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「東池袋アニメ積読録」 小川びい

2004年7月
文月は『STEAMBOY』尽くしの日々

 (承前)というわけで、夏のアニメ映画ラッシュも一段落。『STEAMBOY』『劇場版 ポケットモンスター』『金色のガッシュベル!!』『劇場版 NARUTO』とひととおり観てきました(『MINDGAME』は試写で一足先に拝見)。間に広島アニメフェスも入れると、もうアニメでおなかがいっぱい。とてもミニシアター系の海外アニメにまで手が回りません。それでも、今年は例年に比べ、早朝のみ上映とか、週替わり上映とかがなく、アニメ映画が少なくて楽ですね。
 さて、その『STEAMBOY』、アニメ関連ムックが大量に刊行されるだろう、と身構えていたのですが、蓋を開けてみると、あにはからんや、拍子抜けするほど刊行点数が少ない。春先の『INNOCENCE』フィーバーはなんだったんだ、と思わずにはいられません。押井守出版物プロット図と比較してみたかったのですが……断念。そういえば、某カルチャー雑誌の編集者にお会いした際、「夏は大友特集ですよね?」と水を向けたところ、「うーん……。アニメでやるとすれば、新海誠特集かな」とのお答えでしたね。実際、映画館に来ていた観客も、見たところ中心層は20代のカップルが大多数。たしかに、こうした人達は関連出版物をたくさん買ってくれそうにはありません。契約等の兼ね合いも大きかったのでしょうが、この状況はちょっと残念です。
 そんな中ですが、オフィシャル出版社である角川書店と講談社からはカッチリした本が出ています。両者は対照的な作りで面白い。
 「スチームボーイ 公式ガイド」(角川書店)は、A5判というコンパクトな紙面に図版をメリハリつけて詰め込んであるのが特徴。大友克洋インタビュー、各スタッフ&声優のインタビューやコメント、設定、時代解説、メイキング……と必要な情報がほぼすべて入っており、お手本のようなムックです。中で貴重なのは、エグゼクティブプロデューサーの渡辺繁のインタビューでしょうか。なぜか海外渡航記録までついています。
 対して、「スチームボーイ アドベンチャーブック」(講談社)は、A4変型という大判のムック。公式ガイドとは対照的に、余白を大胆に使い、写真は逆に小さく掲載するという、かなり凝った作りです。映画のストーリー紹介より、メイキングやストーリーの背景を中心に組み立てたバラエティブックという感じかな(トニーたけざきのマンガも載っています)。印刷はさすがにゴージャスで、緻密な背景もバッチリ拝めます。高木真司、松見真一、安藤裕章、佐藤光洋によるデジタルワークス座談会も興味深い。また、膝を叩いたのが、巻末の氷川竜介による「周囲は『アニメ』を期待しているのに、大友自身は『アニメーション』を志向する」という指摘。大友作品を観たときに感じる、“ある種の違和感”を解くカギが、このあたりにあるのかもしれません。
 こちらは8月に入ってからの出版ですが、驚かされたのが「スチームボーイ絵コンテ集」(講談社)。A5判、ハードカバーでずっしりとした手応え、スピン(紐栞)までついていて、まるで海外文学の文芸書のような作りです。絵コンテをどういう形で出版するかというのは、いわばアニメ関連出版物の永遠の課題。文庫判からB5判の大判まで、色々な形態が試されてきましたが、どれも今ひとつ収まりが悪い感じが否めませんでした。まさか、こんな手があったとは。コンテの入れ換え表や、エンディングのレイアウト、パイロット版のコンテも収録するなど、細かいフォローも嬉しい。
