日時■2005年3月13日(日) 16時〜
会場■LOFT/PLUS ONE
出演■大地丙太郎、原口正宏、安原麗子、齋藤彩夏、麻生かほ里
司会■小黒祐一郎
■主な上映作品
『妖精姫レーン』(抜粋)、文化映画『大淀川危機一髪』、『宮ヶ瀬ダムマン』、自主制作アニメ『ギタをもってる渡り鳥』、『ペッパー警部』(制作途中のもの)、カラオケビデオ(実写)、山本耀司ファッションショー・ドキュメント(実写)、ショートアニメ『機動線士ガンダム』他。
新春放談をきっかけに企画が成立した第21回アニメスタイルイベント。長い長いイベントの内容をかいつまんで紹介しよう。満員の会場の中、小黒編集長の前説に続いて登壇した大地監督は、お気に入りのお酒、サントリーオールド(通称・だるま)を自ら持参。やる気満々だ。と、そこに飛び入りゲストの安原麗子さんが花束を持って登場。監督10周年をお祝いしての花束贈呈に会場は大拍手。リラックスしたムードでイベントはスタートした。
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第1部は監督以前のお話。高専時代はグラフィック工学科で、活字組版などの印刷の勉強をしていたと話す大地監督。そこから話は意外な方向に転がり、大地監督が透過光用のリスマスク制作とタイトルワークを担当する、アズスタッフという会社を設立していたという秘話が明らかに。なんと『AKIRA』の制作にも関わっていたそうで、この話には小黒編集長も驚いていた。その後、学生時代の自主制作アニメ『ギタをもってる渡り鳥』と、撮影の仕事をやっている時代に途中まで制作した『ペッパー警部』を上映。前者は一発ネタの短いものだが、間合いのよさが効いており、会場は大受け。『ペッパー警部』は、仕事で関わった『未来少年コナン』に影響を受けて作ったものだそうだ。
大学卒業後は舞台写真家になるつもりで、とあるカメラマンに弟子入りの内諾を得ていたものの、ひょんなきっかけでアニメーション撮影会社に入社することに。そこで、アニメ撮影の仕事に5年間携わり、その後、実写の世界に転身……とトークが進む中、タイミングよく「データ原口」ことアニメ研究家・原口正宏さんが到着。大地監督の実写映像がベータテープに保存されていたのを、ダビングして持ってきてくれたのだ。早速、ビデオ制作会社時代に撮ったカラオケビデオ2本を上映。当時は、歌詞の内容にあてた映像のカラオケビデオが多かったが、あえてアテ撮りはせず、唄う人のイメージを喚起させるような映像を心がけたそうだ。
続いて上映された実写映像第2弾は、ファッションデザイナー・山本耀司のファッションショー舞台裏ドキュメント。撮影を担当した作品で、公には発表されていない超貴重作品だ。「山本氏には近寄らない」「照明は使わない」「三脚を立てない」という条件で、マネージャーの許可をもらって撮影したものであり、後に山本耀司自身もその出来を絶賛したそうだ。「ビデオでここまで撮れるんだとアピールしたかった」と大地監督が語るように、映像は非常にスタイリッシュかつ美麗。大地監督の作るアニメの映像とは方向性の違うものであり、監督の意外な一面を垣間みることができたのではないだろうか。オマケとして、原口さんがたまたま録画していた当時の少女隊のCMが流された。これは以前に大地監督に「欲しい」と頼まれていたものなのだ。会場は大拍手で、安原さんも自分のアイドル時代の映像に照れまくりだった。話は前後するが、大地さんは少女隊の大ファンである。この第1部では元少女隊の安原さんを、監督が声優として起用するまでの爆笑エピソードも語られた。
大地監督はビデオ制作会社でカラオケビデオ等を撮った後、再びアニメーションの世界に戻り、制作進行を経て演出家デビューを果たす。第1部後半では、その頃の代表作である『おぼっちゃまくん』の思い出が語られた。
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第2部は、監督になってからのお話。飛び入りゲスト2人目は齋藤彩夏さん。現在17歳の齋藤さんは、アニスタイベント初の未成年ゲスト。大地監督の『トイレの花子さん』が声優デビューの彼女は、当時は小学2年生だったそうだ。
