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■「もっとアニメを観よう」第19回
中澤一登の「衝撃を受けたアニメ10本」 |
── 今回は、どんな感じで選んでもらったんでしょうか。
中澤 僕が観て面白いと思ったものを。
── 作画系じゃないの?
中澤 いや当然、トータルで。衝撃的だと思った作品を選びました。
── ベスト10なんですか。それとも思いつくままに10本なんですか。
中澤 思いつくままですね。
── じゃ、1本目からいきましょう。
中澤 まず、映画の『21エモン 宇宙いけ!裸足のプリンセス』。本郷(みつる)さんが監督で、めがてん(スタジオ)がやったやつなんすよ。
── いきなり渋いセレクションですね。
中澤 これは「なんてよくできてるんだろう」と思ったんです。一切の隙がない仕上がりなんですよ。動きとかも、めがてんの人達がやってるので、間違いないんですよ。宇宙レースのお話で、メカデザインとかも西村(博之)さんがやっているんです。あまりにもキッチリとまとまってて、どう言ったらいいんでしょうね。ある種、理想的な仕上がりだったんです。「こういうのを作りたいよね」と思うような。
── なるほど。
中澤 全てが「ほどよい味加減」っていうのかな。「ふりかけの量が多すぎるご飯」的なアニメってあるでしょ。
── ああ、なるほど。つまり、出来がいいうえに、どこかが目立ってもいないんですね。
中澤 そう。とにかく完璧な定食なんですよ。多分、これを作った人達が、次に『クレヨンしんちゃん』に行くんじゃないですかね。いやもう、ほんとに「素晴らしい」の一言ですね。おいしくいただきました。
── 2本目はなんですか。
中澤 『さすがの猿飛』で、あにまる屋の回があるんですよ。
── どの話数か当てますよ。家の中で肉丸のお母ちゃんが走り回る話(2話「これがうわさの肉丸ファミリー」)か、神風の術を使って服部君と肉丸が対決する話(8話「やぶれたり神風の術」)か、どっちかでしょう。
中澤 対決の話ですね。あまり詳しくは覚えてないんですが。やたらと良かった覚えがありますね。
── あれは印象的でした。多分、木上(益治)さんの作画ですね。
中澤 木上さんですか。あれは凄かった記憶があります。
── 作画のテンションが高いのは、一部なんですけどね。
中澤 次が『(GU―GU)ガンモ』のジュニオの回なんですよ。作画監督が井上俊之さんだと思うんですけど。ローラースケートをやる話です。
── 『ガンモ』の井上さんの回で、ローラスケートで井上さんって2回あるんですよ。リンダのお姉ちゃんが出てくる話(7話B「なんと!!リンダのいとこは金髪グラマー」)と、リンダとあゆみがローラースケートやる話(45話B「ヤマトなでしこVSじゃじゃ馬娘」)が。
中澤 リンダとあゆみの方ですね。
── あれはね、今、観ても凄いと思いますよ。動きもいいし、キャラもいいし。
中澤 そうなんですよ。で、面白いし。何もかもが良いと思った。僕はあれを観て、ジュニオの(入社)試験を受けたんですもん。
── え、中澤さんって、そんな歳だっけ。
中澤 『ガンモ』って、僕が高校くらいの時ですよ。で、確か専門学校に行っている時に調べたんです。あれをやったのはジュニオという会社で、作監の井上俊之さんはそこにいると知って、ジュニオを受験したんですよ。で、受けて、合格もしたんですけど、その時に井上さんは『王立(オネアミスの翼 王立宇宙軍)』をやってて、もうそこにはいないという感じで(笑)。
── 井上さんは、ジュニオを辞めたと思っちゃったんだ。
中澤 そうなんです。実際には辞めてはいなかったみたいなんですけどね。それで「じゃあ、いいや」と思って(笑)、ジュニオには入らなかったんですけどね。
── そのリンダとあゆみの話って、ほとんど井上原画だものね(編注:リンダの足が痺れるシーンと、バーガーショップは別の原画マン)。
中澤 そうです。何かね、凄かったんですよね。いきなり違うものが出てきた感じだったんで。観た頃は、まだそんなに作画とかは気にしてなかったんです。サンライズのTVシリーズで湖川(友謙)さんが作監やってる話がちょっと違う、ぐらいの意識しかなかったんですよ。描いた人の名前まで調べたのは『ガンモ』が最初だった。次が『(魔境伝説)アクロバンチ』。
── ちょっと意外ですね。ひょっとして最終回?
