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アニメの作画を語ろう
animator interview
橋本晋治(1)


 橋本晋治といえば、アニメスタイルで頻繁に話題になっている『THE八犬伝』の第1話「万華鏡」でのインパクト抜群のビジュアル、『ユンカース・カム・ヒア』のパイロットフィルムでのリアルな芝居、『SPRIGGAN』のトルコでの追っかけのアクション等々、濃密な仕事で我々を魅了するアニメーターである。
 彼はリアル系作画を代表するアニメーターであり、自分で芝居したビデオを参考に作画をするという独特の手法をとり、よりリアリティのある作画を実現している。また、「夢枕獏 とわいらいと劇場」の「四畳半漂流記」では他作品では見た事もないような奇妙なキャラクターを描き、『課長王子』のオープニングではライブフィルム風のお洒落な映像を作り上げており、その仕事の幅の広さには驚かされる。
 キャラクターデザイン、作画監督を担当した『ANIMATRIX』の一編「KID’S STORY」は、リアリティとビジュアルの魅力を両立させた、彼ならではの作品だった。


2003年5月25日
取材場所/東京・武蔵小金井
取材・構成/小黒祐一郎
PROFILE

橋本晋治(HASHIMOTO SHINJI)

1967年10月6日生まれ。京都府出身。血液型はB型。高校卒業後に上京。テレコム・アニメーションフィルムでアニメーターとしての活動を始め、その後、フリーに。以降、様々な作品に参加。大平晋也と共同で作画監督を務めた『THE 八犬伝』第1話「万華鏡」で業界の注目を集める。『ユンカース・カム・ヒア』パイロットフィルムの頃からリアル志向が高まり、現在までリアル系作画を代表するアニメーターとして活躍。昨年は『ANIMATRIX』の一編「KID’S STORY」でキャラクターデザイン、作画監督を務め、『TOKYO GODFATHERS』ではアパートのシーンの原画を担当した。他の代表作に『SPRIGGAN』(原画)、『ホーホケキョ となりの山田くん』(原画)等がある。

