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コラム

アニメ様の七転八倒 小黒祐一郎
  第5回 『ボトムズ』DVDBOXあれこれ

 先月号の「Newtype」で、高橋良輔と押井守が『装甲騎兵ボトムズ』についての対談をしていた。記事自体は短いけれど、印象に残るものだった。押井さんが『ボトムズ』を熱く語っているのだ。「『ボトムズ』を見たときには血が逆流した」とか「僕がやりたかったことの先取りだった」とか。最大の賛辞だ。確かに言われてみれば、『ボトムズ』は押井さんが好きそうな世界だ。
 『装甲騎兵ボトムズ』は1983年から84年まで放映されたロボットアニメ。製作は日本サンライズ(現・サンライズ)、監督は高橋良輔。リアルロボットものの代表作であり、その内容はハードなこと、この上ない。放映から20年以上経っても『ボトムズ』のようなロボットアニメは、他に登場していない。
 『機動戦士ガンダム』の、特にシリーズ前半にあったミリタリー的な部分を、より一層強めた作品。当時、僕はそんな印象を持っていた。確かに『ガンダム』はかつてない、リアルなロボットものであったが、やはり主人公メカのガンダムにはヒーローロボット的なニュアンスがあった。ドラマに関しても、思春期の少年の甘酸っぱい思いや、葛藤を描いたりもしていた。
 『ボトムズ』においては、主人公キリコが乗るAT、スコープドッグは大量生産された機体だ。『ガンダム』で言えば、アムロがザクに乗っているようなものである。乗っていたスコープドッグが壊れれば、別の機体に乗り換えるだけだ。キリコの設定年齢は18歳だそうだが、大人の男として描かれている。他のロボットアニメで主人公の少年が持つような、溌剌とした部分は皆無だ。彼は職業軍人であり、無口で、無表情。ドラマも基本的に男の世界。硝煙や機械油で汚れた世界だ。一応、フィアナとココナという女性キャラクターもいるが、他のキャラクターは、ほとんどが男臭い軍人ばかり。キャラクターデザインや作画はそれと見事にマッチした、骨太で荒っぽい絵柄。この作品ばかりは、画面が汚い方がいい。また『ボトムズ』は、ナレーションやモノローグも抜群にいい。有名なのが、2話についた3話の予告だ。ちょっと長いが引用しよう。

 「食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。牙を持たぬ者は、生きてゆかれぬ暴力の街。あらゆる悪徳が武装する、ウドの街。ここは、百年戦争が産み落とした惑星メルキアのソドムの市。キリコの躯にしみついた硝煙のにおいにひかれて、危険な奴らが集まってくる。次回『出会い』。キリコが飲む、ウドのコーヒーは、苦い」

 シリーズ通じてナレーションやモノローグは、こんな感じだ。サブタイトルもシンプルだ。1話のサブタイトルが「終戦」。以降の話数も「ウド」「素体」「出会い」「二人」「バトリング」「罠」と、単語ひとつのタイトルが続く。『ボトムズ』は、恐らく唯一のハードボイルドロボットアニメ。男のためのロボットアニメだ。

