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先日のイベントでも話題になったが、コロムビアミュージックエンタテインメント(日本コロムビアが、2002年10月1日から社名変更)からリリースされている、虫プロダクション作品のDVDシリーズ「手塚治虫アニメワールド」の登場は、ここ数年のアニメ界の大きなトピックスである。単純に過去の映像作品を商品化するのではなく、現存するあらゆる資料にあたり、検証し、なるべく本放映時の形に復元。そして、それと同時に作品に関する証言や資料を解説書の形にまとめる。言葉にすると簡単そうに聞こえるが、その作業量は膨大なものであり、今まで手をつける者はいなかったのだ。掘り起こされた事実、初めて整理された情報は数多い。
このシリーズで、『鉄腕アトム』の最初期バージョン(歌なし)や中期バージョン、『リボンの騎士』の歌が「王子編」のバージョンや「王女編」のバージョン等の「幻のフィルム」が、映像ソフト化された。ちなみに『鉄腕アトム』のほとんどの再放送や映像ソフトで使われていたのは、後期バージョンのオープニングだけだったし、『リボンの騎士』も私が知る限り再放送ではインスト版のみが放映されていた。
また、新聞などにも報じられたが、日本のファンは長年目にする事ができなかった、藤子不二雄や石森章太郎が作画に参加した『鉄腕アトム』の「ミドロが沼」のエピソードが、このDVDシリーズで、アメリカに残されてた映像と日本の音声テープを合わせる事で復元されている。
このシリーズは、解説書の仕上がりも大変なものである。企画経緯から、インタビュー、スタッフクレジット、キャラクター設定や絵コンテ等の各種資料、新聞記事、果ては当時の虫プロの社内報に至るまで、かなりの密度で詰め込まれている。解説書と言うよりは、専門書、研究本的な内容だ。編集者としての私には、アニメマニアでない人も買うはずのDVDの解説書が、研究本化する事に関しては多少の疑問があるのだが、ここまでやられたら文句は言えない。いや、ご立派。お見事。現在流通している全てのアニメ関連物の中で、最も専門書的なのが、この一連の解説書である事は間違いないだろう。解説書の構成、編集、執筆はご存知、リスト制作委員会が担当している。
さて、「どろろ DVD―BOX」である。『どろろ』は、虫プロ作品の中でも名作と呼ばれる異色時代劇だ。それもあってか、このDVDは一連の虫プロDVDの中でも渾身の力作となっている。その制作秘話は近々「リスト制作委員会通信」で報告されると思う。ここでは簡単に内容を紹介しておこう。
映像特典としてパイロットフィルムが収録されているのは、以前発売されたLD―BOXと同じだが、それと別に復元されたコーラス版オープニングが収録されている。これは本放映初期に使われた男声コーラスの音声を、1話の映像にかぶせたものだそうだ。熱心なファンですら、その多くは、『どろろ』は最初から、あの「ほげたら」の歌詞つきのものが使われていたと思っていたはずだ。また、このDVDでは最初の数話に関して、まずイントロダクションがあり、次いでオープニング、本編という構成になっている。LD―BOXでも頭にイントロダクションがつく構成で収録されたエピソードはあるが、その話数が異なっているのだ。これも最新の調査に基づいて、本放映に近いフォーマットを再現したものだそうだ。
解説書もとんでもない仕上がりだ。今までの同シリーズの中でも最高の密度である。各話の解説、キャラクター設定、絵コンテの抜粋を掲載。解説は原作との対応から、参加スタッフの紹介、見どころの解説、使われたモチーフの解説等々。微に入り細をうがつとはこの事か。私個人としては、総監督である杉井ギサブローのインタビューの中で、『どろろ』放映開始前に、彼が『ルパン三世』の企画書を東京ムービーに持ち込んだ顛末について、触れられていたのが収穫だった。他の取材記事も興味深いものが多いが、中でも、作画チーフである進藤満尾の虫プロ運動会の思い出話は、作品の内容と直接関係はないが、当時の制作現場のムードが窺えるものとして印象的だ。
このDVDのもうひとつのトピックスは、解説書と別に封入された絵コンテブックである。300ページを超えるボリュームで、杉井ギサブローによるパイロットフィルム、オープニング(初期)、高橋良輔によるオープニング(中期、後期)、出崎統による11話「ばんもんの巻 その三」、富野喜幸による16話「妖馬みどろ」、書き人知らずのスポットCMの絵コンテを収録。さらに、杉井、高橋、出崎、富野の各氏へのミニインタビューを添えるという大盤振る舞いだ。
ジャケット、ボックス、ディスク(要するに解説書と絵コンテブック以外)のデザインを、装幀家の祖父江慎が担当しているのも話題のひとつだ。凝りに凝った仕事で知られるデザイナーであるが、今回はシリーズ中の1タイトルという事もあり、品のいい見やすいパッケージに仕上げている。彼らしいのが、ボックスの内側にもイラストを印刷するという裏技である。ボックスの内側の画は、主人公のどろろが魔神達に囲まれているイラストだ。箱の奥にどろろがいるという形になっているのだが、奥の部分のイラストは普通に印刷し、側面部分は歪められており、その事でどろろが囲まれている状況を強調している。これは『どろろ』の作品観に沿って、「恐さのために箱からDVDを出したくなくなる」というコンセプトで作られたものなのだそうだ。(黒)
●商品データ 「どろろ DVD―BOX」
XT-1342-46
税抜価格:25,000円
製作・著作:虫プロダクション
発売元:コロムビアミュージックエンタテインメント
●関連サイト
日本コロムビア 手塚治虫アニメワールド
http://columbia.jp/dvd/mushipro/
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