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『ANIMATRIX』を語ろう

第6回 『ゴルゴ13』から20年、その歳月を想う
    片塰満則(CG監督)

 9本(7人の演出家)の作品は、それぞれの演出意図に沿って、必要な技術を選択することで、作品の個性をより際立たせていると思いました。と同時に様々な技法が開発されて来たなとも改めて思いました。つまり演出家の個性と技術の関係の見本市として鑑賞したわけです。

 『ANIMATRIX』を観終った後、思い出した作品がありました。出埼統監督作品、劇場版『ゴルゴ13』です。1983年の公開でしたから、丁度20年経った事になります。世界初、3DCGを用いたセルアニメーションという喧伝に煽られ、期待に胸膨らませて身をしずめた新宿の映画館のシート、観終った後の失望。その後3DCGの道を進む事になったのは、『ゴルゴ13』と無関係では無いという意味では、自分にとっては重要な作品といえます。いやとにかくセルアニメーションの部分には何の不満もなかったのも事実でした。
 今ならば、『ゴルゴ13』の3DCGが上手く行かなかった理由は良く解ります。何もかも早すぎました。人の手が紙の上に描き出し、撮影台で撮影されるセルアニメーションと、立体座標で面を定義して、その表面の明るさを演算で求める3DCG、その隔たりを埋める技術は、だれも必要としていなかった時代、いや隔たりを埋めるという発想もなかったでしょう。

 しかし、その後の20年、デジタル技術は様々な技法を生み出して来ました。3DCGにおいては、マッピングとよばれる画像を張り付ける技術。ノンフォトリアルとよばれる、非写実的な立体描写としてのトゥーンシェード、物理計算によるシミュレーションや、パーティクル。そして画像処理の分野では、デジタル合成、そしてデジタルペイント。

 一口にデジタル技術と言っても上記の様に色々な技法があるのですが、とかく「CG」とか「デジタル」の一言で片付けられる事が多く、その実体はあまり知られていないように思います。それはアニメーション制作の現場においても同様で、そのことにより制作行程が混乱することも多々あります。今回は小黒さんによりせっかくの機会を頂いたので、『ANIMATRIX』の実例を元に、様々なデジタル技術を紹介したいと思います。しばしおつき合いを。

●FINAL FLIGHT OF THE OSIRIS
 9本中、唯一作画をしていない、3DCGのみで作られた作品です。すなわち背景、キャラクタ、メカ、エフェクトにいたるまで全て立体データで表現されています。20年前に製作された『ゴルゴ13』で使用されたのも同じ技術ですが、当時はビルやヘリコプター、そして銃弾(オープニング中に登場)といった硬い金属質のものしか表現できませんでした。その後の技術の開発の中で、インバースキネマティクス、という多関節の制御技術、そして関節の変化にしたがう表面の皮膚の変形技術でキャラクタの表現が可能になりました。ただキャラクタは単に皮膚の変形だけでは不十分で、近年では骨の変化と筋肉の変化を連動させ、さらにその表面を被う皮膚の変形をつくり出す方法へと発展しつつあります。キャラクタのアニメーションはモーションキャプチャという、現実の役者の身体の動きを画像から解析して、3DCGのキャラクタの関節の動きを作り出す方法が取られています。現実の動きを用いる為、セルアニメーション特有の「タメ、ツメ」が加味されたケレン味を表現するのは難しく、またカメラアングルや画面のフレームに対する意識が希薄な為、今一つカッコ良いアクションには成り辛いのことが欠点としてあげられます。またキャラクタを表現するには身体だけでなく、毛髪や衣服も重要な要素で、こちらのほうは、ダイナミクスとよばれる物理計算を元に動きを作り出す方法が取られています。ただし物理計算によるシミュレーションなので、意図したタイミングで動かすのは難しく、髪や服のいわゆる「なびき」の動きは作画のほうが遥かに自由度が高いと言えます。キャラクタについては上記のような欠点もあり、いまひとつ食い足りなさが残りますが、センチネルズのようなメカの動きについては、かなり満腹しました。作画でこれだけの物量を表現するのは至難ですが、プログラムを用いて多数の物体を制御するのは3DCGの大きなアドバンテージといえます。