最初の話題は、初監督作品の『りりかSOS』。「監督をやって、初めて人を褒める大事さを知った」と語る大地監督。「人を褒めるということを、意外と人はしない、いいなと思ったことはどんどん言った方がいい」。スポンサーやプロデューサーの絶賛の言葉を、しつこいくらいに現場のスタッフ達に伝えて回ったという。
続いて、監督2本目となる『妖精姫レーン』のダイジェストを上映。主人公とヒロインの妖精の言葉が全く通じず、全編会話が成立しないという本作は、セリフの面白さが際立つ「ことばアニメ」。早口、全く理解できない方言、2人のキャラクターが同時に喋るなど、当時の大地作品の特徴が色濃く出ている作品だ。
その後は『こどものおもちゃ』をはじめとする監督作品について、思い出と裏話が続いた。たとえば『おじゃる丸』のオープニングで歌を北島三郎に、作画を鈴木伸一に依頼したのは、実は「祭りだ!ワッショイ」という35年前のバラエティ番組がきっかけであったとか、あるいは『マサルさん』の画面に登場した謎の「×」についての秘話等々。
第3部は『十兵衛ちゃん ―ラブリー眼帯の秘密―』以降の作品についてのお話。飛び入りゲスト3人目は麻生かほ里さん。麻生さんは『りりか』での大地監督との出会いに始まり、アフレコに行く途中の道で二日酔いで吐いてる大地監督を目撃した話など、いくつかの愉快なエピソードを披露してくれた。そして最後に、「大地監督は、いい人たちとずっと関わってきて、いい仕事をずっとしてきている。これからも全ての大地作品に関わっていきたい」とラブコールを送り、退場。
その後も、各作品の制作秘話が続いた。その中で印象的だった話題をひとつ紹介しよう。戦争をリアルに描いた異色作『今、そこにいる僕』について「主人公のシュウは、自分の分身でもある普通の少年。彼が戦争という状況に投げ込まれた時、どう感じるかをやりたかった」と監督。小黒編集長の「『レジェンズ 蘇る竜王伝説』の主人公もシュウだが、これは『今僕』と何か関係が?」という質問に、『レジェンズ』はテーマ的に『今僕』と通じるものがあるからだ、と答えた。おお、意外な事実が明らかに。最終回(3月27日放映)はシュウに自分の思いを託して絵コンテを描きあげたそうだ。2作品で同じ名前の主人公を演じた、声優の岡村明美さんも非常に感慨深かったそうで、一昨日は感激の打ち上げになったとの事。
その後、休憩をはさんで、幻の初監督(?)作品『大淀川危機一髪』を上映。この作品は、宮崎県大淀川の灌漑事業をPRするための文化映画。はじめは、途中までの上映予定だったが、学習アニメ調のコミカルなストーリーに会場は大受け。結局、最後までの上映となった。特にラスト、禁断の〇〇オチに会場は大爆笑。大地監督曰く「(しみじみと)こういうオチだけはやっちゃいけないですよ……」。続けて、同趣向の文化映画『宮ヶ瀬ダムマン』も上映。こちらはショートショート集なので、その中の数本を観てもらった。
大トリは、このイベントのために制作したショートアニメ『機動線士ガンダム』! 文化庁メディア芸術祭のシンポジウムで会った、富野監督のクールな司会ぶりに惚れ込んで、この題材を選んだのだそうだ。しかし、大地監督は『ガンダム』を一度も観た事がない。『ガンダム』を知らないで作ったものとは? ……それは、会場に来て下さったお客さんだけが知っている秘密という事にしておこう。ナンセンスな内容に、場内では爆笑が起きていた。次回アニメスタイルイベントでも大地監督は新作ショートアニメを作って下さるそうなので、お楽しみに。
最後に、大地監督の今後の予定と抱負を語っていただき、イベントは全て終了。予定を2時間も超過し、なんと7時間の長丁場となってしまったが、ほとんどのお客さんは最後までお付き合い下さいました。それと、7時間をハイテンションで乗り切った大地監督のスタミナと、やる気満々ぶりにも脱帽! より一層のご活躍を期待しています!
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●関連サイト
大地丙太郎Web
http://www5c.biglobe.ne.jp/~akitaroh/
(05.03.30)
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