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コラム
リスト制作委員会通信 リスト制作委員会

 第3回「全員集合!! 年間パーフェクトデータ作戦」

 ども、リスト制作委員会のみっちゃんこと道原です。
 今月は、「年間パーフェクトデータ」のお話。

 この文章がアップされる頃には、書店に並ぶアニメ雑誌はとっくに2003年4月号になっていることでしょう。だけど、今みっちゃんの手もとにあるのは「アニメージュ」の3月号。その159ページから174ページにかけて掲載されている「年間パーフェクトデータ」が、今回の話題です。
 「年間パーフェクトデータ」、略して「年間パーデ」。リスト制作委員会、年に一度の恒例の大仕事です。

 ところで! 今年の「年間パーデ」は美しい。
 なぜだかインクが薄いように見えて仕方ないが、それは大した問題ではありません。
 リスト制作委員会にとっての美とは、情報の調和のこと。ある規準に沿って情報を収集し、それらを過不足なく、同じ密度で整然とリストアップする。そのとき、実現できたデータの総体は、まさに“調和”と呼ぶにふさわしい美しさを見せてくれます。
 いつも、そんな調和の“美しさ”を目指している私たちですが、今年は特に「美しい」と声に出して叫びたいような、ある感慨が胸の内にあるのです。そのことをお話しします。

 その前に、ふだん「アニメージュ」をご覧になっていない方のために、「年間パーデ」とはナンなのか、説明しておきますね。
 「年間パーデ」――それは、過去1年間にテレビ、映画、OVAなどの媒体を通じて制作、発表された国内アニメ(合作を含む)を可能な限り集め、作品ごとにタイトル、サブタイトル、主題歌、キャストなどのデータを整理してまとめたデータのことです。アニメ版の“経済白書”みたいなものとも言えるかも知れません。10数ページにわたって、細かな文字ばかりが並んだ姿は、初めて見る方には異様に映るでしょうか。
 このデータは同時に、「アニメージュ」の恒例行事である人気投票「アニメグランプリ」のベース資料の役目も担います。各作品のタイトルやサブタイトル、主題歌名の頭には番号がふられており、読者のみなさんは、その番号をハガキに書き込むことで、ごひいきの作品や人名に1票を投じるのです。
 これを、データ原口こと原口正宏が自ら進んで引き受け、責任編集に着任したのが1986年末のこと。発足当時は、1月10日発売の2月号に掲載され、データの対象期間は前年の1月1日から12月31日まででした。
 さらに21世紀直前までは、同じ2月号に「アニメージュポケットデータノート」という付録がついており、「年間パーデ」はその付録と相互に情報を補い合う関係になっていました。
 「ポケットデータノート」は手帳サイズの小冊子。こちらは過去1年間どころか、日本最古の作品から現在にいたるまでのアニメを網羅し、その基本データをぎっしり詰め込んだトンデモナイ内容でした。付録と呼ぶにはあまりにも高密度な内容に、この付録がつく号だけは「アニメージュ」を買う、という読者もいたほどです。
 「年間パーデ」の各作品名の冒頭につけられた数字は、そのまま「ポケットデータノート」の各作品名につけられた通しナンバーと一致しており、読者はこの2種類のデータをもとに、「アニメグランプリ」に参加していたのです。
 やがて、作品の急激な増加に伴い、私たちの編集作業も年々過酷になっていきました。その影響から、「年間パーデ」の網羅期間を前々年の12月1日から前年の11月30日までに変更したり、掲載号を3月号に移したり、ついにページ数が臨界点を越えてしまったことによってデータノートが付録から姿を消したりして現在に至っています。
 でも、これだけの変化は、「年間パーデ」が風雪に耐えてきた歴史の長さをも示します。原口にとっては、最も長期に渡る、心のこもったレギュラー仕事のひとつなのです。

 「年間パーデ」最大の醍醐味は、ふだんバラバラに活動しているリスト制作委員会の実働メンバーの能力が集結すること。ほとんどのメンバーは、正規の就職先を持ち、また結婚してお子さんがいる人もおり、全員で顔を合わせることなど滅多にありません。それでもみんな、アニメへのやむにやまれぬ愛着を持ち続け、特に強制されるわけでもなく得意分野のチェックを続けてしまっています。その成果が発揮されるわけです。
 毎月のパーフェクトデータページの作成チーフである理系おにいさん・政尾希氏や、元気な少年モノならおまかせの江川千佳さん、こつこつとOVAの記録とワークテープ作りを続ける常木健一氏など、それぞれ各分野のオーソリティといっても差し支えのない面々が、1年間貯まりに貯まった知識を披露している。データベースのもともとの基本プログラムは、「アニメ・ソングうたう会」の重鎮であり、数学の教師でもある前田毅一氏によるもの。また今年からは、若い磯部正義氏も加わり、ラストスパートの情報収集や素材回収に力技を発揮しました。
 作品のデータは、タイトルクレジットの表示内容を規準にまとめるのですが、時には大事なデータ(主題歌歌手名や、兼ね役を演じている時の声優名など)がクレジットに出ない場合もあります。そんなとき、メーカーや制作現場に問い合わせて資料を集めるのはみっちゃんの担当です。ご協力をお願いするみなさんに「年間パーデ」についての説明をしたり、ほしいデータの細かい内容を伝えたり。連日しゃべりっぱなし状態になるため、この時期、喉のケアは欠かせません。以前は、ページが少し余ると裏話マンガなども描いていたのですが、ここ数年は異常な作品の増加のためスペースの余裕など皆無で、その機会はなかなか訪れませんね。