中澤 いや、違うんですよ。いのまた(むつみ)さんが作画やった回が、途中にあるんですよ。
── いのまた作監は、2回ありますね。
中澤 最初の方ですよ。
── えーと、「大密林コンゴの秘宝」かな(5話)。この話は、確か色っぽいシーンがあるんですよね。
中澤 そう。エロかった(編注:ヒロインが襲われて、服を破かれるシーンがある)。画がよくてね、「あ、可愛い」と思ったんです。それから『アクロバンチ』はエンディングが格好よかったような気がする。僕のセレクションって、下世話な感じがいいでしょ(笑)。
── 下世話というか、同世代の普通のアニメファンっぽいですよね。
中澤 芸術色がないでしょ。そういう指向ってないんですよ。次くらいから、ちょっとマニアックになってくるんです。5本目が『カムイの剣』の冒頭。
── 冒頭の何ですか。
中澤 透過光ですよ! 刀の。あれは大衝撃でした。あとは忍者走りですか。鳥肌が立ちましたよ。あれは、ほんとに気持ちよかったですね。「かっけー!」って思ったもん(笑)。
── 忍者走りは、音楽もいいですよね。
中澤 ジャカジャカでしょ。それも相まってるんだと思うんですけど、生理的に気持ちいいんですよ。『カムイの剣』は他も格好いいんですけど、一番好きなのが冒頭なんですよね。父親が殺されるまで。で、6本目が『(風の谷の)ナウシカ』で、庵野(秀明)さんが作画をやったところ。
── えっ! そうなの。あっ、自分で言っておいて、恥ずかしそうにしてますね(笑)。
中澤 ベタでしょう(照)。あれは劇場で観た時に、後ずさりしましたよ。
── 巨神兵が攻撃するところですよね。2回撃ってますけど、最初の方?
中澤 最初の方です。光が走って、爆発するところ。
── 撃つカットとか、その前後ではなくて、そのカットがいいんですね。
中澤 そうです。もう、あらゆるタイミングが完璧。多分、中3の時に観たんだと思うんですけど、あれはほんとに衝撃だった。次の『(天空の城)ラピュタ』も面白いとは思ったけれど、そういうショックはなかった。
── 今まで、色んな人にアニメを選んでもらいましたけど、『ナウシカ』を選んだのは初めてですよ。
中澤 ええ。ベタでしょ。
── いやいや、今回のベスト10は読者がついてこれますよ。でも、『ナウシカ』で好きなのは、そこだけなんすか(笑)。
中澤 あとは、最後におばあちゃん(大ババ)が泣いてるとこで、泣いちゃいますよ(笑)。宮崎映画の中で、いまだに『ナウシカ』が一番好きですね。原画マンの変化がわかりやすいです。
── 『(未来少年)コナン』は観てないの。
中澤 観た事あるんですよ。でも、子供の頃は『ペリーヌ物語』の方が好きでしたね。どういうわけか、子供の頃は宮崎さんの作品に一切興味を持たなかったんです。むしろ、苦手だった。
── だったら『(ルパン三世)カリオストロの城』よりも『マモー編』ですか。
中澤 『マモー編』の方がずっと好きだった。『マモー編』なんか、何度も観ましたけどね。「かっけー」とか言って。
── だけど、今回のベスト10に『マモー編』は入ってこないんですね。
中澤 『マモー編』は入ってないですよ。みんな知っているだろうし、今回は衝撃が強かったものを選んでますから。部分的に印象が強かったものが多いかな。
── 前に、りんたろうさんの影響を受けたって言っていたじゃないですか。それは、『カムイの剣』がきっかけだったの。
中澤 『カムイ』もそうだし、他の作品の影響もありますよ。次に挙げるのも、りんさんです。7番目は『幻魔大戦』。なかむら(たかし)さんの原画のシーン全部。
── これも当ててみますね。赤いランプでしょ。
中澤 甘い! 違いますよ。ベガがビーム出す前に、手をガシャッとやるところ。無茶苦茶いいです。格好いい!(笑)。
── 新宿のシーンですね。
中澤 はい。(『ナウシカ』の冒頭で)ナウシカが銃に弾をこめるところも似た感じですよね。カシャ、カッカッカってやつ。いまだにあのタイミングを追い求めてますね、あれが僕の中で、生理的にドンピシャなタイミングなんです。
