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『ANIMATRIX』を語ろう

第4回 オムニバス映画としてのANIMATRIX  
    細田守(アニメーション演出家)

 映画「マトリックス」の元にある気分って、上手くいかない現実を頭から否定して、妄想の中にこそ真実の世界があるのだ、といった思春期なら誰しもが抱く現実逃避ですよね。そのままやると非常に危ういものになりかねないのですが、でもその妄想世界の構築に技があって虚構としての説得力がある。元にある感情をうまくオブラートに包んで、ギリギリのところで鮮やかにエンタテインメントに昇華させている。だから、そんな「マトリックス」をモチーフに新たな映画を作るというのは、各氏とも大変に難しい作業だったろうと考えます。
 森本(晃司)さんの「BEYOND」は、現実の隙間に垣間見える虚構が、独自の世界で描かれているという気がしました。それは、世界の裂け目を発見するというか、みんなが見過ごしていたところに世界の美しさを再認識する感覚だと感じます。例えば夏休みとかに、庭の鉄板や大石をどかしてみるとアリの巣があって、そこに全く別の世界が広がっているのを見つけてワクワクするというような。「ビヨンド」の中であの子供達がバグの中で遊んでいる光景というのは、世界の隙間から溢れてくるようなきらめきだと思うんです。どちらが嘘でどちらが真実かなんてことはどうでもよくて、どちらも真実でどちらも美しかった。
 同じように小池(健)さんの「WORLD RECORD」や、川尻(善昭)さんの「PROGRAM」には、自分を束縛しているものから解き放たれたいという普遍的な気持ちが、「マトリックス世界」の枠組みを突き抜けるようなところがあって、非常に気持ちよかったです。
 ただ、『ANIMATRIX』全体についてあえて言うなら、もっと各作家の特色と切り口が激しくぶつかり合うような、それこそ「競作」の醍醐味を味わえるようなプロデューサーの仕切り方があったんじゃないだろうかと思います。例えば、イギリスに「アリア」(1987年)という映画があって、それはオペラを主題にした、複数の監督の短編集なんですが、各作品とも非常にバラエティに富んでいて楽しいんです。オムニバスという形式は、与えられた設定に対して各作家がどう解釈するかの違いが面白いのであり、その違いが作品全体の価値になっていくんじゃないですかね。『ANIMATRIX』は、あれだけバラエティに富んだ作家にお願いしているのに、そこで示される世界のバラエティ感や、言わんとすることが少ないように見えてしまう。それはすごくもったいないと思うんですよ。これだけの作家たちが一堂に会すなんてことはなかなかない訳ですから、それぞれの世界をもっと見せつけるようなプロデュースの仕方があったと思う。観客にとっては「この作品はマトリックス世界か否か」ということ以上に、新しい映画的体験が重要なはずですから。(談)
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