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アニメの作画を語ろう
animator interview
福島敦子(2)


小黒 話はいきなり飛ぶんですが、『ファィヤーGメン』って、福島さんのその後のお仕事と近いですよね。
福島 あはははっ。もう、ほぼアレですよ。
小黒 あ、そうですか。
福島 いや、とにかく楽しそうなんで印象深かったですからね。
小黒 その後も、大橋さんとよく一緒にお仕事なさっていますよね。そのせいかもしれませんけど、『ファィヤーGメン』を観ると、「まるで福島敦子のアニメのようだ」なんて思ったりもするんです(笑)。逆なんですけどね。
福島 『ジャックと豆の木』(注3)なんて、「『ファィヤーGメン』に近づきたいな」っていう思いが頭の片隅に必ずありましたから。
小黒 それは目標として?
福島 と言うか、「ああ、あそこまでできたらいいなあ」っていう感じですかねえ。ああいうのってできないんですよ、スタッフの人数が増えれば増えるほど。どうして『ファィヤーGメン』はあれだけ人が入っていて、できるんだろう。……って、それは、やってる人が凄い人ばかりだからなんですけど(笑)。
小黒 まあ、原画が杉野、川尻(善昭)、大橋で多分大半でしょうから。
福島 今でも、「どうしてあのテンションが保ててるんだろう」って思いますよ。凄いレベルですよね。
小黒 魂みたいなものがこもってますよね。
福島 魂かあ(笑)。そうそう、思い出した。マッドハウスの時なんですけど、川尻さんと出崎さんが、絵コンテに関して、「パワーが足りない」とか「魂が足りない」とか、そういう会話をしているのが、壁ひとつ向こうから聞こえてくるんですよ(笑)。
小黒 そういう会話が日常的になされてたんですか。凄い現場だなあ(笑)。
福島 こちらはもう、ヘッドホンして「聞こえない、聞こえない」って唱えながら仕事してました(笑)。
小黒 ははは。『金の鳥』に戻りますけど、あの作品は、自分のやりたかった世界に近い感じだったんですか。
福島 そういうわけでもなくて。あれはキャラクター作りに関わらせてもらったんで、それだけで面白かったですね。久々の「かわいい系」だったので(笑)。「ああ、戻ってきたかなあ」って。
小黒 ご自分でキャラクターを手がけられたのも、最初にキャラクターを手伝った作品以来という事になりますよね。
福島 そうですね。だから、他の作品は、もうずーっと「お勉強」っていう感じがありましたねえ。
小黒 『コブラ』や『ゴルゴ』もお勉強だったんですか?
福島 そうですね。全部お勉強ですね。30カットあって、1カット上手くいったらいい方、というような、そういう感じでしたから。でも、お陰様でいい経験になりました。
小黒 その頃はメカなんかもお描きになってますしね。
福島 そう。「描こうと思えば描けるんだあ」っていうのが分かってきたんですよね(笑)。つまり、価値観が分かれば描けるんだ、って。そうでないと面倒で描きたくなくなるんですよ。「なんでこんなに何かいっぱいついているんだろう」って。「この形がいいな」って思えば、描けるんですよね。自分の興味を持つもの以外に色々飛び込んでくるんで、それが凄く勉強になりましたよ。
小黒 なるほど。そもそも『金の鳥』に参加するようになったきっかけは、なんだったんですか?
福島 なんとなくの流れだったと思います。私は、自分から「これやらせてください」と言うタイプではなかったから。そうそう、『金の鳥』では、石川(山子)さんと仕事した事が印象的でしたね。
小黒 石川さんと言うと、美術監督の方ですよね。かなり密にやり取りしたんですか。
福島 あれは割とべったりくっついてやってましたね。
小黒 その後も一緒にお仕事されてますよね。
福島 うん。あの画が好きなんですよ。独特じゃないですか。
小黒 ええ。比較するものがないくらいですよね。
福島 ないでしょー。(彼女は)凄く時間がかかるタイプなんで、大変なんですけど、「いいなあ」と思えるんです。『金の鳥』の当時は話し合いも凄くやってるはずですよ。
小黒 『金の鳥』のキャラクターって輪郭線がつながっていませんよね。あれはどなたの発案なんですか。
福島 うーん、最初の頃に、キャラクターをどう味付けしていこうかって話を大橋さんとしたんですよ。そのまま線をギュッと引いてしまうと、堅い感じがする普通の画になっちゃうんです。それで、線をよれよれとさせるか、それとも線を切って軽い感じにするか、どっちがいいだろうという事を大橋さんから相談された覚えがありますね。線をガタつかせるのは、私も大橋さんも好きなんですよ(笑)。
小黒 ガタつかせる、と言うのは、つまり、線をきれいに引かないって事ですか?
福島 そうそう。うにょうにょ、ヨレヨレとさせるの好きなんですよ。ただ、それだと、動画がついてこられないだろう、と。線を切るのであれば、パターン化できるんじゃないか、という事でああいうふうになったんだと思います。だから、大橋さんと話して決めた、という感じだったんじゃないかな。
小黒 あのー、そういうところに監督は介入してこないんですか?
