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「東池袋アニメ積読録」 小川びい

2003年9月
長月は脚本家の書いた本を読む日々編

 このコーナーを始めて、ポツポツと感想をいただくようになりました。主にアニメ関連書の見落としがなくなって便利だ、というもので、内容についてはほとんどないのですが……(苦笑)。愚痴はともかく、これまでアニメの本を網羅的に取り上げるような企画は、WEBでも出版でもほとんどなかったわけで、少しでもお役に立てれば幸いです。
 ただ、実際にはどこまでがアニメの本かという判断は悩ましい。「企業戦士ガンダム――ガンダムにおけるビジネス学」(KKベストセラーズ)までいくと、これはさすがに違うだろ、と思うのですが、「アニメ録画徹底活用テクニック」(インフォレスト)ぐらいになると、かなり微妙なところです(中で使われているのが、アニメではなくゲームの画像なのが、またナンとも)。あるいは「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Official Log 1」(バンダイビジュアル)は、書籍なのかDVDなのか(本ではなく、DVDの流通に乗っているようですが)。最終的には好みで決断するしかないのですが、それでもいろいろと考えさせられます。
 というところで、今回は敢えてリストに含めた本を2点紹介しましょう。「敢えて」と書いたのは、どちらもほぼアニメの話題は皆無の本だからです。だからと言ってアニメとまったく無関係かと言うと、そうではありません。アニメにも縁のある脚本家が記した本なのです。そうした書籍を敢えてここで取り上げるのは、ひとつはその脚本家の作品を読み解く上で大いに参考になるだろうと思われるからです。もうひとつは――実は、この方が大きいのかもしれませんが――2点とも岩波書店の発行だからです。「あの」岩波書店からこんな本が出る時代になったんだなあ、と感慨を覚えずにはいられません。もしかすると、岩波書店からアニメムックが出る日も近いのかも。
 まずは、小中千昭著「ホラー映画の魅力――ファンダメンタル・ホラー宣言」。小中千昭と言えば、『serial experiment lain』や『デジモンテイマーズ』『THEビッグオー』『TEXNOLYZE』と関わった作品からもわかるように、独自の作風で知られています。あるいはいわゆる「平成ウルトラシリーズ」での活躍を挙げた方がわかりやすいでしょうか。
 彼は、今でこそ特撮番組やアニメの脚本家としての活躍が目立っていますが、かつてはホラーを主な舞台としていました。例えば、特殊翻訳家・柳下毅一郎は「一連のホラー映画は日本独特の恐怖表現を生み出した。興味深いのは、これが個人の努力によって作られたものだということである。具体的には監督の鶴田法男、中田秀夫、黒沢清、脚本家の高橋洋、小中千昭のほぼ五人である」(『エスクァイア』2003年3月号)と述べています。この活躍の最中に小中は、〈小中理論〉とでもいうべき、本当に怖いホラー映画を作るための独自の方法論を確立していきました。その理論を開陳しようというのが、本書の主題です(余談ですが、柳下が挙げた5人とも、実作者であると共に優れた論客でもあるという点は、アニメ界と比べて興味深いところです)。
 現実感を観客に味わわせる事で、本当に怖いホラーが作れる――というのが〈小中理論〉の大本です。本書にはそのための工夫が事細かに挙げられていますが、それ自体はアニメとはほぼ関係ありません。ただ、そこで小中自身が「何を現実らしいと感じるか」という点については、彼のアニメ作品にも大いに関係しているように思えます。「私は、少女たちのしゃべる言葉を極力生っぽく書いた」と書いてある部分などは、実写・アニメを問わず、小中作品のヒロインに共通の特徴でしょう。この本全体を通して、リアル志向の一方で、造り物への執着という、ある種の分裂が窺えるのですが、これも小中作品を読み解くキーワードのように思えます。個人的には、小中脚本のヒロイン達にはリアルさよりも造りものめいた感触を覚える事が多いのですが、それももしかしたら、そうした資質からくるものなのかもしれません。
 小中ファンならずとも、アニメ作りに興味のある人なら買って損はしないでしょう。ただ、誤記が目につく等全体に文章が粗いのは、興味深い内容だけにちょっと残念でした。
 もう一冊紹介したいのが、佐々木守著「戦後ヒーローの肖像」です。佐々木守といえば、「ウルトラマン」「コメットさん」「アイアンキング」「柔道一直線」といった子ども番組のヒットメーカーとして活躍してきた人物です。「お荷物小荷物」や「赤い〜」シリーズ等のドラマや、「男どアホウ甲子園」「ソルジャーボーイ」といったマンガ原作者としても有名でしょう。もっともアニメは、『アルプスの少女ハイジ』しかないようですが……。
 本書のタイトルから想像されるのは「戦後ヒーロー論」でしょうが、実際には少々異なって、彼の自伝的子ども文化史とでもいうべき内容になっています。終戦前後の話から始まり、ラジオドラマや映画や絵物語が原体験となって、大学での児童文化研究会からTV番組のスタッフへとなっていく伝記的内容に重ねて、戦後子ども番組史が語られています。さらに、それと微妙に絡まりながら、佐々木守を語るときには欠かせない左翼闘争の逸話も語られ、飽きさせません。民主主義への希望と権力への反骨心が、健全かつ過激という、奇妙なバランスを保った子ども番組を生み出す原動力となったのでしょう――とまとめてしまうと、簡単すぎるでしょうか。
 最も注目されるのは「ウルトラセブン 幻の12話」について、彼が初めて重い口を開いた点です。大変慎重な書きぶりで、自身の感想は極力控えている点が、かえってこの問題の大きさや衝撃を物語っているかのようでした。左翼闘争のエピソードでは、日本赤軍のリーダー・重信房子との会見記が抜群の面白さ。政治活動については書かれていない部分も大きいのでしょうが、こうした人が一方で「おくさまは18歳」を作っていた、というだけで興味深いではないですか。戦後のTV番組史に興味のある人にはオススメです。
 ところで、タクシーや消防車や軍用航空機など、どんどんジャンルの細分化、付録の巨大化が進行しているパートワーク(分冊形式のムック)市場ですが、12月には、キャラクター文具で知られるセイカから『ガンダム』のジオラマとフィギュアと解説書が一体となったパートワークが発行されるとか。これは果たして本なのか、それとも……。まだまだ悩ましい日々は続きそうです。

