web animation magazine WEBアニメスタイル

 
アニメの作画を語ろう
animator interview
橋本晋治(4)


小黒 これはコンテは描いてないんですね。
橋本 コンテは清書をやっただけです。
小黒 渡辺信一郎監督の元のコンテがあったんですね。個々の構図は、渡辺監督のものを活かしてるんですか。
橋本 ええ、ほとんどそのままです。清書も全然時間がなかったんです。最初は3日で清書してくれと言われて。結局、一週間ぐらいかかったのかな。
小黒 ビジュアルに関して、監督の方から具体的な要望はあったんですか。
橋本 どうだったのかな、好きにやってくれと言われたような気がするんだけど。ただ「四畳半」みたくなっちゃうと困るって言われた。
小黒 「四畳半」って言われたんですか?
橋本 確かそういう事言われましたね。「あそこまでやられたらちょっと」と。
小黒 で、橋本さんとしては今回のコンセプトは?
橋本 あれに関しては、やっぱりリアルな、ですよね。そこからイメージが離れなかったんですよ。最初に主人公の男の子の写真を見せられて。
小黒 あの子は映画の「(マトリックス)リローデッド」にも出てくるんですね。
橋本 「リローデッド」か、その次かは知らないですけど。
小黒 ああ、なるほど。それであの子だけが現実の世界に脱出できたんですね。
橋本 ええ。
小黒 先に役者さんの写真をもらって、デザインをしたんですね。
橋本 ええ。それでなぜか分からないんですが、ばっと閃いたのが『破裏拳ポリマー』だったんです。あはは(笑)。『ポリマー』もリアルじゃないですか。そのイメージから、もう全然離れられかった。その後に、サンフランシスコに行って本人に会って、さらにそのイメージが強くなって。大平君からは、もうちょっとデザイン的なものに変えてみては、とか言われてたんですけど。いくら描いてもそこから離れなくて。ちょっと『課長王子』の延長になっちゃうけど、これで行こうかなと。
小黒 鉛筆のタッチがいっぱい入った画になっていますよね。
橋本 タッチがいっぱいと言うよりは、ラフ原ですね。
小黒 ああ、なるほど。クリンナップした画にタッチを足してるんじゃなくて、クリンナップしてない原画なんですね。
橋本 そうです。描く人によって、またタッチが違っているでしょうけど。
小黒 特に、スケボーアクションの後は、ちょっとパキッとした顔になっていましたね。
橋本 ああ、松本(憲生)君のところかな。
小黒 具体的には「KID’S STORY」はどういうシステムだったんですか。
橋本 原画はそのまま使ったんです。動画さんは、その間の画を描いていく、感じですかね。『山田くん』と同じような感じになっていたのかな。
小黒 動画の人は極力、原画そのものに近い画で、中割の動画を描くわけですね。
橋本 ええ。
小黒 動画も大変だったわけですね。
橋本 ええ、最初は「これで本当にできるのか」と言われましたけれど、まあ、なんとかなったみたいです。
小黒 そのやり方だと、作画監督として部分修正はできないですよね。
橋本 そうですね。
小黒 全部修正するか、そのまま通すか。
橋本 ほとんどそのまま通してますよ。よいスタッフに恵まれましたので。勿論、全修したところもありますけどね。
小黒 訊くまでもないですが、スケボーのアクションシーンの原画は、どなたでしょうか。
橋本 大平君です。
小黒 ですよね。じゃあ、あそこは、大平さんの原画が生に近いかたちで見られているわけですね。
橋本 はい。まったく手は加えておりません。
小黒 それは凄い。
橋本 あはは(笑)。
小黒 スケボーのところはアクションも凄いけど、キャラクターの顔も凄かった。
橋本 そうですね。
小黒 主人公が別人みたいになっている。
橋本 その辺はちょっと問題ではあるのかもしれないですけど(苦笑)。
小黒 でも、原画の持ち味をそのまま出すのは、最初からのプランだったんですよね。
橋本 僕は基本的に、原画スタッフさえしっかりしていれば。作監というのは必要ないという考え方なんで。
小黒 ああ、大胆ですね。ご自身はどこを描いたんですか?
橋本 僕は、教室の中が主ですかね。
小黒 最初の鳥はどなたが描いたんですか?
橋本 鳥ですか。あれは僕が描きました。
小黒 その前後の主人公が落ちるところは違うんですか。
橋本 落ちるところは、大下(久馬)君っていう人にやってもらいました。
小黒 松本憲生さんは、どこをお描きになったんですか?
橋本 松本君は、大平君の後です。スケボーのアクションが終わって、トイレに逃げ込むところ。
小黒 トイレから表に出ようとするところまで、ですか。
橋本 先生が開いた窓に駆け寄るところまでですね。
小黒 今回、原画マンはご自身で声をかけられたんですか。
橋本 ええ、ほとんどそうですね。
小黒 「A DETECTIVE STORY」も、お手伝いなさっていますよね。