── 『幻魔大戦』だと、なかむらさんのパートは全部いいのね。
中澤 だって、あからさまに他と違うじゃないすか。
── あのシーンは「あ、大友克洋のマンガが映画になった」という気がしたものね。
中澤 でも、あれを観た時は、大友さんという意識もなかった。ただ単純に、生理的に気持ちがいい。
── 板とかが次々に飛んでいくカットは、インパクトなかったですか。
中澤 あれも、いまだに解析とかしてますけどね、
── (笑)。ビデオとかを観て研究するんですか。
中澤 そうそう。「ああ、これか」「あ、この中割か」とかね。今なら、あのくらいの動きをやれる人はいっぱいいるのかもしれないですけど、最初にやったものの衝撃は越えられないと思いますね。中なしでの2コマから、1コマに移行する時の心地よさとか。走りとか歩きに関しても、変則タイミングだったり。いまだに理想ですよ。
── 東丈が部屋で指揮棒を振って、レコードが飛ぶところがあるじゃないですか。カーテンがパッと動いたりして。あっちの方はどうなんですか。
中澤 大好きですよ。結局ね、僕が好きな小気味よさっていうのが、あの感じなんでしょうね。リアルな動きっていうのとは、ちょっと違うんだと思うんですよ。
── 当時は、あれを凄いリアルだと思ったんだけど、今観ると結構、様式的で。
中澤 様式的ですよ。古典的なアニメーションの技法。それで、非常にトリッキーですよね。僕も昔はリアルだと思ったんですけど、それは勘違いでしたよね。次はもっとベタになりますから、気をつけてくださいね。
── じゃあ、8本目は。
中澤 (恥ずかしそうに)『AKIRA』……。
── 無茶苦茶、恥ずかしそうな顔してますね(笑)。
中澤 の冒頭(笑)。しかも、暴走族のシーン。
── あ、井上さんの。
中澤 井上さん、福島(敦子)さん、森本(晃司)さん、江村(豊秋)さんのところ。これもベタでしょう。
── 読者には、中澤さんが何を恥ずかしがっているのか、分からないかもしれないですね。
中澤 バイクが2輪でドリフトして、画面の奥にガアーッといくところ。格好いいですよね。あれって、福島さんですかね、森本さんなんですかね。
── あれは他の人の原画で、森本さんが修正しているみたいですよ。中澤さんが『AKIRA』を観たのは原画マンの時ですか。
中澤 原画やってましたね。やり始めですね。
── で、9番目は。
中澤 きますよ。ビックリしますよ。『(機動戦士)ガンダム』!(笑)。しかも『めぐりあい宇宙』の冒頭。
── 冒頭のどこですか。
中澤 宇宙戦ですよ。バックに地球があって、ガンダムとかが発進していくところ。観たのは中学時代なんですけど、その時、かなり作品に入り込んだんですよ。世界が凄くリアルに感じられたんですよね。それと、メカの動きが遅いんです。それで、本当に無重力で戦ってる感じがするんですよ。重さが違うんです。凄い衝撃的だった。ロボットが兵器だという感じがした。
── 『哀 戦士編』も観ているんですよね。
中澤 一応、観ましたけど。観直すのは『めぐりあい宇宙』だけですね。
── 『めぐりあい宇宙』は、セル画の色が綺麗なんですよね、
中澤 そうそう。板野(一郎)さんが原画のシーンとか、全然他のカットと違う。「板野さん、サイコー!」って思いましたね。
── まだ10本には足りないですよ。『(伝説巨神)イデオン』はベストに入らないんですか。
中澤 『イデオン』は、面白いんですけど。みんなが面白いと言うから、挙げなくもいいかなあと。
── いやいや、この連載ではあまり挙げた人がいないんですよ。挙げて下さいよ。
中澤 じゃあ、「発動篇」ね! 泣きましたね。単純に、あの頃の富野(由悠季)さんと他の演出さんの差がありすぎたんですよ。動きに関しては「発動篇」で感心した部分って、ミサイルくらいなんですよ。ただね、目が綺麗だった印象があるんですよね。
── 目?