 あ、いかん。導入部が長くなり過ぎてしまった。今回の「七転八倒」は『ボトムズ』の作品そのものではなくて、そのDVDBOXについて書くつもりだったのだ。せっかくだから、作品の紹介もしておこうと思って、つい書き過ぎた。以下が本題。今月の24日に『ボトムズ』TVシリーズ、OVA、総集編を収録したDVDBOXがリリースされる。基本的には予約限定の商品なので、今からだと購入するのは難しいはずだ。発売日前後に、大型量販店に行けば手に入るかもしれない。紹介するのが遅くて申しわけない。
 『ボトムズ』DVDBOXの解説書は、DVDトールサイズパッケージの大きさで、何と248ページの大ボリューム。僕が知っている中で、最も分厚いDVD解説書だ。僕もこの解説書の編集に参加している。担当したのは作画スタジオ、アニメアールのページだ。
 アニメアールは大阪の作画スタジオであり、毛利和昭、吉田徹、黄瀬和哉、沖浦啓之、逢坂浩司、木村貴宏と業界を支えるアニメーターを多く輩出している。『ボトムズ』にはローテーションで各話の作画に参加。作画監督である谷口守泰が描くキリコは、そのシャープな筆致とワイルドな面構えで異彩を放ち、ファンの間では「谷口キリコ」の愛称で親しまれていた。メカ作画のテンションも非常に高い。この後もアールは、クオリティの高い、そして個性的な仕事を多く残すのだが、注目を集め始めたのが『ボトムズ』だった。だが、在阪のスタジオであるためか、アニメアールは雑誌などで取り上げられる事があまりなかった。僕自身もアールについては詳しくないので、ここでひとつ勉強するか、と思ってこの仕事を受けた。
 今回の記事のメインテーマが、アールの歴史だ。そもそも、アールはいつから活動しているのか。大阪最初の作画スタジオなのか。それと大事なのが、アールとスタジオ・ムーがいつ分かれたのか、という事だった。元々、アールには谷口守泰と村中博美という2人の作画監督がいて、その下に若手アニメーターがついていた。『ボトムズ』から『蒼き流星 SPTレイズナー』の頃で言えば、谷口さんについていたのが、毛利、吉田、沖浦、逢坂といったメンバー。村中さんについていたのが、黄瀬、山本佐和子といった人達。アールの中に谷口チームと村中チームがあり、それぞれ別個に活動していた。やがて、村中チームがスタジオ・ムーに名前を改めるのだが、それはいつなのか。たとえば『レイズナー』のエンディングでは、村中チームもアールとしてクレジットされている。だが、取材の初期に、その頃にはもうムーだったんじゃないか、という関係者の証言が出てきた。あるいは『ボトムズ』の頃にすでに分かれていたとか、黄瀬さんは最初からムーの所属で、アールにいた事はないんじゃないの、なんて驚くような発言をする人もいた。
 『レイズナー』は谷口さんがキャラクターデザインを担当した作品で、谷口チームと村中チームの両方が作画で参加。谷口、村中、貴志夫美子&吉田徹が作監として立っていた。つまり、アールだけで3班を回していたのだ。僕はずっとアールが総力を結集したシリーズだと思っていたので、実はその頃、すでに村中さん達はアールではないと言われると、ちょっと凹んでしまう。個人的な思い入れとしては、その頃、村中チームもアールであってほしかった。
 解説書のための取材なので、ここでその結果について詳しく書く事はできない。ちょっとだけ教えてしまうと、『レイズナー』の頃の村中チームは、まだアールだった。その後の『鎧伝 サムライトルーパー』では、黄瀬さんと逢坂さんが作監として参加して腕を競っているのだが、この時に黄瀬さんはすでにムーだったようだ。それが分かっただけでも、今回の取材をやってよかった。記事としては、谷口守泰さんと吉田徹さんのインタビューを掲載。他にはコラムでアールの歴史について書いた。アールの前身となった大阪最初の作画スタジオについても触れている。

