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コラム

「アニメ様の七転八倒」小黒祐一郎

  第8回 作画アニメ『新・鉄人』
     (『新・鉄人』あれこれ[2])

 『新・鉄人』が放映された時、僕は高校生だった。子供向きの作品ではあったけれど、割合と熱心に観ていた理由のひとつは、やはり作画である。1話「太陽の使者!鉄人28号」からして「おっ」と思うところがあったし、7話「死を呼ぶ人工衛星」で金田伊功が原画を描き、8話「恐怖の殺人合体ロボ」でテレコム・アニメーションフィルムが参加。金田伊功作画と友永和秀&宮崎駿作画が続いたのだ。信じられないくらい豪華な布陣だ。この2話を観て、なんて素晴らしいシリーズなんだ、毎週ちゃんと観なくては! と思ったものだ(ちなみに、9話「鉄人対エイリアン!」では、マッキーのシャワーシーンがあった。これは明らかにアニメファンへのサービスで、あれ、これは意外と対象年齢が高いのかな、と思った)。3クール目からは、スタジオNo.1もスタジオZ5もテンションが一層上がり、28話「強敵!カンフーロボ」、36話「宿命の対決!鉄人対オックス」等の傑作を連発している。
 
 高校3年の時に、僕たちは文化祭で『新・鉄人』に参加していたNo.1の越智一裕、山下将仁のサイン会を開催した。今だと、なんでサイン会だったんだ? と思うところだが、当時は越智さんや山下さんのイベントの企画として、それしか思いつかなかったのだろう。僕はお手伝いをしただけで、企画や運営をやったのは、同じ学年の友人だった。僕達が、お2人を文化祭に呼ぼうと思ったのは、やはり『新・鉄人』や『うる星』での仕事にシビれたからだ。文化祭当日は行列を整理したりするのが忙しくて、運営スタッフである僕らは、サインをもらう事ができなかった。主催者の友人が「君達の分は後でもらってあげるから。今日は働いてくれ」と言ったが、それから20年以上経っても、いまだにサインはもらえていない。
 昨年、インタビューで山下さんにお会いした時に、その話をした。「サインなら、今からでもしますよ」と言ってくれたが、なぜか山下さんとは会うたびにしこたま飲んでしまって、サインどころではなくなってしまう。いや、高校時代の憧れのアニメーターと酒を飲めるなんて、それだけでも大変に幸せな事なのだけれど。
 サイン会の時、越智さんには女性キャラを、山下さんにはブラックオックスか戦車を描いてもらう人が多かったと思う。皆、分かっているなあ。僕はどっちを頼んだのだろうか。オックスか戦車か、どちらを描いてもらうかで悩んだのは覚えている。会場では、大型テレビで2人の作品をビデオ上映した。大型テレビと言っても、当時の大型だから、せいぜい29インチくらいだったのだろう。最早、記憶は曖昧だが、「鉄人対オックス」と「面トラ」は上映したはずだ。
 翌年のアニメージュで「スタジオNo.1 スタジオZ5の俺たちの10大ニュース」という記事があり(そういう時代だったのである)、その中で僕たちの高校のサイン会が3位に選ばれた。高校でサイン会をやったけれど、女の子のお客は1人しか来なかった、という越智さんのコメントつきだった。それを読んで、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。だけど、うちは男子校だったしなあ。

 おっと、つい思い出話が長くなってしまった。作画の話に戻そう。僕は時々「作画アニメ」という言葉を使う。要するに作画が突出しており、それが見どころになっている作品の事だ。『新・鉄人』は、相当な作画アニメである。僕にとっては、最高の作画アニメかもしれない。
 マニア的にチェックしたいのは、さっきも名前を挙げたスタジオNo.1とスタジオZ5の担当回。それから、テレコムの8話だ。だが、他の回の作画も決して質は低くはない。もちろん、話数ごとの凸凹はあるが、時々ちょっと凝ったアクションがあったり、面白い表情があったりする。
 全話の作画監督を手がけた鈴木欽一郎の仕事もいい。前回、『新・鉄人』のキャラクターデザインは『巨人の星』系統だと描いたが、後に『パタリロ!』や『とんがり帽子のメモル』のキャラデザイン、総作画監督を務める彼の画は、同じジュニオの香西隆男などに比べると、やや繊細なのだろう。No.1やZ5のアクの強い原画を、活かしてくれたのも嬉しい。

 スタジオNo.1は、当時、金田伊功が所属していたスタジオであり、『新・鉄人』では鍋島修、飯島正勝、越智一裕、山下将仁、演出の貞光紳也らが参加。No.1の前に、金田伊功達が在籍していたのがスタジオZである。そのスタジオZ出身の平山智、亀垣一、そして、荒木プロダクション出身の本橋秀之の3人が結成したのが、スタジオZ5だ。ちなみに「Z5」は「5つめのスタジオZ」の意味だそうだ。両スタジオは金田作画の流れを汲む、メカアクションのエキスパートチームだったのだ。
 スタジオNo.1、Z5が参加した話数は以下の通り。こんなに沢山ある。

