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「東池袋アニメ積読録」 小川びい
2004年5月
皐月は活字本の洪水に悶絶する日々
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4月はあまり紹介する本がないと嘆いていたのですが、5月に入って、立て続けにアニメ関連書が刊行されました。紹介すべき本が山積みです。さっそくレビューに移りましょう。
「日本のアニメ全史―世界を制した日本アニメの奇跡」(テン・ブックス)は、書名どおり、1冊で日本のアニメを概観してしまおうという、大胆な本。編著となっていますが、実質的には1人の著者によるもの。その著者の山口康男は、東映動画の演出家として『ゲゲゲの鬼太郎』等で活躍、のちにプロデューサーに転じて『キャンディ キャンディ』や『花の子ルンルン』『ビックリマン』などで成功を収めた人物です。
本書の特色は、アニメ史の大胆な刈り込み方にあると言えるでしょう。類書では東映長編と虫プロの成立に大きくページを割くところをコンパクトにまとめ、そのぶん前史とTVアニメ勃興期に重点が置かれています。国産アニメスタート時の何年かを「第一次国産アニメブームの到来」、70年代前半を「アニメ冬の時代」とし、その後をひとくくりにしているのもユニーク。それというのも、ファン層の拡大、作品のクオリティの上昇、社会現象化などの観点から、草創期を経て『さらば宇宙戦艦ヤマト』の公開前後を第1次アニメブーム、『新世紀エヴァンゲリオン』前後を第2次アニメブームとする事が多いからです(どちらが正しいとか間違っているとかといった話ではありません)。
また、東映動画がTVアニメを開始するあたりから労働争議が激化するまでの話が様々なところで顔を出す点は、著者のキャリアの面目躍如というところ。今度は、このあたりの話だけで1冊仕上げていただきたいところです。
作品史でもスタッフ史でもなく、“こうした要素がヒットにつながった”“こうした技術が表現を変えつつある”といった産業としてのアニメという視点が感じられるのも、プロデューサーが記した書物らしいと言えるでしょうか。バランスという点から考えると、日本のアニメ史を学びたい人にオススメとは言いにくいのですが、アニメ史を補足するうえで、面白い視点を提供してくれる本だと思います。
研究書といえば、「ディズニーとライバルたち―アメリカのカートゥン・メディア史」(フィルムアート社)は、本格的なアメリカアニメーション史の研究書です。A5判、400ページ、2段組というボリュームなので、まだ十分に読み込めてはいないのですが、ディズニーを軸としながら、初期のアメリカ合衆国のアニメーション産業を人物を中心に追う、というのがその内容。著者の有馬哲夫は、アメリカ文化論を専門にする、早稲田大学社会科学部の教授で、これまでにディズニー関連の著作を何作かものしています。
本書は、一次資料中心と言うよりは、海外のいくつかの研究書や研究論文を総合して書き上げたもののようです。その点を差し引いてもかなりの労作と言えるでしょう。ただし識者に聞くと、著者がアニメーションの専門家ではないせいか、記述に関しては少し割り引いて読んでおく必要があるようです。
「超重神グラヴィオン コンプリート」(メディアファクトリー)は、『グラビオン』および『2』を収録したムック本。設定、ストーリー紹介、版権、スタッフインタビューと、一通りそろった普通のムックですが、『グラヴィオン』らしく、ちょっとHで華やかな版権を多数収録しているところが嬉しい1冊。ただ、今様のつくりのせいか、掲載されている版権ひとつひとつが小さいのは残念。
