ども、連載開始以来いろんなところで本名を忘れ去られているミスター・ノーボディこと“でぞれ”です。最近はやっぱり海外版の事が気になって仕方ありません。トビー・マグワイア、どうなんスかね。「自ら西君役に名乗りを上げた」っていう時点で相当イイ奴だってのは確定なんですけど。じーさん役のロビン・ウィリアムズは、ちょっと楽しみだったりして……。 連載1回目から3ヶ月が経つ間に、『マインド・ゲーム』の東京でのロードショー公開も一旦終了。はあ、やっと一休みできるかな……なんて思ってるのも束の間、10月2日(土)から吉祥寺・バウスシアターでのアンコール・レイトショー上映が決定しました! 夜8時50分からの1回上映で、森本晃司監督のPV『SURVIVAL』が連日併映されます。10月10日(日)と11日(月・祝)には、森本+湯浅の初コラボ作品『音響生命体ノイズマン』も特別上映! 『マインド・ゲーム』を銀幕に追い続ける日々は、まだまだ終わりません。 さて、前回はカリスマアニメーター・井上俊之さんにご登場いただきましたが、今回もビッグネームをお招きしました。湯浅監督と並んで今年『DEAD LEAVES』で商業映画監督デビューを果たした“作画暴れん坊”こと今石洋之さんです! 今回も助っ人・小黒編集長を交えて、楽しいお話を伺いました。
2004年9月11日
取材場所/『マインド・ゲーム』応援団臨時応接室(都内サ店)
取材/小黒祐一郎、でぞれ
構成/でぞれ
今石 そういえば、でぞれ君って、なんで“でぞれ”っていうの? でぞれ 「ゴースト・オブ・マーズ」っていう映画の主人公の役名から取ったんです。 今石 あー、アイス・キューブが演ってたやつね。その話、前にも聞いた気がするな。 でぞれ そう、それを今石さんに話したら「じゃ、アイス・キューブでいいじゃん」って言われて、ガックリ来た覚えが……。 今石 (笑)そうだっけ。 小黒 どうでもいいよ、そんな事! さっそくだけど、『マインド・ゲーム』の感想はどんな感じですかね。 今石 面白かったですよ。 小黒 多分、最初の頃の試写会で観たと思うんだけど、事前にどんな映画かは知ってたわけ? 今石 内容は全然知らなかったです。原作のマンガも読んだ事がなかったし。タイトルと、湯浅さんが作ってるという事だけ知ってた。あと、『D.L』作ってた頃に、ちらっとキャラ表を見せてもらった事はあるんですよ。原画の小倉(陳利)さんが『マインド・ゲーム』にも参加されてたので。 でぞれ ああ、そうですよね。 今石 ちらっと見て、「あっ、これ以上見ないようにしよう!」(笑)。湯浅さんとしてはかなりキャッチーな方向に行こうとしてるように見えました。 小黒 で、いざ蓋を開けて観てみたら、どうだったの? 今石 ……普通に面白かったのが凄いですよね。ああいう風に画を作り込んでいくアニメを作ると、大体のパターンとして必ず「普通の面白さ」はなくなるじゃないですか。それなのに、面白さを維持した上で、あれだけ作り込んだ画で、映画として成立してる。それが凄い。自分自身でも「これからはそこだろう!」と思ってたから、「あ、もうやっちゃったよ」みたいな(笑)。 小黒 (わざとらしく)ほお、すると『DEAD LEAVES』は普通に面白いわけではないんですか(笑)。 今石 うーん、半々でしたね(苦笑)。「普通に面白い」っていうのは大前提としてやってたんだけど、メジャーはまったく狙わなかったんですよ。なんというか、閉塞的すぎるのもいかん、アニメに興味がない人でも観られるようにしよう、とは思っていたけれども、いわゆるアニメファン・メジャーは狙わなかった。 小黒 アニメファン・メジャーって、たとえばTV版『攻殻機動隊』とか? 今石 うーん、微妙ですね。 小黒 じゃあ、『十兵衛ちゃん2』とか。 今石 まあ、『GIRLSブラボー』とか『DearS』とか(笑)。 小黒 それがメジャーなのか、という気がしないでもないけど。 今石 分かりやすく言ったら『ガンダムSEED』とか『鋼の錬金術師』とかですよね。