橋本 ええ、3カットだけ。
小黒 列車内で敵が撃ってきて、トリニティと探偵が逃げていくところですよね。これは「KID’S STORY」が終わってからの参加ですか。
橋本 そうですね。3カットに一体何ヶ月かかったのでしょう。
小黒 余計なお世話だとは思いますが、そんなに時間をかけるとキツくないですか。
橋本 もう、キツいですよ(苦笑)。
小黒 たまには楽にやりたいとか思われないんですか。
橋本 うーん、本当はその方がいいような気はしますけどね。考え過ぎたってそんなに変わらないですからね。
小黒 1カットにひと月ぐらいかかる時って、具体的にはどうしてるんですか。ずっと紙を睨んでるわけではないんですよね。ずっと描いてるんですか。
橋本 いや、その間、ずっと描いているわけではないですね。描いてる時は大抵同じ画ばっかり描いてますね。
小黒 同じポーズとか。
橋本 ああでもない、こうでもないって。
小黒 昔と比べて描くスピードは速くはなってはいない。
橋本 描くのは遅くなってます。
小黒 話は変わりますが、自分でビデオをとって作画の参考にしていたのは『ユンカース』と『八犬伝[新章]』だけなんですか。
橋本 『ユンカース』以降、ほとんどやってます。
小黒 当然、『山田くん』もやってるわけですね。
橋本 ええ、やってます。『山田くん』が一番活かされてるかなあ。
小黒 例えば、自分で撮る時って、コンテで3秒の芝居だったら、それを3秒でやるわけですか。
橋本 いや、それはあまり気にしてないです。
小黒 例えば、ひとつの動作をする時に手はどう動くかとか、そういうところを見るんですか。
橋本 いや、どう動くかっていうよりは、こういう動きがあった時に、動きの途中で、それがどういうモノになってるかを見る、という感じですかね。
小黒 それはビデオを見る事で、頭に入るんですか。
橋本 入らないです。(映像を)頭に入れようとしても、僕のできの悪い頭では無理じゃないですかね。
小黒 それをビデオで見て模写するわけですね。
橋本 そうですね。だけど、模写だけだと足りないんです。ビデオに録る時に、一回自分でやるわけですよね。その時の感覚が。
小黒 ああ、むしろ自分が芝居をする事が大事なんですね。
橋本 と思っています。
小黒 なるほど。
橋本 それをどこまで、模写してる時に入れられるか。
小黒 つまり、自分が芝居した時の感覚を、最終的に原画にどれだけ入れられるか。
橋本 ええ。
小黒 よくアニメーターさんが原画を描く前に、ちょっと自分で芝居をやるじゃないですか。それの延長線上の事ではある。
橋本 そうですね。リアルという事だけでしたら、ロトスコープにして、そのままなぞればいいだけですからね。だけど、自分は本物の役者じゃないし。
小黒 実写をなぞると、どうして、わざわざ画で描くのかという疑問も生じてしまう。
橋本 そうですね。
小黒 実写をなぞるのと、自分が演技してそれを参考して描くのは違うわけですね。
橋本 ええ。人にそれが伝わってるかどうかは分からないけど。
小黒 橋本さんの仕事を見てると、その実写みたいなリアルさという事じゃなくて、直感とかセンスでやってる部分もあるだろうと思うんですが。
橋本 結局はその辺ですよねえ。その辺で、善し悪しみたいなものが出てくるんでしょうねえ。
小黒 金田さんも、最初の頃は実写の爆発を調べて、爆発を描いていたそうですよ。だけど、あんな自由奔放な爆発になっている。やっばり頭の中で変換されて、ああいうかたちになるんだろうと思うんですが。
橋本 やっぱり、感覚に左右されるところがあるんでしょうね。
小黒 きっと、頭の中にある変換する機械が大事なんですね。
橋本 そうですよね。
小黒 橋本さんは最近、劇場作品が多いじゃないですか。今後も劇場作品を中心にやっていかれたいんでしょうか。
橋本 そうですね。元々、劇場作品が好きだし。僕の場合、TVだとスケジュール的に無理だったり、あはは(笑)。
小黒 自分で言っちゃうんですね(笑)。例えば、自分の作品を作る方には行かないんですか。ショートフィルムを作りたいとか。
橋本 よく言われるけど、そういう事をやりたい気持ちはあまりないです。
小黒 『課長王子』のオープニングとかを観ると、アートフィルムとか、あるいは森本(晃司)さんがやっているような短編とか。ああいう方向へ行かれるのではないかとも思うんですが。
橋本 たまにはやりたいと思う事はあるんですけど、それを中心にして活動するようにはならないと思いますよ。
小黒 では、アニメーターとして、こういう作品に参加したいっていうのはあるんですか。大作をやりたいとか、時代ものをやりたいとか。
橋本 そうですね……
小黒 やっぱり描きたいのは、人間の芝居なんですね?
橋本 ……うん。とにかく描きたいのは人間ですね。
小黒 ロボットとかはやってないんですね。
