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いきあたりばったり放談 水島精二×小黒祐一郎
 その3 男同士の友情と鬼気迫るホン

小黒 俺、『シャーマン』の原作は連載で全部読みましたよ。
水島 おー素晴らしい! 俺ね、薄いんですよ。こないだもカミさんに叱られたんです。「流行りものマンガぐらい読め」って(笑)。その時に「ああ俺、マンガ読むのも仕事なんだ!」って思いましたね(笑)。
小黒 それは仕事だよ。
水島 言われてみればそうなんですよね。普段から「もっとアンテナ張らなきゃ」とか言ってるのに、よく分かんないマイナーなマンガ買ってきて、読んでしまったりしてる自分がいるわけですよ。これは仕事に結びつかないだろうと(笑)。
小黒 いや、むしろ、そういうのが肥やしになるんじゃないの。
水島 そうかなあ。もっと流行りものには手を出そうと思いますよ。2ちゃんねるの「アニメにしてほしいマンガ」スレに挙がっているのを買ってきて読んだりしましたもの。
小黒 2ちゃんねるって言葉を、この記事に入れていいの?
水島 別にいいですよ。だって、俺が2ちゃんねるを読んでるの、わりと有名な話ですから。
小黒 あ、そうなんだ。俺は、そんなものはこの世にないという事にしてるんで。
水島 そうなんですか? なんで? あんな愉快なものを。
小黒 だって、見てもつらいじゃない。
水島 つらいのは分かりますよ。読んで腹を立てたりするし。で、カミさんに「怒るなら見なきゃいいじゃん」と言われるんだけど(笑)。
小黒 確か『ダイ・ガード』が始まった時に「監督が嫌い。デブだから」と書かれたんだよね。
水島 (笑)そうそう。肉体的な事を書かれるのは結構キツイですよね。って、これがWEBアニメスタイルに載ると、またそう書くだろうね。
小黒 今の話は載せていいの?
水島 ダメッ!(笑)……いや、載せてもいいッスよ(ニヤリ)。どれぐらい増えるか楽しみ、「デブメガネ」って。
小黒 作品が気にくわなかったにしても、その作品が理由が「監督がデブだから」だというのは凄いよね。
水島 すり替えられてるね(笑)。理由つけろよ! ってね。
小黒 「主人公が嫌いだ」とかさ、「出てくるヒロインがおばさんばっかだ」とかさ。
水島 えー! 何言ってんだよ! ああ、まあでも年齢的にはね。全員20歳過ぎだからね。え、でも18歳いたじゃん。
小黒 まあまあ(笑)。自分の中で理由があるんだけど、それを言語にするのがめんどくさいから「デブだから」という一言に置き換えたんだろうなあ。
水島 「なーんかこの作品見るとムカツクんだよね。あっ、監督デブじゃん! デブだからだ!」。そういう感じですかね。それはそれでアリかな(笑)。
小黒 俺もアニメに関しては、そんな事は言わないけど、ラーメン屋に入ってラーメンが不味かった時に「店の名前が悪いからだよ!」みたいな事は、言うかも知れない。いや、フォローしてどうする!
水島 (笑)。これ、全然記事になる内容じゃないよ!
小黒 いや今、凄い勢いで放談になってきたよ。
水島 なってきたね。投げっぱなしな感じが(笑)。アニメファンと自分との感覚がズレてきてるんじゃないかという恐怖は年々高まってますね。「どうなんだろう?」と思いますよ。
小黒 水島さんは、ファンと感覚が近い方じゃないの。
水島 そうかな。でも萌えアニメとかダメですね。とはいえ、萌アニメはターゲットが狭いからと言って否定的じゃダメかなとは思ってるんですよ。ニーズがあるのは確かな事だし、俺もいっぺんぐらいやってみたいとは思ってるんですけどね。
小黒 萌えアニメ?
水島 うん。もう3年ぐらい、やりたいと言ってるんですけどね、誰も仕事くれないです。
小黒 だって、水島さんは、やおいものの方が得意やん。
水島 ハハハ(乾いた笑い)。別に狙って作ってるわけじゃないよ!
小黒 『ガウル』は狙ってやってたんじゃないの?
水島 狙ってないよ、全然!
小黒 『鋼』は?