【主要作品リスト】

小黒 先に今日の取材テーマについて説明しますね。橋本さんのお仕事って、凄く幅が広いですよね。大胆にディフォルメしたアクションを描く事もあれば、スタンダードな作画をする事もある。それから、え!? というようなものをお描きになる事もあって、いまいち、正体が掴めないっていうところがありましてですね。
橋本 そうかもしれないですね(苦笑)。
小黒 かといって、職人的になんでも描きますというタイプとも、ちょっと違うと。
橋本 そこまではいってないですね(とほほ)。
小黒 今日は、そこら辺のお話を聞けるといいなと。
橋本 あはは(笑)、そうですか。
小黒 そもそも、アニメーターになろうと思ったきっかけは、何になるんですか。
橋本 金田(伊功)さんから入りましたね。それもまあ、ほとんど兄貴の影響ですけどね。
小黒 お兄さんと言うと、橋本浩一さんですね。
橋本 はい。兄貴が先に(金田さんの作画を)好きになって、そこから興味を持って。まず、最初は金田さん。次が小松原(一男)さん、杉野(昭夫)さんとか。
小黒 つまり、1979年とか80年ぐらいですね。映画の『(銀河鉄道)999』の頃。
橋本 そうです。それで、画を描くのは元々好きだったから、アニメーションばっかり観るようになった。これを仕事にできたらいいなと思って。先に兄貴がこっち(東京)に出てきていたもので……。
小黒 お兄さんと年齢はどれぐらい違うんですか。
橋本 3つです。
小黒 お兄さんは、高校卒業後に上京?
橋本 ええ。僕も3年遅れて高校を出て、上京。
小黒 お兄さんと同じスタジオに行ったわけじゃないんですね。
橋本 ではないです。兄貴はタツノコ研究所というところに行って。僕はテレコムに入ったんです。
小黒 テレコムを選んだ理由は。
橋本 なんだったかなあ。どこにしようかと考えてる時に、大塚(康生)さんの「作画汗まみれ」や「ホルスの映像表現」を読んで。そっちの系統に興味を持って。ちょっと、まともな方と言うか(笑)。
小黒 正統的な系統の作画という事ですね。
橋本 そうですね。(テレコムなら)そういうものが学べそうな気がしたから。
小黒 それが何年ぐらいになるんですか?
橋本 17年前ですね。
小黒 86年ぐらいですね。テレコムでの同期の方はどなたになるんですか。
橋本 同期は西見(祥示郎)君とか。あまりご存知でないと思いますよ。同期は、ずっと最近までテレコムにいましたから。
小黒 同期の方は、テレコムで合作の仕事が多かったという事ですね。橋本さんは、貞本(義行)さんや田中達之さんよりも後なんですね。
橋本 後です。2年ぐらい後じゃないかな。僕が入った頃には、もう(そのあたりの人達は)いませんでしたけどね(笑)。
小黒 テレコムはいかがでしたか。
橋本 定時が辛かったです。時間が決まってるのが。
小黒 出社時間ですか。
橋本 はい。朝が弱いもので。目いっぱい遅刻しまくって、怒られてばっかりでした。
小黒 テレコム時代に原画デビューしてるんですか。
橋本 いえ、原画は辞めてからです。
小黒 テレコムには、何年ぐらいいたんですか。
橋本 ちょうど1年。
小黒 ああ、そんな短いんですか(笑)。
橋本 あはは(笑)。隣の部屋で、兄貴が原画を描いていたので、とにかく早く原画を描きたかった。
小黒 上京してから、お兄さんと同居していたんですね。
橋本 そうです。最初の数ヶ月は同居していて。(アパートの)隣の部屋が空いたから、そっちに転がり込んで。
小黒 なるほど、なるほど。「テレコム出身」と言うほど、テレコムにいたわけでもないんですね。
橋本 そうかもしれないです(笑)。
小黒 初原画は、何になるんですか。
橋本 初原画は『(きまぐれ)オレンジ★ロード』。
小黒 名前、出てますか。
橋本 出てますよ。
小黒 かなりやってるんですか。
橋本 いえ、1話だけなんですけどね。多分(制作会社に)切られたんでしょうね。あははは(笑)。『オレンジ★ロード』を1回やって、その次は『CITY HUNTER』を2回やらせてもらって。その後が『ザ・サムライ』になるのかな。
小黒 なるほど、なるほど。『ザ・サムライ』って制作はどこだったんですか。
橋本 銀河帝国です。
小黒 あれってビデオを観てもどこにも出てないんですよ。制作のクレジットが。
橋本 そうなんですか。銀河帝国で、出てないんですか。
小黒 ええ。『ザ・サムライ』はどこをお描きになったんですか。
橋本 えっと、どこだっけなあ。主人公が双子の女の子に追いかけられてる。
小黒 中盤の追っかけですね。追いかけられて、妹が入っているお風呂場に飛び込んで「きゃー」とか言われて。
橋本 そうそう、あのあたりです。
小黒 取材に備えて観返したんですが、あれはグッドですよね。芝居の遊びもあるし、ちょっとテレコムチックな作画だし。
