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人間が宇宙に乗り出している21世紀、パサトリネ星の住人達が地球に対して「クレオパトラ計画」を企んでいる事が判明。その計画の真相を探るため、3人の未来人の精神が、クレオパトラが生きていた紀元前50年のエジプトに転送された。当時、エジプトは、ローマ軍の侵略を受けており、醜い女であったクレオパトラは、シーザーを陥落させるために整形手術を受けて、絶世の美女となった。シーザーの死後、次のローマの司令官アントニウスがエジプトを襲い、クレオパトラは彼も虜にする。だが、1人の女としての幸せを望むようになった彼女は……。
前作『千夜一夜物語』のヒットを受けて作られた「アニメラマ」第2弾。今回は手塚治虫が原案・構成・監督に乗り出し、山本暎一は共同監督の役職で補佐役として参加。キャラクターデザインは「ヒゲとボイン」や「仙人部落」等で知られる大人漫画の代表的作家、小島功が担当した。手塚の旺盛な実験精神や遊び心、過剰なまでのサービス精神が無秩序に盛り込まれ、いささか混乱気味ながらも、バラエティ豊かな娯楽作品となっている。前作と同様、エロティックなシーンを売りにした宣伝で興行的にもヒットを記録した。「クレオパトラは、実は愛に生きた誠実な女性だった」というテーマの下に、史実のところどころに新・珍解釈をまぶしながら、各登場人物を魅力的に描いており、さすがに安定した巧さを感じさせる。クレオパトラ役の中山千夏、シーザー役のハナ肇など、声優陣の好演もあって、キャラクターへの感情移入は『千夜一夜』よりもしやすいかもしれない。
お遊びでよく話題になるのが「サザエさん」「天才バカボン」「カムイ外伝」など、当時の人気漫画のキャラクター達の友情出演。アクションシーンで突然「スローでもう一度」とVTRリプレイが始まったり、アントニウスとクレオパトラのベッドシーンでは、途中でフィルムが切れて画面が真っ黒になってしまったり。後者は、手塚が後に手がける傑作短編『おんぼろフィルム』のルーツとも言えよう。
画風や、画の処理を変えたスペシャルシーンがいくつかあるのも本作の特徴。ローマ凱旋シーンは古今東西の名画のパロディだが、これはCMなどで活躍する白組の島村達雄が担当。シーザー暗殺シーンは「忠臣蔵」の松の廊下のパロディで、古沢日出夫が描いている。2度あるイメージ的なエロチックシーンは『千夜一夜物語』に続き、杉井ギサブローの手によるもの。映画後半、グラフィックな絵柄でエジプトの女たちが、ローマの兵士達を色気で籠絡していく様子を描いたシーンがあるが、これは手塚自身の原画であるようだ。
また、プロローグとエピローグの未来社会パートでは、実写で人物を撮影し、首から上の部分だけアニメを合成するという手法がとられ、はなはだ強烈なインパクトの映像が生まれた。この部分の実写演出を担当したのは「吸血鬼ゴケミドロ」の佐藤肇監督である。このシークエンスは再公開やTV放映時にはカットされる事が多く、単にエジプトに始まりエジプトに終わる史劇として編集されたバージョンもある。
解説テロップで唐突に終わってしまうラストは、要約すると「異星人の地球侵略計画とは、地球人の女に化けて男達を骨抜きにする計画であり、現在も作戦は着々と進行中」というもの。アフレコ台本では、報告によって計画の内容が明らかにされたところで局長の奥様が登場し、夜のお勤めを強要された局長が「みなさん、女房ってもんは宇宙人です。気をつけるのヨ」と観客に警句を述べて幕、という艶笑的なラストだった。おそらくはそれを手塚自身が冗長と考え、短く切りつめたものと思われる。また、さらに遡って製作初期の脚本では、宇宙人やクレオパトラ計画といった設定そのものがなく、すでに愛という感情を失った未来人の男女が、クレオパトラの生き様を目の当たりにして、未来に戻ってからも愛を育もうとする、という作品のテーマに沿ったエンディングが考えられていたようだ。
●公開データ
1970年9月11日公開 劇場作品
●スタッフ&キャスト
〈オープニング〉
虫プロダクション作品
原案、構成/手塚治虫
声の出演/中山千夏、ハナ肇、なべおさみ、吉村実子、加藤芳郎、阿部進、柳家つばめ、初井言栄、野沢那智、塚本信夫、入江洋佑、今井和子、東京演劇アンサンブル
製作/米山安彦
脚本/里吉しげみ
考証/カセムアリ
キャラクターデザイン/小島功
音楽/富田勲 ※クレジットママ
作画/中村和子、波多正美、赤堀幹治、上口照人、杉井ギサブロー、島村達雄、古沢日出夫、木下蓮三
トレス/池田径子
ペイント/福永雅子、木戸桂子、松田和子
ブラシ/安斎儀之
美術/伊藤主計
背景/槻間八郎、伊藤攻洋
色彩設定/山本義也
装置/深田達郎
撮影/三沢勝治
実写撮影/本田毅
実写合成/堀口忠彦
実写演出/佐藤肇
編集/古川雅士
音響/田代敦己 ※クレジットママ
効果/柏原満
録音/熊谷良兵衛、東京スタジオセンター
指揮/中村英夫
クレオパトラのテーマ
作詞/中山千夏
作曲/富田勲 ※クレジットママ
歌/由紀さおり
ゲリラの歌
作詞/能加平
作曲/小室等
歌/六文銭
製作進行※/中川宏徳、南川博、本橋誠、若尾博司 ※クレジットママ
資料/飯塚正夫
現像/東京現像所
監督/手塚治虫、山本暎一
〈エンディング〉
作画/北野英明、進藤満尾、佐々門信芳、小川隆雄、渡辺佳子、牛越則与、小林準治、谷沢豊、上梨壱也、牛越和夫、新田雅利、札木幾夫、吉村昌輝、木口準、木村一郎、海老沢幸男、芦田豊雄、野部駿夫、朝戸澄子、堀越新太郎、川尻善昭、山守博昭、飯島睦、太田佐秩子、加藤誠一、進藤みゆき、松田信男、石黒篤、尾崎三男、金子賢介、松本豊、吉野康子、根岸峰雄
トレス/若月初美、品川和子、泰光江、田代和、牧野洋子、西山悦子、国定道子、井上真理子、松本幸恵、大関晴子
ペイント/伊藤幸世、清水和子、家城雅子、笠井志都子、横田加寿子、川村ほづみ、唐崎泰子、堀口恵子、井口真佐子、山崎登美子、奈良美智子、柳沢陽子、思田文子、阿部照子、佐藤節子、福井由美子、橋本礼子
背景/宮川一男、西村邦子、田辺めぐみ、清水勝江、下道文治、横瀬直土、門屋達郎、川奈部広次、浜谷由起子、稲場富恵、水野尾純一、西芳邦、平林茂、椋尾篁、加藤清、工藤剛一、小関俊之
撮影/山崎茂、深野純一、島敏之、星邦樹、周東俊雄、中村桜子、森岡節子
編集/塚原瞳、大岩羨子、渡辺れい子
音響/明田川進、下野留之
合成/小峰正敏、辻本幸七、宮内征雄
協力/東京コマーシャルフィルム
制作/近井勉、藤田健、織田三郎、吉田進一、和田全功、梅村豊久、宮崎裕史、岩田章、中山賢二、小幡万里子、関葵、島貫美恵子
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