 ……とまあ、長い説明になってしまいましたが、こんなお祭り騒ぎが「年間パーデ」なのです。で、やっと本題(かな?)。

 その、リスト制作委員会にとって、いわば愛着のある我が子のような「年間パーデ」が、見るも無残な姿で公衆の面前にさらされたのは、約1年前。2002年3月号でした。

 例年どおりに入力データはすべて滞りなく揃い、入稿も完了していながら、デザインや出力の段階で予期せぬトラブルが起こってしまったのです。待てど暮らせど、入稿データの出力が上がってこない……例年ならとっくに校正を済ませ、追加データを補っている段階なのに、紙に印刷されたデータがまったく私たちのもとに届かないのです。先方への連絡すらとれず、私たちは真っ青になりました。2月10日には「アニメージュ」本誌が店頭に並ぶというのに、同じ2月の1日が過ぎ、2日となり、それでも原口やみっちゃんは何の校正作業もできないまま、眠れぬ夜を過ごしました。結局、「年間パーデ」の歴史始まって以来の非常事態に突入。細かい体裁を気にする段階ではない、と松下俊也編集長は判断しました。どんなに醜い姿になろうとも、「年間パーデ」がページから落ちることだけは避けねばならない。データが紙面に載ることだけを最優先に考えよう……その決意が電話越しに伝えられたときの、原口の呆然とした表情は忘れられません。ふだんなら、人名の表記、細かな異体字、旧字体の違いにも注意を払うリスト制作委員会が、そのほとんどのこだわりを捨てたのです。
 1週間後、原口は書店で「アニメージュ」の3月号を見かけ、手にとったものかどうか、躊躇しました。実は、あれから夢のような展開が起き、大日本印刷がその底力で例年通りのデータページに仕上げてくれたのでは、とか、やっぱり酷いデータを載せるのは忍びないと思い直した松下編集長が、4月号に掲載を延期してくれたのでは、とか、にありもしない夢想をよぎらせたあと、原口はページをめくり、深いため息をもらしました。
 厳しい現実がそこにはありました。通し番号や記号が○で囲まれていないため、データ内容との区別がつきにくく、まるでサブタイトルや人名の一部のように見えてしまう。数字を下付にするため、あるいは作字処理のためにふった便宜的な指定記号が、そのまま印刷されている……。
 異体字や旧字への置換や、通し番号のマル囲み、タイトル文字の字体処理などが、ページを追うごとに失われ、ただの数字や文字のベタ打ちに変わっていく様相を前に、みっちゃんは「アルジャーノンに花束を」みたいだね、と言いましたが、そんなジョークはもちろん、原口に何の慰めも与えませんでした。
 後に読者の皆さんに向けて、正誤表を作ったのはみっちゃんです。原口はそれをもとに1ページの内容に入るように文字数を調整し、明らかな表記ミスだけに絞った上で原稿をまとめました。正直に言うと、一度誌面に載った年間パーフェクトデータを、こんなに1文字1文字、1行1行、愛情をこめて読み込んだのは、みっちゃんは初めてでした。

 時が移って、編集長は大野修一氏にバトンタッチ。再び、年間パーデの季節がめぐってきました。昨年の鐵は踏むまい……リスト制作委員会と編集部は、強く心に決めました。入稿データを順調に出力させ、校正、再校、校了まで持っていくこと。至極単純で当たり前のことですが、その行程を余裕でこなしてくれるキャパシティーが、昨年は不足していたのでした。幸い、大野編集長は、数年前まで「年間パーデ」を担当していたやり手の編集プロ・N社と親しく、今回の出力作業は、再びそこにお願いすることにしました。
 結果は……。
 表紙の可愛いキラくんをめくり、色とりどりのページを通過していくと、やがて刷りは一色となり、ほかならぬ伊藤伸平さんの「アニメグランプリ」告知マンガへ。
 その続きに開けているのは、最新の「年間パーフェクトデータ」の世界。

 今年の「年間パーデ」は美しい。

 皆の努力が実を結んだのです。
 N社での出張校了の日、今年も引き続き参加してくださった松下さんは、校了紙を見るなり叫びました。「おお、作字が直っている!」
 当たり前のことが、これほど美しく感じるとは……。嬉しそうな原口に、松下さんは続けてこう言いました。
 「やはり人間、一度はドン底まで落ちてみるもんだなあ」

 「年間パーデ」の作業期間は12月から1月がピーク。その間、原口が「年間パーデ」だけに専念できたかと言うと、そんなわけにはいきませんでした。今回は「東京国際アニメフェア2003」の作品データを並行してまとめたり、合い間を縫ってDVD―BOX『W3』第2巻の取材と原稿執筆を行ったり、と多忙な日々が続きました。
 そうそう、余談の上遅いネタですが、オーディオヴィジュアル誌「HiVi」(ステレオサウンド刊)2月号にて、「どろろ DVD―BOX」「鉄腕アトム DVD―BOX(1〜4)」が、「BEST“CONTENTS”ANIMATION−DVD 2002」に選ばれました。ありがとうございました!

 それでは、また。
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