水島 狙ってないですよ。會川氏は冷静だからファン層読んで少しはそういった部分を狙ったかもしれないけど。僕は狙ってないですよ。だって、観ている側だって、狙って作られたら嫌でしょ。
小黒 まあね。
水島 そこを狙おうと思わないようにしよう、と。
小黒 でも、水島さんって、男同士が仲良くしてるのって嫌いじゃないでしょ。
水島 なんか嫌な言い方だな(笑)。でも、そうですね。友情ものが好きだからですかね。王道だと思いますよ。
小黒 他の人より免疫があるんだと思うよ。
水島 そういう感情が分かるっていう事ですか。
小黒 そうそう。前に、水島さんがやっていた企画を見せてもらったじゃない。あれもそういったプロットで、なるほど、この人は男性同士の友情を描きたいんだなあ、と思ったよ。
水島 ありましたね。でもね、女性の持ってる妄想の凄さみたいなものには、全然太刀打ちできないですよ。
小黒 そりゃそうだよ。男性が太刀打ちしようとする時点で間違ってるよ。
水島 前に、いわゆるそういう妄想力のある人達とお話した時に言われたのは、俺が作るそういうシチュエーションっていうのは「寸止め」なんですって。それは、俺が意識しないでやっているからそうなるんだと思うけど。例えば『ガウル』で、主人公が「腹減った! 俺はお前達のために俺は闘ってやったんだぞ!」と騒いでいる時に、リョウが申し訳なさそうに「ちょっと黙ってて。分かってるから」みたいな事を言うんですよ。それが、すっごい胸キュンだったと言われて。ええ! そうなの? と驚いたんですよ。自分達がガウルに救われたという気持ちがあるわけだから、突き放して言えないでしょ。だから、そう言い方になるだろうと思ってやっただけなんだけど。
小黒 ああ、なるほどね。俺、分かったよ!
水島 おっ、アニメ様の「分かったよ!」が出ましたね(苦笑)。
小黒 アニメ様って言うな!
水島 いや、吉松君の紹介で初めて会った時から、僕にとって小黒さんはアニメ様ですよ。
小黒 ひでえなあ。水島さんが『(ルパン三世)ワルサーP38』の演出をやった直後だったよね。吉松君に「この人がアニメ様です」って言われたんだっけ。
水島 あの時から、小黒さんは「おれ、分かったんだよ!」と言い放つ人でしたよ。で、何が分かったんですか。
小黒 あのさ、水島さんの柔らかさとか、対人関係の繊細さが作品に転じると女の子達が「キャー、エッチ!」みたいな事になるんだよ。
水島 なんですかそれ!? 別に狙ってるんじゃないですけど、でも、そうかもなー。
小黒 つまり、水島さん自身の対人関係とかがフィルムになると……。
水島・小黒 「ホモに見える」(爆笑)。
水島 凄え定義されちゃったよ、やだな〜。
小黒 ハモっちゃったよ。
水島 ん〜、それはあるのかもしんないッスねえ。



小黒 
出崎統の人生観が、フィルムに反映されると矢吹丈の生き様になるみたいなね。で、水島さんの人当たりのよさが、フィルムになるとホモになる。
水島 ああー。全然嬉しくねえなあ(笑)。
小黒 いやいや、それで人気があるんじゃん。
水島 ええー、そうなの? だって、『鋼』はもっといろんなところがあったじゃないですか。「痛い」フィルムとかさ。……もう、痛かったですね、『鋼』はね。
小黒 なによ、「痛い」って?
水島 主人公がつらい目にあわされるとかね。
小黒 そうね。なんか変なところに首がついてるおっさん(タッカー)とかね。
水島 (笑)あれは、なかなかねえ、愉快な。
小黒 會川さんが今までもやってきたエキサイティングな事が、メジャーなかたちでフィルムに定着された例だよね。
水島 でも、會川氏はあんな事は書いてないですよ。
小黒 あ、そうなの。
水島 シナリオでは「獣と人が合体したような」という書き方だった。それで、デザイナーの石垣純哉氏と相談したんですよ。「普通にやっちゃっても、誰も驚かないですよねー」みたいな話になって、後は彼に任せたんです。投げっぱなしにしてたら、FAXがブリブリブリ〜ッときて「ラフできました。やりすぎですか?」と書いてあって(笑)。うわあ、頭逆についてるよ! みたいな。「おもしれーんじゃねーの?」と言って、通したんです。ハハハ。
小黒 あのタッカーとニーナの一連の過激な話って、オンエアできたのは快挙だったよね。TV局側の力でもあるんでしょ。
水島 当然、そうですよ。と言うか、僕は原作を読んだ時に「アニメでやるんだったら、へヴィな部分をきちんとやらなきゃ意味ねえな」と思いましたし。「この原作が企画として成立したという事は、やらしてくれるんでしょ」ぐらいの凄いアバウトな思い込みでやってて。
小黒 普通に考えたら甘いよね。
水島 そうそう。だから、後で南さんにも言われましたよ。「お前さ、これ、規制が厳しい局だったらどうするつもりだったの」って。それは全然考えてなかった。「これをアニメにして、この話をキチッと描く事ができたら、凄い事じゃないか」という気持ちで走っちゃっていたから。本当に運がよかったんですよ。MBSが局に決まって、プロデューサーの竹田(青滋)さんも「この作品のテーマはそういうへヴィなところにあるんや」って言ってくれたから。
小黒 「あるんや」って言ってたの?
