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■la sorciere 哀しみのベラドンナ
※最初のeの上に` |
中世フランスのとある村。ジャンとジャンヌの婚礼の日、領主は貢ぎ物の代わりにジャンヌを犯し、家来達に輪姦させた。村は飢饉だったが、悪魔の力を得たジャンヌは紡いだ糸を売って生計を立て、そのおかげでジャンは税金を取り立てる役人になる事ができた。だが、戦争の資金が調達できなかったジャンは左手首を切り落とされ、やがて、ジャンヌは悪魔つきとして村人に追われる事に。ジャンにも見放されたジャンヌは、身も心も悪魔に委ねて、魔女となった。黒死病が村を襲い、人々は倒れていった。ジャンヌは毒草ベラドンナを使い、人々の病を治すのだが……。
原作は、歴史学者ジュール・ミシュレの「魔女」で、強烈なエロティシズムと沈痛なリリシズムで、1人の女性の哀しき物語を描いている。虫プロダクション製作の「大人のためのアニメーション」第3作だが、陽性の娯楽作であった前2作『千夜一夜物語』『クレオパトラ』とは方向性を大きく変え、芸術性の高い作品として企画され、キャッチフレーズもそれまでの「アニメラマ」から「アニメロマネスク」に変更。また、手塚治虫はこの作品の制作中に虫プロから離れており、彼の名はクレジットされていない。
監督は『千夜一夜物語』『クレオパトラ』でも、手塚治虫と共に作品をまとめた虫プロの主力演出家・山本暎一。後の『宇宙戦艦ヤマト』シリーズ等、様々な傑作を手がる事になる彼の、単独での初の劇場監督作品となる。作画監督は、前2作でエロチックなシーンを巧みに描いた、杉井ギサブローが担当。本作でも存分に腕を振るっている。映画中盤の黒死病が蔓延し、そのために街が溶けていくシーン等の原画も描いている。
映像的には、イラストレーターの深井国をフィーチャーし、彼の画を活かすかたちで全編を制作。セル画のテイストを極力排し、静止画を多用する、あるいはイラストを動かすという手法がとられた。そのようなスタイルで作られたにも関わらず、個々の表現が非常に力のあるものとなっており、単なる実験的な作品に留まる事なく、鮮烈なアニメーション作品に仕上がっている。山本監督の才覚が炸裂したフィルムであり、アーティスティックな味わいの作品を多く残した「作家集団」虫プロダクションの集大成的な作品である。
だが、内容が前衛的であったためか『哀しみのベラドンナ』は興行的には失敗に終わり、また、劇場公開のしばらく後に虫プロが倒産しており、大人のためのアニメーションも本作で打ち止めとなった。これほどの内容であるにもかかわらず、その後、振り返られる機会も少なく、『ベラドンナ』はアニメファンにとっては永く「幻の名作」となっていた。文字通り、早すぎた作品だったのである。
全編中、最も異色なシーンがジャンヌが身も心も悪魔に捧げた直後、ポップな画風で様々なイメージが錯綜するパートだ。ここの作画は後に『まんが日本昔ばなし』で演出も手がける美術の児玉喬夫。その後のジャンヌが目覚めるシーンは、まるで油絵が動いているかのような映像だが、ここは漫画家、イラストレーターとしても知られる林静一が担当。不透明の絵の具で描きながら、撮影を進める手法がとられている。
当時の資料には、スタッフの中に「実写撮影」の役職で前衛的な作品で知られる写真家の森山大道の名がある。実は当初、劇中に実写パートが挿入される予定であり、そこに彼が撮った映像を使うプランだったのだ。内容は現代の日本の女性を撮影した、ジャンヌの物語とは直接関係のないものであったようだ。当時の「キネマ旬報」の記事によれば、マスコミ向けの試写では、まだその実写パートが残っていたようだ。
ラストシーンも数バージョンあり、現在ソフト化されているものは、ヒロインのジャンヌが火あぶりになったあと、エピローグのフランス革命に物語がつながるかたちになっているが、この他にも、火あぶりのシーンで終わるバージョンなども公開されている。
また、かつてあるアニメーション専門書に配給会社である日本ヘラルドの社長が、最初の試写で『ベラドンナ』を観て、わけがわからないと言い、そのために制作をやり直す事になったと書かれ、多くのアニメファンは永い間、その逸話を信じていた。だが、1989年に山本暎一監督の著書「虫プロ興亡記 安仁明太の青春」が発行され、新事実が明らかになった。先に納品されたのはダミーの映像を入れて、急いで一度完成させたバージョンであり、スタッフ達は最初からその後も制作を続けるつもりだったのだ。また、前述のアニメーション専門書では『ベラドンナ』が映倫よりカットするように指示されたとも書かれていたが、LDのスタッフコメンタリー(リリース中のDVDにも同じものが収録されている)で山本監督はそれを否定。カットが入ったのは前々作の『千夜一夜物語』であり、『クレオパトラ』だったようだ。そのスキャンダラスな内容に相応しく、『ベラドンナ』は伝説の多い作品なのだ。
●公開データ
1973年6月30日公開 劇場作品
●スタッフ&キャスト
虫プロダクション作品
原作/ジュール・ミシュレ
翻訳/篠田浩一郎
現代思潮社刊「魔女」より
脚本/福田善之、山本暎一
美術/深井国
作画監督/杉井ギサブロー
原画/前田庸生、辻伸一、勝井千賀雄、野部駿夫、岡田敏靖※、出崎統、吉田忠勝、羽根章悦、福田きよむ、光延博愛、北川玲子、村田四郎、関修一 ※青の月は円
動画/小林準治、牛越和夫、猿山二郎、千田幸也、吉橋節、新井雅貴、岩崎治彦
仕上/木戸桂子、竹内翠、笠井志都子、唐崎泰子、鈴木絢子、望月智恵子
作画協力/林静一、ウノ・カマキリ
美術助手/児玉喬夫、下道文治、馬郡美保子、佐々木順子、古佐小吉重、近井美穂
アニメ撮影/山崎茂、月岡英生、柴田昌利、宮内征雄、熊谷※史、藤田正明、宮坂光一郎、下モ由紀子 ※=りっしんべん+晃
編集/古川雅士
現像/東京現像所
音響監督/田代敦巳
音楽/佐藤允彦
効果/柏原満
録音/岩田広一
主題歌/「青い鏡のなかで」ほか
作詞/中山千夏
作曲/佐藤允彦
歌/中山千夏
「哀しみのベラドンナ」
作詞/阿久悠
作曲/小林亜星
編曲/川口真
歌/橘まゆみ
サントラ盤/シネディスク
製作/渡辺忠美、吉田輝明、本橋誠、 小池佳子
声の出演/長山藍子、中山千夏、高橋昌也、米倉斉加年、伊藤孝雄、しめぎしがこ、津坂匡章、山谷初男、新村礼子、林昭夫、山口譲、磯貝陽悟、石橋雅史、折尾吉郎、伊東満智子、後久博、菊池剣友会、仲代達矢
監督/山本暎一
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