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■『ANIMATRIX』を語ろう
第2回 リアリスティックな作画と想像力
井上俊之(アニメーター)
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『ANIMATRIX』は発売前から楽しみにしていました。本田(雄)君や橋本(晋治)君が凄い仕事をしているって噂は聞いていたので。エピソードの中で、作画的に目を引いたのはやっぱり「KID’S STORY」と「BEYOND」ですね。自分にとって、この2本はそれぞれリアリスティックな作画をする上での技術的な命題に対する、ひとつの答えのように思えて、非常に考えさせられました。
観れば分かると思うんだけど、「BEYOND」は、ライブアクションをベースに作画している。それは特に主人公の女性において顕著だよね。想像力だけによる作画では、あのレベルには到達できないんだよ。しかも、自分がよく知っているアニメーター達が、普段の作画では実現できないリアリティを達成してる。その意味で、二重にショックだった。ライブアクションをベースに描けばリアリティのあるものになる、というのは頭では分かるんだけど、それをはっきり見せてくれるものは、国内作品ではなかったからね。国産で、しかも自分の知っている人達がやってみせて、その結果、あれほどはっきりと差が出るとは……。
一方、「KID’S STORY」でもそれをやっているのかどうかは知らないけれど、橋本君達が、自分達で実演して、それをビデオに撮って研究するという、独特のやり方をしてる事は以前から聞いていた。それを疑似ライブアクションと言えばそうなんだけど、たとえそうだったとしても、基本的には観察して描いているわけだから、自分がやっている事に近い。それなのに、あのリアリティある動きができている。それが悔しかった。想像力と観察力だけでそこまで行けるのか、と。
「KID’S STORY」でも、スケボーのアクションに関しては、「大平(晋也)君はどこへ行ってしまうんだろう」という感じでね(笑)。大平君の新作って、観るたびにいつも「ああ、また一線を越えたなあ」と思うんだけど、今回も、新たに限界を越えてみせてくれたと思う。彼の作画は、もはやいわゆるリアルな動きとも違うものになっているけれど、アニメーションのダイナミズムみたいなものが凄いレベルで表現されているよね。画が動く楽しさとか、躍動感が今まで観た事もないぐらいによく出ていて、彼の天才性に舌を巻いた。大平君の仕事は、自分としてはもう描けない領域に行ってしまっているから、逆にアニメーションを観る喜び、画が動く楽しさを感じて、元気づけられるんだよ。
むしろショックだったのは、橋本晋治君の作画だね。あの教室から飛び出ていくくだり。机の上をポンポンポンって跳んで、窓から宙返りして着地するところ。あのあたりから、ロッカーからスケボーを取り出すくだりまで、橋本君が描いていると思うんだけど。あんな芝居を実際にやってみるのは難しいだろうから、それをビデオに撮って研究して描くっていうことはできなかったと思うんですよ。想像だけで描いているはずなのに、前後のシーンとつながって違和感のない、リアリティある動きになっている。着地した後のリアクションとか、俺の想像力からは決して出てこないような豊かな動きになっていて……本当に舌を巻くというか、悔しいというか、自分の才能の足りなさを感じるね。
「BEYOND」を観ると、想像力だけによる作画の限界を思い知らされ……「KID’S STORY」を観ると、自分の才能の足りなさを教えられる。それが辛かったね。俺自身の話をすると、ライブアクションとは言わないまでも、実際に演じたものを撮って観れば、今よりリアルな存在感のあるものになるのは分かるんだよ。でも、職業アニメーターとしては、それはすべきじゃない、という思いがどこかにあって……普段の観察と想像力だけでやるべきなんじゃないかという、自分のこだわりがある。だから、技術者としては非常に考えざるを得ない……と言うか、これを観て考えない人がいるんだろうかとさえ思うね。(談)
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