橋本 あははは、かもしれない(笑)。
小黒 テレコムにいた事での影響は、あまりないんですか。
橋本 影響ですか。テレコムって言うよりは、富沢(信雄)さんですね。
小黒 富沢(信雄)さんですか。
橋本 富沢さんに、色々と教えてもらったんですよ。それは自分的にはかなり大きいですね。
小黒 教えてもらったのは画の描き方とかですか。
橋本 描き方よりも、気持ちの部分かな。心構えとか。多分、富沢さん自身は何かを教えようなんて意識ないときに、勝手に僕が影響を受けたと思っているんですが。
小黒 この頃で、まとまった仕事って言うと、何になるんですか。
橋本 この頃はあまり数やってないですよね。『CITY HUNTER』までは30カット〜50カットやってたんですけど。『サムライ』で、なんていうか考え込んじゃったんです。10数カットに半年近くもかけてしまったので。
小黒 あの追っかけのところを描くのに、半年ですか。
橋本 ええ。半年近くかかったと思います。しかも、もらった分を全部できなくて。作監の後藤(隆幸)さんにも手伝ってもらって。この頃の仕事だと、比較的『ヴイナス戦記』が多いかも。
小黒 これはどんなところをやったんですか。
橋本 (主人公が)その辺に転がってるボロボロの一輪車に乗って、(敵に)追いかけられてる部分を描いています。あまり、いい仕事はできなかったです。これも(他のスタッフに)ご迷惑ばかりかけました。
小黒 『AKIRA』も、そんなに沢山やったわけじゃないんですか。
橋本 『AKIRA』も少ないですねえ。12〜13カットだったかな。
小黒 どこをやったんですか?
橋本 最後の回想シーンです。鉄雄がバイクに乗って、金田が後ろから追い抜く。
小黒 爽やかなシーンですね。
橋本 そうです、爽やかな。大友(克洋)さんは怒ってたそうです。
小黒 そうなんですか。動きがよくないと?
橋本 いや、もう画が。
小黒 ああ、画が違うと。
橋本 この頃は、迷惑かけっぱなしです。
小黒 作品でも人でもいいんですが、この頃に大きな出会いってありますか。
橋本 一番大きいのは、大平君。
小黒 大平さんとは『御先祖様(万々歳!)』で出会ったんですよね。
橋本 ええ、そうですね。
小黒 大平さんと会う前の橋本さんの仕事は、さっきの『サムライ』みたいに正統的な、ねっちり動かそうみたいな方向だったんですか。
橋本 うーん、まあ、始めて間もないですからねえ。そういう風にしかできなかった。『サムライ』の後から、ちょっと悪くなっていったんですよ。『ダーティペア』『ヴイナス』『AKIRA』はちょっと悪い方に。
小黒 悪い方と言いますと?
橋本 テンションが下がっていった感じですね。
小黒 あまり仕事も濃くないとか。
橋本 ええ。そんな時にね、大平君に会ったんです。それが自分には凄くよかった。
小黒 大平さんは、その頃、テンション高く、バリバリやっていたんですよね。
橋本 うーん、テンションバリバリではなかったかもしれないけど。とにかくやってる事が強烈でしたよ(笑)。凄い刺激になりました。
小黒 それは描いたものがですか。それとも仕事への取り組み方ですか。
橋本 描いてるものですかね。とてもじゃないけど、敵わないですね。
小黒 それは『御先祖様』の仕事ぶりを見て感じられたんですか。
橋本 いえ。『御先祖様』の時は、まだそんなに大平君の仕事を見てないんですよ。『Angel Cop』のあたりからかな。一緒にやり始めたのは。
小黒 『Angel Cop』の2話で「スペシャル原画」という役職で「St. BREAK 大平晋也 橋本晋治」と出てるんです。
橋本 はい(笑)。
小黒 このSt. BREAKっていうのは、何なんでしょうか。
橋本 いや、大平君と僕のスタジオですよ。僕の前に何人かが、大平君のアパートで「St. BREAK」という看板でやっていたらしいです。僕と一緒にやるようになって、今度は2人でSt. BREAKを始めたんですよ。
小黒 BREAKは橋本さんが参加する前からあったんですね。
橋本 あったと聞きましたよ。メンバーはよく知らないですけど(編注:彼が参加する以前は大平晋也、矢野淳が所属していたらしい)。
小黒 橋本さんと大平さんがSt. BREAKとして活動していたのは、いつまでなんですか。
橋本 え、いつまで? ……いや、今も(笑)。
小黒 あ、今もそうなんですか(笑)。所属はどこですか、と聞かれたら「St. BREAK」と答えるんですね。
橋本 あははは(笑)。
小黒 でも、『Angel Cop』以外に、St. BREAKの名前ってクレジットされた事、ありますか。
橋本 ないです。
小黒 ですよね(笑)。
橋本 あははは(笑)。それだけでしたね、2人でやって名前が出たのは。