橋本 ロボットは、やってないですね。描けないです(笑)。あまりこういうのがやりたいというのはないです。決めてないと言うか。
小黒 うつのみやさん、大平さん以外で影響を受けた方っているんですか?
橋本 磯さんかな。いっぱいいると言えばいっぱいいるのですが、明らかに影響を受けたって言うと、その3人。
小黒 磯さんは作品で言うと何ですか。
橋本 『御先祖様』かな。とにかく原画の枚数が多かったから、びっくりしましたね。全部の画を原画で描いちゃってるから。大平君も原画枚数は半端じゃないけど、全部の絵を描いて多くなってるわけではなかったから。真似して全部描いたりしたんだけど、上手くいかなくて。
小黒 具体的には『御先祖様』の6話ですね。
橋本 そうですね、4話より6話かな。
小黒 そう言えば、橋本さん自身は『御先祖様』ではどこをやってるんですか?
橋本 ダチョウと、2話で文明がクルクル回ってるところ。
小黒 クルクル回る?
橋本 「あ、UFO」とか言って、パコーンッて殴られて。ひどい原画描いてしまいました。すみません、うつのみやさん。
小黒 ダチョウは、4話の鳥類図鑑のところですね。あの部分はデザインも原画もおやりなんですよね。
橋本 そうですね。デザインは、あれが初めてじゃないかな(笑)。
小黒 あ、昔の仕事と言えば『機動警察パトレイバー』のオープニングの事を訊くのを忘れていました(編注:『機動警察パトレイバー』最初のOVAシリーズのオープニング。演出と作監は北久保弘之が担当)
橋本 あれは、どうだったんでしょうね。自分的にはかなりひどいものをあげてしまったという感じなんですけど。
小黒 どこを描いてるんですか。野明がコケそうになるところですか。
橋本 ええ、そうです。
小黒 手首から先が大きいところですよね。
橋本 あはは(笑)。はい。
小黒 手が大きいのが3カット分ぐらいあって。
橋本 いや、もうちょっとやっています。
小黒 レイバーの整備をしてるあたりですよね。
橋本 ええ。全部じゃないですけど、こんなポーズをしたり(手を動かして)して。
小黒 ああ、あの野明が指さしてから、指示するカットとかですね。
橋本 (笑)。
小黒 当時から気になってたんですよ。あの手の大きいところは誰が描いたんだろうって。
橋本 あはは……。
小黒 じゃあ、他のお仕事についても、いくつか改めてうかがいます。『地獄堂霊界通信』は、ドッジボールのシーンだとうかがっていますが。その前後だけですか。
橋本 これは結構数をやりましたね、50カット近く。ドッジボールの前後で。
小黒 『青の6号』は4話のラスト近くですね。主人公の速水と獣人が戦っているところが井上俊之さんの原画で、その後?
橋本 後ですね。やられてヘロヘロになって、でしたっけ。
小黒 そうです。その後に獣人が海に向かって歩いていくところは、もう違うんですか。
橋本 ええ、違います。『青6』もやったのは、ほんのちょっとなんで。10カットもやってないと思います。
小黒 『ギブリーズ(episode2)』はどこをやったんですか。
橋本 『ギブリーズ』はカレーの話。カレーを食ってるところです。食べ始めるところから、かな。
小黒 また話は変わりますが、原画を描く前に、こういうカットだとイメージするじゃないですか。
橋本 ええ。
小黒 自分の中にイメージがあったとして、それを100%原画として描けるものなんですか。
橋本 うーん。僕はそこまで頭の中でイメージを作れないです……。
小黒 描いてみて、「こうだ」とか「違う」とか。
橋本 そうですね。(描く前にその)映像が見える人と見えない人がいるみたいですよ。
小黒 そうみたいですね。うつのみやさんは、見える事もあると仰っていましたね。
橋本 僕は見えない方だから、とりあえず、大体こんな感じというのを作っておいて、描いてみては考えるという感じですかね。
小黒 大平さんは見える方なんですかね。
橋本 大平君はどうでしょうね。あんまりそういうところは言わないからな、大平君は。
小黒 大平さんと名前が並んだ仕事は、『ANIMATRIX』 が久しぶりでしたよね。お互いに手伝ったりする事は?
橋本 ええ、あります。
小黒 『青6』で、橋本さんのところで1カット、大平さんが手伝ったと聞いています。
橋本 そうですね。『SPRIGGAN』でもありますよ。
小黒 そうなんですか。
橋本 はい。逆に『フリクリ』で僕が1カット、大平君を手伝ったり。
小黒 そういう意味では、St. BREAKは続いてるわけですね。
橋本 ええ。大平君がどう思ってるかは謎ですけど(笑)。

●「アニメの作画を語ろう」メインへ

(04.01.30)

 
  ←BACK ↑PAGE TOP
 
   

編集・著作:スタジオ雄  協力: スタイル
Copyright(C) 2000 STUDIO YOU. All rights reserved.