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コラム
アニメの“音”を求めて 早川優

 第2回「音源復刻への長い道程」

 ついこの間、明けたばかりと思っていた新世紀が、早くも2年目に突入した。筆者はアニメーションや特撮の音楽の発掘・商品化を主な生業としているが、ここのところの成果の少なさには焦りを感じている。1990年代は、「今世紀中には権利クリヤーして商品化したいとか、音楽テープを探し出したい」、という題目が通用した感があったし、CD化の波に乗った既発売盤(主にアナログ)の再発をこなすだけで精一杯といった状況が続いていた。ある意味でノンビリ構えていたと言えるかもしれない。
 が、すでに2002年。日本初の30分TVアニメーション・シリーズ『鉄腕アトム』の放映から、すでに38年! の時が経過している。時間は待ってくれない。新作アニメーションは、それこそ怒涛の勢いで作られている一方、旧作アニメの音楽までをも所有しようという熱っぽいファンは、やはり少数派に属すると言わざるを得ない。そんな中、1980年代の作品ならいざ知らず、60年代、70年代の作品のサントラ盤が、いつまでも商業的に成り立つ訳がない。不況がソフト売上げの減少という形で企画の成立に追い討ちをかけるし、物理的な問題として、スタジオが管理する音楽テープの散逸や、経年劣化といった事項も現実的なものとなってきた。
 そんな状況の中、一昨年から、日本コロムビアで懸案だったアニメサントラの企画をいくつか現実化することができたのは幸運だったように思う。一昨年からは松本零士氏のアニメ作品の未発表音源のリリースに着手することができたし、昨年は当サイトでも紹介ずみの菊池俊輔氏の音楽による『ドラえもん』のCD化が叶った。発売以降、バラエティ番組などでこのCDから音楽が流用されているのを聞くと、現役の番組だけにスタッフの皆さんに申し訳なく思う反面、発売できた嬉しさを感じるのは正直なところである。
 上記松本アニメを中心にしたラインナップは、日本コロムビアの八木ディレクターの下、「Eternal Edition」という括りで進行中だが、もうひとつ、単独作品を中心に日本コロムビアの未CD化音源をリリースしていこうという企画が昨年から立ち上がった。シリーズ名は「Columbia Sound Archives Series」。あくまで立ち上げの発端はアニメ特撮の音源発掘が主眼であったが、ゆくゆくは邦楽ポップスなど、日本コロムビアの他セクションが保有する音源の再リリースにもこのタイトルを使用していくとのことである。
 そして、新たに立ち上がった本シリーズの記念すべき第1弾に選んだのが、『キャプテンフューチャー』であった。折しも、NHKの衛星放送BS―2チャンネルでは、同作を当時以来のリピート放映中で、タイミング的にはバッチリであった。作曲の大野雄二氏は、現在はジャズ・ピアニストとしての演奏家活動に比重を置いているものの、『ルパン三世』絡みの新作など、絞り込んだ作曲の仕事では以前にもまして洗練されたサウンドを生み出しているし、その『ルパン』を筆頭に、過去の映像音楽の仕事も幅広いファンから支持されている。結果、企画はすんなりと通った。
 音楽のマスターテープは、東映アニメーションの音響製作を手がけるタバックに厳密に保管されており、担当の方の計らいで音源もすべて揃った。唯一、TVサイズなどの一部の歌関係の素材に関しては、日本コロムビアでもタバックでも見つけることができなかったのは、残念である。
 さて、今回の『キャプテンフューチャー』のCDリリースで一番気を使ったのは、大野雄二氏ご自身へのネゴシエートである。自身の作り出す音楽に拘りを持つ氏は、TV用に作った音源を単独でリリースすることには抵抗をお持ちである。レコードを前提としたリリースと異なって、映像用の音楽は、録音状況、録音時間等に十分な時間を割けない場合が極めて多い。台詞や効果音などと一緒になれば差し支えない楽曲でも、単独で聴かれることが、作曲者本人にとって、いたたまれないことも多いのだ。また、映画音楽では音響上の効果として、どうしても単一モティーフの別アレンジによる使用が顕著となる。これは、何も知らないリスナーからすると、手抜きと見られる危険もはらんでいる。
 そうした理由から、作曲家の意向を選曲に反映させるというのは海外のサウンドトラックのリリースでは半ば当然なのだが、日本での音楽リリースはこのあたり、作曲家の意思を必ずしも尊重しているとは限らない。今回は担当ディレクターの配慮もあって、大野氏の意向を最大限に取り入れることとなった。
