ども、先週1回休んだのに、ついに誰にも気付かれなかった影なき男“でぞれ”です。やはり闇に紛れて生きるしか道はないのか……と、アメコミチックな独り言を唱えるより、まずは『マインド・ゲーム』公開劇場リストをご覧下さい。「うちの方じゃやんないよ、どーせ」なんてふてくされてたら、実は近くの劇場で上映していた、なんてこともあるかもしれません。
《上映中》
新潟/ユナイテッド・シネマ新潟
山梨/甲宝シネマ
《10月2日公開》
東京/バウスシアター(レイトショー)
栃木/宇都宮テアトル
福井/メトロ劇場
岡山/シネマ・クレール石関
《10月9日公開》
石川/ユナイテッド・シネマ金沢
《近日公開予定》
東京/下高井戸シネマ
前回お伝えした通り、吉祥寺・バウスシアターにて、10月2日からアンコールレイトショーが始まります。初日2日には、湯浅政明監督とアニメーション演出家の細田守さんによるトークショーも開催決定!(開演は夜8時50分)。司会進行役は本誌編集長の小黒祐一郎がつとめます。皆さま、こぞってご来場下さい。なお当日は3スクリーンある劇場のうち、せっかくなんで画面の大きい方で上映されるそうですよ。
ちなみに会場のバウスシアターは、劇場を出てちょいと曲がってズビッと行くとSTUDIO4℃がある、という超お膝元ですので、「えーこれどうなのー? 面白いのー?」とか劇場前で言ってると、背後から「面白いよっ!」と関係者にどやされるかもしれません。
さて、今回のゲストは芸術家のパルコキノシタさん。画家、造形作家、パフォーマー、漫画家、批評家、教員、阪神ファンと、幅広いフィールドで活動し、『マインド・ゲーム』公開中に開催された展覧会“MOTION−IMAGE−PSYCHEDELIA 『マインド・ゲーム』回帰展”では、ディレクションを手がけられました。アニメスタイルイベントの名物司会としてもお馴染みですね。そういえば、さんざっぱら世話になっておきながら誌上インタビューでは初登場なんじゃないの? ってことで、実はレアな対談なのです。
今回は、映画のカラーリングに倣って、生命の危機に瀕するにしたがってだんだんと視界が赤く染まっていくような感覚でお読み下さい。目安は各章ごとに書かれた経過時間です。ためしにスタートから75分後を見てみましょう。
【トーク開始75分後】
パルコ 狂ってるよね! STUDIO4℃って会社は。もちろんいい意味でだけどさ。
でぞれ もちろんですよ! ある意味イカレてるからこそ作れるものってあるじゃないッスか。他じゃ作れないものを作ってるって意味じゃ、STUDIO4℃は類を見ない会社ですよ。だから『マインド・ゲーム』って、どー考えてもSTUDIO4℃だからこそ作り得た傑作ッスもん、やっぱ。
だいぶ赤いです。一体この人たちは何を言ってるんでしょうか? 「酒の席のことですから」なんて言い訳が通るんでしょうか? スリリングな予感をはらみつつ、捨てばちトークの始まりです!
2004年9月22日
取材場所/『マインド・ゲーム』応援団宴会場(都内某焼肉店)
取材・構成/でぞれ
(──午後8時過ぎ、騒がしい焼肉屋の店内。席に着くパルコさん、でぞれ)
でぞれ 今日はよろしくお願いします。
パルコ いやいや、こちらこそ。しかし東京でのロードショーも終わって、ネット上の発言なんかも一段落して、正直このタイミングで応援コメントを寄せるっていうのはどうなの?
