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コラム
「編集長のコラム」 小黒祐一郎

 第17回「幻の『出崎統 実写作品』」

 出崎統監督の完全な作品リストは、まだ、この世には無い。そもそも完全な作品リストが作られているクリエイターなんて数えるほどしかいないわけだが、まあ、それはともかく出崎さんの完全な作品リストはまだ、無いのだ。私にとっては、目下のところ、それが大問題だ。
 国内で公開された出崎さんの作品については、ほとんど知っているつもりだった。海外との合作だって、作品自体を観た事はなくてもタイトルは判明しているはずだ。だから、出崎作品の全貌は分かっているつもりだった。天下の出崎統の作品で知られていないものなんて、ほとんど無いだろう。そう思っていた。ところが。「アニメージュ」の連載記事やDVD解説書等で取材をしたり、FCのホームページやイベントをやらせてもらっている関係で、出崎さんと話をする機会が増えたら、次から次へと出てくるんですな。幻の出崎作品に関する話題が。

「ああ、そう言えば、俺、ドラマの『愛と誠』やったよ。OPかEDか忘れたけど。シリーズ途中から使われたバージョンだと思うよ」
「ええ、そんな話、聞いた事ないっスよ!!」

「宮沢賢治の『オツベルと象』をアニメ化した事あるよ。ハイビジョンのテスト映像」
「ええ! そんな仕事を!!」

「ムービー時代に『おれは直角』のパイロットを作ったよ。大塚康生と組んだ唯一の仕事だよ」
「ええ! 大塚さんと仕事してたんですか!!」

 と、まあ、驚くばかりなのである。本人でなければ、誰も知らないような作品が何本もあるのだ。そういう話が出てくるのは、だいたい取材の後や、飲んでいる時などの世間話だ。私が知っている限り、出崎さんは、アニメ誌の編集者が「出崎さんの作品リストを作りました。漏れがないか見てください」と言って原稿を持っていっても「うん、まあ、大体これでいいんじゃないの」なんて言ってしまう人なのだ。それが他人の仕事に文句を言いたくないためなのか、面倒くさいから言わないのかは分からないが、自分から、あれをやったこれをやった等とはあまり言わない人だ。ちなみに取材原稿のチェックでも、私が知っている限りでは、出崎さんは直しが少ない。直しが少ないだけに、気をつけてまとめなくてはいけないのだが。
 出崎さんが何気なく教えてくれた幻の作品の中でも、レアなもののひとつが、井上陽水の「闇夜の国から」のプロモーションフィルムだ。「闇夜の国から」は1974年春のヒット曲で、当然、そのプロモは74年当時に作られた。実写とアニメーションが混在したフィルムで、出崎さんはアニメだけでなく、実写パートも手がけている。自分でカメラを回して、デビューしたばかりの井上陽水を撮ったのだそうだ。それを聞いて、まさか実写をやっていたとは、と驚いたら。

「あ、ドキュメンタリーを撮った事もあるよ」
「ええ!」

   またまたビックリである。タイトルは「葬列」。山下菊二という画家の作品を室内に配置し、それをスチルカメラで撮影。仕上がった写真を、今度はアニメの撮影台で撮影するという実験的な手法で作られた短編なのだそうだ。撮影台で撮る段階で、PAN等のカメラワークや撮影処理を施している。旧『エースをねらえ!』の後らしいので、これも1974年頃の作品である。『旧エース』には、編集スタッフとして映画監督の森弘太が参加しており、彼と知り合ったのがきっかけで、出崎さんは「葬列」を撮る事になった。この作品は森さんと共同監督という形であったらしい。また、森さんとの出逢いは、出崎さんのアニメ演出にも影響を与えているらしいのだが、それについては別の機会に。
 「闇夜の国から」と「葬列」の事を教えてもらったのは、出崎さんの最初のイベントをやる半月程前だったと思う。そんな〜、今更言われても、フィルムの調達なんかできないですよ、出崎さん。さすがに最初のイベントに、その2本のフィルムをかけるのは諦めた。だが、次のイベントまでに見つけだそうと思い、まず「闇夜の国から」について、色々な方に頼んで探していただいたが、見つからなかった。今のところ、所在不明である。
 出崎さんの作品については、いずれ作品リストだけでなく、きちんと1冊の本にまとめたいと思っているが、このようにまだまだ調査せねばならぬ事が多い。当面、それらの幻の出崎作品を観てみたい。是非観たい。もし、この記事をお読みの方で「闇夜の国から」や「葬列」のフィルムのありかをご存知の方がいらしたら、ご一報を。もし可能なら、次の「アニメスタイル」の出崎イベントで上映したいと思う。

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