アニメファンと一般の視聴者では、アニメ番組の好みが異なる。それはアニメ雑誌で取り上げられる番組(と視聴率との違い)を見ればわかる――最近、ネットでそんな文章を見かけて非常に驚きました。実際にはそれほど単純ではありません。例えば「アニメディア」の読者が選ぶ「今月の名場面」では、視聴率の高い番組が上位を占めています。おそらくは、そうした人気アニメがあまり誌面で取り上げられない事からきた誤解でしょう。なぜ、そうした作品が大きく取り上げられないかというと、特に原作つきアニメの場合、図版の使用や扱う頁数が制限されているケースがあるからです。この話題はずっと以前から、読者から疑問の声が出るたびごとに各アニメ雑誌が説明しているはず。そういえば最近はあまりフォローがなかったかも。
というわけで、今回はアニメ雑誌の話です。9月から10月にかけて新しいアニメ雑誌が相次いで出版されました。「PASH!」(主婦と生活社)、「アニコレドラゴン」(富士見書房)、「Anime Studio」(宙出版)の3冊です。それぞれに触れる前に、まずアニメ雑誌について考えてみましょう。アニメ雑誌は、大きく分けて3つの側面があります。
情報誌で典型的なのが、「ぴあ」「Tokyo Walker」などのような雑誌。新番組の開始や毎月の放映データ、DVDの発売予定など、現在のアニメ雑誌では大きな要素を占めています。グラビア誌は、ファッション誌やアイドル誌などが典型。アニメ雑誌では、人気作品の描き下ろしが、これに当たるでしょう。オピニオン誌とは、A5判のいわゆる“論壇誌”が代表格。ライターやクリエイターの書名記事は、この性格が強い。
この3要素をどう配分するかが、アニメ雑誌のポイント。「アニメディア」は「見る・読む・飾る・参加する」を標榜していますが、3要素全てを扱っている、と謳っているわけです。
「アニメージュ」「アニメディア」「Newtype」(発行年順)の主要3誌が(配分はそれぞれですが)がっちりとこの3要素を押さえている以上、新たに創刊するアニメ誌は別の切り口を模索する事になります。例えば、個別の作品に特化した「GUNDAM A」、グラビア要素に絞り込んだ「Megami Magazine」等々。
挙げた3要素は雑誌の特徴についてでしたが、それとは別に、考えておかなければならないポイントがあります。それは読者層の特徴です。これも3点指摘できるでしょう。
ポイント1 アニメ雑誌のコア・ユーザーは14歳〜17歳
ポイント2 アニメファンは男性より女性が多い
ポイント3 アニメファンの先端世代は60〜65年生まれ
1は長い間変わらない、アニメ雑誌の真実です。ネットでの感想だけを見ていると分からなくなりがちですが、アニメ誌を買う層のほとんどは、まだネットに繋ぐ環境を自前で持たない若い層なのです。TV番組誌のようなアニメ雑誌ができないかという意見を、時に耳にしますが、なかなか踏み切れないのは、コア・ユーザーがTV雑誌をあまり買わないという事もあるのではないでしょうか。
2は、コミック・マーケットの参加者の半数以上が女性である事を考えれば分かるでしょう。ソフトやモノを買うのは圧倒的に男性が多いため、なかなか見えにくい事ではありますが。
3は、『ヤマト』のヒットを中高生のときに支えた層で、大学生の時の『ガンダム』人気や、社会人となってのOVAの誕生に大きく寄与しました。潜在的にアニメに対する需要が大きく、実際、『エヴァンゲリオン』は、この層を掘り起こして大ヒットとなったわけです。おそらく「日経Characters!」(日経BP社)はこの層を狙って発刊されたのでしょう。
このポイント2を狙ったのが「PASH!」(主婦と生活社)です。これは確かに新しい。キャラクター中心で、メカがほとんど出てこない誌面は新鮮です。ただ、女性は男性に比べてライフイベントが多くファンを卒業しやすい、流行の波が大きい、といった側面があります。ファッション誌は流行を自ら作り出す、年齢層別にセグメンテーションする、といった方法で対応していますが、アニメ誌でははたしてどうでしょうか。
一方、「アニコレドラゴン」(富士見書房)は情報誌という性格をさらに押し進めた、通販雑誌です。これまで情報誌を狙ったものには、「X―VISION」(竹書房)のような先行誌がありましたが、なかなか後が続かなかったようです。それに対して、販売各社と提携して、誌上通販を押し出したところが面白い。富士見書房は自社コンテンツが豊富である、というアドバンテージもあるので、今後の展開が楽しみです。大河内一楼と喜多村英梨のコラムが読めるのも、個人的に高ポイント。
オピニオン誌としての側面を強く押し出して登場したのが「Anime Studio」(宙出版)。とあるライターから聞いたところでは、ゲーム誌「CONTINUE」のアニメ版という狙いがあるとか。なるほど、作品よりもその総体としての「アニメ文化」を語ろうというスタンスは、確かに近いものがあるかもしれません。出崎統ロングインタビューはボリューム満点で読みでがあります。また梶浦由記インタビューや結城信輝・うるし原智志対談など、興味深い記事も。四辻たかおのコラムというのも色々な意味で驚きがありました。
