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『ANIMATRIX』を語ろう

第3回 『ANIMATRIX』と民族性
    五味洋子(アニメーション研究家)

 「マトリックス」の映画はTVでたまたま見ました。映画館へ行かなかったのは、私が怖がりだからです。TVで見て、まあ怖くはなかったのですが、その表現の過剰さに辟易した部分はあります。ネオとトリニティが走る、その手前にあるコンクリート柱が銃撃で粉々に吹き飛ぶ、あれは本当にそうなるのかは知りませんが、余りにも過剰で。例の、CMやらバラエティやらでパクられまくっていたマトリックス反りにしても、あのポーズで颯爽と銃弾を避けて反撃に転じるのかと思ったら撃たれてるし。日本人がやったら絶対よけさせますよね。こうすればカッコいい(COOL?)という概念が違うのかなと思いました。
 ま、それはともかく、本題の『ANIMATRIX』。実は大変興味はあったのですが(なにせスタッフが凄い)何分怖がりなものですから、一般に発表されてるビジュアルが怖くて。目玉のアップとか、「BEYOND」の絵とか。「BEYOND」なんてタイトルからしてホラーなイメージだし、ビジュアルがいかにもで。目玉の方は学校の眼科検診が苦手だったし、コンタクトレンズなんて想像するだけでダメですから。でも実際に見たら何という事も無かったので、食わず嫌いはいけないなと反省してます。
 さて、余談はここまで。以下、感想を。
 1の「FINAL FLIGHT OF THE OSIRIS」は、困りましたね。「FF」の映画が何故受けなかったかを全然学習して無い。ストーリーはともかく、映像が良くも悪くもゲーム画面の延長で。人物のリアルな肌合いとか出そうとしているのは解るんだけど、動きの方が重量感とか肉体感が感じられないのは致命的。
 2、3の「THE SECOND RENAISSANCE」パートI&IIは監督はともかく、ラリー&アンディのウォシャウスキー兄弟の脚本が。有り体に言ってまだこんなことやってるの? という感じ。日本では『鉄腕アトム』の青騎士の巻とか、TVアニメだったらタツノコプロの『新造人間キャシャーン』とかが何十年も前にやっている題材で。あ、だから今、実写で『キャシャーン』なのか? 「マトリックス」自体にしても ウォシャウスキーは何か新しい黙示録を造り出したという気でいるようだけれど、夢と現、どちらが真実かとか、現実と仮想現実の問題は、こちらでは『うる星やつら』の昔から押井監督作品のテーマで親しんでいますし。作中に現実の中東問題とか入れ込んではいても政治的思惑とか反権力の意思表示とかいうものは感じられないし。作画の方はさすがの出来なんですが、それだけに日本人アニメーターが作中のロボットのように使われてる気もしてしまって。
 4の「KID’S STORY」は上手いです。動きもタイミングも上手いし、その先の画像としての処理、例えばデジタルペイントの方法等は工夫を凝らしていて、技術的には評価大ですけれど、こういう類の、描線を活かしたアニメーションはアニメフェスとか行くと結構あるのです。もしこれを見て、おぉ凄いと思われた方は広島の国際アニメフェスまで足を伸ばしてみて下さい。そういうきっかけになればと思います。
 5の「PROGRAM」。監督・脚本=川尻善昭。いやあ、やってくれます。仮想世界の中の戦国時代。鮮烈な色彩と影を生かしたスタイリッシュな画面。鎧武者のいでたち、バックのススキが原、竹林、城の天守閣と純和風を強調した舞台。それが3DCGでくーっと回転する「マトリックス」的な画面。斬り倒した武者は端からデータとなって霧消していく壮快さ。女武者シズの純白のかずらの中に揺れる髪の線が手描きの味を残してまたいい感じ。監督自ら花札調と言う純和風様式美の世界に炸裂するダイナミックな川尻アクション。壮麗に衣を翻して宙を飛ぶシズの美しさ。アップや見栄切り等のアニメ的手法がびしっと決まる。最後には時代劇の伝家の宝刀、東洋の神秘、真剣白刃取りまで見せてくれる大サービス。しかも素晴らしいのは川尻監督が全て意識的にこれらを行っていること。「マトリックス」という枠に乗って、アメリカ人好みのジャパニーズ・アニメの典型を「見せましょう」という意志がびしびし伝わって来る。しかも川尻テイスト満載。プロフェッショナルの仕事という感じです。さすが日本国内より世界を相手にしている人は違う。
 6の「WORLD RECORD」も脚本は川尻さん。やはりダイナミック。作画と監督を新鋭の小池氏に任せ、その独特にデフォルメされたフォルムと黒ベタの影を多用した画面が異様な迫力。走る男の筋肉を硬いゴムのようにとらえ直して、ついに人間の限界を超越する辺りの描写は適格な効果音と相まって本当にすごい。
 7の「BEYOND」。これはこのディスクの中の一番の成果。だてに3年の製作期間を食ってはいません。設定、ストーリーは「マトリックス」の世界観の枠の中にありながら、その隙を突いたというか、こう来たか! という感じ。舞台は現代の日本。上空に虹が出ているオバケ屋敷。そこは仮想現実に一種のバグが生じた場所。時間の流れや重力のあり方から解き放たれた現象を目の当たりにしても、それに疑問を抱いたり追求してみようとはせず、積極的に遊んでしまう悪ガキたちと陽子。こだわりの効果音や3DCGの使い方が見事。3Dは立体的な背景や、手描きでは動かしづらい物に使うのが一般的だったけれど、こういう、空間のほつれを表現する「効果」としての使い方は新鮮でした。私はデジタルの色彩の微妙な色合いが好きです。もちろん色彩設計のセンス次第ですが、背景と作画が同じデジタルデータに置換されているので、絵の具とビニール塗料という今までのどうしようもない素材の異物感を乗り越えている作品が多く出て来ていて、いい感じです。鬼才・森本晃司監督と、キャラクター&作画監督の本田雄氏のコラボも成功していて、見ていてとても気持ちのいい画面が展開します。作画に誰を選ぶかで作品の風合いは微妙に変化してしまう筈なので、そういう目も監督には必要です。作中で陽子が試みていたような浮遊感覚にはとても皮膚感覚を刺激されるものがあり、上手いと思いました。
 8の「A DETECTIVE STORY」は私的にはうーん……。でもトリニティも黒眼鏡の男も登場するので「マトリックス」のファンには素直に楽しめるでしょう。アッシュでなくスパイクが登場してたらどうなるんだろうとか妄想も楽しめるかも。
 9の「MATRICULATED」は韓国出身のピーター・チョン氏の作品。韓国のアニメは日本のTVでもしばしば放映されて長篇もあるけれど、見る人によって好悪の分かれるところ。本作ではロボットが登場するのだけれど、その長い尻尾が有機的に波打つようにうごめく、その動きが韓国風に見える。アメリカンテイストなフォルムのロボットが文字通り民族性の尻尾を引きずっているのです。私はその動きがちょっと苦手。決して差別意識からでなく、昔の日本のTVアニメが欧米では目が大きすぎると奇異の目で見られたように生理的なものです。ストーリーは正直よく解らないのだけれど、画面はぼーっと眺めている分にはトリップ感覚が味わえていいのではないかと思います。

