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「編集長のコラム」 小黒祐一郎

 第22回「芹川脚本の『レインボー戦隊 ロビン』」

 先日発売された「世界と日本のアニメーションベスト150」(ふゅーじょんぷろだくと)の監督ランキングベスト100で、芹川有吾はトータルでは17位、国内の監督としては6位だった。アニメよりはアニメーション寄りのこの本の傾向から考えて、『わんぱく王子の大蛇退治』によるポイントが大きいのだろう。『わんぱく』は、確かに芹川さんの代表作ではあるけれど、彼の作品史の中ではむしろ異色な一本なのではないかと思う。とは言え、ファンである僕にとって嬉しい結果だった。
  近年のDVD発売ラッシュで何が嬉しかったと言えば、『魔法のマコちゃん』『マシンハヤブサ』のBOXが発売された事だった。これで観る機会のなかった芹川作品をチェックする事ができる。また、昨年、ケーブルTVで『狼少年ケン』が放映され、全てではないけれど主要作品を何本か録画する事ができた。彼の作品について知れば知るほど、もっと知りたくなる。その作品の大半は子供の頃に一度は観ているはずなのだが、改めて観ると、気がつかなかった事が色々と分かってくる。それが面白い。チェックを始める前に予想したよりも、彼はずっと個性的で、濃密な作品を作る作家であった。

 例えば『レインボー戦隊 ロビン』だ。これはパルタ星人の侵略に立ち向かうレインボー戦隊の活躍を描くアクションアニメ。モノクロ作品で、放映されたのは1966年。もう37年も前である。芹川さんにとっては『狼少年ケン』に続いて参加したTV作品になるのだろうと思う。
 僕はつい最近まで、『ロビン』で芹川さんが関わったのは、演出を担当した4本だけだろうと思っていたのだが、この作品で芹川さんは浜田稔、山中肇のペンネームで脚本を書いているのだそうだ。昔から『ロビン』のファン活動をしている人に聞いてみたら、それは彼等にとっては常識だそうで、改めて『ロビン』のロマンアルバムを見てみたところ、ちゃんと第26話のフィルムストーリーのところに「脚本/山中肇(芹川有吾)」と書いてあった。いかんいかん、なんて僕は勉強不足なのだ。浜田稔、山中肇が彼のペンネームだとすると、大変な本数をやっている事になる。具体的には、以下の通り。
第1話「怪星人現わる!」 
第2話「ビッグアイ作戦」 
第3話「黒い象神」    
第4話「SOS航路」   
第6話「宇宙にかける虹」 
第7話「サハラ砂漠の脱出」
第8話「地底基地の怪人」 
第9話「恐怖の渦巻」   
第11話「マンモス空母の危機」
第13話「グリース星の女王」
第16話「撃墜王 パルタの鷹」
第17話「パリ・ファッション作戦」
第25話「友情の瞳」
第26話「パルタ星 最后の日」
第28話「リリに おまかせ」
第30話「呪いの吸血鬼」
第36話「黒マスクの恐怖」
第39話「恐竜ロボット現わる」
第45話「スピードの王者」 
第47話「幻の将軍」
演出/芹川有吾
脚本/山中肇
演出/芹川有吾
脚本/山中肇
脚本/浜田稔 演出/芹川有吾
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/浜田稔 演出/芹川有吾
脚本/浜田稔
脚本/浜田稔
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/山中肇
脚本/浜田稔
脚本/浜田稔
脚本/浜田稔
脚本/浜田稔

 なんと全48話中、彼が参加した話は20本になる。脚本としての参加の方が多い。しかも、「グリース星の女王」や「リリに おまかせ」等、『ロビン』の有名なタイトルの多くが芹川さんの脚本なのだ。
 飯島敬プロデューサーも小島和彦や吉野次郎、あるいは朝風薫のペンネームで脚本を書いており(小島和彦と吉野次郎については、これもロマンアルバムの座談会でも話題になっている。昔のムックもあなどれない)、飯島さんの脚本にも傑作が多い。『ロビン』の作品イメージに関しては、この2人が作り上げた部分が大きいのだろう。以下、これらのペンネームで書いたと言われるエピソードを、芹川作品と扱う事にする。