そういうところはとりあえず見ないで作ろうと。かといって『イノセンス』とか『人狼』志向でもない。そういう意味では『マインド・ゲーム』を観て、そっち方向の凄い作品が出たという気がしました。いわゆるジャパニメーション・リアル系でもなく、アニメファン・メジャーでもないというところで作ってるアニメとしては、「これは凄いものを観た」という気がします。 でぞれ かつてなかった映画ですよね。僕、観る前はもっと『ねこぢる草』寄りの作品になってるんだと思い込んでて、もちろんそれはそれで好きだし、納得できたと思うんですけど。でも、あんなに中身の濃い「映画だー!」っていう映画になってるとは思いも寄らなくて、打ちのめされました。 今石 僕も『ねこぢる』は個人的に凄く好きなんですけど、観た時は「湯浅さん、ヤバイ!」って思ったんですよ。「作家の道に行っちゃうのか」って。でも『マインド・ゲーム』を観て、ちゃんと普通に面白い映画になっていたから、「ああ、やっぱり湯浅さんは凄いな」と改めて思いましたね。ちゃんといろんなことを分かっているな、と。 でぞれ 最初に試写会で観た時は、冒頭で流れる過去の走馬燈シーンで、「やっぱり『ねこぢる草』っぽい、イメージ主体の映画なのかも」という予感が脳裏をかすめたりもしたんですが。 今石 でも、僕はあそこで泣きそうになりましたけどね。 小黒 そうそう、今石君は走馬燈のシーンでストライクが入ったクチなんだよね。 今石 最初の走馬燈で「うわっ! 来たっ!」。もう理屈じゃなくて、頭のこっちの方(後頭部を指さして)で勝手に回転し始めて(笑)。だからエンディングの走馬燈は、僕はそうでもないんですよ。 でぞれ あ、そうなんですか。そういう意見は初めて聞きました。 小黒 それは、なめ猫とか竹の子族とか、自分がリアルタイムで経験した風俗描写にグッと来たわけじゃないの? 今石 ま、それもあるし、その前も後もあるじゃないですか。それがダーッと出てきて……何分ぐらいあるのかな。3分ぐらいか。最初の1分とかは「なんじゃこりゃ」と思ってるんだけど、3分も続いてると、さすがにそれが何か分かるじゃないですか。もうそれだけで感動したんですよ。そこで何が物語られようとしているのか、湯浅さんが何をやろうとしているのかが分かって。 小黒 俺は最初に観た時は、あそこで戸惑うばかりだったなあ。 今石 半分は湯浅さんに感動してるんですよ。「これをやった湯浅さんが凄い!」というところで。 でぞれ 人間を見つめるスケールが壮大ですよね。 今石 うん、見る目の壮大さもあるし、そういうドラマに着眼して、ちゃんとやり通してる。 小黒 最初の走馬燈で、すでにあれはドラマだと分かったんだ。 今石 というか、「そういう人生があるだろう」という事ですよね。いろんな人の人生や、ノスタルジアとかをギュッと凝縮して描いてる。しかも言葉ではひとつも説明してないじゃないですか。映像だけでしか説明してなくて、あの速さで見せているうちに、なんかそんな気がしてくる。凄く高度な事をやっていると思ったんですよ。高度かつ、ものすごく贅沢な事を。 小黒 基本的にはあのパートのための作画しているんだものね。 今石 そう! 「多分これはその後の90分なり100分を編集したものじゃないな」というのが、観ていて想像がつくじゃないですか。「このシークェンスのために描いてるんだろうな」っていう。 でぞれ それが200カット近くある。 今石 そんなにあるのか! 凄い……。あの演出というのは、作画の効果も大きいけど、要は編集技ですよね。それを全部アニメで作画してるところが、演出家としてかなり高度だと思ったんです。普通は思いついてもやらないし、あんな効果的にはできないと思う。 小黒 パフォーマンスを考えると、自分で描けるからやっているとも言えるし、自分で描くのによくやるよな、とも思う。実写でやっても大変だろうけど、アニメでそれをやるのは作業の意味が違うもんね。 今石 あれがあって、あのストーリーに入るからいいのかな。