WEBアニメスタイル
更新情報とミニニュース
アニメの作画を語ろう
トピックス
ブックレビュー
もっとアニメを観よう
コラム
編集部&読者コーナー
データベース
イベント
 

 編集・著作:スタジオ雄
 協力:スタジオジブリ
    スタイル

WEBアニメスタイルについて メールはこちら サイトマップ トップへ戻る
ブックレビュー
「東池袋アニメ積読録」 小川びい

2003年11月
霜月は、アニメと言葉の関係について考える日々

 11月は触れるべき書籍が盛りだくさん。さっそく紹介に移りましょう。
 「メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋」(朝日選書)は、イクチオサウルスの最初の発見者(のひとり)であり、古生物学のパイオニアであるメアリー・アニングの、世界初の評伝です。男性優位の階級社会であったビクトリア朝以前のイギリスで、田舎娘が化石発掘を生業としていかに生き抜いていったのかを鮮やかに活写し、とにかく無類の面白さ。一気に読まされてしまいます。
 ――と書くと、どうしてこれがアニメ関連書なのかといぶかしく思われるかもしれませんが、著者名にご注目。共著者のひとりが、あの吉川惣司なのです。吉川惣司と言えば、劇場版『ルパン三世』の監督や、『装甲騎兵ボトムズ』の脚本、最近では『星のカービィ』の総監督と、アニメ界では才人としてつとに知られる方。書店で最初に目にしたときは同名異人かと思ったのですが、著者紹介を見ると、あにはからんやご本人ではないですか。あとがきによれば、メアリーを知ったのが9年前、以来イギリスから論文や関連資料を取り寄せ、実際に現地へ足を運び、その過程で最新知見も手に入れ、と次第に本格的な研究にのめり込んでいったようです。
 扱っている対象が、19世紀初頭の、都会ではなく田舎、学者ではなく一介の商人、しかも男性ではなく女性、というわけで資料もほとんど残っていません。そこを演出家らしく、大胆に想像で補い(もちろん厳密に想像と史料は分けていますが)、当時のイギリスの状況や博物学の状況を適宜織り交ぜ、わずかな資料を丹念に紡いで、稀代の女性化石発見者の肖像を見事に描き出します。その手際には舌を巻くばかり。まったく才人にもほどがあります。ちなみに表紙写真も吉川本人の手によるもの。11月の隠し球的一冊です。
 「昭和探偵倶楽部」(宝島社)は、DVDつきの大判のムック。いわゆる“懐かし”本の一種です。ここに4頁に渡る押井守インタビューが収載されているのですが、これが凄い。その白眉をちょっと引用してみましょう。
 「僕はアニメの世界を言葉として語ろうと苦労してきたんだけど。偉そうに言えば、ゴダールが始めて映画に現れた自意識だとすれば、僕はアニメーションの世界に登場した自意識なんだって。……アニメの世界には批評もない、語られていないから。だから自ら語るしかない」
 映画は語られる事で(観客がいる事で)映画となる、という押井監督の持論を、こういう喩えで展開したところが、実にカッコイイ。小黒編集長など、「これまでの押井インタビューの中でも最も充実したもののひとつ」とまで言い切るほど。記憶に間違いなければ、同人誌でこれに類する発言を以前見かけた事はありますが、ここまで商業誌で言い切ったのは確かに貴重。押井ファンはここで紹介するまでもなくご存知でしょうが、もしまだ手に取ってない人がいればぜひ。
 もっとも「アニメの世界に批評がない」という言葉はいささか言い過ぎで、優れた批評は、実は以前より数多くありました。パッと思いつくだけでも、今村太平「漫画映画論」、池田憲章他「アニメ大好き」、登坂正男「ゲーデル・エッシャー・バッハ・ビューティフル・ドリーマー」と挙げられます。その一列に加わらんと登場したのが、タイトルも勇ましい、藤津亮太の「『アニメ評論家』宣言」(扶桑社)です。
