この図は、縦軸に「押井守←→その他の人々」、横軸に「文字中心←→ビジュアル中心」をとり、9冊をプロットしたもの。その他の人々というのは、その他のスタッフや書き手(ライター)、というぐらいの意味です。それぞれの位置は、厳密に測定したものではなく、勘によるものなので、なんとなくこんな傾向の本だ、ぐらいに受け取ってください。
こうしてプロットしてみると、今回の押井守&イノセンス関連本の特徴がよく浮かび上がってくるでしょう。そう、あからさまに第1象限(押井守&文字中心)が多い。
例えば、通常のアニメムックは、最近の別冊宝島などが代表的ですが、だいたい、第3象限(その他の人々&ビジュアル中心)に収まります。
ちなみに、かつての『エヴァンゲリオン』本ブームのときには(押井守の部分を庵野秀明に替えてください)、出る本のほとんどが、第4象限(その他の人々&文字中心)に収まっていたのが特徴でした。あるいは『千と千尋の神隠し』関連本もいろいろと出版されましたが(これも押井守を宮崎駿に置き換えてください)、第3象限から第4象限に渡るものがほとんどです。
それに比べれば、今回の刊行物の異様さが際だってきます。押井の自著だけで5冊。多人数執筆による、「押井守論」(日本テレビ出版)、雑誌「ユリイカ」4月号(青土社)なども、押井守インタビューが本の大きな位置を占めています。いかに押井守が自作について積極的に発言する“特殊な”アニメクリエイターであることか、この図からも窺えるでしょう。映画の内外で、「回答」を用意するやり方それ自体が、押井守の演出手法と言えるのかもしれません。ただ、『エヴァンゲリオン』『千と千尋の神隠し』に比べると、第4象限の本は意外なほど少ない。監督自身の語りの量が、他の人の語りを凌駕してしまうというのは、本人にとっても不本意な事だと思うのですが……。
さて、普段アニメムックを出している出版社が、ここのところ『INNOCENCE』関連本に注力したせいもあってか、3月は、むしろアニメ関連書とは縁の薄い出版社の活躍が目につきました。
森山朋絵監修「絵コンテの宇宙 イメージの誕生」(美術出版社)は、東京都写真美術館で催されたふたつのアニメ関連展示から生まれた書籍です。山村浩二や保田克史といった、アート系作品のコンテなど、なかなか見ることのできない素材が収録され、興味深い。特に『ロボットパルタ』のコンテは、コンテと言うより漫画のようで面白い。寄稿文がやや繊細さを欠くのが難点か。
「永遠のガンダムシリーズVol.2 語ろうシャア!」(カンゼン)は、その名の通り、各界の人々がシャアについて語った本。シャアについて語るだけで1冊の本になるところが、さすが『ガンダム』というべきか。前著にあたる「永遠のガンダム語録」は、今ひとつピンとくるところがなかったのですが、こちらは面白い。特に小牧雅伸・元アニメック編集長の語るシャア観は、独特の味わい。インタビュアーが唖然としつつも、面白がっている様子が伝わってきます。
NTT出版といえば、ゲーム関連書と、「InterCommunication」に代表される、学術教養書籍が2本柱というイメージがあります。それだけに、そこから津堅信之著「日本アニメーションの力」という、ゴリゴリのアニメーション研究書が出るとは、正直意外でした。津堅信之は、日本アニメーション学会所属の若手のアニメーション史家で、積極的に学会活動に参与している1人です。手塚治虫と宮崎駿との対比を通して、大正期から現在に至るまでの、日本のアニメーションの歴史を概観するという本書の段取りは少々荒技で、その手つきや提示された論点には批判も多いかも知れません。しかしながら、日本のアニメーションに関する通史的研究書としては、「日本アニメーション映画史」以来、久々の刊行物であり、重要な1冊になることは間違いありません。これをきっかけに次々と、他の研究成果も表に出るようになればよいのですが。
3月注目の本といえば、「edge」(T・Oブックス)についても触れるべきでしょうが、編集長がヒトコトで熱く語っていたので、そこに譲りましょう。アニメーターたちのオリジナルイラストが楽しめる、珍しい1冊です。
珍しいといえば、4月の刊行ですが、「ふたつのスピカ アニメ設定資料集」(メディアファクトリー)は、なんとミステリ評論家・福井健太が編集を担当しています。これには珍しいを越して、びっくりさせられました。中身は存外普通のアニメムックです。
さらにメディアファクトリーからは、「マヤウルのおくりもの」という珍品(失礼!)も出版されています。これは『君が望む永遠』の本編中にキーアイテムとして出てくる、架空の絵本を実際に形にしたもの。DVDの特典でしたが、好評だったのか、今回市販されるに至りました。一種のファンアイテムですが、面白い試みです。
最後に、「日本音声製作者名鑑2004 vol.1」(小学館)に触れておきましょう。これは、日本音声製作者連盟(音製連)が音頭をとって作ったもので、これまでのような単なる声優名鑑ではなく、音響スタッフまで網羅したというユニークな本。今後の声優研究の基礎資料となる1冊と言えるでしょう。
この本ばかりでなく、ここ1、2年の間に、声優関連本には、今後の指針となるような重要な出版物が相次いでいます。同じ音製連の監修で作られた、放送を中心に音響制作の50年を振り返る「音声製作者の自画像と夢」(非売品)を始め、学会誌「メディア史研究」13、14号(ゆまに書房)掲載の、早稲田大学教授・森川友義と声優・辻谷耕史の共著による「声優の誕生とその発展」「声優のプロ誕生」という2論文(日本初の声優を明らかにしているのはすごい!)などが挙げられるでしょう。さらに「映画秘宝」誌上で予告されている、とり・みきによる、洋画吹き替えを中心とした声優インタビュー集も楽しみです。いずれも声優研究の成熟を感じさせる出来事で、いよいよ、「声優学」の誕生も間近でしょうか!?