 『ロビン』は、芹川さんの初期の代表作である。ここに彼の後の作品のルーツを見いだす事もできる。
 第6話「宇宙にかける虹」は、レインボー戦隊の看護婦ロボット・リリと、パルタ人のロミオの悲恋を描いたエピソードだ。芹川作品と言えば、敵側の女戦士が主人公を愛してしまい、葛藤の末にドラマチックに生命を落とす“悲劇の女戦士もの”が話題となる事が多い(それのみが話題になると言ってもよい)が、この話は、そのルーツにあたる作品だ。ただし、この場合に命を落としたのは男性の方だ。前半でリリとロミオのデートの描写がたっぷりあるのだが、そのムードはかなり大人っぽい。当時の子供向け作品としてはやりすぎなくらいだったんじゃないだろうか。このあたりも芹川さんらしい。BGMとして「禁じられた遊び」を使用しているが、これが効いているのだ。
 第28話「リリに おまかせ」はタイトル通り、普段は仲間の修理を担当しているリリが大活躍するコメディ編。仲間のウルフに「女の子なんて役に立たない」と言われたリリが、そんな事はないわよと張り切って王女護衛の任に就く。この話での彼女は、水着姿、ドレス姿、黒いタイツ姿(本人は「今、流行りの忍者スタイル」と言っている)を披露するサービスぶり。後期OPにも使われている彼女がドレスを脱いでタイツ姿になり、悪漢を投げ飛ばすシーンはこの話のものだ。今でこそ女の子のアクションなんて珍しくないが、当時としては斬新な内容であったはずだ。
 「リリに おまかせ」では、お転婆やそそっかしいといった面も含めて、彼女が大変チャーミングに描かれており、アイドルアニメ的な仕上がりとなっている。作り手のキャラクターへの愛情がひしひしと感じられるフィルムだ。また、この話は当時放映していた「ハニーにおまかせ」という、セクシーな女探偵を主人公にした外画ドラマを下敷きにしているらしい。僕はそのドラマを見た事はないのでどのくらい似ているのかは分からないが、黒いタイツ姿はその番組からの借用らしい(特撮ドラマ『宇宙刑事シャイダー』でファンに人気の高い「アニーにおまかせ」も「ハニーにおまかせ」をヒントにして作られたのだろう)。
 傑作ムック「魔女っ子大全集(東映動画篇)」(BANDAI)で、芹川さんは、自分は女の子が主人公のものは『ロビン』のリリで既にやっていたから、初の少女向けアニメ『魔法使いサリー』でも苦労はしなかったとコメントしている。僕はその発言に関してちょっと疑問を感じていたのだが、芹川さんが言うリリが主人公の話というのは、ペンネームで脚本を担当した「リリに おまかせ」や第17話「パリ・ファッション作戦」の事だったのだろう。「リリに おまかせ」は脚本のみの参加ではあるが、芹川さんの“お転婆もの”の代表作のひとつだ。ラストでリリがこの話の演出家に文句を言うというオアソビがあるのだけれど、それが芹川さんのシナリオにあるギャグなのか、演出の田宮武のアドリブなのか気になるところだ。

 第13話「グリース星の女王」も芹川さんの脚本、田宮さんの演出によるエピソード。レインボー戦隊の教授とベルが、自分達のロケットを作った事から起きる事件を描いた、スラップスティック中心の話だ。これも後期OPに一部映像が使われている。OPの、教授とベルがロケットに乗って飛んで行き、洋服屋に突っ込み教授がウェディングドレスを着たり、自由の女神の服がめくれたりするあたりと、警官の恰好をした教授がロケットの上で交通整理をして、敵の円盤を衝突させるあたり(後者は撮影をし直しているようで、本編とOPで背景が違う)がそうだ。「これこそテレビまんが!」と言いたくなるような愉快な仕上がりで、僕がTVで『ロビン』を観たのは小学校に上がる前(それも多分、再放送)だが、一番記憶に残っているのがこの一連のシーンだった。芹川さんはドラマチックなものだけでなく、こういったコミカルなものも手がけているのだ。後半で教授とベルがたまたま着いたグリース星の女王の顔が、たまたまロビンにそっくりという展開になる。この「たまたま」というところが、今観ると大らかでよい。

