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「東池袋アニメ積読録」 小川びい

2003年7月
文月は書き手の熱気と執念に圧倒される日々編

 絵コンテをシリーズで刊行する、というだけでも大胆な試みだった「スタジオジブリ絵コンテ全集」ですが、第II期に入って、さらにヒートアップしています。『カリオストロの城』『じゃりン子チエ』『パンダコパンダ』……とラインナップも実にマニアック。第I期よりもはるかに……というか、アニメ出版史上において、歴史的、資料的価値の高い事業であることは間違いありません。
 中でも7月は極めつけ、「太陽の王子 ホルスの大冒険」(徳間書店)が刊行されました。横長の画面を本に収めるための苦心のレイアウトや、青焼きの雰囲気を活かした2色刷など、丁寧な仕事が素晴らしい。コンテの画は大塚康生さんの手によるものですが、大変魅力的です。
 さらに注目なのは、その大塚さんの特別寄稿。「日本のアニメーション創作での演出(監督)の権威の確立」「アメリカでの手法と著しく異なった道を日本が歩むようになった」といった、重要な指摘がいくつも述べられており、「アニメ」というものを考えていくうえで、色々と示唆に富むもので、淡々とした筆致が逆に、大塚さんの考察の深度をうかがわせるものとなっています。指摘のひとつひとつは、これからの検証を待たねばならないとは思いますが、今後、「アニメの誕生」という問題を考えるとき、外せない文章のひとつでしょう。また、月報でのアニメ評論家・藤津亮太さんの解説も、教科書的な解説の枠を大きく越えて、映画とアニメの関係に大きく踏み込んだ、非常に力のこもったものとなっています。やはり『ホルス』は語る人のアニメ観を試される作品であるという事なのでしょう。まだパラパラとめくっただけの僕も、映画とアニメ、漫画とアニメ、アニメーションとアニメの関係について、色々と考えさせられました。
 気になった本と言えば、草薙聡志「アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?」(徳間書店)。これもスタジオジブリ事業本部の発行です。著者は、朝日新聞社の記者。アメリカ合衆国への日本のアニメ産業の進出を丹念に、かつ多角的に捉えて、なかなか興味深い内容です。ただ、日本のアニメの「海外進出」の本ではなく、「アメリカ進出」の本という点には注意する必要があるでしょう。そのため最終的には、アメリカのTVコードや放送ネットワーク事情といった、アメリカと日本の比較文化論的な側面にスポットが当たっています。逆に言えば、日本のアニメにとって大きな市場である、東南アジアやヨーロッパがすっぽり抜けているため、日本のアニメの海外進出事情の概説書と思って読むと、期待を外されるかもしれません。そのかわり、資料渉猟が難しい、日米合作作品をまめに拾っている点はユニークで、個人的には、合作通史として楽しめました。合作の情報は今までちゃんとした形で語られた事が少ないだけに、貴重な本と言えるでしょう。
 冒頭でマニアックと言ましたが、これ以上ないマニアックさで、購入した人を驚かせたのが「コメットさん☆ メモワール・ド・エトワール」でしょう。構成・編集・執筆・取材と1人4役をこなした、谷澤光一さんの執念が実った1冊です。『コメットさん』のムックを出したいと、様々な出版社を当たって、ようやく実現した企画と聞くだけに、中身の詰まり具合が半端ではありません(価格の方も半端ではありませんが……)。アニメムックの基本とも言える「あらすじ紹介」の部分はわずか9頁に押し込み(それでもすごい情報量ですが)、頁の大半を、美術設定、初期画稿、設定資料等の資料に当てているのです。一部では初期画稿の豊富さとハードカバーの装幀から、「記録全集」とまで言われているそうですが、むべなるかな。そのボリュームと偏った作り(褒め言葉です)に、とにかく圧倒されました。ソフト化される事が当たり前となった今の時代の、アニメムックのひとつのあり方を見せてのではないでしょうか。ひとつだけ難を言えば、歴代コメットさんの出演が話題の番組だっただけに、歴代3人のインタビューがなかったのは残念かも。
 最後に、これはアニメ関連本かどうか迷うところで、リストには挙げていませんが、「月刊Newtype」で連載中のエッセイマンガ「ゆうきまさみのはてしない物語」の文庫2巻目が、先日刊行されました。これがなんと、単行本を追い越してしまい、単行本にまだなっていないコラムがかなり収録されています。ファンの方は当然、単行本、文庫の両方とも買っていると思いますが、念のため。それから「キャラクター★デザイン★バイブル」(グラフィック社)には、金田伊功さんのイラストとインタビューが掲載されています。画材が動画用紙というのが泣かせます。こちらもお見逃しなく。