中澤 それは、『めぐりあい宇宙』のララァの時も思ったんですよね。真似てやってみても、あの印象と同じにはならないんですよね。やっぱり、難しいですね。
── 目って、バッフ・クラン側のキャラクター?
中澤 バッフ・クラン。凄い透明感があるんです。今観ると、また違うのかもしれないですけどね。他にも好きな作品だと『(Manie―Manie)迷宮物語』の「ラビリンス*ラビリントス」とか「走る男」とか、いっぱい出てくるんですけど。
── じゃあ、せっかくだから、ざっと心に残ってるもののタイトルを挙げてくださいよ。
中澤 「ラビリンス*ラビリントス」でしょ。「走る男」でしょ。あと、『ボビー(に首ったけ)』もそうだし、『妖獣都市』もそうだし。今(敏)さんの『PERFECT BLUE』。僕は、あれ、凄い好きなんです。難しい事は分かんないけど、面白かった。あとはね、『(入院ボッキ物語)おだいじに!』とかね。
── 何? 『おだいじに!』って。
中澤 知らないでしょー。まだまだだなあ、アニメ様も(笑)。凄い名作ですよ、アレは! 庵野秀明も絶賛したという。
── エロアニメ?
中澤 ……に近いんですけど。バルクで作ってたんですよ。『緑山高校(甲子園編)』と同じところですよ。『緑山高校』も好きなんですよね。
── 『緑山高校』も知られざる傑作ですよね。
中澤 そうですね。だから「キル・ビル」で、あの感じを甦らせたつもりなんですけどね。
── ああ、なるほど! 線の感じとか近いですね。
中澤 同じですよ。あのまんまやりましたから。
── 『おだいじに!』っていうのは、何がよかったんですか。
中澤 面白い! 監督が、あにまる屋の人(湖山禎崇)なんですけどね。
── マンガ原作ですか。
中澤 マンガ原作。おおつぼマキという人だったんじゃなかったかな。作監は、水村(良男)さんという人でね。10本に入れようかと思ったんだけど、あまりにもマニアックなのでやめました(笑)。
── 『八犬伝[新章]』4話は挙げなくていいんですか。
中澤 あれは別格でしょ。
── 別格ですか。せっかくだから、LDを2枚買ったという話をしてくださいよ。
中澤 LD2枚買いましたよ。1枚は自宅に置いて、もう1枚は会社に置いておきました(笑)。早くDVDを出してほしいですよね。
── 出てるよ!
中澤 あ、出てるんですか。僕、「はまじ再臨」は一週間で20、30回観てたんですよ。
── 30回は無理でしょ(笑)。
中澤 ずっとループさせてましたから。終わったら頭に戻って、また観る。仕事をやりながら、ずっと観ていた。
── というくらい気に入った作品だったんですね。
中澤 あれは面白いでしょう。みんな、あの価値に気づくのが遅すぎるんですよ(笑)。画が凄いとか、動きが凄いって事じゃないんですよね。あそこまでキャラクターに芝居させられるという事が、衝撃的だった。あの頃、俗に言う、スタイリッシュな映像を作ろうとしていた自分がいたわけですよ。
── つまり、りんたろう的な映像を作ろうとしていたわけですね。
中澤 そんな事を言ったら、りんさんに怒られるかもしれないけど(笑)。別にオシャレなものが作りたかったわけではなくて、自分が衝撃を受けたものに近いものを作ろうとしたら、それを模倣していくしか方法がなかった。あれが衝撃的だったから、目指してたという部分があったんですよ。
── あれって?