●2003年9月以降のアニメ関連本リスト

▼書名・誌名[著者]  発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。

▼サクラ大戦OVA BOOK
 学研/AB/1810

▼ホラー映画の魅力[小中千昭]
 岩波アクティブ新書/新書/760

▼タイガーマスク 虎だ! お前は虎になるのだ!!
 河出書房新社/B5/1000

▼機動戦士ガンダムSEED OFFICIAL FILE キャラ編(3号)
 講談社/A4変/476

▼機動戦士ガンダムSEED OFFICIAL FILE メカ編(3号)
 講談社/A4変/476

▼KAWADE夢ムック 文藝別冊 安野モヨコ
 河出書房新社/A5/1143 ※庵野秀明のインタビューあり

▼まほろまてぃっく〜もっと美しいもの〜 VISUAL BOOK
 ワニブックス/A4/1800

▼グレートメカニック(10号)
 双葉社/A5/933

▼戦後ヒーローの肖像[佐々木守]
 岩波書店/四六/2300

▼ガンダム・ザ・セレクション オールガンダム・キャラクターガイド
 メディアワークス/A4/552

▼テレビアニメ完全ガイド DRAGON BALL Z 孫悟空伝説
 集英社/A5/1524

▼別冊JUNON 声優アーティスト スペシャルブック VOIX
 主婦と生活社/A4変/1200

▼大人は判ってくれない[野火ノビタ]
 日本評論社/四六/1700 ※庵野秀明との対談あり

▼PEACE MAKER鐵 STARTER BOOK
 マッグガーデン/A5/781

▼ヒーロー&ヒロインの描き方 基本動作篇[竜の子プロダクション]
 グラフィック社/B5/1400

▼別冊宝島892 キャプテンPERFECT BOOK
 宝島社/B5/1048

▼歌って弾けろ! アニソンGO!GO! ベストヒットアニソン110曲
 宝島社/B5/933

▼東京ゴッドファーザーズ エンジェルブック
 宝島社/四六変/1100

▼別冊宝島902 僕たちの好きなガンダム 『機動戦士Zガンダム』全モビルスーツ&メカ
 宝島社/B5/952

▼ザンボット3 ダイターン3大全[ブレインナビ]
 双葉社/A5/2200/10月下旬

▼公式ガイドブック3 機動戦士ガンダムSEED 明日への翼
 角川書店/AB/1200/10月30日

▼キミの知らないエヴァンゲリオン
 角川書店/B5/1000/10月31日

▼機動戦士ガンダムSEED写真集アスラン DECISION
 角川書店/A4/460/11月18日

▼機動戦士ガンダムSEED写真集キラ DESTINY
 角川書店/A4/460/11月18日

▼「アニメ評論家」宣言[藤津亮太]
 扶桑社/A5/1600/11月下旬

▼傑作アニメ批評集(仮題)[五味洋子]
 ふゅーじょんぷろだくと/未定/未定/冬

▼後藤圭二画集 Kinetic Girls
 角川書店/A4/2500/未定
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