1回終わってしまった人生をまたやり直す話だから、観ている人はあの走馬燈シーンで人生について考える。まず作品の「気分」をあそこで味わうわけですよね。そういうのを、ひとつも言葉を使わずに体感させたのは凄いんじゃないかと。 小黒 本編に関してはどうなの? 今石 まず、背景がカッコイイ(笑)。焼鳥屋とか、カーチェイスの辺りとか。そのカッコイイ背景の中で、一見アンチリアルな湯浅タッチの作画で、ものすごいリアル感を出してるというところが「巧いなあ」と。「映画になるな」という気がしたんですよね。あのファーストカットなんて、ものすごい日本映画くさいじゃないですか。ああいうしみったれた空気まで再現してる(笑)。あの幅広さは凄いとしか言いようがない。それをあの背景と作画で表現できてしまうのが驚きでした。 小黒 作画はどうだった? 今石 うん、作画が気にならないんです。普通に面白いので(笑)。 小黒 ダメじゃん、今石君。 今石 いやあ、それが本来のアニメの姿なんですよ! 小黒 あ、まあね。理想としては、それがあるべき姿だよね。 今石 そう、あるべきアニメの姿なんです! もう「あ、湯浅さんが全部描いてるのかな」とか思うわけですよ。それ以上思わなくても、そんなに苦じゃない。『未来少年コナン』を観て、「これ全部、宮崎駿が描いてるんだろう」とか思って最後まで観てても全然問題ない、みたいな。 小黒 「ここは友永さんかな?」とか思わないんだ。 今石 仮に思ったとしても、それはそんなに重要な事じゃない。久々にそういう感じがしましたね。多分ここは誰かなんだろうな、とは思いつつも、それよりもストーリーや演出を味わう方が楽しいという。 小黒 いかん、今石君が普通の人になっちゃった。 今石 いやいや、『コナン』とか『ガンダム』を観てる頃はそうでしたよ。あ、『ガンダム』はちょっと違うか(笑)。 小黒 気持ち的には、気にしないで観たいんだけど、あれは気になる(苦笑)。 今石 気になってしょうがないんですよね。「ここだけまた中村プロのバンクか」とか(笑)、小学生でも気になってしまう。まあ、それは置いといて、『マインド・ゲーム』は観ていてそういうのが気にならない。それが本当の、理想のアニメなのではないかと。 でぞれ 演出的に見るところが多かった、という事ですか。 今石 まあだから、技法的な事は気にせず、映画として観られる。……そうですね、どっちかというと演出的に見てる方が大きいのかな。 でぞれ ギャグはどうでした? 今回の作品でも、湯浅作品ならではの笑いどころが随所にあったと思うんですけど。 今石 笑いどころ……なんかツボのギャグがあったかなあ。あんまりギャグの印象がないんですよね。 でぞれ そうなんですか。 今石 うん。いや、随分前に試写で観たっきりなので忘れているのかもしれない。気分を和ませるギャグはいっぱいあったと思うんだけど、「ぶりぶりざえもんの冒険」の時の「おなかの子が」みたいな(笑)、1回聞いたら絶対忘れないようなギャグはあったっけかなあ。 でぞれ 例えばホラ、あの場面とかですよ……(と、身振りを交えて説明しようとして、お茶をぶっこぼす) 小黒 あーっ、もう! でぞれ すいませーん。 小黒 ま、放っといて進めましょう。 でぞれ あれですよ、すげえ足が速くなるヤクザとか。 今石 あそこはアニメスタイルのイベントで観ちゃってたから(笑)。 小黒 あの場面、まったく本筋とは関係なかったね。 今石 そうですね。繋がりがないとは言えないけど、そんなに重要ではない(笑)。 でぞれ 「頑張れば、やればできる!」っていうテーマは本来なら主人公が体現するものなのに、いきなり脇役の人がやってる。 今石 目覚めてる! っていう(笑)。 でぞれ 多分、蘇った西君の勢いが周りの人に感化したり、巻き込んで行っちゃうっていう事でもあるんですよね。 小黒 そう考えるとわりと電波系な話なんだけど、湯浅さんが意外と電波な人じゃないから。 