 この本の特徴を一言で言えば、映画を語るようにアニメを語りたい、というものでしょうか。映画についての本は、玉石混淆ながらも巷に溢れている事を思えば、そうした形のアニメの本がなかなか出版ベースに乗らない(という印象があった)のは、確かに不思議と言えば不思議です。もっとも映画批評の本とて、そうたくさん売れるわけではないでしょうから、単純に映画の本を出したいという熱意のある出版人が多かった、というだけの事かも。あるいは、アニメについて語りたい大人がこれまで相対的に少なかったという事なのかもしれません。
 ひとつ確かな事は、映画には長い年月の中で定番とも呼べる作品が繰り返し語られ、評価が共有されているがゆえに、新しい切り口を発見する事が、すなわち批評になりうる、という事実です。アニメーションは映画と同じくらいの歴史をもっていますが、こと「アニメ」に限れば、定評が確立した作品はごくごく限られています。そのあたりが、アニメを語る事の難しさと関連しているのでしょう。批評というのはある意味、登山のようなものです。登山において、世界最高峰を攻略すればすむといった時代はとうに過ぎました。無酸素で登るとか、険しいルートを選択するとか、新しいルートを開拓するとかといった、登攀の仕方こそがポイントになります。登るべき最高峰すらはっきりしない世界で、批評という登山をなすのは大変難しい事です。
 実際、「『アニメ評論家』宣言」で最も輝いている原稿は、冒頭の『ルパン三世 カリオストロの城』論と『太陽の王子ホルスの大冒険』論だと思います。2作品とも、アニメ界の中で、研究が進み、定評がほぼ確立している数少ない作品です。それだけに安易に定評に寄りかかる危険もまた大きい。定評を外さず、しかし安全なルートを辿る事だけはすまいという緊張感が文章を支えており、読んでいて非常にスリリングでした。逆に言えば、他の文章は、語っている作品の評価がまだまだ定まっていないせいか、そこまでの緊張感を獲得していないものもあるように思えます。ぜひとも『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や『機動戦士ガンダム』について語った文章を次に望みたいもの。
 もちろん、批評には知られざる作品に光を当て、問題を掘り起こすという機能もあります。本書ではOVA『ブラック・ジャック』10話がそれに当たるでしょうか。これは「書き手の必然」が感じられる、実に素晴らしい文章でした。
 さて、『冬の日』はいわゆるアート・アニメーション関係者が多数参加した、オムニバス形式の作品です。「『冬の日』オフィシャルブック」(エスクァイヤマガジンジャパン)は、参加した各人の技法を垣間見る事ができる好著と言えましょう。各作家のコメントも充実しています。中でもハッとしたのは、小田部羊一・奥山玲子夫妻のコメントでした。川本喜八郎からもらったという指摘は、担当パートを観た時には思いもよらなかったものだけに、衝撃があります。優れた制作者は、また優れた批評家でもあると実感させられました。本編を見た後で、ぜひ本書をひもといてみてください。
 『フラーニャと私』(徳間書店スタジオジブリ事業本部)は、タイトルから想像できませんが、ノルシュテイン作品の一種のメイキング・ブックになっています。掲載された素材の美しさにしばし、ため息。近々出版されるという「ユーリ・ノルシュテインの仕事」(ふゅーじょんぷろだくと)との棲み分けがどうなっているかも気になるところです。
 ところで、最近のアニメのデジタル化は、アニメ出版物にも思わぬ余波を及ぼしています。というのも、デジタル素材はこれまでのフィルム素材と違って、大きく引き延ばす事ができない場合が多いのです。この11月に多数出版された『ガンダムSEED』関連書が典型ですが、どの本も本編図版を大きく扱う事ができず、苦労されているようでした。大きな判型のアニメムックをいかに作るか、難しい時代が来ています。
 最後に、「X―VISION」2号、そして12月の発売ですが「アニメーショングランプリ」1号と新しい雑誌展開の動きが見られた事も記しておきましょう。かつて発行された「アニメージュ魂」もあわせて、どれもDVD化時代に合わせたアニメ雑誌を模索しているようです。その試みがうまく実を結べばよいのですが。