1話 太陽の使者!鉄人28号(No.1、Z5が部分的に参加)
3話 暴走特急をとめろ!(Z5、数カットのみNo.1)
7話 死を呼ぶ人工衛星(No.1)
12話 鉄人対鉄人(Z5)
18話 巨大戦艦をたたけ!(No.1)
19話 地獄のサファリ・パニック!(クライマックスのみNo.1)
28話 強敵!カンフーロボ(No.1)
32話 死闘!白夜の対決(Z5)
36話 宿命の対決!鉄人対オックス(No.1)
38話 (秘)指令!コンボイ作戦(数カットのみNo.1)
40話 見た!魔王の正体(Z5)
44話 スリラーシリーズIII 幽霊の正体をあばけ!(No.1)
48話 地球最大のピンチ!(Z5、No.1)
51話 銀河の王者!鉄人28号(No.1)

 以上の話数と別に、スタジオZ5の亀垣一、本橋秀之は、前番組『ムーの白鯨』から引き続き、ほぼ全話にメカ修正の役職で参加。シリーズ全体のメカアクションの底上げをしている。そのため、各話の原画に関しては、Z5が1話分をまるまるを手がける事は少なかった。他のプロダクションと共同で参加しているケースが多いはずだ。また、誤解している人もいるようだが、Z5の作画は、金田さんや山下さんほどにはケレン味は強くない。もっとスタンダード寄りでシャープな、メカアクションを描いている。
 シリーズ終盤、Z5は、40話「見た!魔王の正体」、48話「地球最大のピンチ!」と、宇宙魔王関連のエピソードに続けて参加。この2話では敵側の登場人物に、後の『六神合体 ゴッドマーズ』ばりの、シャープな美形キャラ作画がある。本橋秀之、平山智のいるZ5はメカアクションだけでなく、キャラクターの作画でも力を発揮していた。「地球最大のピンチ!」は、Z5&No.1連合軍によるエピソードでもある。富士山を背景にして、鉄人が強敵スペースロボと戦ったり、鉄人&オックスがタッグを組んだりと、作画的にも内容的にも豪華だ。

 一方、No.1は、お手伝い的な仕事は別にして、基本的には1話分の作画を担当している。金田伊功が参加したのは、残念ながら7話「死を呼ぶ人工衛星」のみ。これは地球に落下する人工衛星を、鉄人で受け止めるエピソードだ。金田さんは冒頭の宇宙シーン、浜辺で正太郎とマッキーが遊ぶシーン、Vコンと引き替えに誘拐されたマッキーを取り戻すシーンなどを作画。モブシーンも沢山描いている(『ザンボット』のきいろちゃんも登場)。浜辺のシーンは芝居も丁寧だし、伸び伸びとしていて気持ちのいい作画だ。正太郎の顔も凛々しい。ただ、この話はロボット同士の戦闘がなく、そのため、エピソード全体としては地味な印象になっているのが残念だ。また、山下将仁が目立った仕事をしているという点でも、記憶に留めたいエピソードである。ジャングルで敵の手に落ちた鉄人に、正太郎達が追われる部分の原画を担当。あまりのハッチャケぶりに、それを金田原画だと勘違いしたファンも多かった。彼は3話「暴走特急をとめろ!」が原画デビューで、7話は2度目の原画だ。当時の山下将仁と越智一裕は、まだ19歳の若さだった。
 シリーズ後半、28話「強敵!カンフーロボ」、36話「宿命の対決!鉄人対オックス」、44話「スリラーシリーズIII 幽霊の正体をあばけ!」と、スタジオNo.1は見どころが満載の傑作を連発する。この3本では、敵ロボットの大暴れを山下さんが描き、日常芝居と中盤のアクション等を越智さん、飯島さんが描き、ラストの敵ロボットとの対決を鍋島さんが描いている。この原画の割り振りも絶妙だ。