▲解説書の本文ページより。一番下が谷口守泰インタビューだ
 しかし、この解説書で一番マニアックなのは、アールの記事ではない。お馴染みのリスト制作委員会が担当した、スタジオあかばんてんの回顧特集である。あかばんてんは、高橋良輔が主催していた制作集団だが、『ボトムズ』と直接の関係はない。高橋監督についてより深く知るための記事なのだ。あかばんてんの記事は全部で14ページ。さすがに、総ページ数が248もあると、このくらい誌面を割いても全然問題ない。先日の藤津亮太さんと小川びい君の対談でも話題になっていたが、貴重な研究資料がDVDの解説書に掲載される事については、僕もちょっと疑問がある。書籍のかたちで残した方が、後のアニメ文化のためになるんじゃないか。その資料が必要な人が、手にいれやすいかたちにした方がいいのではないか、とは思う。だけど、DVDBOXの解説書以外では、堅い記事が作りづらいのも事実だ。アニメ雑誌編集者のジレンマだ。
 『ボトムズ』解説書に話を戻す。勿論、そんなピンポイントな企画ばかりではない。デザイン画、過去のイラストの再録、高橋監督をはじめとするスタッフのインタビュー等の、スタンダードな企画が解説書の中心だ。全部を読んだわけではないが、劇中の名セリフを取り上げて、それに高橋監督がコメントするコーナーが、ナイスな企画だった。他には、吉川惣司さんのインタビューも興味深かった。

 収録されている映像についても紹介しておこう。収録されているのは、TVシリーズ全52話、OVA『ザ・ラスト・レッド・ショルダー』『ビッグ・バトル』『レッドショルダードキュメント 野望のルーツ』『赫奕たる異端』。映像特典として、他に過去にリリースされた総集編が6本、メイキングの「証人喚問」「ブリーフィング I」「同 II」、ノンクレジットOP&EDなどを収録。「証人喚問」はLDBOXの映像特典として作られたもので、サブキャラクターのロッチナがメインスタッフを尋問するという異色の内容。「ブリーフィング I」「同 II」は、スタッフの対談等で構成されたビデオで、単独商品としてリリースされたものだ。レンタル屋で見かけた事はあったが、中味を観るのは、今回が初めてだった。それから、サンサ編とクエント編の総集編は、オープニングが新作で、アニメアールが作画を担当している。これは今回の仕事で初めて知った。歌はTVシリーズと同じ「炎のさだめ」で、作画監督は谷口守泰。つまり、谷口キリコバージョンのオープニングなのだ。多分、メカは吉田徹さんだと思うが、それについてはクレジットはなし。こんなフィルムを今まで知らなかったとは、我ながら不覚である。
 画質に関しては、『ボトムズ』はその作品の性質上、あまりマスタリングに気合いが入りすぎてデジタルっぽい画面になったら嫌だなと思っていた。数話分を観てみたが、映像は鮮明でありつつ、フィルムの質感も保った、いい感じの仕上がりになっているようだった。
 パッケージは描き下ろしが満載。BOXは大河原邦男、各巻のジャケットは表側を塩山紀生が、内側をアニメアールのメンバーが描いている。塩山さんのはお馴染みの線画で、力強い筆致が素晴らしい。アールメンバーのイラストはそれぞれ個性的だが、中でもドギモをぬかれたのが沖浦啓之によるもの。オールキャラクター集合で、しかも、ギャグタッチなのだ。沖浦さんが、どういう意図でこれを描いたのかは分からないけど、思い入れが感じられるイラストではある。

▲パッケージより。右側の単色イラストが塩山さんの手によるものだ
 と、ここまで読んで、そんな高額商品を紹介されても困る、と思った読者がいたら、ゴメン。だけど、高額商品だからこそ、もっと紹介記事があっていいと思うし、内容が告知されるべきだと思う。いくら大人でも、5万、10万もするパッケージを買うのには勇気がいる。単に「特典ディスク付き」とか「豪華解説書付き」と告知されても、中に何が入っているのか分からないのでは困る。『ボトムズ』DVDBOXは他の商品に比べれば、告知をしていた方だけど、もっと細かく紹介してもよかったんじゃないの、と思う。
 今、僕が気になっているのは来月発売される『巨神 ゴーグ』のDVDBOXだ。オフィシャルHPでは解説書等の封入特典について、一言も触れられていない。ところが、ネットのDVD通販サイトを見ると、設定資料集がついてくると書かれている。さて、実際はどうなのか。映像特典の中味も気になるぞ。予約するなら、そろそろ手続きをしないと、まずいのだけど。

(2005/02/16)
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