雑誌や書籍で、アニメ作品を紹介するとしよう。書くべき事はなんだろうか。まずあらすじ。次にスタッフの陣容、歴史的位置づけ、他の作品との比較、制作にまつわるエピソード。さらにできれば書き手自身のスタンスや感想も加えたい。それが、これまでに提示されていない視点のものであれば、なおよろしい。そして、バランスをとりつつ、決められた文字数の中で過不足なく展開しなければならない。こう書けば、レビューがいかに難しいか分かっていただけるだろう。「アニメーションの宝箱」は、その見事なお手本である。告知から発売までずいぶん時間がかかったが、待った甲斐のある本だ。
著者は五味洋子。知らない読者のために紹介すると、老舗サークル・アニドウで長く活動し、またアニメーターとして『未来少年コナン』等にも参加。主婦となった今も現役バリバリでアニメを楽しみ、雑誌等に寄稿している。つまりは、アニメファンの大先輩だ。ちなみにアニメライターの先達である故・富沢雅彦の実姉でもある。
紹介している作品は全部で87本。海外の劇場アニメーションから日本のTVアニメ、自主制作作品まで、実に幅広い。作品ごとの区切りだが、その作品に止まることなく、関連作品やスタッフ紹介にまで踏み込んでいる。さらにそれでも足りないところはコラムで補う、という凝りよう。ほぼ全ての紹介に本編スチルが入っているのも凄い。160頁そこそこの本だが、ギュウギュウと情報を詰め込んだ、痒いところに手が届く構成になっている。『わんぱく王子の大蛇退治』の紹介など、パーフェクトに近い。一般紙誌の記者なら、この本をアンチョコに紹介文を書くといった使い方もできるだろう(あまりオススメはしないけど)。
書き手が1人でこれまでのアニメの歴史を振り返った本であるとともに、多くの人にとってこれからのスタンダードとなりうる本だ。
周囲のアニメライターに聞くと、一様にその作りに感心しながらも、「教科書的ではないか」「作品の選定はこれでいいのか」といった意見もあるようだ。なるほど気になる点は確かにある。先取りすれば、『のび太の結婚前夜』の“藤子Fが偲ばれる”というアオリはいかがかと思うし、『ナディア』の紹介は、『トップをねらえ!』や『エヴァンゲリオン』の紹介でも問題がないようだ。五味が大好きという今川泰宏作品が1本もないのも解せない(まあ、諸般の事情があっただろう事は想像に難くないが……)。さらに言うと、これは彼女の責任ではないが、表紙の製版はもうちょっとなんとかならなかったか。
しかしながら、ライター諸氏の評価は次の点で一致した。この本が非常に刺激的である、という点だ。前述の「苦言」も、自分にこういう文章が書けるだろうか、自分ならこの作品を選ぶ、といった感想とセットで出てきた。個々人のアニメに対する情熱を触発せずにはいない本なのである。
帯は「あなただけにそっと教えます」となっているが、「広く多くの人に」読まれるべき本だろう。
(文/小川びい)
●商品データ
「ラピュタBOOKS 001 アニメーションの宝箱」
定価:本体1600円+税
判型:A5判
発行:ふゅーじょんぷろだくと
●関連サイト
COMICBOXホームページ
http://www.comicbox.co.jp/
(04.10.22)
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