でぞれ まあ、地方の上映が終わったわけじゃないですし、都内でも吉祥寺で上映がありますから。
パルコ 今頃になって「観てみたい」っていう人は結構いるようだけど。でも、湯浅さんの監督としての力量はこれで証明されたね。
でぞれ ええ、ハッキリと。
パルコ あと3、4本この調子で続ければ、第2の宮崎駿になるんじゃないの。
【15分後】
でぞれ パルコさんがやった展覧会(MOTION−IMAGE−PSYCHEDELIA 『マインド・ゲーム』回帰展)、観に行きましたよ。楽しかったです。
パルコ まあ、アニメ関係者の人には悪いんだけど、鉛筆で描かれただけの原画を並べるというのを商業スペースでやるというのは、結構キビシイものがあるんだよね。だからやっぱり、面白おかしくしなきゃ。大阪のdigmeout CAFEっていう会場なんか、東京で言うところの代官山みたいな場所で、大阪でいちばんオシャレなスペースなんだよ。それこそ中村佑介とかミック板谷とかMAYA MAXXとか、ホントに人気の人が個展やってるようなところでさ。
でぞれ へえー。
パルコ 「こんなところでやるの!?」って(笑)。要するに、普段アニメとか観てないような人に、なんかしらアピールしなきゃいけない。しかも、わりと流し見する人がほとんどだから、立ち止まって原画を1枚1枚めくりながら5分も10分もいるような人はいない。そういうところで、ちょっとでも人を引き留めるための努力っていうのかな。
でぞれ 見た目に楽しく人を惹き付けて、入った人が自分の手で原画をパラパラめくって体感する、っていう流れにしたいわけですよね。
パルコ だからこれは、とにかく情報量をガーッと入れた方が良いと思ったの。
でぞれ なるほど。
パルコ 東京の方はデパートの中だったんで、天井の高さとかいろいろ制約があったんだけど、関西の方はのびのびやれたんだ。天井が吹き抜けで、「何使ってもいい」って言われたんで、吊す物の量とかも違ったし。コンセプトとしては、「“太陽の塔”の内側」。
でぞれ 僕、それ分かんないッス。
パルコ あ、ホント? 俺、前に「『マインド・ゲーム』はアニメの万博だ」みたいなことを言ったことがあるんだけど。“太陽の塔”の中には実はエスカレーターがあって、かなり上まで人類の進化みたいな模型のインスタレーションが展示されてたんだよ。中に入った人は、その塔の内部を自由に散策することができるの。『マインド・ゲーム』回帰展では、神様を使ってそれを再現したかったわけ。で、幸いなことに俺も関西人だから、大阪の空気とか雰囲気っていうのはなんとなく分かる。実際、digmeoutで展覧会を開いてみたら、立ち止まるお客さんが普通の展覧会より多かったんだって。
でぞれ おお、素晴らしい。
パルコ 「なんだろう、これは?」つって、1個1個、丁寧に見ていく人が多かった。それは良かったよね。
でぞれ へえー。じゃあパルコさん的には大阪の方が充実度としては高かったんですね。
パルコ うん。今回は東京も大阪も、立地条件や予算的なことを併せ呑んで、俺は俺のベストを尽くしたと思ってるよ。でも、映画の公開スケジュールのことまでは決められないから。
でぞれ 大阪で展覧会があった時には、もう現地での上映が終わっちゃってたんですよね。
パルコ 残念な要素ではあったよねえ。
【27分後】
でぞれ パルコさん、原作の「MIND GAME」もちゃんと読んでるんですよね。その辺の話もしたいんですけど。
パルコ そんなに深く読み込んでるわけじゃないよ。ロビン西さん本人は、大阪の下町のとっぽい兄ちゃんみたいなイメージがあるけど、作品を読むと結構インテリなんだな、と。
でぞれ 脳内映像のモノローグとかで溢れ出る豊富なボキャブラリーは、ロビンさん自身のものですよね。映画の方ではかなり刈り込んでますけど。