それに対して、「MEZZO PERFECT FILE」(宙出版)は、版権もたっぷりと見せてくれるところが、古風ながらも頼もしい。ただ、アダルトアニメが母体だったにもかかわらず、『グラヴィオン』と比べ、色っぽい版権が少ないようなのは、ちょっと意外です。もっとも、この本の読みどころは、カラーページではなくモノクロページにあるかもしれません。監督の梅津泰臣のインタビューページでは、絵コンテも紹介されているのですが、これが非常に端正なもので、もっと見てみたいと思わせます。さらに圧巻は、広川太一郎アドリブ再録のページ。広川演じる黒川のアフレコ台本上のセリフでアドリブによる改変があったところを丹念に拾い、元のセリフと改変されたセリフとを並列して掲載しているのです。馬鹿馬鹿しくも労力のかかる企画ですが、感心するやらおかしいやら、ナイスな企画でしょう。難を言えば、設定資料のページはもう少し詰まっている方が好みかな。
予告されながらなかなか刊行されなかった「北爪宏幸画集 Characters of GUNDAM」(角川書店)も、ついに店頭に並びました。北爪宏幸20年の軌跡ともいうべき画集です。最初に見かけた時は、ビニールに覆われて中を確認できず、買おうか買うまいか迷ったのですが、たまたま、とある書店でページをめくる機会に恵まれ、後半のインタビューを氷川竜介が担当しているのを見て、慌てて購入しました。ビニールに覆われてしまうのも考えものですね。あるいは、CDのように、編集者・執筆者も帯に謳ってもらえると嬉しいのですが……って、そんなことで購入を決意するのは少数派ですか。例の「NEWTYPEMATE フォウ・ムラサメ」も収録されているのですが、初見時の感動がなかったのは、ちょっと残念。書籍に収まってしまうと、あの大きさのインパクトが失われてしまうようです。
「小梅ちゃん 初恋すとおりい」(近代出版社)は、林静一のデザインした、CMキャラクター・小梅ちゃんをフィーチャーした本。フィルモグラフィーも充実し、ディレクターの談話などもあって、最近よくあるCMキャラクターブックとは一線を画しています。
もうひとつ、「月刊ドラゴンマガジン増刊 まぶらほファンブック」(富士見書房)は、原作小説のファンブックとみせて、実はアニメムックです。アニメムックのコレクター(ってそんなのいるのか?)はお見逃しなく。
最後に隣接する分野の新書2冊に触れておきましょう。
まずは「〈美少女〉の現代史―「萌え」とキャラクター」(講談社現代新書)。著者、ササキバラ・ゴウは「教養としての〈まんが・アニメ〉」「それがVガンダムだ」などの著作のある編集者・ライター。後者については、かつてこのコラムで留保しつつも評価しましたが、今回の本は色々なところに問題や違和感を覚えて、残念ながらあまり高く評価できません。アニメ史的に見て、疑問のある記述も散見されます。そもそも、タイトルに偽りありで、この本は「美少女の歴史」を辿ったものではないのです。では、何かと言うと、80年代(前半)のマンガ・アニメシーンをマイナー少年マンガ史的視点から切り取ったエッセイ、というのが近いでしょうか。
好著とする意見も見かけるので、違和感について少し詳しく説明しておきます。気になる点はいくつもありますが、ここではふたつだけ挙げておきましょう。
冒頭で“萌えという行動の起源は、女性ファンが『海のトリトン』にしたのが最初である”と著者は歴史を概観します。「萌え」という言葉は各人各様なので、定義に反駁しても無意味かもしれませんが、それでも、疑問がすぐに2点ほど浮かびます。
ひとつは、女性が、アニメ・マンガのキャラクターに心を動かされるのを、「萌え」と表現する事が稀である点です。そうした言葉が使われているとしても、それは男性文化からの逆輸入によるものでしょう。男性が女性キャラクター同士を同性愛とみなすパロディは以前からありますが、それを「やおい」と呼ばないのと一緒です。一般書のしかも冒頭で、通常の使用から外れるものをわざわざ起源とするのは、不可解というほかありません(男性がアニメのキャラクターに性的興奮を覚えたという事実だけなら、もっと起源を遡れる事もつけ加えておきましょう)。それはおくとしても、そもそも「萌え」とは行動なのでしょうか? 一歩譲って「情動」でしょう。