中澤 『カムイ(の剣)』や『幻魔大戦』でりんさんがやった事や、なかむら(たかし)さんの原画であるとか……。動きの小気味よさもあり、映像美もある。そういうものだったんです。だけど、『八犬伝[新章]』は、まったく別のベクトルから攻めていたじゃないですか。正面を向いて、剣を構えていたら、横からガーンと殴られたような印象だったんですよ。それで「これも、あるよな」と思ったというかですね。
── 中澤さん、今、凄い楽しそうな顔をして話してますよ(笑)。
中澤 そうそう(笑)。
── しかも、「はまじ再臨」はいまだに、越えるどころか迫るものすらないという。
中澤 いや、無理ですよ。あれはできないでしょう。やろうとする事が間違いだし、特にあの当時だったら、商売として成り立たなかっただろうし。
── 作品として成り立つかどうかすら怪しい。
中澤 当時、自分の中でも「線を少なくしていこう」と思ってたんです。それこそ「キャラクターなんか記号でいいはずだ」という発想がちょうど出てきた矢先に、あれをやられてしまった。それで「ああ、僕はこの方向にいくのは絶対無理だ。やめよう」って。
── その前に「うつのみやショック」はなかったんですか。
中澤 ありましたよ。うつのみやさんの時はね、凄く真似したんですよ。真似して、そこに自分のテイストも入れていって。そんな模索をしてる時に「はまじ再臨」がガツンときたんですよ。
── なるほど。線を減らしたのは、うつのみやさんの影響もあるんですね。
中澤 うつのみやさん達って、ディズニーを進化させたような気がしたんですね。僕がディズニーで嫌いだった部分を、全部排除した動きだったから。
── グネグネした感じとかですか。
中澤 うん。「はまじ再臨」のあの感じっていうのは『指輪物語』の実写をトレスした動き(ロトスコープ)に近い印象があったのかもしれない。重いんだけど(いわゆるアニメの)リアルじゃなかったでしょ。「はまじ再臨」の動きってリアルではなくて、リアリティなんですよ。この先、どうやっていったらアニメを作る事が楽しく感じられるんだろうと思っていた時期だったんです。多分、『天地(無用!)』をやってる頃だったと思うんですよ。僕が、画を描くのがつまらなくなっていたので。
── それは、仕事でやる以上は美少女を描かなきゃいけない、とか?
中澤 そうです。アニメファンって、保守的な人が多いでしょう? 今でこそ、小黒さんとかが「別のベクトルでアニメを観ようよ」という方向で作品を拾ってくれて、アニメの観方も広がってきてるから、変わった事をやっても受け入れられるキャパシティができてきたけど。
── そう言ってもらえると、ありがたいですね。
中澤 あの時期には、ああいう事をやりたい気持ちはあっても、やろうとは思いませんでしたからね。だから、「はまじ再臨」は爽快だった。やってる事が爽快で、羨ましかった。いまだに僕はそっち方向にどうしても行けないし、多分、これからも行かないと思うんです。ただ、その人達がコンスタントに仕事ができる場ができてきた事については、本当に嬉しいなあと思いますけどね。
── 大平(晋也)さんが、アニメ界に戻ってきてくれましたものね。
中澤 うん、ホントに嬉しいですね。色んなものを観てくれる人が出てきてくれた。今でも、オシャレだとかスカしてるものとして切り捨てようと思えば、切り捨てられるんでしょうけどね。ただ、僕はそういうものは作れないし、自分がやる時は、いつもベタなものを作りたいと思ってるタイプなんで(笑)。
── 多分、それは世間の中澤さんの印象とは、微妙に違うけれどね。
中澤 どうでしょうね。多分、右側でも左側でもないという印象だと思うんです。右寄りかもしれないし、左寄りかもしれない。
── 普通アニメ、オシャレアニメの中間にいるんですかね。
中澤 多分ね。ある雑誌に相関図が載っていてたんですよ。アニメプロダクションのテリトリーが並んでいて、個人の名前もあって、IGとGONZOの間に、僕が載ってたんですよ。元々は違うんだけどなあと思って。あははっ(笑)。
── 自分の意識としては、オシャレなものを作っているわけではないのね。
中澤 アニメに格好いいも、格好悪いもないだろうというのが、僕のスタンスではあるんで。
── 『サムライチャンプルー』って、テリトリー的にはオシャレアニメでしょ。