福島 あんまりうるさく言われなかったですねえ(笑)。平田(敏夫)さんは割と鷹揚な方だったんですよ。それに大橋さん作監って事で、安心して任せてらっしゃるという感じでした。
小黒 わがままなヒロインが印象的ですけど、ああいうところは脚本のままなんでしょうか。
福島 そうですね。そういうところには踏み込んでいないですね。キャラクターや画面作り、例えばロボットが暴れるところなんかは、結構変えちゃったかもしれない。
小黒 ああ、そういうところについてはアニメーターのアイディアも入っているわけですね。
福島 うん。コンテの段階で……あれ? どうだったかな。コンテどおりに描いてたんだったか、ちょっと思い出せない……。コンテを結構変えてたような気もします(笑)。
小黒 ははは。原画も描いてらっしゃるんですよね。どこをやられたんですか?
福島 言いたくないなあ(苦笑)。魔女のところとか、ロボットのところです。
小黒 あ、ロボットもやられているんですか。
福島 最後のあたりのドドドーッっていう破壊シーンあたりを描いてたような気がするんですけど。
小黒 なるほど。その後が『カムイの剣』だと思うんですけど、これはさっきおっしゃった「お勉強」に近い?
福島 そうですね。『カムイの剣』では、主人公が腰のところに帯を巻いているんですけど、それが凄く長いんですよ。それを描くのが面倒くさくてね。ところが、なかむらさんが描くと、それが滅茶苦茶格好よくなびくんですよね。「あ、こういうふうに思えば描けるな」って気がついて、それから後は、楽しくなったのは覚えてます。
小黒 どこをやられているんですか。
(注3)
『ジャックと豆の木』
OVA「アニメ・アート・ビデオ・コレクション 童話」シリーズの1本。彼女は絵コンテ、キャラクターデザイン、作画監督を担当している。監督は森本晃司だが、ほぼ彼女の手になると言っていい。独特なビジュアルの異色作。
福島 えーっ。……戦っているところだとは覚えているんですけど……(注4)。いや、本当に忘れているんですよ(笑)。
小黒 僕らの印象だと、その次に大きな仕事は『迷宮物語』になるんですが。
福島 ああ、そうですね。あれは延々時間がかかってましたね。1年間はたっぷりありましたね。もしかしたら、作画の方が先に終わったかもしれない。
小黒 えっ? 作画の方と言うと……。
福島 背景に時間がかかってたから。
小黒 ああ! これも石川山子さんですよね。この作品も、とてつもない背景で。
福島 無茶苦茶描き込んでましたからねえ。
小黒 リアルなものならまだしも、ああいう絵本的なタッチのもので、あそこまで描き込んでいるのは珍しいんじゃないですか。
福島 あれは、背景をじっくり見せるカットも多かったですからね。普通のようにキャラクターのうしろに背景があるんじゃなくて、背景の上にキャラクターが乗っていると言うか。描き甲斐もあったと思います。
小黒 これは、デザインから福島さんが1人でやられたんですね。
福島 ええ……。
小黒 これはマッドハウスの丸山(正雄)さんからうかがった話なんですが、「りん(たろう)さんが福島さんに何かやらせたくて立てたような企画だ」と。
福島 そうなんですか? それは初めて聞きますけど……(笑)。まず、りんさんがこういうふうにしたいっていうイメージが先にあるんですけど、それがちゃんとは固まっていないんですね。で、切り抜きだとか、写真だとか……りんさんは武井武雄とか初山滋といった昔の絵本作家の画なんかが好きで、その画なんかを、イメージボードみたいな感じで壁に貼っていくわけですね。こっちはこっちで、あんなキャラ、こんなキャラって描いては貼っていって。で、りんさんがそれを「こっちよりはこっちかなあ」みたいな形で選びながら段々詰めていったんです。
小黒 「最初は短いものを作るはずが、やっていくうちに長くなって、他の2本と同じぐらいになってしまった」と、りんさんはおっしゃっていますけど……。
福島 あ、やっぱりそうなのか(笑)。最初は「合間合間の狂言回しだから、オープニングとエンディングみたいなものだよ」と言われてたんですよ。でも、結局、その「合間」はなくなっちゃって、長くなって……。なんでそうなったのかは定かじゃないですね(苦笑)。
 あれが面白かったのは、キャラクターを考える時に、鉛筆じゃなくて、筆で描いているんですよ。そういうふうにやってみようかな、って筆でベタベタ塗りながら考えて、それをまた鉛筆で起こしてみたり……。
小黒 猫なんかは、どなたのアイディアなんですか。
福島 最初に私が描いたのは全然違うものだったんです。浮世絵の雲みたいな、和猫を描いたんですけど、りんさんが「洋風のペルシアンみたいな、ああいう猫にしてくれ」って言われたんですね。
小黒 以前、福島さんから見せていただいた資料の中に、本編と同じような、極端なパースのついた塀に囲まれた道のボードようなものがあったんですけど、あれは準備段階で描かれたものなんですか。
福島 そうです。ああいうものをドンドン描いていって、それが段々クロスオーバーしていくんですね。石川さんと一緒に、とにかく描いていって、それをりんさんがまとめていったんです。
小黒 と言う事は、石川山子さんも準備段階で入っているんですね。
福島 ええ。メインスタッフとして、スタジオでも背中合わせでやってましたから。
小黒 今の話からすると、作画に入るまでの期間が結構長かったんですね。
福島 そうですね。とにかく時間がかかったと思います。まあ、向かいでは大友(克洋)さん達が着々と進めていたから、そんなにのんびりはしてなかったと思うんですけど……。
小黒 ははあ。でも凄い3本立てでしたよね。
福島 もう、滅茶苦茶プレッシャーでした。
小黒 あ、そうなんですか。
福島 「向こうは向こう、こっちはこっちだ」って言いながらやってましたけどね(苦笑)。森本には、「なんか面白そうだよねえ」とか「楽そうでいいねえ」みたいな事を言われましたね(笑)。
小黒 「楽そう」って?
