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『ANIMATRIX』を語ろう

第1回 「現実ではない」という前提
     片渕須直(アニメーション演出家)

 その世界に浸りこんでいた精神がふと自分の体を取り巻く現実に気づき、その両者間に横たわるギャップに驚く、などというのは実は日常茶飯で珍しくない。夏に冬の場面の絵コンテを、冬に夏の場面の絵コンテを切っていることはありがちなことで、「クリスマスイブに降り出した雪」などという場面の中にあった気持ちが、ふと舞い戻ると油蝉が鳴いていたりする。汗腺も開いていいのかどうしていいのか戸惑っているようで、ちょっとした自律神経の失調を味わえる。
 アニメーションは裏づけが希薄だから、入れ込んで観る、という観客側の精神の働きがやはり大事なのだな、というようなことを『ANIMATRIX』によって改めて思わされてしまった。エピソードの中で行われていることが「現実ではない」という前提は、アニメーションにとって酷なのではないか。味わう側としては「これは現実である」と信じて入れ込んで没入したいし、毛穴も開かせて疑似体験したいものなのだ。本質的に虚構でしかないアニメーションをもって「虚構の世界」を描こうとしてしまうと、体感的な部分・肉感的な部分が観る側の意識としてどんどん淡くなっていってしまうのではないか。少なくとも自分はそんなふうに思いつつ観てしまった。
 作り手側諸氏もさすがの勘の冴えで本能的に潜在意識的にそのことに気づいておられたのかもしれず、川尻・小池コンビの主題の選択からしてそうであるように、このオムニバスは随所で肉感的表現を際立てようとしていた。絵に描いたような美少女ではない森本作品の主人公にしてもそう。美少女でないこと自体が「虚構を廃して肉感的であろうとする態度」であり、作画が醸し出すその肉体表現のやわらかな感じには絶妙なものがあった。
 次には、これらと同じ表現を「実はこれは絵空事」などという雑念は無用な舞台で、あたかも現実のこととして味わいたいものだと思う。
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