小黒 『Angel Cop』2話では、具体的には何をやったんですか。
橋本 この時はね、僕は普通に原画をやってたのかな。大平君がエフェクトの作監みたいなのをやって。
小黒 超能力少女が出てくるところですよね。炎や煙とかの作監をやっているわけですね。
橋本 そうですね。
小黒 あの話の最後で、ビルの中で水が大量に流れ出てくるところがあるじゃないですか。BREAKは、あそこはやっていないんですか。
橋本 あの辺は、関わってなかったような気がしますね。(大平さんのエフェクト作監は)女の子が纏っている炎がメインだったんだろうと思うけど。
小黒 初めの方で、主人公側の屈強なやつ(ハッカー)が、ビルの中でテロリストを取り押さえるところがあるんですけど。そこはSt. BREAKは関わってないんですか?
橋本 どうだろう。
小黒 手榴弾みたいなのが出るんです。ちょっと『AKIRA』ライクな作画なんですけど。
橋本 ああ、大平君かもしれないけど、レイアウトだけかも……。もう、だいぶ忘れてます(笑)。
小黒 橋本さんは、2話はどこを描いたんですか。
橋本 僕もその女の子の近辺ですよ。
小黒 炎を使う女の子ですね。
橋本 ええ、(少女が)銃でバババーンッて撃たれるところとか(編注:中盤のアクションシーンで、ここも2話の作画の見どころ。ハッカーの腕の筋肉にも注目)。
小黒 『Angel Cop』の4話はどこを。
橋本 4話は、ほとんどやってないですよ。レイアウトをやって、少し原画描いて。『(THE)八犬伝』に入るために、ちょっと時間的にできなくなっちゃって。
小黒 大まかな流れを確認すると、大平さんと出会って意気投合して、St. BREAKを結成。それで2人で『八犬伝』1話に作画監督として参加するわけですね。
橋本 ええ。『八犬伝』は全ての人に迷惑をかけてしまって。
小黒 いえいえ。『八犬伝』の1話っていうのは、ご自身の中では、どのような取り組みだったんですか。
橋本 その頃、僕はもうなんというか、とにかく一番キャラクターを似せない時期だったんですよ。
小黒 猛り狂ってますよね。
橋本 作画監督としては、最悪じゃないかと(笑)。それでちょっと大平君と揉めたりも、色々ありましたが。
小黒 この時、大平さんと橋本さんの上に、作監は立ってるんですか。
橋本 いや、立ってないです。
小黒 じゃあ、女性キャラとかが比較的整ってるのは?
橋本 基本的に大平君がやってるのかな。結局、僕は(作監ではなく)ほとんど原画みたいなかたちになったのかな。
小黒 中盤で、侍の口がこんな大きくなる部分があるんですが。
橋本 ええ。なんかラッシュの時に、あのカットでスタッフの笑いが(笑)。
小黒 あはは(笑)。
橋本 あれは、ちょっとヤバイかなあ。
小黒 あれは、橋本さんの画なんですか。
橋本 はい。
小黒 あの頃は、大平さんの影響でああいう画になっていったんですか。
橋本 いや、大平君の影響じゃないです。『わんぱく王子(の大蛇退治)』とか。
小黒 なるほど。
橋本 あと、うつのみや(さとる)さんの画が大好きなので、そのあたりの影響がかなり強いかなあ。そう言うと、うつのみやさんに失礼になりますけどね。
小黒 悪霊みたいな敵の兵士が出てきますよね。身体がウネウネした感じの。あれはキャラクター設定の段階で、ああいうキャラになっているんですか。
橋本 うーん。あれは大平君がやったような気が……。いや、本当に記憶が曖昧になっていて(笑)。
小黒 いえいえ(笑)。今、うつのみやさんの話がありましたけれど、『御先祖様』で「うつのみやショック」は、あったんですか。
橋本 うつのみやさんは『御先祖様』の前からショックでしたね。『魔人伝(真魔人伝 バトルロイヤルハイスクール)』とか『ダーティペア』の劇場とか。
小黒 なるほど。
橋本 僕は大平君から、凄く刺激は受けるんだけど、大平君と同じ方向にはなかなか行かなかったです。むしろ、違う方へと行こうとしているような。
小黒 そうなんですか。
橋本 大平君は大平君で、また違う方へと行こうとするし。
小黒 でも、観てる側からすると、お二人はかなりタイプが近いように思いますよ。
橋本 そう見えるとしたら、とりあえず、2人とも上へ向かって進んで行ってるつもりでいるからでしょうかね。

●「animator interview 橋本晋治(2)」へ続く

(04.01.09)

 
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編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
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