 『STEAMBOY』尽くしでもう一冊。「スチームボーイ メカニカルブック」(講談社)は、映画に登場するメカニックの本……と見せかけて、実は、映画のレイアウト集になっています。大友さん以外が担当したレイアウトに関しては、担当者の名前もしっかりと明らかにしてあるのが素晴らしい。こういう本を見せられると、ちゃんとしたレイアウト集を出してほしかったな、という欲も湧いてきてしまいますけれど。……というところで、主だった『STEAMBOY』関連出版物は、これであらかた網羅したはず。
 「マリア様がみてる プレミアムブック」(集英社)はコバルト文庫の1冊ですが、ちゃんとしたアニメ関連書籍。他の文庫本に混じって店頭に置かれていたので、思わずスルーしてしまうところでした。原著者名が入り、あとがきがついているところが、原作者を大切にする集英社らしいところ。あくまでも「マリア様がみてる」シリーズの1冊なのですね。
 文庫サイズのアニメ本というと、近年では『星界の紋章』以来でしょうか。文庫サイズとだけ聞くと物足りないように思えるかもしれませんが、中身はかなりの充実ぶり。キャラクター設定やストーリーダイジェストに加え、美術設定も掲載。主要声優の座談会にアフレコルポ。さらに原作者&イラストレーターによる短編小説とマンガまで掲載。通常のアニメムックとして足りないものがあるとすれば、アニメスタッフインタビューぐらいでしょう。もしかすると、大半のアニメ関連出版物は、このサイズで十分なのかもしれません。価格も非常に廉価で、満足できる本だと思います。
 「WOLF’S RAIN 川元利浩画集」(マッグガーデン)は、ちょっとアルフォンス・ミュシャを思わせる渋い表紙で、一見すると、『WOLF’S RAIN』の本とは分かりません。ただ、中身は『WOLF’S RAIN』のスケッチや設定画が満載。川元利浩の線画をじっくりと楽しむ事ができます。今度は、作品に囚われない川元利浩の画集が見たいところ。どなたか作っていただけないでしょうか。
 最後に大塚康生の新著「リトル・ニモの野望」(徳間書店)を取り上げましょう。基本的には雑誌「熱風」の連載をまとめたもの。藤岡豊という東京ムービーを立ち上げた異才プロデューサーの評伝とも、テレコム年代記とも、巨大プロジェクトの顛末記とも、『風の谷のナウシカ』外伝とも、アニメから見た異文化交流論とも読める不思議な書物です。『NEMO』は日本では顧みられることの少ない作品ですが、読むと、この、ある種無鉄砲な巨大プロジェクトがあったからこそ、アニメがもてはやされている現在がある、という事実が見えてきます。
 若干不満があるとすれば、次の2点でしょうか。ひとつは、東京ムービー新社の設立といった東京ムービーの歴史からすれば大きな出来事については、意外とさらりと流されている点です。もうひとつは、『NEMO』には出崎統による素晴らしいパイロットも存在していますが、これも数行の記述のみで、ほぼ触れられていないのです。でも、これはさすがに無い物ねだりというものでしょうか。
 比較文化研究といった視点から見ても色々と得ることのある、異色の本だと思います。
(04.09.13)

