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コラム
アニメやぶにらみ 雪室俊一

 第1回 アニメがつまらない

 近頃、あちこちでアニメがつまらなくなったという意見を聞く。
 視聴率的に見ても全盛期は7、8本あった20%以上の番組が現在では、たった2本である。特に小学校高学年層のアニメ離れが顕著だという。
 いろいろな原因が考えられるが、本(シナリオ)に魅力がないのも一因だ。ライターの力量をうんぬんする前に、現在のシナリオの作られ方にも問題があるのではないか。ほとんどの番組で取り入れられているのは“本読み”という制度である。出来上がった本をテレビ局、製作プロ、代理店などのプロデューサー、演出家、文芸担当など、5、6人の人たちが読み、それぞれに意見をいうシステムだ。
 ここではライターは弁護人のいない裁判にのぞむ被告である。不思議なことに、この会議で「こうしたら、おもしろくなるのでは?」という建設的な意見はほとんど出ない。
 各自が争うように本の矛盾点、キャラクターの不自然さなどを突いて来る。悪くいえばアラ探し大会である。自分の意見を先にいわれた者は、ワープロの変換まちがいを指摘して、得々としていたりする。むろん、ライターが反論することもあるが多勢に無勢で勝ち目はない。ぼくのようにあまり強引に主張すると、うるさいライターの烙印を押され、あちこちでホサれる羽目になる。
 まあ、たいていのライターは、ありがたく意見を拝聴し、第2稿にかかるわけだが、改めてメモしてきた意見を読んで頭を抱えることになる。
 A氏の意見を尊重すれば、B氏の意見を無視しなければならない。C、D、Eの意見もある。それぞれの顔を立てる必要はないのだが、手を入れながらも、プロデューサーたちの顔がちらつくのが自由業の哀しさである。
 苦労して仕上げた第2稿を渡すと、再び会議が招集される。ここでOKになればラッキー。最近、ぼくがかかわった番組では3稿、4稿が当たり前。表紙に第5稿と書かれた原稿を何度も見た。
 それだけ直したのだから、初稿よりよくなっているかと思うと大まちがい。いや、よくなっているかもしれないが、おもしろくはなっていないのだ。
 ストーリーは破綻なくまとまり、人物の動きに不自然なところはない。しかし、優等生の作文のようにハートがない。女性でいえば整形美人だ。子どもたちは整形美人より、鼻ぺしゃでも、おもしろいお姉さんのほうが好きなのだ。
 ぼくがライターになった頃は、そういう制度はなかった。プロデューサーは一人か、二人。その人たちがゴーサインを出せばOKだった。いまでも、そういう番組がないこともないが、佐渡のトキよりも貴重な存在ではないか。
 さて、前述の3稿、4稿は当たり前番組。3本目を書いたとき、ぼくもついにキレて「これ以上は直さない!」と宣言した。その結果はどうなったか。みなさんの想像通りである。
 船頭多くして船、山に登るという格言がある。自分の作品を振り返っても、船頭多くして当たった番組は一本もない。
 いま求められているのは、こじんまりとまとまった本ではない。多少、荒削りでも作品の中に脈々と血が流れている、個性的な本である。そういう作品が5人組の会議からは決して生まれないと思う。

●プロフィール

1941年生。神奈川県出身。脚本家。シナリオ研究所を経て、日活映画「あいつとの冒険」で脚本家デビュー。初めてのアニメへの参加は『ジャングル大帝』。以降、多数の作品に脚本を提供してきた。近年の代表作に『サザエさん』『キテレツ大百科』『あずきちゃん』等がある。

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