 第16話「撃墜王 パルタの鷹」は“パルタの鷹”と呼ばれる青年・シーザーと、ロビンの戦いと友情を描くアクション編。前に取り上げた『009』の「Xの挑戦」は、この話のリメイクと言えるかもしれない。
 シーザーは、パルタ皇帝の細胞から作られたクローン人間(劇中では人造人間と呼ばれている)であり、優しい母親のいない孤独な自分の境遇を内心悲しく思っていた。ロビンの母親は以前からパルタ皇帝に捕まっており、シーザーは美しい彼女に惹かれていたようだ。彼はロビンに一対一の決闘を挑む。彼はその理由を、口では自分よりも強い者がいる事が許せないからだと言うが、実は母親を持つロビンに対して嫉妬に似た想いを抱いていたのだ。この話の演出は勝間田具治、作画監督は窪詔之。ビジュアル的にも見応えのある仕上がりとなっている。特にシーザーが決闘を申し込むシーンのカメラの切り返しと背景は、相当にイカしている。
 ロビンとシーザーの戦いは戦闘機による空中戦なのだが、スピードで勝るシーザー機に対して、教授は、速い飛ぶ戦闘機は旋回能力が落ちるのでそこを突くのだと教える。この戦法が妙にリアルなところも、ロビンとパルタの鷹の戦いのシリアスさを盛り上げる。決闘に敗れて傷ついたシーザーはロビンに抱きかかえられ、彼の両親がパルタ星で生きている事を告げ、そして、次は地球人に生まれてくると言って命を落とす。
 ラストカットは、ロビン達が作った彼の墓。その墓標には英語が書かれており、「地球の友“パルタの鷹”この地に眠る」と訳文がテロップで流れる。いかにも、東映動画らしいメロウなラストだ。子供向けの番組でわざわざ墓碑銘を英語で書いちゃうところもいい。このラストカットが余程気に入ったのか、後に芹川さんは『マシンハヤブサ』の第18話「愛はサーキットの 彼方に」で、勝間田さんは『UFOロボ グレンダイザー』の第63話「雪に消えた 少女キリカ」で、同じような墓標のラストカットを作っている(後者は墓碑銘が日本語なので、テロップは無し)。
 クローン人間の悲劇なんて話を、37年も前にやっていただけでも凄い。シーザーはコスチュームのためにあまり顔は見えないが、ちょっと美形風の外見で、気障な言動と悲劇的なドラマにより、アニメファン好みのキャラクターとなっている。賢明な読者の皆様ならばすでにお分かりの事と思うが、この話は、後に長浜忠夫監督が手がける『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)や『超電磁マシーン ボルテスV』(1977年)で、ファンを熱狂させた美形キャラの悲劇に通じるところが多い。「撃墜王 パルタの鷹」等のエピソードが『コンV』や『ボルテス』に直接の影響を与えたとまでは言わないが、そういったアニメファンが好むタイプのドラマ(いや、かつて好んだドラマと言うべきか)を先取りしていたのは間違いない。
 第26話「パルタ星 最后の日」はシリーズ前半「パルタ星編」の最終回。パルタ星に皇帝に反抗するために地下活動をしていたグループがあり、彼等がロビン達のピンチを救う。そして、ロビン達は、遊星がパルタ星に衝突する前に市民達が脱出できるように手助けする、と話は展開。単純な勧善懲悪の物語ではないのだ。このあたりもちょっとアニメファンの心をくすぐるところだろう。大団円に向かう中、第11話に登場した戦闘機パイロットのタイガーと、第13話に登場したグリース星の女王(いずれも芹川脚本の話)が再登場する構成も、この当時のものとしては凝ったものだ。反乱軍のリーダーである勝ち気な女性戦士のベラは、1本前の第25話「友情の瞳」で初登場。かつてはパルタ軍攻撃隊長であったが、非常な皇帝への忠誠心が揺らぎ、反乱軍を結成したのだ。これも後の『六神合体ゴッドマーズ』(1981年)のロゼ等を彷彿させるキャラクターだ。

 アニメブームを起こす直接のきっかけとなった作品が『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)であり、『海のトリトン』(1972年)であり『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年)であったとして、更にその前に、アニメファンが活動を始めるきっかけとなった作品があった。アニメファンを生み出した作品と言ってもいい。その代表が『レインボー戦隊 ロビン』(1966年)であり、白黒版『サイボーグ009』(1968年)なのだ。特に『ロビン』のファンは熱心で、長く活動が続いていた。
 『レインボー戦隊 ロビン』を観返して面白いと感じるのは、大らかな「テレビまんが」の中に、「アニメ」的なカッコよさ等が少々含まれている点だ。テレビまんがが、若者のための娯楽「アニメ」へ変わっていく、その萌芽が見られるのである。『ロビン』にそれを芽生えさせたのが、芹川さんであったのかもしれない。

 今回は『レインボー戦隊 ロビン』の話から『マジンガーZ』に行くつもりだったのだが、書いてみたら予想以上に『ロビン』の話が膨らんでしまった。『マジンガーZ』は芹川さんの演出家としてのテンションが最も上がったシリーズではないかと思う。『マジンガーZ』についての話は、次回更新で!

(続く)

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