というところで、また来月。
(▼書名・誌名[著者] 発行・発売元/判型/税別価格/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。
●3月の既刊
▼京極夏彦『巷説百物語』の世界
洋泉社/B5/1000
▼押井守論
日本テレビ出版/四六/2400
▼これが僕の回答である。 1995―2004[押井守]
インフォバーン/四六/1700
▼イノセンス創作ノート 人形・建築・身体の旅+対談[押井守]
徳間書店スタジオジブリ事業本部/四六/1800
▼イノセンス&攻殻機動隊コンプリートブック
宝島社/B5/933
▼ぽぽたん どきどきROMぶっく
エム・ディー・エヌ/B5/3600
▼edge a collection of paintings
T・Oブックス/B4/4300 ※多数のアニメーターが参加した画集
▼HOW to DROPS
ローソン/A4/1500 ※声優ユニットDROPSのムック
▼エース特濃 押井守特集号
角川書店/B5/680
▼別冊宝島996 トランスフォーマー G1キャラクター大全集
宝島社/B5/1300
▼日本アニメーションの力 85年の歴史を貫く2つの軸[津堅信之]
NTT出版/A5/2300
▼永遠のガンダムシリーズVol.2 語ろうシャア!
カンゼン/四六判/1300
▼すべての映画はアニメになる 押井守発言集
徳間書店/四六/2000
▼注文の多い傭兵たち[押井守]
徳間書店/四六変/1600 ※復刻に新たな対談を併載
▼日本音声製作者名鑑2004 vol.1
小学館/B5/3800
▼ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて ビジュアルコレクション
学習研究社/A4/2400
▼絵コンテの宇宙 イメージの誕生[森山朋絵監修]
美術出版社/B5変/2500 ※東京都写真美術館のアニメ関連展作品掲載
▼マヤウルのおくりもの[アン・マーガレット・ソウヤー]
メディアファクトリー/B5変/1500 ※「君が望む永遠」のスピンアウト本
▼一騎当千 VISUAL BOOK
ワニブックス/A4/2100
▼ラーゼフォン コンプリート
メディアファクトリー/A4/2381
▼ユリイカ4月号(特集・押井守 イノセンスのゆくえ)
青土社/A5変/1238
▼別冊宝島1002 北斗の拳 完全読本
宝島社/B5/952
▼TVアニメーションPEACEMAKER鐵 PERFECT GUIDEBOOK VOL.1
マッグガーデン/A5/781
▼おねがい*ツインズ POSTER BOOK
メディアワークス/B4/2000
▼神魂合体ゴーダンナー!! 公式ガイドブック
メディアワークス/A4/2500
●4月以降
▼ふたつのスピカ アニメ設定資料集
メディアファクトリー/A4/2000
▼アップルシード コンプリートボックス
宝島社/B5/2590
▼GUNDAM HISTORICA 01 一年戦争勃発
講談社/A4変型/543 ※『機動戦士ガンダム』のパートワーク
▼GUNDAM HISTORICA 02 激闘!ルウム戦役
講談社/A4変型/543
▼ヤングガンツ
集英社/B5/1000
▼ロマンアルバム イノセンス
徳間書店/A4/2667
▼GUNDAM HISTORICA 03
講談社/A4変型/543/4月23日
▼TVアニメーションPEACEMAKER鐵 PERFECT GUIDEBOOK VOL.2
マッグガーデン/781/4月28日
▼2501 イノセンス絵コンテ集
徳間書店/B5/3619/4月28日 ※フィギュア付き
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.2
スクウェア・エニックス/A4/476/4月30日
▼DEAD LEAVES 絵コンテ集
T・Oブックス/A4/6800/4月
▼エリア88 コンプリートブック
メディアファクトリー/A4/1800/4月
▼映像機械論[押井守]
大日本絵画/未定/2900/4月
▼STUDIO VOICE 6月号
インファス/未定/未定/5月6日
▼GUNDAM HISTORICA 04
講談社/A4変型/543/5月10日
▼文藝別冊 庵野秀明
河出書房新社/A5/未定/5月25日
▼GUNDAM HISTORICA 05
講談社/A4変型/543/5月25日
▼DEAD LEAVES 原画集
T・Oブックス/A4/3800/5月
▼新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮題)
角川書店/未定/2000/春
▼GUNDAM HISTORICA 06
講談社/A4変型/543/6月10日
▼GUNDAM HISTORICA 07
講談社/A4変型/543/6月25日
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.3
スクウェア・エニックス/A4/476/6月30日
▼GUNDAM HISTORICA 08
講談社/A4変型/543/7月9日
▼GUNDAM HISTORICA 09
講談社/A4変型/543/7月23日
▼GUNDAM HISTORICA 10
講談社/A4変型/543/8月10日
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.4
スクウェア・エニックス/A4/476/8月末
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.5
スクウェア・エニックス/A4/476/10月末
▼傑作アニメ批評集(仮題)[五味洋子]
ふゅーじょんぷろだくと/未定/未定/未定
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