●2004年7月の既刊

▼書名・誌名[著者]  発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。

▼ギャラクシーエンジェルあにまにあ
 ジャイブ/A4/2500

▼『水樹奈々 スマイル・ギャング』2周年記念本 シャッス2!!
 イーエス・エンターテインメント発行・ムービック発売/A4/2500

▼テレビアニメ完全ガイド 『DRAGONBALL』 天下一伝説
 集英社/A5/1238

▼GUNDAM HISTORICA 08
 講談社/A4変/543

▼攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEXビジュアルブック
 ホビージャパン/A4/1905

▼ガンダム・ザ・セレクション 機動戦士ガンダムSEED―MSVガイド
 メディアワークス/A4/562

▼スチームボーイ 公式ガイド
 角川書店/A5/1600

▼スチームボーイ アドベンチャーブック
 講談社/A4変/1886

▼ためにならない映画の教科書[石井克人]
 マーブルトロン発行・中央公論新社発売/四六/1600

▼GUNDAM HISTORICA 09
 講談社/A4変/543

▼もえ缶 萌える女の子アニメキャラ原色大図鑑[ブレイン・ナビ編集]
 双葉社/A5/2000

▼Oレンジ[森本晃司]
 飛鳥新社/A4/3619

▼機動戦士ガンダムSEED RGB ILLUSTRATIONS
 角川書店/AB/940

▼マリア様がみてる プレミアムブック[今野緒雪、ひびき玲音with山百合会]
 集英社/文庫/552

▼WOLF’S RAIN 川元利浩画集
 マッグガーデン/A4/2381

▼フルメタルパニックふもっふ MISSION COMPLETE
 エムディエヌコーポレーション発行・インプレスコミュニケーションズ発売/A4/2300

▼声優バイブル
 宙出版/A5/1200

▼せんせいのお時間 TVアニメメモリアルブック
 竹書房/B5/1429

▼リトル・ニモの野望[大塚康生]
 徳間書店/A5/1400


●8月以降の新刊

▼林原めぐみの愛たくて逢いたくて…ファイナルシーズン(生声CD付き)[林原めぐみ]
 角川書店/四六判/1500

▼パンダーZ研究序説 オフィシャル研究ブック
 アスキー/B5/1200

▼NARUTO オフィシャルアニメーションBOOK 秘伝・疾風絵巻
 集英社/新書/781

▼アニメーションの現在 Japanese Animation Horizon
 プチグラパブリッシング/B5/1800

▼スチームボーイ メカニカルブック
 講談社/A4変/2667

▼カレイドスター新たなる翼 天使の技編
 エムディエヌコーポレーション発行・インプレスコミュニケーションズ発売/B5/2300

▼GUNDAM HISTORICA 10
 講談社/A4変/543

▼ルパン三世 ジャズノート&DVD[大野雄二]
 講談社/A5/2400

▼別冊映画秘宝Vol.3 とり・みきの映画吹替王[とり・みき]
 洋泉社/A5/1600

▼THIS IS ANIMATION 劇場版 ポケットモンスター アドバンス ジェネレーション
 小学館/AB/933

▼アニメと思春期のこころ[西村則昭]
 四六/創元社/2000 ※アニメを素材にして揺れる思春期に臨床家がせまる

▼大人のガンダム
 日経BP社/A4変/933

▼宮崎アニメの暗号[青井汎]
 新潮社/新書/680

▼ロミオの青い空脚本集 増補版(上・下)[島田満]
 ブッキング/四六/各1800

▼ひとりから始めるアニメのつくり方[おかだえみこ文、鈴木伸一絵]
 洋泉社/A5/1500

▼スチームボーイ絵コンテ集
 講談社/A5/3800

▼二次元美少女論[吉田正高]
 二見書房/B6/1500

▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.4
  スクウェア・エニックス/A4/476

▼十兵衛ちゃん2〜シベリア柳生の逆襲〜 公式ビジュアルブック
 メディアワークス/A5/1500

▼基礎から始める声優トレーニングブック[松濤アクターズギムナジウム監修]
 雷鳴社/B5/1400

▼押井守・映像機械論 メカフィリア[押井守著、竹内敦志画]
 大日本絵画/A4変/2800

▼アニメーションの宝箱[五味洋子]
 ふゅーじょんぷろだくと/A5/1600/9月15日

▼カレイドスター ビジュアルファンブック
 ジャイブ/B5/2800/9月上旬

▼ナイトメアー・ビフォア・クリスマス・フィルムブック[フランク・トンプソン著、品川四郎訳]
 河出書房新社/A4変/3200/9月15日

▼週刊ガンダム・ファクトファイル
 デアゴスティーニ・ジャパン/A4変/276/9月21日 ※以降毎週火曜日発売

▼TVアニメ鋼の錬金術師シナリオブック VOL.5
 スクウェア・エニックス/未定/933/9月24日

▼ほんとうのたからもの
 メディアファクトリー/B5変/1500/9月25日

▼ふたりはプリキュア大百科2
 ジャイブ/B6/700/9月29日

▼おねがい☆ツインズ オフィシャルファンブック Lien
 メディアワークス/未定/2625/9月30日

▼アニメ作画のしくみ[尾澤直志]
 ワークスコーポレーション/AB/2838/9月下旬

▼勇者シリーズメモリアルブック 超勇者伝承
 新紀元社/未定/2600/10月下旬

▼MOEOHセレクション 木村貴宏画集
 メディアワークス/未定/未定/10月30日

▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.5
 スクウェア・エニックス/A4/476/10月31日

▼ヤミと帽子と本の旅人 ビジュアルコレクション
 学習研究社/A4/2400/未定

▼新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮題)
 角川書店/未定/2000/未定

▼超解!ギャラクシーエンジェル
 B6/富士見書房発行・角川書店発売/1100/未定
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