パルコ 俺も一応は漫画家だし、それで言うとロビンさんって結構真面目な人でさ。あんな長編なのに、最後で全部まとめたじゃん。あの構成力を見ると、“きれい好き”な人なのかなって思った。
でぞれ 延々と奔放にメチャクチャやってる印象ですけど、実は「なるようになれー!」じゃなくて「なるようになるんです。」みたいに宇宙の法則に乗っていくような計算があって、ちゃんと大団円に着地するという。
パルコ 実写のドラマなんか、放ったらかしにしてるシーンとかカットが途中にいっぱいあっても、最後まで見て筋が通ってれば忘れるじゃん。マンガは戻って見ることもできるから、そういう意味でやっぱり「MIND GAME」は、まとめ方がすごく丁寧な作品だと思いますよ。
でぞれ 最初は勢いでガーッと読んじゃいますけど、落ち着いて読み返すと「すごい、すごい」って思いがまた溢れてくるんですよね。
パルコ 多分、根底にあるのは精神世界への傾倒とかそういうことじゃなくて、松竹新喜劇なんかの人情物の世界だと俺は思うんだ。サイケデリックなシーンなんかは照れというか、はぐらかしと見たけどね。やっぱり原風景としての松竹新喜劇・吉本新喜劇的な、人情喜劇っていうベースはすごく感じたよ。
でぞれ はあー。作者本人の素地として、ストーリーは綺麗に収まるべきだっていう意識がある、みたいな。
パルコ そうなの。関西の芝居って全部そうなんだ。「花の駐在さん」とかでも、どれだけ話がとっちらかっても必ず終わりにはみんなが幸せになって、離ればなれの恋人同士がよりを戻したりするんだよね。
でぞれ ラスト5分しかないのに、急転直下でバタバタッとハッピーエンドになったり。
パルコ そう、関西の客は不幸な終わり方を許さないんだよ。不幸になる人は舞台に出てこない。だからヤクザが出てきてもなんとなく愛嬌があって少しドジだったりするのは、現実とは違うけど、そういう作劇の仕組みがあるからなんだ。
でぞれ 「MIND GAME」は関西的ドラマツルギーにちゃんと則っているわけですね。
パルコ 東京のドラマだと、もうちょっとトレンド性とか入れてさ、新しものなまとめ方をすると思うんだけど、そういうのって結局後になって飽きられるでしょ。往々にして今見ると恥ずかしかったりする。でもロビンさんのやってることは普遍性があったから、雑誌連載からこれだけの年月が経ってるにも関わらず、結構読めるんだよね。
でぞれ 今でも全然見られるし、逆に常に新しいものとして読めるくらい。
パルコ “普遍性のあるマンガ”を描ける人って、あんまりいないと思うんだ。「こち亀」なんかは真逆のパターンで、常に時代性を投入しまくって今でも続いてるけど、あれは特別だから。そういうんじゃなくて、「あしたのジョー」とか「巨人の星」とか「エースをねらえ!」とか、いまだに読まれてるものがあるでしょ。「MIND GAME」もそっち側にある作品だと思うよ。
でぞれ それを映画化した時、湯浅さんの作風と合致していたのかっていうと、意外とピッタリ合ってたと思うんですよ。かたちは違えど、ロビンさんも湯浅さんも作るものは一見ハチャメチャだけど、ドラマツルギーに対する真摯な態度っちゅうか、根底にあるものは共通だったというか。
パルコ うーん、だけどじーさんをホモにしたのは、原作の設定をものすごくいじくるっていうことだから、その結果それがどうプラスになったのかが、今ひとつピンと来なかった(笑)。湯浅さんの趣味なのかと思ったりしたんだけど。
でぞれ 多分好きなんですよ、そういうのが(笑)。ホモが特に好きってわけじゃなくて、「その方が面白いでしょ」っていうことでそうしてる。人間観察的な。
パルコ ああ、はいはい。
でぞれ ホモもいればハゲもいるし巨乳もいるし、いろんな人間を出してそのバックストーリーまでちゃんと描いてる。人間への興味が強いってことなんでしょうね。それは、冒頭とエンディングの小市民史みたいな走馬燈シークェンスにも、ハッキリ表れてますけど。