 大野氏との打ち合わせの結果、CDは2枚組のスタイルを採ることになり、1枚目は番組放映の末期にリリースされた音楽集LPをまったく手を加えないまま収め、2枚目には新規構成による未収録曲を配することになった。1枚目の「音楽集」は大野氏自身が当時選曲・構成したものだからである。2枚目の新規構成音楽集については、こちらで選曲構成したプランを大野氏に確認していただくという手順を踏んだ。
 最終的にリリースされた2枚組は、個人的には概ね満足している。1枚目が当時の音楽集のまま手をつけない、という方針になったため、当初、ボーナス・トラックとして予定していた主題歌のバリエーションやカラオケの類の収録が叶わなくなったのは心残りではあるが、レアだったLPが高音質でCD化できたこと、徳間のフォノシートのみでリリースされていた2曲の音楽を含めて、劇中で流れた重要な未収録曲の大半に日の目を見せることができたことは、原作を含む『キャプテンフューチャー』ファンの1人として本当に嬉しい。特に毎回の前回の粗筋紹介のバックに流れる音楽は、大野ウエスタン・テーマの三大傑作(あとの2つは、取り急ぎ、『百万年地球の旅 バンダーブック』のウエスタン・テーマと、『(新)ルパン三世』の「トルネード」を挙げておこう)のひとつとして、放映当時から喉から手が出るほど欲しかった音楽だっただけに、心に刺さった積年の棘の1本が抜けた気持ちである。
 この『キャプテンフューチャー』のブックレットの編集中は、大野氏が極めて多忙な時期に当たっていたため、ブックレット内にインタビューを掲載することはできなかった。本当は収録の1曲1曲について、奏者のことを含めてご本人のコメントをいただこうと思っていたのである。CDの作業が終了した後、別件で大野氏にお会いした時、『キャプテンフューチャー』についても思い出を語っていただいた。その時、最も面白いと思ったエピソードは、ヒデ夕樹、タケカワ・ユキヒデの両氏によって歌われた主題歌「夢の舟乗り」が、実はタケカワ・ユキヒデ版の方が最初に録音されていたというお話である。これで、タバック保管のタケカワ版主題歌に「未公開版」と但し書きされていたことの謎が解けた。本来はタケカワ氏の歌唱で録音したにも関わらず、何らかの事情で秀氏で再レコーディングしたのだという。実はヒデ氏のボーカルについても、TVサイズ、レコード用ともに途中で再レコーディングしなおされているのだが、その経緯についてはご記憶がないとのことであった。
 ちなみに、ヒデ氏の2種類の「夢の舟乗り」については、やはり2種のナレーション入り(これも初期は“銀河系最大の科学者にして冒険家”の件が、“宇宙一の科学者”にグレード・アップしている)とともに、TVサイズをCDに収録することができた。聞き分け方は、初期バージョンは淡々と、歌いなおし版は思い入れを入れて感情的に歌っている。また、歌いなおし盤では、サビ前に思い入れたっぷりに「んんー」とハミングが入っている。なお、現在の再放映では、主題歌の音声を音楽テープから入れ直している関係で、最初のバージョンは歌入り・ナレーションともに使われなかった。
 そして、これもまた残念なことに数えざるを得ないのだが、「夢の舟乗り」レコード版のオリジナル・テイクは、なんと一切のマスターテープが廃棄されており、CD化することができなかった。当時のシングル盤から音採りして入れることも考えたが、収録時間の限界もあり断念。初期テイクを収めた日本コロムビアのシングル盤や徳間のシートをお持ちの方は、手放さないことをお勧めする。だからというわけでもないが、筆者が選曲を担当しているスカパー“STARdigio”のアニメ・チャンネルでは、オリジナル版のレコードサイズを、CDの発売記念を謳ってオンエアしたことを追記しておこう。
 「サウンド・アーカイブス」シリーズは、第2弾として『エスパー魔美』を無事リリース。これも、番組当時に発売されたCDがネットオークションで高騰していることと、NHK「愛の詩」枠でのドラマ化を睨んでのリリースであった。これもリリースまでには様々な苦難があったが、これはまた別の話。
 また、続く第3弾には、『勇者ライディーン』を予定して作業に入っている。だが、ここに至って、劇中音楽のマスターテープがどうしても見つからない。LDBOXのリリース時から、音楽テープがないとの噂話を聞いてはいたものの、もしも見つかった場合、という条件つきでラインナップに乗せさせていただいた企画である。もしもこれを読んでいる方の中に行方をご存知の方がいれば、WEBアニメスタイル編集部までご一報いただければ幸いである。
 最後に、参考までに『キャプテンフューチャー』収録曲のMナンバーをご紹介して、本稿の結びとしたい。

