですよ、そういうのが予告されていたの。
小黒 「コミケに来たら投げつけてやる」って?
水島 いや、それは年末にやったフェスティバルで。俺と會川昇に腐った卵をぶつけるって。
小黒 そのために卵を腐らせるのも大変だよね(笑)。
水島 だから傘を持っていって、卵が投げられた時に、さっと避ける練習していったんですけどね(笑)。
小黒 真面目に練習したの?
水島 真面目にはやりませんよ(笑)。ただ、カミさんと2人で、家の中で“シャドー傘開き”をやってました。
小黒 いい話だなあ。
水島 「このぐらいのタイミングなら防げるだろう!」って、サッサッと(傘を拡げる真似)。本当に入場する時も、周りをチラチラと見ながら入ったような気がします(笑)。
小黒 アルの着ぐるみとか着て入ればよかったのに。
水島 ああ、でも着ぐるみは作ってないよ。あの等身大のやつは、中に人は入れないんですよ。
小黒 あ、そうなんだ。
水島 フェスティバルで、エドとアルとウィンリィの3人で歌を歌う企画があって、それが実現してたら、エドとウィンリィの役者さんはコスプレで唄ってもらって、さすがに釘宮(理恵)さんにアルのコスプレは無理だろうから、うちのデスクの大藪(芳広)君がアルの着ぐるみに入って踊るというプランがあったんです。「そのために着ぐるみは作ろう!」と言ってたんですよ。けど、構成を考えてるうちに「そんなおちゃらけたもの、入んねーじゃん」っていう話になって(笑)、やめちゃったんで。結局着ぐるみは作ってないんです。
小黒 作ればいいのに。きっと映画の宣伝とかで使えるよ。
水島 USJの等身大アルも着ぐるみじゃないと思いますけどね。この記事が載る頃にはもう、USJでやっているはずだけど。
小黒 何? USJって。
水島 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでアトラクションやってるんですよ。『鋼の錬金術師』プレミアム・ツアー。そこでしか観れない10分間の短編が観れますよ。
小黒 ひょっとして、ゲームみたいにうつのみや(理)さんとかが作画とかしてるの?
水島 川元(利浩)さんが原画を描いているよ。
小黒 あっ、それは凄い!
水島 アニメスタイルの作画マニア的には、非常においしい人達が参加している。ひょっとして、今作っている劇場版よりメンツいいじゃん! みたいな(笑)。
小黒 川元さん以外は誰?
水島 堀川(耕一)さん、安藤(真裕)さんもやってるよね。それから馬越(嘉彦)さんもやってたし、あとは誰がいたっけな……。
小黒 豪華だねえ。
水島 レイアウトチェックだって、バンバンと通せましたもの。劇場はさすがに千何百カットもあるので、そんなわけにはいかないだろうけど。でも、劇場のメンツも凄いですよ。細田(守)君の劇場版『ONE PIECE(オマツリ男爵と秘密の島)』に負けないくらい豪華。

●いきあたりばったり放談 水島精二×小黒祐一郎 その2へ続く

(05.04.08)
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