▼書名・誌名[著者]  発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。


●11月の既刊

▼メガミマガジン スペシャルセレクション らいむいろ戦奇譚 ビジュアルコレクション
 学習研究社/A4判/2400

▼ メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋[吉川惣司・矢島道子]
 朝日選書/四六/1400

▼ 「冬の日」オフィシャルブック[遠山純生編]
 エスクァイヤマガジンジャパン/B5変/1600

▼ フラーニャと私[ユーリー・ノルシュテイン構成&文、児島宏子訳]
 徳間書店スタジオジブリ事業本部/A4変型/3800円

▼ ジ・アート・オブ ファインディング・ニモ[マーク・コッタ・ヴァズ著、那波かおり訳]
 徳間書店スタジオジブリ事業本部/A4横/3800円

▼ 別冊宝島919 僕たちの好きな超時空要塞マクロス
 宝島社/B5判/1048

▼ 宝島MOOK 昭和探偵倶楽部
 宝島社/A4判/1429

▼ メガミマガジンスペシャルセレクション 藍より青し ビジュアルコレクション
 学習研究社/A4判/2400

▼ 機動戦士ガンダムSEEDオフィシャルファイル キャラ編4
 講談社/AB/476

▼ 機動戦士ガンダムSEEDオフィシャルファイル メカ編4
 講談社/AB/476

▼ 機動戦士ガンダムSEEDオフィシャルファイル ドラマ編2
 講談社/AB/476

▼ オールガンダムストーリーガイド
 講談社/AB/562

▼ 宇宙のステルヴィア 完全ビジュアルブック
 メディアワークス/AB判/2000

▼ 「アニメ評論家」宣言[藤津亮太]
 扶桑社/A5/1600

▼ キディ・グレイド コンクルージョン
 角川書店/A4/2000


●12月の新刊


▼ 別冊アニメディア 機動戦士ガンダムSEED パーフェクトフェイズファンブック
 講談社/AB/657

▼ 機動戦士ガンダムSEED写真集アスラン ―DECISION―
 角川書店/A4/460

▼ 機動戦士ガンダムSEED写真集キラ ―DESTINY―
 角川書店/A4/460

▼ NARUTO秘伝・動画絵巻 オフィシャルアニメーションBOOK
 集英社/新書/762

▼ スクラップド・プリンセス すてプリ・プレミアム
 エムディエヌコーポレーション/B5/2300

▼ フランダ−スの犬 その愛と涙
 JTB/A5/1500

▼ ワンダーライフスペシャル 劇場版とっとこハム太郎 公式ファンブック3
 小学館/AB/800

▼ 月夜の晩に[柳沼和良]
 皆美社/A4/1900

▼ 叢書・〈知〉の森3 ジブリの森へ 高畑勲・宮崎駿を読む[米村みゆき編]
 森話社/四六/2200

▼ 成恵の世界 ハートウォーミングブック
 エムディエヌコーポレーション/A4/2300

▼ 機動戦士ガンダム公式設定集 アナハイム・ジャーナル U.C.0083―0099
 エンターブレイン/A4変型/1800

▼ ロマンアルバム 機動戦士ガンダムSEED【フリーダム編】
 徳間書店/A4変型/1600/12月22日

▼ ユーリ・ノルシュテインの仕事
 ふゅーじょんぷろだくと/未定/8500/12月下旬 ※限定版もあり

▼ ピンクパイナップルアニメカタログ2004
 ソフトガレージ/未定/12月28日 ※DVDつき


●2004年以降

▼ カレイドスター すごいステージ〜幻の大技編〜
 エムディエヌコーポレーション/B5/2300/2004年1月14日

▼ 長坂秀佳 術[長坂秀佳]
 辰巳出版/未定/2500/2004年1月20日

▼ それがVガンダムだ[ササキバラゴウ]
 銀河出版/未定/未定/2004年1月下旬

▼ ジアートシリーズ 光と闇 小倉宏昌画集

 徳間書店スタジオジブリ事業本部/未定/2400/2004年1月

▼ 映像機械論[押井守]
 大日本絵画/未定/2900/2004年2月

▼ 押井守の映像日記(仮)
 徳間書店/未定/1600/2004年2月上旬 ※アニメージュ連載の単行本化

▼ ロマンアルバム イノセンス 押井守の世界
 徳間書店/未定/2095/2004年2月上旬 ※既刊「押井守の世界」の増補版

▼ THE ART OF 天使のたまご 増補改訂版
 徳間書店/未定/2381/2004年2月中旬

▼ 押井守が「アニメージュ」で語った20年(仮)
 徳間書店/未定/2000/2004年2月中旬

▼ 藤子・F・不二雄☆ワンダーランド ぼくドラえもん
 小学館/A4変型/未定/2004年2月20日
 ※月2回刊のオフィシャルマガジン。創刊号にはアニメ第1話と映画全25作予告編収録DVD付

▼イノセンス 押井守 人形・建築・言葉・身体をめぐる4つの旅(仮)
 徳間書店スタジオジブリ事業本部/未定/1400/2004年3月上旬

▼ロマンアルバム イノセンス
 徳間書店/未定/1714/2004年3月下旬

▼ 傑作アニメ批評集(仮題)[五味洋子]
 ふゅーじょんぷろだくと/未定/未定/冬

▼ 新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮題)
 角川書店/未定/2000/2004年春
一覧へ戻る


Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.