●2003年7月以降のアニメ関連本リスト

▼書名・誌名[著者]  発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。

▼山田章博の世界 ラーゼフォンアートワークス[山田章博]
 ソフトバンクパブリッシング/A4変/2800

▼思い出の名作劇場オフィシャルガイド
 双葉社/B5/933

▼コン・バトラーV ボルテスV ダイモス ダルタニアス大全[大久保一光、バッドテイスト編]
 双葉社/A5/2200

▼THEビッグオーオフィシャルガイド[ブレインナビ編]
 双葉社/B5/1600

▼キャラクター★デザイン★バイブル vol.1
 グラフィック社/B5/1600

▼新世紀エヴァンゲリオン画集 DIE STERNE
 角川書店/B4変/2800

▼機動戦士Zガンダム大事典復刻版
 ラポート/B5/1400

▼X―VISION 1号
 竹書房/A4/1000 ※アニメDVDを中心とした新雑誌

▼Art&Animation(エスクァイア日本版臨時増刊)
 エスクァイアマガジンジャパン/AB/838

▼銀河鉄道999 PERFECTBOOKPARTII(別冊宝島827)
 宝島社/B5/952

▼キャッツ・アイ最強読本(別冊宝島829)
 宝島社/B5/952

▼プリンセスチュチュアニメ公式ガイドブック 〜雛の章〜
 秋田書店/四六/933

▼機動戦士ガンダムSEED写真集 FREEDOM―キラ―
 角川書店/A4/460

▼機動戦士ガンダムSEED写真集 JUSTICE―アスラン―
 角川書店/A4/460

▼アメリカで日本のアニメは、どう見られてきたか?[草薙聡志]
 徳間書店/四六/1800

▼らいむいろ戦奇譚 完全ビジュアルブック
 メディアワークス/AB/2000

▼ファンタジー・ビジネスのしかけかた[野上暁、グループM]
 講談社+α新書/780/新書

▼エアマスターアニメ化スペシャル(ヤングアニマル増刊)
 白泉社/B5/370

▼魔法遣いに大切なこと Dreamers Book
 エムディエヌコーポレーション発行・インプレスコミュニケーションズ発売/A4/2300

▼コメットさん☆ メモワール・ド・エトワール
 エムディエヌコーポレーション発行・インプレスコミュニケーションズ発売/A4/3900

▼CANABIS WORKS 田中達之作品集
 スタイル発行・飛鳥新社発売/B5横/2200

▼重戦機エルガイム ヘビーメタル完全設定資料集
 スタジオDNA/A4/2200

▼ロマンアルバム 機動戦士ガンダムSEED[ストライク編]
 徳間書店/A4変/1400

▼茄子――アンダルシアの夏 アニメ&漫画コラボBOOK
 講談社/B5/1400

▼機動戦士ガンダムSEED OFFICIAL FILE ドラマ編1
 講談社/A4変/476

▼ユリイカ(8月号)
 青土社/A5/1238 ※特集:黒田硫黄。高坂希太郎のインタビューあり。

▼スタジオジブリ絵コンテ全集第II期 パンダコパンダ
 徳間書店スタジオジブリ事業本部/A5/2700

▼スタジオジブリ絵コンテ全集第II期 太陽の王子ホルスの大冒険
 徳間書店スタジオジブリ事業本部/A5/3200

▼明日のナージャ ナージャのドキドキ・ダイアリー
 旭屋出版/AB/560

▼GUNPARADE MARCH 新たなる行軍歌 公式ガイドブック
 メディアワークス/A5/1000

▼未来少年コナンオフィシャルガイド
 双葉社/B5/933

▼聖闘士星矢 冥王ハーデス十二宮編
 集英社/A4/4571 ※2分冊、ビニール装

▼ロンパースルーム 安野モヨコ対談集
 ロッキング・オン・A5/1300/8月下旬 ※庵野秀明との対談あり

▼キディ・グレイドコンクルージョン
 角川書店/A4/2000/9月上旬
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