もうひとつ、これはさらに大きな問題点です。この本には「美少女まんが」という言葉が何度か出てきますが、使い方が雑駁なのです。大きくみて、1)かわいい女の子(=普通の意味での美少女)が出るマンガ、2)一般によく使われる、エロ劇画に対比する意味でのエロマンガ、3)この本で定義する概念としての〈美少女〉が出るマンガ、のみっつが混在しています。しかも著者はその事に神経を遣っていません。「〈美少女〉の現代史」という看板なのに、これはさすがにまずいでしょう。
違和感の説明に、いささか字数を費やしてしまいました。細かい点ばかりあげつらっても本質には問題がないのでは、と思われるかもしれません。そういう方には、唐沢俊一の次の言葉を引用しておきましょう。「いやしくも学術的な書を上梓しようというときに、冒頭からその書物で取り上げるべき対象の定義がこう大雑把では、この本にそこから先ついてくる読者の質も知れようというものだ」「私などのこういった事実誤認の指摘について、“そういう些末なことをつついてくるばかりで、本質的な理論に対しては反論してこない”とうそぶいているそうだ。しかし、基底となる事実を誤認したまま放置しておいて、果たして理論がまっとうなものになり得るか?」
もう1冊、これも隣接する分野の書籍にどうしても触れておきたいと思います。子どもの未来社が立ち上げた新しい新書レーベル・寺子屋新書の一冊、「ヒーローと正義」です。著者の白倉伸一郎は、『超光戦士シャンゼリオン』『仮面ライダーアギト』『美少女戦士 セーラームーン(実写版)』などの東映特撮番組のプロデューサーとして著名な人物。と書くと、ヒーロー番組の舞台裏を扱ったエッセイかと思われるかもしれませんが、あにはからんや、タイトルどおり、ヒーローとは何か、正義とは何かに真っ正面からぶつかった剛速球の本。知的好奇心を満たす平易な教養書という意味で、実に新書らしい新書になっています。
ベースとなるのは、民俗学/民族学です。赤坂憲雄の「境界」というタームを軸に、おそらくは山口昌男のトリックスター/周縁論をも意識しながら、ヒーローと正義の本質に迫ろうとするもの。いささか筆が奔りすぎ、時に論証抜きの断言が飛び出すなどの瑕疵もありますが、あとがきにあるように、知的に誠実であろうとする姿勢と迫力が素晴らしい。その立論に賛同するかはさておいても、ここまで考えなければTV番組は作れないのかと、その「理論武装」ぶりには非常に驚かされます。「〈踏まれた痛み〉原則にもとづくかぎり、テレビドラマにかぎらず、あらゆる媒体から『被差別者』とされる存在は抹消されていかざるをえない」といった、自己批判ともとれる厳しい言葉も見られます。『激走戦隊カーレンジャー』『仮面ライダークウガ』への解釈に筆を割くなど、同世代の高寺成紀プロデューサー作品を強く意識しているらしいところがほの見えるのも興味深い。番組としては、高寺作品の方が好みではありますが、それでもはっきり言って、この本は面白い。
というところで、それではまた来月。
(04.06.23)
(▼書名・誌名[著者] 発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。
●5月以降
▼ガドガード ビジュアルガイド
ソフトバンクパブリッシング/A4/1900
▼GUNDAM HISTORICA 04
講談社/A4変/543
▼日本のアニメ全史 世界を制した日本アニメの奇跡
テン・ブックス/B5/2800
▼おみたま通販便[南央美・ももせたまみ]
竹書房/A5/590
▼月刊ドラゴンマガジン増刊 まぶらほファンブック
富士見書房/B5/933
▼「美少女」の現代史[ササキバラ・ゴウ]
講談社現代新書/新書/700
▼別冊宝島1012 黄金アニメ 特盛り! 111本
宝島社/B5/933
▼北爪宏幸画集 Characters of GUNDAM
角川書店/A4/2500
▼文藝別冊 庵野秀明
河出書房新社/A5/1143
▼小梅ちゃん 初恋すとおりい[林静一]
近代出版社/A5変/1500
▼超重神グラヴィオン コンプリート
メディアファクトリー/A4/2200
▼GUNDAM HISTORICA 05
講談社/A4変型/543
▼ヒーローと正義[白倉伸一郎]
子どもの未来社/新書/800
▼MEZZO PERFECT FILE
宙出版/A4/1900