●THE SECOND RENAISSANCE PARTI&II
 この作品でもかなりの割合で3DCGが使われていますが、作画したキャラクターとの調和をはかるため、トゥーンシェード(またはセルシェード)とよばれる技術が使われています。通常は滑らかなグラデーションで表現される3DCGの立体感をあえて色数を減らしてセル画風に塗分けで表現し、また輪郭線も同時に描きます。この輪郭線は20年前の3DCGでは描けなかったものですが、ディズニーが1987年にCGの学会で発表した、「Oilspot and Lipstick」という短編で実用化されました。まさにセルアニメーションの現場の要請から産まれた技術といえます。また『ANIMATRIX』のプロデューサも務める、マイケル・アーリアスも3DCGのプログラマで、『もののけ姫』のタタリ神で用いられたトゥーンシェードは彼の手によるものです。また手描きのキャラクタと3DCGのメカが絡むカットが多々あり、作画と3DCG担当者、そして演出家との密接なやりとりがあったであろう事をうかがわせます。メカの動きもモーションキャプチャではなくアニメータによってつけられていると思われます。3DCGと作画の融合の好見本だといえます。
 キャラクタ以外の部分では、導入部と最後で描かれているマトリックス空間を移動してゆく視点に特有の美しさを感じました。多数のレイヤー(層)を通り抜けてゆくのは従来の撮影台では難しい表現です。また、ダークストーム作戦後の渦巻く黒雲はモーフィング(ワーピング)によって手書きの背景に動きを付けた表現がありました。従来は波ガラスでしか表現できなかった画面の揺らぎを演出意図に沿ったスピードや方向に動かせるのもデジタル技術の恩恵のひとつです。

●KID’S STORY
 この作品で特徴的なのは、なによりキャラクタの作画、そして仕上げの部分にあるでしょう。スケッチ風の荒々しく、かすれたタッチは、従来のトレスマシンでは動画用紙に描かれた濃淡を再現できません。線の色も限られた色数のカーボンしかありませんでしたが、デジタルペイントであれば、塗り部分と同様に、どんな色でも使う事が可能です。いわゆるアートアニメーションの分野では従来から行われてきた絵画的なタッチを生かした作品がデジタルペイントによって、セルアニメーションの現場でも可能になった事に大きな意味があると思います。原画と動画という分業によって発達してきた独特の動きのタイミングと絵画タッチの融合が本作品の最大の魅力だと思います。
 それから冒頭の落下シーンで用いられている動きのブレや、カメラの揺れもデジタル合成によるもの。従来の撮影目盛りによる指定では、ラッシュフィルムが上がるまで確認できなかった効果も、プレイバックが可能なデジタル合成ならば、試行錯誤が可能になります(いや、もちろん無限にはできないですが)。またわずかながら使用されている3DCGですが、主人公の部屋のクレーンアップ時に、床の反射がきちんと表現されていたのに感心しました。通常は床の木目と同様に反射する要素も床の表面にはりついてしまう所ですが、ここではきちんと鏡像として描かれています。

●PROGRAM
 インタビューでも語られているように、平面的な画面構成を貫いた今作品においては、3DCGも可能な限りその3次元性を押さえ込んであります。荒野に林立するすすきも、あえて書き割りのようなシルエットとして描かれ、鳥居も多数のレイヤーとして表現されるのみで、質感の描写はおこなわれていません。また竹やぶの中の回りこみも、竹は全てカメラ側を向いたまま移動してゆき、その裏側を見せる事は有りません。この事からわかるように、川尻監督は3DCGを撮影台として用いていると想像できます。ただし従来の撮影台とちがい、撮影する素材がカメラからどんな位置に在っても、ピントが合い、照明も均一にあたり、また素材を固定するタップが存在しない事で素材を自由な方向に動かせる、まさに理想的な撮影台です。天守閣の屋根上のカメラワークも、物理的な制約を受けないからこそ実現した、超大判の背景と考える事が出来ます。3DCG以外の技術としては、緑色のデータとなって分解してゆく騎馬武者にはパーティクルとよばれる技術が用いられています。パーティクルとは粒子と言う意味ですが、物理計算によって粒子の動きを求める技術です。速度、質量、重力、風、反発力、吸引力といった様々な条件を与え、粒子の座標の変化を計算する事でアニメーションをつくりだします。元来は3DCGによる技法でしたが、近年ではデジタル合成のソフトウェアでも実現できるため、煙や湯気、火花といった表現によく用いられます。

●WORLD RECORD
 デジタルペイントである点をのぞけば、9作品中もっともデジタル技術の含有率が低い作品でしょう。別に悪口では無く、むしろ作画の力を全面に押し立てた気持ちの良い作品です。インタビューによれば、宙を舞う鍵も作画とのこと、物凄い画力に脱帽です。3DCGがおせっかい出来るとすれば、作画のガイド(参考)として、3DCGの画像をプリントアウトする事位でしょうか。『オネアミスの翼』や『源氏物語』で行われてきた手法です。今作品でもしお手伝い出来るとすれば、鍵、ストップウォッチ、背景動画、数字の群れ、車椅子の車輪くらいしか思い付かないので、まああまり力にはなれそうもないのですが。

