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■「編集長のコラム」 小黒祐一郎
第15回 「『ルパン三世』の話(5) 歴史の分岐点・押井守版『ルパン』」 |
『新ルパン』の放映は1980年に終わりますが、その後も、『ルパン三世』関係の企画は間断なく続きました。1982年頃に、監督・りんたろう、キャラクターデザイン・荒木伸吾で、フランスとの合作作品『ルパン8世』が作られています。これはルパン達の子孫・ルパン8世を主人公にしたSFもので、なんと8世の職業は私立探偵。不二子の子孫は、表の顔はファッションデザイナーで、実は女泥棒という設定だったようです。TV放映を前提に4話分が制作されたそうですが、途中で制作が中断。アニメ雑誌で紹介はされたもののビデオソフト等にはなっておらず、幻の作品となっています。ちなみに、ルパン8世のジャケットの色は赤だったようです。
1984年にTV第3シリーズ『ルパン三世 PARTIII』の放映が始まります。今度のジャケットの色は、ピンク。ルパン三世のジャケット、第3の色です。『新ルパン』は大ヒット作品ではあるが、それとは違った路線で『PARTIII』を制作しよう、という意図が制作者サイドにあったようです。内容をハードでアダルトな路線に戻し、テーマ曲も『新ルパン』でお馴染みになったあの曲は使わない、ジャケットの色も変える。キャラデザインもグラフィックな味の強いものとなりました。ジャケットのピンクは、ルパンの派手なキャラクターに合った色として、キャラクターデザインの青木悠三さんが決めたのだそうです。
結果的に『PARTIII』は「旧ルパン・前半路線」のハードさと、『新ルパン』のコミカルさの中間の味わいの作品となりました。キャラデザインの独特さ等のために、『PARTIII』はルパンファンにとって、あまり人気のない、あるいは存在感の弱いシリーズとなっているようですが、シリーズ全体のアベレージは決して低くはありませんし、中には傑作、異色作もあります。もっと評価されてよいシリーズだと私は思っています。
『PARTIII』放映中の1984年秋、「アニメージュ」10月号(vol.76)に押井守監督による劇場『ルパン三世』の制作決定の記事が掲載されました。その記事で「現在決定しているスタッフ」として名前が挙がっているのが、以下のメンバーです。
監督・脚本/押井守
脚本/伊藤和典
アート・ディレクション/天野喜孝
画面構成/金田伊功
原画/森山ゆうじ、山下将仁、北久保弘之、森本晃司、庵野秀明
演出助手/片山一良
話はちょっと脇道にそれますが、作品の内容がほとんど発表されていない(おそらく脚本も上がっていない)段階で、参加する原画マンが発表されるというのが、面白いですよね。そういった事が記事になるくらい、当時は、クリエイターにアニメファンの注目が集まっていたのです。
この記事の中で押井さんは「いまの時代を射程に入れて、壮大な、現実意識にまでくい込めるような虚構の世界を作りたいと考えています」「ルパンは、いまの時代そのものを盗んでしまうということになる」等と語っています。結局、この企画はあまりに内容がアグレッシブであったために実現する事はなく、そのアイデアやモチーフは『天使のたまご』等の後の押井作品で使われているようです。
押井版『ルパン三世』の制作が発表された時点で、すでに『旧ルパン』『新ルパン』『マモー編』『カリ城』『PARTIII』と、数多くの『ルパン三世』が作られており、『ルパン三世』というタイトルは作品によってテイストが違う、スタッフによって傾向が変わる、という事が、この段階で作り手にとってもファンにとっても(少なくとも、ある程度は)明らかになっていたはずです。また、宮崎監督の個性が色濃く反映された『カリオストロの城』が傑作としての評価が高まっていた頃でもありました。そんな時期に、作家性や作品のインパクトの強さで、ひょっとして『カリ城』を越えるかもしれないものとして、押井版『ルパン』の企画が登場したわけです。それは、非常によいタイミングであったと思います。その「アニメージュ」の記事を読んでワクワクしたファンは多かった事でしょう。
「時代そのものを盗む」という押井版の『ルパン』は非常にトリッキーな、そして、先鋭的なものとして考えられていたようです。この作品が完成していたら「こんなの『ルパン三世』じゃない」と、ファンから批判されたかもしれませんが、その存在は『ルパン三世』シリーズをさらに活性化させただろうと思います。その後、『ルパン三世』シリーズが内容的に安定して、あまり大きな変化がなくなっていった事を思えば、押井版『ルパン』の企画が「ルパン三世ヒストリー」の分岐点だったのでしょう。
押井版『ルパン三世』の内容に関しては、ムック「THE ルパン三世 FILES」(キネマ旬報社)で押井さん自身が詳しく語っています。面白い記事ですので、興味がある方は是非読んでみてください。
※参考資料
「アニメージュ」(徳間書店)1982年7月号(vol.49)、1984年10月号(vol.76)
「THE ルパン三世 FILES」(キネマ旬報社) |
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