【42分後】
パルコ 俺ね、『マインド・ゲーム』を初めて観た時は、「ヒットする!」って思ったの。それは嘘じゃない。画面の構成の仕方とか、すごく味わいのある音楽とか。
でぞれ 中身に関しては飽きるところが全くないですよ。
パルコ あとはやっぱり色だね、色。美術家として言わせてもらうと、1本の映画で2、3本の映画を観たような豊かな気持ちになれたのは、やっぱり色彩の豊富さだね。
でぞれ いろいろ手法を駆使して見せてますよね。
パルコ そうなのよ。『エヴァンゲリオン』の「サービス、サービス」って口癖じゃないけど、娯楽作品としてすごくよく出来てると思ったんだよね。必ず最後はスーパーハッピーになるエンディングもそうだし、『ワンサくん』の最終回を観ているような充実感というか(笑)。
でぞれ みんなが幸せになる映画。
パルコ そう。観た人の数は少ないかもしれないけど、観た人で悪く言う人は1人もいないわけ。
でぞれ 少なくとも僕らの周りでは。
【57分後】
パルコ だからさ、もっとファンは才能ある監督を大事に育てていかないとダメだよ。昔の「アニメック」の投稿イラストとか見ると、やたら濃いスタッフの似顔絵なんかが載ってたりしてさ(笑)。そういうのが今、ないよね。宮崎さんの初期のファンなんか、熱狂的だったじゃない。
でぞれ 森山塔が必ずクラリス描くみたいな(笑)。そう、支援しなきゃいかんですよ! なんのためにファンやってるんだか、ってことになりますから。
【76分後】
パルコ あんなに好き勝手に作ってさあ、そりゃあ商売も難しかったと思うのよ。
でぞれ 観なかった人のことなんか知らないですよ、もう! 「一生後悔してくださいませ」ってなもんですよ!(ジョッキを呷る)
パルコ 問題なのは、「なのに面白い」ってことだよね。
でぞれ 「だから面白い」んですよっ!
パルコ ああ、そうか。「だから面白い」のか。んーむ(さらにビール投入)。
【97分後】
パルコ この連載を読んで映画館に行く人っていると思う?
でぞれ ああ……それは公開中からもずっと思ってたことで、「結局あんまり役に立てなかったな」って思いはありますよ。
パルコ いや、公開直後はちょっとは役に立ったんじゃないの。
でぞれ だといいんですけど……。作品を観て本当に好きになって、何かせずにはいられないって気持ちになった時に、こういう機会が舞い込んできて、それは幸運だったし楽しかったです。できることなら『マインド・ゲーム』の制作スタッフになりたかったくらいなんですよ。エンドロール見ながら「いいなあ、俺も名前載りたいなあ」とか思ったりして。
パルコ ハハハ。あれ、もう空じゃん。
でぞれ んじゃもう1杯。
【112分後】
(──酔った足取りで夜道をふらふら歩いている2人。すると、だしぬけに口を開くパルコさん。)
パルコ 最近さ、TVでアニメ観てても、『エヴァンゲリオン』の時みたいに「アニメっておもしれーっ!」と思えるもんが出てくる予感がないんだよね。
でぞれ そうッスね。
パルコ 今更こんなところで俺が「『マインド・ゲーム』は素晴らしい映画ですよね」なんて言うことに意味はないと思うけど、『マインド・ゲーム』が後々のアニメ界を育てる糧になってくれればいいと思うよ。ホントにそう思う、俺は。
でぞれ そうですね……なってくれれば、いいですよね。
(──秋の夜空に星が瞬いている。虫の声。暗転。)
パルコさん、どうも有難うございました。さて、次回はついに最終回です。延々とここまで引っ張ってきてしまったので、どーやって締めたろかな、と思案中です。ちなみにこの文章もどうやって締めたらいいか思案中です(この締め方はもう使えない、と)。
(04.10.01)
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