▼ディズニーとライバルたち―アメリカのカートゥン・メディア史[有馬哲夫]
フィルムアート社/A5判/3200
▼DEAD LEAVES 原画集
T・Oブックス/A4/3333
▼DEAD LEAVES 絵コンテ集
T・Oブックス/B5/5524
▼TVアニメーション 鋼の錬金術師 線画資料集
スクウェア・エニックス/A4/1143
▼ネオロマンス Paradise Cure! メイキングブック
コーエー/B5/1500 ※ゲーム関連声優本
●6月以降
▼TJムック アニメ・コミックから読み解く 錬金術
宝島社/B5判/1200
▼アニメーターズ・サバイバルキット
グラフィック社/A4変/4500
▼STUDIO VOICE 7月号
インファス/A4/647 ※アニメ特集号
▼ヒーロー&ヒロインの描き方 アクション動作篇
グラフィック社/B5/1400
▼おねがいツインズ ビジュアルコレクション
学習研究社/A4/2400
▼GUNDAM HISTORICA 06
講談社/A4変/543
▼Gungrave the backyard
マッグガーデン/A4/2095
▼イエロー・サブマリン[ザ・ビートルズ著・山川真理訳]
河出書房新社/B4変/1800
▼戦闘メカ ザブングル大全[岩佐陽一編]
双葉社/A5/2000
▼メディアの教育学[今井康雄]
東京大学出版会/A5/5000
▼ふたりはプリキュア大百科
ジャイブ/B6/800
▼名倉靖博の世界[名倉靖博]
ソフトバンクパブリッシング/A4変/2800
▼KAWADE夢ムック 押井守
河出書房新社/A5/1143
▼GUNDAM HISTORICA 07
講談社/A4変/543
▼TVアニメ「最遊記RELOAD」オフィシャルガイドブック Vol.2
スタジオDNA/B5/1500
▼艶 中嶋敦子STYLE[中嶋敦子]
マッグガーデン/A4/2095/6月29日
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.3
スクウェア・エニックス/A4/476/6月30日
▼鋼の錬金術師 TVアニメ ART BOOK
スクウェア・エニックス/未定/1238/6月30日
▼ギャラクシーエンジェルあにまにあ
ジャイブ/A4/2500/7月1日
▼スチームボーイ 公式ガイド
角川書店/A5/1600/7月9日
▼ガンダム・ザ・セレクション 機動戦士ガンダムSEED―MSVガイド
メディアワークス/未定/未定/7月9日
▼GUNDAM HISTORICA 08
講談社/A4変/543/7月9日
▼リトル・ニモの野望[大塚康生]
徳間書店/A5/1500/7月21日
▼GUNDAM HISTORICA 09
講談社/A4変/543/7月23日
▼WOLF’S RAIN 川元利浩画集
マッグガーデン/A4/2095/7月29日
▼おねがい☆ツインズ オフィシャルファンブック
メディアワークス/未定/未定/7月31日
▼GUNDAM HISTORICA 10
講談社/A4変/543/8月10日
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.4
スクウェア・エニックス/A4/476/8月末
▼ほんとうのたからもの
メディアファクトリー/B5変/1500/9月
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.5
スクウェア・エニックス/A4/476/10月末
▼十兵衛ちゃん2〜シベリア柳生の逆襲〜 公式ビジュアルブック
メディアワークス/未定/未定/未定
▼傑作アニメ批評集(仮題)[五味洋子]
ふゅーじょんぷろだくと/未定/未定/未定
▼映像機械論[押井守]
大日本絵画/未定/2900/未定
▼新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮題)
角川書店/未定/2000/未定
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