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「東池袋アニメ積読録」 小川びい
2004年1月
睦月は、今年はアニメ単著の年になる、と予感する日々
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(承前)というわけで、買ってきました『ユーリー・ノルシュテインの仕事』(ふゅーじょんぷろだくと)。堂々箱入り。見た目の重々しい存在感も凄い。そしてズシリとした手応え……はなく、意外に軽い。これは本文用紙のせいでしょう。紙の選定から気を遣っている事がうかがえて、本作りに携わる者としては実に羨ましい。中を開くと、溜息が出るような図版の数々。これはもう美術書――というか、端から美術書ですね。作品で使用された素材が色々と掲載されているのですが、そのキャプションには画材や大きさまでが、ちゃんと記載されているのですから。本当に凄い。そして値段も凄い(泣)。
ノルシュテイン作品で使用された技法も、来日時のレクチャーをもとに、色々と解説されていて興味深い。ファンにはもちろん買っていただくしかありませんが、ノルシュテインの事を『十兵衛ちゃん2』に出ている変なロシア人と思っている若いアニメファンにも、せめて店頭や図書館で手にとって眺めてみてもらいたい一冊です。ちょっとだけ苦言を呈すると、ここまでする本なら、本編スチルはこれほどは必要ないのでは。その分、ページを減らして値段を下げるか、素材をもっと載せてほしかったです。
ところで、今年のアニメ関連本のトレンドはなんでしょうか? ここで断言してしまうと、それは“単著”です。かつて出た氷川竜介の『20年目のザンボット3』(太田出版)は様々な点で革新的な本でしたが、中でも画期的だったのは、それが一人の評論家(もしくはライター)によって書き上げられた、という点でした。あれから7年。伝え聞くところによると、単独の著者による、通史的な側面を持った本が、今年は続々と企画されているようなのです。例えば、ふゅーじょんぷろだくとからは五味洋子『傑作アニメ批評集』が、そして、ある出版社からは研究者によるアニメ100年の歴史を辿る本が予定されているようです。他にも出版の噂をちらほらと聞きます。昨年末に出た藤津亮太の『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)も、そうした流れの一冊だったと言えるでしょう。これは、大局的に見れば、アニメ(ブーム)の成熟と拡散という現象を受けての事だと思われますが、ちょっと大きすぎるテーマなので、今は置きます。今年の、そうした動きの先陣を切って出されたのが、叶精二『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)です。
この本は、近藤喜文、小田部羊一、奥山玲子、大塚康生、森康二、大工原章という、主に東映動画系のアニメーター6人を取り上げた評伝集。貴重な証言も多々あり、狙いは大変興味深い。特に奥山玲子のインタビューは希少性という点でも、ご本人の個性が窺えるという点でも面白いものになっています。これまで東映動画を去った人については数多く語られ、研究も進んでいますが、労使紛争を経て東映動画内部に残った人の証言はほとんど表に出てきていません。内部の人間が外へ出た人をどう見ていたのかも含め、非常に貴重なインタビューと言えるでしょう。ただ、あくまで証言集に止まり、残念ながら、各アニメーターの技術的な特徴や革新性――ぶっちゃけて言えば、どういうアニメートをする人なの、という事です――には踏み込んではいません。せっかくの単著なのですから、そこは大胆に迫ってほしかったところです。
単著といえば、ササキバラ・ゴウ『それがVガンダムだ 機動戦士Vガンダム徹底ガイドブック』(銀河出版)も力作です。ただ、少々不思議な構成になっているのは気になるところ。前半に著者の論説があり、それを受けて後半に富野由悠季監督のロングインタビューが置かれているのですが、インタビュー冒頭で、富野監督は著者の論説を否定し、『Vガンダム』を「失敗作」と断定してしまうのです。結果、ササキバラは、その理由を巡って話題を進めてしまうことになるのですが、これはインタビューとしては正解でも、著書としては不満が残ります。というのも、このインタビューで実際に興味深いのは、富野監督の語る失敗の「理由」ではなく、失敗と断言したい「富野監督自身」なのですから。失敗作と断定してでも、全てが自分の責任であり、ゆえに己の作品だと主張したい、富野監督の強迫的な自我、それこそが、『Vガンダム』に登場する、狂気をはらんだ女性キャラクターたちと重なるものでしょう。『Vガンダム』を論じるのであれば、そこにこそ切り込んでもらいたかった。
もちろん、これはいち『Vガンダム』ファンの身勝手な感想であり、「では、オマエはできるのか」と問われれば、躊躇するところ。『Vガンダム』はある意味、非常にとっつきにくいアニメです。その意味で、今からこの作品を鑑賞しようという人にとって、本書は公平に見て役に立つガイドブックと言えるでしょう。何しろ、これまで出た(数少ない)『Vガンダム』ムックは、ファンが最も楽しんだ「肝心な部分」を避けて作られていたのですから、その部分に触れようとしただけでも画期的と言わなければなりません。「今回の主な戦死者」という欄があるだけでも、わかってらっしゃる。
さて、アニメ関連出版物でもうひとつの大きな話題は、1月末から、『INNOCENCE』がらみで、出版社入り乱れて、押井守関連本が大量に刊行されている事でしょう。まだまだ陸続と刊行されるようなので、これは来月か再来月に、まとめて扱う事にしましょう。中でも毛色の変わったところで気になるのが、東浩紀ら現代思想系の執筆者が参加するという『ユリイカ』誌の押井守特集と、ミステリ評論家が多数参加している『押井守論』(日本テレビ出版)でしょうか。
最後に、これは2月の刊行の上、通常の形での出版物ではありませんが、現在劇場公開中の『聖闘士星矢 天界編 序奏〜overture〜』のパンフレットについて、ぜひ触れておきたいと思います。モノクロページに、山下高明による美術設定と、荒木伸吾の手になるレイアウトが多数掲載されているのですが、どちらも実に素晴らしい。特にレイアウトはかなりのページ数をとっており、荒木プロのファンにとっては非常に嬉しいものとなっています。カラーページがややものたりないのと、ちと高額なので、オススメとまでは言えませんが、作画マニアはお見逃しなく。
(▼書名・誌名[著者] 発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。
●1月の既刊
▼ユーリー・ノルシュテインの仕事
ふゅーじょんぷろだくと/300×270/8500
▼テニスの王子様 Animation Album SMASH!