福島 「自分で描いて、自分で動かしていいねえ」って。
小黒 なるほど、森本さんの方は、大友さんのキャラクターでしたからね。
福島 でも、大友さんの作品がやりたくてやってたんだから、大変だって言ったって、それは仕方がないですよ。
小黒 ははは。でも、これで『ファィヤーGメン』的なものは、ある程度達成できたんじゃないですか。
福島 うーん……ちょっと違うんですよね。
小黒 と言うと?
福島 やっぱり、根本がりんさんのものなんですよ。自由にやらせていただいているとは言え……。まあ、そこがりんさんの巧みな、一種独特な作り方なんですけどね。
小黒 ふーむ。「ラビリンス*ラビリントス」はかなりご自分で原画も描かれているんですよね。
福島 ええ。あんなに描いたのは初めてかもしれませんね……いや、『金の鳥』の方が描いているかな? でも、半分ぐらいは描いていると思います。
小黒 特に家の廊下の場面のように、凄いパースがついているカットがあるじゃないですか。ああいうのはコンテどおりなんですか。
福島 そうですね。コンテができ上がってからは、もうそれに忠実に進んでいたと思います。それまでは色々アイディアは出しましたけど、その頃は、すでにもう必死だったから。「とにかく終わらなくちゃ」って(笑)。
小黒 街行く人々が平べったくなって、倒れていきますよね。あれはどなたのアイディアなんですか。
福島 あれは、りんさんから出たものですね。どうやって描こうかって、私なりに随分考えたんじゃないかな。全部タッチも入れたんですよね(笑)。それも黒だと堅いので、グレーのカーボンを探してもらったんですよ。「グレーはトレスマシンを通しても線が出ないんだよね」と言われたんですけど、「それでもいいんですっ」って言いながら(笑)。どうなるか自分でも分からないくせに、そんな事をやってみたり。
小黒 あの作品は、1カット1カット、見た目の面白さを大事にしていたんですか、やっぱり?
福島 うん。そうするしかないですからね。画面で遊んでいると言うか。そういう仕事は今までなかったから、面白かったですね。こんな事やらせてもらっていいのかなあ、なんて思ってました(笑)。あとで、「これはあまりにもマニアックだ」って角川春樹さんから、言われたらしいですけどね。「そりゃそうだよね」って思ったけど、私も(笑)。
 描くのは簡単ですけど、作品としてどう持っていくのか、どういうふうに見せていくのか……。お話や主人公の詳しい説明もなく、唐突なだけに難しいですよね。他の2本があるから、あれがあってもおかしくないと言うか、なんとかひとつの作品として収まっているように見えるけど。でも、まあ、それは私が考える事じゃないからって、割と気楽にやっちゃったんじゃないかなあ。
小黒 3本続けて御覧になった時はいかがでした?
福島 あれは、いまだに普通の目では観られないですね(笑)。異様に力が入っていて面白いな、とは思ったんですけど、仕事している人間として観ちゃいますから。普通の人間が劇場に観に行く動機づけはどこに求めればいいんだろう、って(笑)。
小黒 なるほど。で、その後『ロボットカーニバル』へ行くわけですね。
福島 うん。あれはやる人が他にいなかったのか(笑)。……でも、やりたいって言ったんでしょうね、私も。
(注4)『カムイの剣』での担当カット
「愛蔵版MOOK カムイの剣」(角川書店)によれば、映画が始まってすぐの次郎の修行シーン(大橋学、川尻善昭、新川信正と共に)、次郎とジュリーの別れから箱館戦争までのシーン、最後の西郷隆盛とすれ違うシーンを担当したようだ。

●「animator interview 福島敦子(3)」へ続く

(01.12.05)




 
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