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■「編集長のコラム」 小黒祐一郎
第13回「『ルパン三世』の話(3) フランス国旗とルパン三世」 |
本放送では視聴率に恵まれなかった『旧ルパン』ですが、その後、度重なる再放送で高い人気を獲得。それを受けて、1977年に第2シリーズ(通称『新ルパン』)の放映が始まります。作画、演出、音楽等のスタッフは全面的に交替。キャストも峰不二子役が二階堂有希子から増山江威子に、石川五右ェ門役が大塚周夫から井上真樹夫に変更になりました。内容は子供の視聴者を意識したものとなり、また、コミカルなテイストが基本となりました。
『新ルパン』でルパンのジャケットの色は赤になります。ですが、必ずしも原作に戻すという意図で赤くしたわけではないようです。『新ルパン』のキャラクターの色をまとめた美術監督の龍池昇さんに話をうかがった事があるのですが、TV局サイドから「派手な感じにしてくれ」という要望があり、それに沿ってルパン達の色を決めていったのだそうです。龍池さんはルパンのコスチュームを「フランスの国旗と同じだ」とおっしゃっていました。皆さんもご存知のとおり、フランスの国旗の色は赤と青と白。『新ルパン』はジャケットが赤、シャツが青、ズボンとネクタイが白(正確には薄い青)。ルパンの祖父のアルセーヌ・ルパンはフランスの怪盗ですが、派手な色にしようとしたところ、奇しくもそのフランスの国旗と同じ配色になってしまったというわけです。モンキー・パンチの原作では赤いジャケット+黒いシャツ+黒いズボンの場合が多いですから、同じ赤いジャケットでも『新ルパン』のコスチュームの方がずっとカラフルです。子供のヒーローらしいルックスとも言えましょう。『新ルパン』でルパンの愛車は、イタリアのアルファ・ロメオ・グランスポルトになりました。これは『旧ルパン』のベンツSSKのイメージを踏襲したのでしょう。
子供を意識したコミカルな路線で始まった『新ルパン』ですが、放映が進むうちに幅が広がり、シリアスなエピソードや、逆にスラップスティックに徹したエピソードも作られるようなりました。作画等のテイストも様々で、実にバラエティに富んだシリーズです。全体を俯瞰すると、決して子供向けの話ばかり、ギャグタッチの話ばかりではないのですが、ファンにとって『新ルパン』は「ギャグの多い、子供っぽいシリーズ」という印象が強いようです。後に赤ジャケットは、陽気でコミカルな『新ルパン』路線のシンボルとなります。
『新ルパン』放映中に2本の劇場版が制作されました。劇場第1作が吉川惣司監督の『ルパン三世』(通称『マモー編』)です。当時のアニメ誌の記事やパンフレットには、この作品に関して「『旧ルパン』を観たいというファンの声に応えて、旧スタッフが集結」等と書かれています。実際は『旧ルパン』のメインスタッフが丸々参加しているわけではありませんし、キャラクターのルックスも随分と違いますが、アダルトかつ洒落た雰囲気の『マモー編』は(物語がSF的であり、キャラクターのニュアンス等が違うとはいえ、少なくとも当時の感覚としては充分に)『旧ルパン』的でした。
また、『旧ルパン』的かどうかは別にしても、『マモー編』のアダルトな雰囲気は魅力的ですし、名セリフ名場面も多く、何よりも超越者マモーと対比する事で「ルパン三世とは何者か?」という事を掘り下げた点が素晴らしく、『カリオストロの城』と並ぶ傑作となっています。
『マモー編』でルパンが乗っていたのは『旧ルパン』の「前半路線」と同じベンツSSK(カラーリングは違いますが)。『旧ルパン』13話に登場した魔毛狂介ならぬマモー、フリンチ、ゴードンと、ゲストキャラクターのネーミングでも旧作を連想させる部分がありました。また、『マモー編』のルパンのジャケットは赤ですが、シャツは濃紺、ズボンは黒、ネクタイは黄色。つまり、同じ赤ジャケットでも、『新ルパン』よりも原作に近いコスチュームになっています。
『新ルパン』が高視聴率を維持する人気番組として放映されている最中に、『旧ルパン』テイストの劇場作品が作られたという事が、『ルパン三世』というシリーズの複雑さ、面白さを端的に示しています。
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