今石 ものすごく真っ当な人なんじゃないですか。 小黒 特にセックス表現の健全さが、目を見張るものがあったね。 今石 ああー、そうですね。 小黒 『DEAD LEAVES』も健全だったじゃない。 今石 あれは健全というより、中学生レベルなので(笑)。湯浅さんのはアートですよね。あの辺はなんというか、連ドラ的というか、若い真っ当な男女のセックスを真っ当に描いてるという印象がありましたね。 小黒 画面はアートだけど中身は真っ当。だから結構、『哀しみのベラドンナ』に近しい。 今石 ああ、『ベラドンナ』でしたね。……あそこも含めて、クジラの中の描写は思ったより長かった。ちょっと予想外でした。 小黒 事前情報を知らないと、ああいう構成だとは思わないよね。 今石 カーチェイスはかなり大興奮で観てたから、そこでカーッと上がった温度が、クジラに入ってからポッと下がる。それが結構長く続くので、ついに完全に『ねこぢる』化したかと思ったんだけど(笑)、最後の脱出シーンで帳消しになってしまう。全部、最後の力業でいい事になってる。そこがまた好きですね。理路整然としているようで、かなり力業なところが「イイなあ」って(笑)。理論派でもあり、肉体派でもある。そういう意味では、非の打ち所がなくて困りますね。 小黒 あの脱出シーンは長かったよねえ。 今石 シンドイ人にはシンドイみたいですけど。 小黒 え、今石さん的には大丈夫なの? 今石 いやもう全然、もっとあってもよかったぐらい。 小黒 うわー凄いなあ、さすがだなあ。 今石 (笑)。カーチェイスも相当長い感じがしますよね。ああいう風にシーンをたっぷり見せる感は、凄くいいと思う。 小黒 確かに個々のシーンについて物足りない感じはない。 今石 そう。もういいっちゅうぐらい観られる。そういう意味では、ちゃんと今時の映画にもなってるんですよね。あと、主観映像の捉え方が凄く上手いんですよ。カーチェイスで、車にカメラが乗っかってる映像とか。車がボーン!と上がった時に人間の体が宙に浮いたり。実写的なんだけど、当然それをアニメ的にデフォルメしてるし、ミクロなディテールまでリアルに出せてる。車がカーブする場面で、カメラが後輪の後ろ辺りに付いてるカットあるじゃないですか。 でぞれ ああ、はいはい。車の後部がドリフト気味に振れるところですよね。 今石 そこで後輪のホイールに背景の映り込みが流れる。あれ、すっごい痺れるんですよ!(笑)。「カッコイイー!」とか思って。 小黒 ネタが多いよね。アクションに関しても、普通の描写に関しても。 今石 あの引き出しの多さは凄いですね。 でぞれ あ、そうだ。井上俊之さんにもお訊きしたんですけど、自分で作画してみたかったシーンとかってありますか? 今石 ……どれもやれそうにないなあ。 小黒 同じ事を言ってる(笑)。 今石 もしやるんだったら、カーチェイスかなあ。ああいう車だったら何枚でも描けそうじゃないですか(笑)。まあ描いてみると多分、描けないと思いますけど。 小黒 じゃあ最後に、「俺も負けないぜ!」的な事を言って終わってよ。 今石 えー(笑)。『マインド・ゲーム』を最初に観た時は、「俺はこれでショックを受けるんだろうな」と思いながら観てるんです。そういう先入観を持って観ているので。でも観終わるとね、「そういうもんでもないな」という感じだったんですよ。 小黒 勝った負けたの話じゃない、と。 今石 というか、普通に楽しめたので、わりと幸せだったんですね。やっぱり湯浅さんと僕は、なんとなく同じような方向を向いてるような気もするけど、多分ホントは全然違うんだろうな、と思うんです。
今石さん、お忙しい中をどうも有難うございました。さて、次回のゲストもやっぱり『マインド・ゲーム』愛に溺れる団員の方をお招きして、いまだ冷めやらぬ作品への熱き思いを共に語らっていきたいと思います。乞うご期待!
(04.09.17)
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