集英社/A5/1429
▼世界名作劇場 ウルウル名場面全集[ブレインナビ編]
主婦と生活社/四六/1100
▼カレイドスター すごいステージ〜幻の大技編〜
エムディエヌコーポレーション/B5/2300
▼まほろまてぃっく 〜もっと美しいもの〜 アニメーション原画集 VOL.3
ガイナックス/A4/3000
▼それがVガンダムだ 機動戦士Vガンダム徹底ガイドブック[ササキバラゴウ]
銀河出版/A5/2300
▼TVアニメ「最遊記RELOAD」オフィシャルガイドブック Vol.1
スタジオDNA/B5/1500
▼別冊宝島959 未来少年コナン完全読本
宝島社/A5/1200
▼別冊宝島968 僕たちの好きなガンダム 一年戦争徹底解析編
宝島社/A5/1200
▼ジアートシリーズ 光と闇 小倉宏昌画集
徳間書店スタジオジブリ事業本部/A4/2400
▼日本のアニメーションを築いた人々[叶精二]
若草書房/B6/1250
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.1
スクウェア・エニックス/A4/476
▼アニメジェネレーション ヤマトからガンダムへのアニメ文化論[井上静]
社会評論社/四六/1500
▼長坂秀佳術[長坂秀佳]
辰巳出版/A5変/2500
▼オールガンダム MSガイド Vol.2 ゲーム&バリエーション編
メディアワークス/A4変/552
●2月の新刊
▼押井守の映像日記 TVをつけたらやっていた
徳間書店/B6変/1600
▼新装版 天使のたまご 少女季[天野喜孝絵、押井守・あらきりつこ文]
徳間書店/A4変/2000
▼ロマンアルバム イノセンス 押井守の世界 PERSONA増補改訂版
徳間書店/A4変/2095
▼真月譚月姫 聖典
角川書店/AB/1700
▼ミリオンムック89 新映画宝庫8 男泣きアニメ劇場
大洋図書/A5/1333
▼聖戦士ダンバイン大全[岩佐陽一編]
双葉社/A5/2000/2月20日
▼藤子・F・不二雄☆ワンダーランド ぼくドラえもん
小学館/A4変/未定/2月20日
※月2回刊のオフィシャルマガジン。創刊号にはアニメ第1話と映画全25作予告編収録DVD付
▼押井守論(仮)
日本テレビ出版/A5/1800/2月27日
▼THE ART OF 天使のたまご 増補改訂版
徳間書店/未定/2381/2月下旬
▼映像機械論[押井守]
大日本絵画/未定/2900/2月
●3月以降
▼イノセンス 押井守 人形・建築・言葉・身体をめぐる4つの旅(仮)
徳間書店スタジオジブリ事業本部/未定/1400/3月上旬
▼押井守が「アニメージュ」で語った20年
徳間書店/未定/2000/3月上旬
▼edge a collection of paintings
T・Oブックス/B4/4300/3月上旬 ※アニメーターが多数参加した画集
▼HOW to DROPS
ローソン/A4/1500/3月15日 ※声優ユニットDROPSのムック、ローソン限定販売
▼ユリイカ イノセンス特集号
青土社/A5変/未定/未定
▼ふたつのスピカ アニメ設定資料集
メディアファクトリー/A4/1800/3月
▼エリア88 コンプリートブック
メディアファクトリー/A4/1800/3月
▼ロマンアルバム イノセンス
徳間書店/未定/1714/3月下旬
▼イノセンス絵コンテ集
徳間書店/B5/3300/3月下旬 ※フィギュア付き
▼GUNDAM HISTORICA 01 一年戦争勃発
講談社/未定/570/4月9日 ※『機動戦士ガンダム』のパートワーク
▼GUNDAM HISTORICA 02 激闘!ルウム戦役
講談社/未定/570/4月9日
▼ピンクパイナップルアニメカタログ2004
ソフトガレージ/未定/未定/4月
▼DEAD LEAVES 絵コンテ集
T・Oブックス/A4/6800/4月
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.2
スクウェア・エニックス/A4/476/4月30日
▼傑作アニメ批評集(仮題)[五味洋子]
ふゅーじょんぷろだくと/未定/未定/冬
▼新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮題)
角川書店/未定/2000/春
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.3
スクウェア・エニックス/A4/476/6月30日
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.4
スクウェア・エニックス/A4/476/8月末
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.5
スクウェア・エニックス/A4/476/10月末
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