キャプテンフューチャー オリジナル・サウンドトラック―完全盤―
DISC1
キャプテンフューチャー 音楽集(CQ-7028)
1.夢の舟乗り 歌/タケカワ・ユキヒデ
2.アンドロメダの彼方に(2M-10intro+2M-7)
3.渦巻くサルガッソー(2M-5)
4.流れ星のダンス(2M-6)
5.時のロストワールド(M-25)
6.忍び寄るインベーダー(M3)
7.おやすみフューチャーメン(2M-23)
8.おいらは淋しいスペースマン 歌/ヒデ夕樹
9.きらめくインナースペース(M-1)
10.透明惑星へワープ(M-9)
11.アストロノートの詩(2M-12)
12.OK!キャプテン 歌/神城ユースコーラス
13.イカルスの星(2M-16)
14.陽気なエイリアン(M-13)
15.異次元のエデン(M-6B)
16.ポプラ通りの家 歌/ピーカブー

DISC2
キャプテンフューチャー オリジナル・BGMコレクション
1.夢の舟乗り 歌/ヒデ夕樹 *歌い直し版で収録
2.輝く銀河の彼方へ(M-7)
3.見知らぬ惑星(M-20,2M-4)
4.夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン1〉歌/ヒデ夕樹
5.銀河漂流記(M-30,サブタイトル-1T2,M-23)
6.悪しき宇宙犯罪者(M-26)
7.太陽系パラダイス(M-11,M-12)
8.夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン2〉歌/ヒデ夕樹
9.オットーとグラッグの休日(サブタイトル-4,M-15,EXT,M-16)
10.宇宙哀歌(スペース・エレジー)(M-21)
11.我らの愛機コメット号(ブリッジ1T2,2M-22,M-2)
12.新宇宙創生(M-5,M-29)
13.キャプテンの凱旋〜予告編テーマ(2M-17,ENDING-3,予告)
14.ポプラ通りの家〈インストゥルメンタル〉(ポプラ通りの家)
15.夢の舟乗り〈TVサイズ バージョン3〉歌/タケカワ・ユキヒデ
16.おいらは淋しいスペースマン〈インストゥルメンタル〉(おいらは淋しいスペースマンM-4ハーモニカメロ)
17.謎めいた異次元空間(サブタイトル-2T2,2M-3)
18.OK!キャプテン〈インストゥルメンタル〉
19.大宇宙、危機切迫!(M-6)
20.戦うフューチャーメン(ブリッジ5完成,2M-15T2,M-4)
21.夢の舟乗り〈インストゥルメンタル〉(M-8完成)
22.遠い宇宙の果てまで……(M-22,ENDING-1T2)
23.ポプラ通りの家〈TVサイズ〉歌/ピーカブー

*第2回録音分については、Mナンバーの前に“2”を付して区別

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