水島 「あるんやー!」って。関西の方ですからね。
小黒 ああ、なるほどね。
水島 だからできた、っていうのはありますね。やっぱりあそこの話数をどう盛り上げるか、というのを會川氏も凄く考えてくれて。
小黒 その後、タッカーの話を何度もリフレインさせたのは會川さんの持ち味でしょ。
水島 勿論そうですね。
小黒 よし、會川さんの話を聞こう。會川さんの持ち味はどんなところで発揮されてるんですか?
水島 會川さんの持ち味ですか? やっぱり、基本的にものの考え方がシビアですよね。個々のキャラクターに入れ込むって事がほとんどなくって、作品の世界の中でキャラクターに対してシビアに接する。みんなで話し合って「こうだよね」と決めたものに、自分のやりたいテーマや、その作品がやるべきテーマを乗せていく事がうまいですね。だから、彼が持ち込んだテーマも凄く多かったですし。アニメ界では数えるほどしかいない、構成力のある作家なのではないですかね。
小黒 會川さんの脚本で、水島さんが監督って、素晴らしいキャスティングだったよね。
水島 今回は俺だけじゃなくて、ボンズの南さん、毎日放送の竹田さん、スクウェア・エニックスの田口(浩司)さん、みんなが會川さんのホンを「面白い」と思ってたから、あそこまでできたんだと思いますよ。
小黒 なるほど。
水島 何と言うか説明が難しいんだけど、會川氏はいつも何かに対して怒ってるところがあって。あれがあるから、世の中に挑むような作り方ができるんじゃないですか。だから共感できる部分も多いですし。俺達は「自分がどう生きる」みたいな事を真剣に考えて、周りに挑み斬りかかるような事をやりながら生きてはいないじゃないですか。俺なんかは「みんな、仲良く」みたいな(笑)。
小黒 いや、そこが水島さんのいいところじゃない。
水島 だから両方が極端で、毒×毒だったから中和されたんじゃないですか(笑)。
小黒 なるほどね。
水島 本当に凄かったですよ。鬼気迫るホンで。これをどうフィルムにしてやろうと思いながらやってましたから。
小黒 それじゃあ、今後の話をしようか。まずは制作中の劇場『鋼』ですね。
水島 面白いですよ。アバン、A、B、C、Dパートまでコンテが上がったんですよ。あとはエピローグを描くだけなんです。本編のコンテを通して読んで「ああ面白いなあ」と思いましたよ。自分でこれから作るのが楽しみですね。
小黒 劇場『鋼』の後の企画も決まっているんでしょ。『鋼』をやった事で、作り方とか変わりそう?
水島 今までも俺は、一緒に作品に参加した人が幸せになれるといいな、と思っていたんですよ。これからは、今まで以上にみんなが幸せになれる方法を模索するようになりますよね。『鋼』をやった事で、作品が商品として力を持った時に、どういう事が起きるのか、皆がどう動いてくれるのかが分かりましたから。そういう意味では、今まで見た事ないものが見られたのは、財産になりましたよね。
小黒 「高いところに行った」って事ね。
水島 でも、作品が当たった事とフィルムを作る行為は全く関係ないし、作業は変わらないんですよけどね。これからも、やっぱりメジャーな作品を作りたいなと思いますね。自分はマニアックな作品を作るタイプじゃないのかなと思いますしね。
小黒 俺の中では『ガウル』はマニアックだよ。
水島 だから、あれくらいじゃないですか。自分にとってあれが多分一番濃いと思いますよ。『ガウル』よりも『ダイ・ガード』の方が薄味でしょ。
小黒 言われてみれば『ダイ・ガード』の方が、水島さんの味は出てる気はするかな。
水島 『ガウル』はやっぱり『エヴァンゲリオン』の影響があるんですよ。内容は、きむらひでふみと俺の意見が半分ずつ入っているんです。根底にあるSF色は、きむらさんの色ですし。『ダイ・ガード』の時は、もっと自分の色を出したくて、自分のやりたいファンタジーの方に寄ったんだと思いますね。だから、あれがヒットしなかった時に「やっぱ、なんか足らないんだ」と思いましたよ。
小黒 いやいや。きっと後々評価されるよ。
水島 そうッスかねえ。DVDの安いやつとか出してほしいんだけど。
小黒 『ガウル』も廉価版欲しいなあ。
水島 もう1本ぐらいヒット飛ばしたいですね。
小黒 ねえ。
水島 未来にね(笑)。『鋼』の次の企画は、アニメ好きな人が観るような作品じゃないんですよ。
小黒 『鋼』の後もメジャーなラインなんだね。てっきり、「オレ様モード」のマニアックな方向に行くのかと思っていた。
水島 えー、なんで?
小黒 ヒット作の後に自分のやりたいものを作るって、ありそうじゃない。
水島 それは、俺が作家じゃないからですよ。勿論、やりたい作品だし、面白いものにする自信はありますよ。
小黒 作家かどうかは別にして、メジャーなラインを目指すのはえらいなあ。
水島 ありがとうございます。だけど、その前に劇場『鋼』を完成させないと(笑)。皆さんの期待に添えるよう、頑張ります。

(05.04.22)
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