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コラム
アニメやぶにらみ 雪室俊一

 第2回 黄金のモノクロアニメ

 新人ライターの頃、自分の作品が四半世もたってから、再び日の目を見るなどということは想像もしなかった。
 既にビデオはあったが、天文学的な価格で夢の機材だった。金持ちのテレビ局でさえ、テープを使い回ししていたのだ。だから、当時のビデオ制作のドラマは、ほとんど残っていない。アニメが残っているのはフィルムだったせいだ。
 ヒット作や話題作など、かなりのアニメがビデオ、LD、DVDになっているのに、永遠に埋もれたままで終わりそうな作品もある。
 出来が悪いせいでもなく、ヒットしなかったわけでもない。モノクロだという理由だけで復刻されない、不幸な作品のことを書いてみたい。
 ぼくのアニメ第1作『ジャングル大帝』こそカラーだったが、そのあとに書いた作品は、ほとんどがモノクロだ。
 初めてアニメを書くにあたり、参考のためにと読まされたのは、大先輩の辻真先さんの生原稿をコピーしたものだった。生原稿ではなくプリント台本を読ませてくれというと、本は印刷していないというのだ。
 それまで、劇場映画や構成番組など、わずかばかりの番組を書いてきたが、本を印刷しないような番組はなかった。ラジオのDJ番組でさえ、台本は印刷されていた。
「今度、本を印刷することにしました」
 鼻高々と宣言する『ジャングル』のプロデューサーを前に、ぼくは不吉な予感を感じた。他の世界では当たり前のことを画期的なことのようにいうなんて。
 本を印刷しないということは、本を大事にしないことではないか。その予感は的中して、ドラマよりも絵作りが優先される世界だった。
 むろん、すべてのアニメ会社が本を印刷しないわけではなく、東映動画のような映画会社系では、ちゃんとプリント台本があった。
 元々、ドラマ指向だった、ぼくは長居は無用と、数本書いただけで、『ジャングル』を降りた。
 もう二度とアニメは書くまいと決心したときに、飛び込んで来たのが『ハリスの旋風(かぜ)』であった。紹介してくれた先輩の顔を立てるために、1本だけ書くことにした。
 アニメに絶望していたので、原作も読まず、第1話の初号試写だけを見て、本をデッチ上げた。案の定、プロデューサーは「これはこれでおもしろいんですが」と困惑顔。
 元々、やる気がなかったので「どうもアニメは向いてないみたいで……」と退散した。
 ところが、そのピント外れの作品が急遽、採用されることになった。他のライターの本が遅れ、スケジュールに穴が空きそうになったからだった。
「できれば、次もお願いしたいのですが……」
 遠回しに原作を読んで書くようにいわれて、初めてちばてつやさんの原作を読んだ。一読して衝撃を受けた。すべての登場人物に血が通い、ストーリーが躍動している。マンガ界に、こんなすごい人がいたとは……。
 過去のちばさんの作品も読み、ますます虜になった。乗りに乗った、ぼくは次々とオリジナルストーリーを書きまくった。全部で30本位、書いたと思うが、最初のピント外れの作品を含めて、一回も直しがなく、すべてフリーパスだった。プロットを出せなど、うるさいことをいわずに、なんでも自由に書かせてくれた。お陰で奔放な主人公・石田国松もびっくりの型破りの本を書くことができた。
 続いて書いた『魔法使いサリー』も最初はモノクロだった。そして、初代のプロデューサーも、自由に書かせてくれるタイプの人だった。いま流にいえば「ラッキー!」な出会いだが、考えてみると空恐ろしいことでもある。
 自分の書いた本が忠実に映像化されるということは、すべて自分の責任ということである。文章でおもしろい部分が、映像になっておもしろいとは限らないし、その逆もある。
 ぼくは自作の放送のときは、必ずテレビの前に坐って、食い入るように画面をみつめた。自作を教材にアニメシナリオの勉強をさせてもらったようなものだ。
 だんだんコツが分かって来た頃、舞い込んで来た作品が、ちばてつや原作の『あかねちゃん』である。幸運なことに、このプロデューサーもすべてを任せてくれる人だった。いずれもペーペーの新人ライターに賭けてくれたわけで、当時はこういうサムライプロデューサーが何人もいたのだ。
 ちばさんというと、「あしたのジョー」や「おれは鉄兵」など、男っぽい作品が有名だが、初期には少女ものの傑作をいくつも描いている。
 『あかねちゃん』もそのひとつで元は、「みそっかす」というタイトルだったが、テレビ化にあたって改題された。少々、不満だったが、再びちば作品にめぐり会えた喜びのほうが大きかった。
 この頃、生まれた娘に「あかね」と命名するほど、入れ込んで書いた作品だったが、裏番組が大ヒットした『巨人の星』ということもあって、視聴率的にはふるわなかった。
 しかし、熱心な視聴者から初めて、ファンレターなるものをもらったりして、評判は悪くなかった。アフレコのとき、感極まった声優さんが、ほんとうに泣きだしてしまい、録音がストップするという、エピソードもあった。
 声優といえば、どの作品も素晴らしい声優たちに恵まれていた。『ハリス』の大山のぶ代、小原乃梨子、若山弦蔵、田中信夫さんたち。『あかね』の松島みのり、高橋和枝さんの絶妙なかけ合い。本を何倍もおもしろくさせてくれた人たちだ。
 入口(シナリオ)と出口(声優)がしっかりしていれば、失敗作は生まれないというのが、ぼくの持論である。
 そういう意味では『ハリス』『サリー』『あかね』は成功した作品である。『サリー』はその後、カラー化され、ビデオにもなったが、モノクロの部分は発売されなかった。
 しかし、これらのモノクロ作品は、ぼくの胸のなかで黄金に輝いている。どのカラー作品より華やかに……。

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