雑誌の話はこれでおしまい。あとは印象に残った書籍について。
「十兵衛ちゃん2〜シベリア柳生の逆襲〜 公式ビジュアルブック」(メディアワークス)は監督の大地丙太郎はじめ、スタッフの全面協力で作られています。通常のメインスタッフインタビューやストーリー紹介のほか、馬越嘉彦の原画コーナーやほぼ全員によるスタッフコメントなど、A5判というコンパクトな大きさに、色々な要素をギュッと詰め込んだところが魅力的。なんと、ノルシュテインのインタビューまで掲載(笑)。いかにも、スタッフ全員が和気藹々と作っていた(ように見える)「十兵衛ちゃん2」らしい本。内輪ノリも目立つので普通の読者はちょっと退いてしまうかもしれませんが、ファンは「十兵衛ちゃん2」のそういうところも好きなのでしょうから、いいのか。
「押井守・映像機械論 メカフィリア」(大日本絵画)は刊行の告知があってから、ずいぶん待たされました。押井守が自作に登場するメカニックについて、蘊蓄を傾け、メカニックへの偏愛を語る本。「モデルグラフィックス」に連載中から、その痛烈な内容に話題沸騰。単行本化にあたってずいぶん書き足しや整理がなされ、竹内敦志のイラストだけでなく、関連作品の設定書、コンテなども掲載し、待たされただけの事はある充実した作りです。中でも、連載中に押井の「人間サンドバッグ」にされた出渕裕の、押井監督への愛溢れるロングインタビューが泣かせます。インタビュー中で語られる『INNOCENCE』論も面白い。
というところで、また来月。
(04.10.29)
(▼書名・誌名[著者] 発行・発売元/判型/価格[税別]/発売時期)
※発売日・価格等はあくまで目安。店頭にて要確認の事。すでに発売中のものには発売時期はつけていません。順序は大体の発売順です。
●9月の既刊
▼十兵衛ちゃん2〜シベリア柳生の逆襲〜 公式ビジュアルブック
メディアワークス/A5/1500
▼基礎から始める声優トレーニングブック[松濤アクターズギムナジウム監修]
雷鳴社/B5/1400
▼押井守・映像機械論 メカフィリア[押井守著、竹内敦志画]
大日本絵画/A4変/2800
▼ナイトメアー・ビフォア・クリスマス・フィルムブック[フランク・トンプソン著、品川四郎訳]
河出書房新社/A4変/3200
▼週刊ガンダム・ファクトファイル
デアゴスティーニ・ジャパン/A4変/276 ※以降毎週火曜日発売
▼TVアニメ鋼の錬金術師 シナリオブック Vol.1
スクウェア・エニックス/新書/933
▼HEKIRU FILE
音楽専科社/A4/4762
▼ほんとうのたからもの
メディアファクトリー/B5/1500
▼ガンダムSEED DESTINY 公式最速ガイド
角川書店/A4変/457
▼ふたりはプリキュア大百科2
ジャイブ/B6/700
▼おねがい☆ツインズ オフィシャルファンブック Lien
メディアワークス/B5/2625
▼アニメ作画のしくみ[尾澤直志]
ワークスコーポレーション/AB/2838/9月下旬
●9月以降の新刊
▼アニメーションの宝箱[五味洋子]
ふゅーじょんぷろだくと/A5/1600
▼TVアニメ tactics スターターブック
マッグガーデン/A5/819
▼宮崎駿の「深み」へ[村瀬学]
平凡社新書/新書/780
▼カレイドスター ビジュアルファンブック
ジャイブ/B5/2800
▼十二国記 公式アニメガイド
講談社/B6/900
▼TVアニメ鋼の錬金術師 キャラクターコレクション
スクウェア・エニックス/B5/1333
▼天地無用!魎皇鬼 天地の温泉たまご
エムディエヌコーポレーション/B5/2900
▼COWBOY BEBOP Illustrations 〜The Wind〜
ソフトバンクパブリッシング/A4変/2800
▼飛行艇時代 増補改訂版[宮崎駿]
大日本絵画/A4/2100/10月下旬
▼TVアニメ鋼の錬金術師 シナリオブック Vol.2
スクウェア・エニックス/新書/933/10月29日
▼MOEOHセレクション 木村貴宏画集
メディアワークス/未定/未定/10月30日
▼勇者シリーズメモリアルブック 超勇者伝承
新紀元社/A5/2600/10月末
▼TVアニメ鋼の錬金術師オフィシャルファンブック VOL.5
スクウェア・エニックス/A4/476/10月30日
▼MANGA ARTISTS FILE4 只野和子イラスト作品集[只野和子]
グラフィック社/A4ワイド/1800/10月
▼この醜くも美しい世界 公式ビジュアルブック
メディアワークス/未定/未定/11月30日
▼ヤミと帽子と本の旅人 ビジュアルコレクション
学習研究社/A4/2400/未定
▼新世紀エヴァンゲリオン完全補完計画(仮)
角川書店/未定/2000/未定
▼超解!ギャラクシーエンジェル
B6/富士見書房発行・角川書店発売/1100/未定
▼マクロスゼロ ミッシングメモリーズ
メディアックス/未定/1143/未定
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