●BEYOND
 森本監督作品で特徴的なのは、なんといってもその視点の揺らぎにあります。『EXTRA』のときから一貫して変わらない3DCGの使い方で、背景の中へよろめきながら入り込んでゆくような錯覚にとらわれます。これは背景画をパースマッピング(カメラマッピング)と呼ばれる技法で立体データの表面に張り付ける技法です。マッピングという技法自体はコンピュータゲームでもよくつかわれています。たとえば、石畳を表現する時は、真上からみたように描かれた平面的な石畳の模様を地面の表面に張り付ける方法をとります。この地面を斜めに見れば、手前から奥までパースペクティブにしたがって、石畳の大きさが変わり、一見距離感が表現されますが、奥の方ほど石畳の密度が増し不自然な画面になります。セルアニメーションの背景であれば、空気遠近法にしたがって、色やコントラストを変化させたり、細部を省略したりすることで距離感を表現します。パースマップとはこの絵画的な技法を生かす為に考案された技術です。平面図ではなく、通常の背景と同様にパースや奥行きを描いた状態のまま3DCGのデータに画像をはりつける(マッピングする)事ができるのです。この技術は米国のILM社によって開発され、ピーターパンのその後を描いた映画「フック」の中でネバーランドに接近してゆくカットで使われています。ネバーランドと周囲の海面はマット画として描かれており、それに立体感を加味したカメラワークを実現する為に考案されたもので、セルアニメーションと親和性が高いのも頷けます。背景が張り付けられる立体データは、背景を参考に3DCGスタッフが立体化するのですが、その際に背景の距離感を読み取る能力が必要です。また画面を多数の部品に分解する作業も必要ですが、ここも絵画的な能力が求められる部分です。こういった作業は作画や演出、背景の現場と3DCGの現場がより近接している事が理想の環境といえます。

●A DETECTIVE STORY
 海外のペーパーバック小説の挿絵やアメコミといった印刷物の肌合いを狙った背景と同様にキャラクタにもマチエールが加味されています。背景とセルの質感の隔たりはいっさい無く、画面全体が一つのスタイルで表現されているのはデジタル合成によるもの。美術監督への取材によれば、背景のざらつきは、コピー機で作り出したとのこと、また具合のよいコピー機に出会うまで時間がかかったとも。キャラクタに合成されているざらつきも、同様の手法で作り出した素材が使われているそうで、まさにデジタル技術によって、アナログな素材との融合を果たした好例。デジタル合成は『耳をすませば』ではオプチカル合成の代わりに用いられたものですが、全てのセルがデジタルペイントとなった今では大きくその意味を変え、画面づくりの最終段階として、従来の撮影と同様の役割となっています。また画面をけぶらせる、湯気、ほこり、雪といったパーティクルによる効果も雰囲気作りに欠かせない要素となっています。劇中の列車の外観は3DCGで描かれており、おそらく作画枚数は全作品中でもっとも少ないかも知れませんが、作画以外の要素を多く足してゆく事で、それを感じさせない画面作りに成功していると思います。

●MATRICULATED
 作画されているのは、人間と猿のみという、いわば有機物以外はすべて3DCGによって表現するという、野心作と言えるでしょう。また背景も、有機的な形態以外はすべて3DCG、仮想世界も全て3DCGで描かれており、3DCGの含有率はセルアニメーション作品中第1位。ロボットや擬人化した時の表現はトゥーンシェードとはいえ、5段階もの塗り分けが施され、かなりの濃い絵柄ですが、作画によるキャラクタも造形が濃いめなので、作品としては、上手くマッチングしたスタイルに思えます。背景に関しても、反射や屈折、そして変形を取り入れた表現で、3DCGならではの表現になっているし、樹状の物体が枝別れを繰り返して増殖してゆく様などは、プログラムが視覚化されたようで、とても美的だと感心しました。デジタル技術でしか到達し得ない美が在るに違いない、という作者の信念のようなものを感じました。
 総じてセルアニメーションの表現にデジタル技術を引き寄せるアプローチが多い中、独自の姿勢が面白いと思います。またロボットのアニメーションはモーションキャプチャではなく、アニメータの手作業によって動きがつけられているようで、多関節の運動もなかなか気分がでています。キャラクタのデザインや画面のスタイルで引いてしまう観客も多そうな気もしますが、デジタル技術との向き合い方は一番前向きな作品だと思いました。

 以上9作品を通して改めて思うのは、セルアニメーションはまず、作画ありきだが、作画だけではもはや成り立たない、ということです。これは作画の力が落ちてきたとか、デジタル技術が力をつけたということではありません。アニメーションという動きを作り出すことは、何も動画用紙の上でしか出来ない事ではないということです。従来は動かなかった背景に動きをつける事も可能だし、3DCGを用いれば、粘土アニメや立体アニメーションによる表現を、セルアニメーションの中に違和感なく取り込む事がきる。動画用紙の上で発揮されてきた力を画面全体に拡張するための技術、それこそが、この20年間に生み出された技術の役割だと、思うのです。

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