中澤 らしいですけどね。でも、自分がやった話数(15話「徹頭徹尾」)は、そうとは思わないで作ってます。
── 結構ベタだったよね。
中澤 ベタベタでしょう(笑)。僕の中では、15話は『CITY HUNTER』ですから。『CITY HUNTER』みたいなノリでいいと思うんですよ。
── ここまでに挙げてもらったアニメを、観返したりする事はあるんですか。
中澤 今、観返すのは『めぐりあい宇宙』くらいですね。
── たとえば、年に1回ぐらい観るんですか。
中澤 もうちょっと観るかもしれないですねえ。それから「ラビリンス*ラビリントス」と「走る男」はよく観ますねえ。「ラビリンス*ラビリントス」と「走る男」については、作画的にあれを越える作品は出てないだろうと思いますよ。
── 「走る男」は撮影も凄いですよね。今、デジタルで普通にできちゃうかもしれないけど。
中澤 いや、あれは無理じゃないですかね。技法として同じ事はできるけど、あの感じは出ないですね。やっぱり、セルが重なった時の雰囲気とか、空気の微妙な感じは、計算できないと思いますね。やっばり、ベスト10に『迷宮物語』を入れておいてください。
── なるほど、これで10本ですね。
●中澤一登の衝撃を受けたアニメ10本
『21エモン 宇宙いけ!裸足のプリンセス』(1992)
『さすがの猿飛』8話(1982)
『GU―GU ガンモ』45話Bパート(1984)
『魔境伝説 アクロバンチ』5話(1982)
『カムイの剣』冒頭(1985)
『風の谷のナウシカ』庵野秀明作画パート(1984)
『幻魔大戦』なかむらたかし作画パート(1983)
『AKIRA』冒頭(1988)
『機動戦士 ガンダムIII めぐりあい宇宙 編』冒頭(1982)
『Manie―Manie 迷宮物語』(1989)
中澤 どうです。このベタさ加減。
── いやいや。多分、中澤さんが自分で思っているほど、読者はベタだとは思いませんよ。
中澤 そうですかね。あとは、『バカボン』の殺し屋の回(『元祖 天才バカボン』15話A「天才バカボンの劇画なのだ」)とか、色々ありますけどね。
── ラッパ吹くヤツ?
中澤 当たり前じゃないですか(笑)。あれは誰だって、観てるでしょう。『ど根性 ガエル』もいいですけどね。
── 『ファイトだ!! ピュー太』は観てますか。
中澤 何年か前に観て、「おおー、なんだコレは!」と思った覚えはありますよ。林静一さんとかが原画を描いてるんですよね。振り返ってみると、自分は他の人とは入り方が違うんですよ。同世代のアニメーターって、大抵は金田(伊功)さんを通ってきてるじゃないですか。
── 相当な確率で、そうですよね。
中澤 僕は、金田さんは通ってないんですよ。どちらかと言ったら、板野(一郎)さんなんですよね。おまけに『(未来少年)コナン』を面白いと思えなかったし。
── 今でも『コナン』はだめなんですか。
中澤 あんまりにも周りがコナンコナンって言うんで、ビックリしたんですよね。大人になってから観て「これはえらい面白いなあ」と思ったんですけど。なんなんでしょうね。子供の感性では受け入れられなかったんじゃないですかね。「(死の翼)アルバトロス」もやっぱり業界に入ってから観て、凄いと思ったんです。子供の頃観たんですけど、その時は画が垢抜けないと思ったんですよ。北原(健雄)さんの画の方が、好きだったみたいなんですよね。不思議ですよね。画は描いてたんですけどね。動きのカリスマとされてる人達と、その辺が違うんだろうなって思うんですけど。
── 入り口が?
中澤 うん。それは思いますね。動きについて覚醒したのはなかむら(たかし)さんだったと思うから。トリッキーなんだけど、トリッキー過ぎないものが好きなんでしょうね。女の子も、清楚な美少女にはあまり夢中にならないんですよ。多少不細工でも面白味のある人の方が好き(笑)。
── 10本選んだわけですが、自分のベストを振り返ってみてどうですか。
中澤 うーん、80年代っぽくて、いいんじゃないですかね。
●2005年4月23日
取材場所/東京・吉祥寺
取材・構成/小黒祐一郎
(05.04.28) |
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