 総じて思ったのは日本人はやはり加工が得意な民族だということ。「マトリックス」という題材を与えられると相手が思いもよらなかったような切り口の、鮮明な作品に仕上げて返す事が出来る。日本人は昔から外国の文化を取り入れて自国流に消化して来ました。加工貿易といって原材料を加工して輸出することに長けていた時代もあります。コミケが世界でも類を見ない程の隆盛を示しているのも、元の作品があってそれをパロディに加工することが主流になっているからでしょう。そういう日本人の特性が良い方向に発揮されたのが『ANIMATRIX』というオムニバスなのではないでしょうか。ま、評論というか感想というのも元の作品あってこその加工業の一種と言えるのですが。
 DVDということで特典満載でしたが、「アニメーション文化の歴史」というのには突っ込み所一杯で、もう。リミテッドアニメーションてのは本当はアメリカでアンチディズニーとして生まれたんだぞとか、日本のアニメは『鉄腕アトム』から始まった訳じゃないぞとか、低予算なのはそもそも手塚さんがとか、22分間で疲れちゃった。でも本場の「ジャパニーズ・アニメ」という言葉を聞けたのは良かったです。やっぱジャパニメーションなんて言わないですねぇ。
 本当言うとMENU機能を生かして本編の1、2、3を見て前述のようにウォシャウスキーに疑問を感じちゃったので、気分転換にと思ってこの「文化の歴史」を見てみたのです。もしかしてこの『ANIMATRIX』のディスク、作品の並べ方に問題があるんじゃないでしょうか。ところが「文化の歴史」は逆効果でした。一旦中止して、お口直しにアニメじゃなく、まだ見てなかった、世界中のアニメーション作家が俳句を題材に連作した『冬の日』をかけたのです。のっけからノルシュテインと川本喜八郎氏の連続とかなりヘヴィー。このペ−ジを見ている方は相当ディープなアニメファンと思いますが、よろしければアニメーションの全てという感のある『冬の日』もご覧になって下さいと宣伝をして、おしまいにします。
 最後に私にこの役を振って下さった小黒さん、こんな機会でもなければ、怖がりの私はビジュアルに負けてこのディスクに手を出さなかったと思うので、感謝しております。
 皆様、長文にお付き合い下さいまして、どうも。
 五味洋子でした。
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