 3本の中でインパクトがいちばん強いのは、やはり「鉄人対オックス」だ。34話で正太郎達の仲間になったブラックオックスが、X団のガンガルに騙されて敵に回ってしまう。正太郎と鉄人は、最強のライバルであるオックスと再び戦う。なんと言っても、山下作画が素晴らしい。軍事基地で暴れまくるオックスやX団の戦車を描いてるのだが、実に強烈。奇天烈かつダイナミックなアクション、炸裂するパワー。オックスも作画も猛り狂っている。金田系作画のひとつの頂点であるのは間違いない。本放送で観た時に、僕は相当興奮した。今の若いアニメファンだって、このシーンを観たらきっと興奮するに違いない。
 オックスが投げつけた戦車を、鉄人が受け止めるあたりの越智さんの作画も、かなりイカしている。鉄人が、派手なロケット噴射で着地するカットもいい。自分が騙されていた事を知ったオックスが、鉄人とともにX団の海底基地に突入する部分は鍋島さんの作画。攻撃を受けながらも突っ込んでいくところでは、量感のある爆発の描写が素晴らしい。とあるアニメ監督が、この話を評して「あれはアニメの青春だ」と言った事がある。アニメに若々しい力が漲っていた時代の象徴だという意味なのだろう。上手い事を言うものだ。
 「カンフーロボ」や「鉄人対オックス」に比べると、ファンの間でもちょっとマイナーだが、実は、作画が最も充実しているのが「幽霊の正体をあばけ!」だ。この話は、ほぼ全編が見せ場といっていいくらいの仕上がり。ヨダレが出そうなくらいによい。悪党のカルロス一味がニセモノの幽霊を使って正太郎をビビらせるという話だが、ホラーものらしいムードが出ていてなかなか面白い。この話では、山下さんがメカアクションだけでなく、幽霊やそれを怖がる正太郎も担当。越智作画のマッキーも、肉感的で大変によい。ちなみにパンチラが2度もある。貞光さんのコンテもアクションの見せ方に工夫を凝らしているし、カルロスロボにトドメをさす鍋島作画の回し蹴りも見事。鍋島さんも、金田さんや山下さんほどのデフォルメの強い作画はしていない。ツボを押さえた大変に巧いアクションを描くのだ。
 『新・鉄人』の後番組は、アニメファンに絶大な人気を得た『六神合体 ゴッドマーズ』だった。『ゴッドマーズ』はZ5とNo.1のメンバーが主力となった作品でもある。本橋秀之がキャラクターデザインと全話の作画監督を、亀垣一がメカニックデザインを担当。大半の話数に、Z5とNo.1のメンバーが原画で参加している。だけど、シリーズ全体に参加しているだけに、各話単位としては「鉄人対オックス」や「幽霊の正体」のような密度の高さはない。スタジオとしての代表作は『ゴッドマーズ』かもしれないが、マニアである僕は、1話によい作画がギュウギュウに詰まった『新・鉄人』の方により惹かれるのだ。

 1話あたりの密度の高さという事なら、テレコムが担当した8話「恐怖の殺人合体ロボ」だって負けてはいない。このエピソードで、テレコムは作画だけでなく演出も担当。同社としては『新ルパン』最終回の直後の仕事になるはずだ。演出は富沢信雄、作監補は友永和秀。作監補はこの話だけの役職で、事実上の作画監督であったと思われる。アニメーションとしてのテンションは高い。単に凝っているという事ではなく、動かし方や見せ方が、他のエピソードとかなり違う。テレコムらしいオーソドックスかつリアルな作画に、ロボットものらしいケレン味を加えた、非常に面白いフィルムなのだ。ケレン味の部分は、友永さんの持ち味なのだろう。ミサイルや爆発は「死の翼アルバトロス」に近いリアルタッチ。ビームや光の描き方も独特で、後の『名探偵ホームズ』に近いものではないかと思う。この話の敵ロボットは、コンボイ帝国のガムダ1号、2号。これは合体ロボットなのだが(テレコムが合体ロボを描くというのも面白い!)、合体中に超電磁ロボのようにビカビカと電撃が走り、合体が完了した時にも画面一杯に派手に電撃が出るという気合いの入り方。「恐怖の殺人合体ロボ」はロボットアニメのスタイルとしては異色であり、なおかつ完成度が高いものだ。「鉄人対オックス」と同様に、メカアニメ作画史に残るエピソードである。
 また、「恐怖の殺人合体ロボ」は、テレコムらしいのお遊びがいくつか入っている。Aパートのカーチェイスには『カリ城』でお馴染みのシトロエンが登場しているし、ゲストキャラのダルバドの風貌はカリオストロ伯爵によく似ている。しかも、声まで同じ石田太郎だ。宮崎駿が原画を担当したのは、Aパート、ガムダ2号と防衛軍の戦闘シーンの15カットほどだ。そのパートに登場する防衛軍の戦闘機は、この話のみのオリジナルデザイン。「志」の文字が描かれた戦車と、自衛隊員風の防衛隊員もかなり印象的。それらは彼が、原画段階でアドリブで描いたものと思われる。

 さて、長くなってしまったが、もう少しだけ続ける。どうして自分が『新・鉄人』に惹かれるのかと考えてみると、やはり、メカデザインや物語がシンプルだからではないか、というところに行き着く。シンプルだからこそ、作画が活きる。物語がストレートな方が、勢いのある作画に向いているのだ。
 Z5とNo.1が描く鉄人やオックスは、シルエットがいい。「美しい」と思うカットも少なくない。Z5の作画かNo.1の作画か確認した事はないけれど、シリーズ後半のエンディングで、鉄人が空に向かって上昇していくカットなど、実に美しい。シンプルであるがゆえの魅力だ。

(2005/03/24)
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