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アニメの作画を語ろう
animator interview
小池健(2)


小黒 ははは。コンテに書いてあるんですか。
小池 いや、本人がそのつもりで書いたというだけで、「絶対にこうしてくれ」っていう事じゃないと思うんですけど。で、変わったアニメにしてくださいという感じの注文もあったんです。石井さんもアメコミが好きで、僕もアメコミが好きだったんで、その辺の影つけとかBLの処理とか気をつければ、変わった感じになるんじゃないかと思いまして。影は一切、色トレスなしでBLだけで作ろうって事になったんです。
小黒 「PARTY7」のオープニングってキャラクターに影がついていないんでしたっけ。
小池 あれは影はBLのみです。フランク・ミラーっていう漫画家がいるんですけど、石井さんはその人の画が気に入っていて、僕もそれをかっこいいなと思って、「じゃあこのテイストでいきましょう」と。僕としては白黒でやるつもりだったんですよ。でも、石井さんは絶対カラーの方がいいとおっしゃるんで、カラーでもいけそうかなと思い直して。カラーでも色を限定してつければ変わった感じになるかなと考えたんです。だから方向性としては白黒のコントラストを活かした様式にしています。
小黒 あのフィルムって、全セルじゃないですか。建物や地面もセル画で描いていて、普通の背景はないわけですよね。それには何か理由があるんですか。
小池 キャラクターと背景の馴染みがよくって、なおかつ効果的なのは何かと考えた時に、キャラがセルなんだから、やっぱり背景もセルがいいだろうと思った事がいちばん大きいですね。あとはアメコミの画って、キャラと背景が一体化してるように見えるんで、オールセルでやるのがいちばん効果的なんじゃないか、と。思った以上に馴染んでて、よかったです。
小黒 セル画そのものを見るまで、全セルかどうか分かりませんでしたよ。
小池 分かりませんでしたか(笑)。
小黒 フィルムを観て「よもや全セルか?」とは思ったんですけどね。「PARTY7」では、原画も大半お描きになったんですか。
小池 半分くらいですね。ダンスをしている部分はピーターさんがやってくれました。あと、オキタっていうキャラとキャプテン・バナナのパートを川尻さんがやってくださって。その他の、いちばん初めの走ってるやつと、地下道でケンカしてるやつと、いちばん最後を僕がやってます。とにかくやりたいようにやってくれ、という注文だったんで、かなりのびのびとやらせてもらいました。
小黒 やりたくて我慢していたケレン味たっぷりのアクションを「PARTY7」で、ようやくできたというわけですか。
小池 弾けたアクションものをやりたかったのは確かです。川尻作品ではありえない事をやろうとは思いました。
小黒 川尻作品に参加していた時と、アプローチが逆なわけですね。
小池 逆ですね。
小黒 無駄な事をやりまくろう、みたいな。
小池 そうですね。無駄な事をしてキャラクターの個性が出せればいいだろうと。その演技を見てもらって、格好いいなって思ってもらえれば幸いなんですけど、でも自分としてはダサめにやったつもりなんですね。
小黒 そうなんですか。
小池 僕は別に格好よさを目指してるわけじゃないんですね。どっちかって言うと、ダサめに作りたいんですよ。ダサめって言うか、ちょっとハズしめに。格好よさはあまり興味ないんですよ。どっちかと言うと、格好よさをちょっとハズしたい。それがポリシーになっているんですよ。
小黒 小池さんが言うところの格好いい作品というのは、例えば?
小池 『カウボーイ ビバップ』なんか格好いいじゃないですか。作りからして格好よく見えるんですよね。作り手がどう考えてるのかは分からないですけど、あれは格好よさを追求して作った作品だと思うんです。僕は外したところで、キャラクターの個性を出したい。例えば、このキャラクターは、人が見ていない時はこういうふうにしているだろうな、というところを描きたいんです。人間なんかけっこうダサいもんだというところを出したいんですよね。
小黒 『TRAVA』って、格好よさげなキャラが出てくるけど、必ずしも話は格好いいわけではないですよね(注4)
小池 全く格好よくないですよ。
小黒 あれはOKなんですね。
小池 OKですね(笑)。
小黒 メチャメチャOKなんですね。
小池 ええ。今までのアニメーションで自然な会話って、あまり見た事がなかったんですよ。自然な会話をしていて、ツッコまれた時に、このキャラはどういう反応するのか。そういう事をやりたかったんです。作品の中の日常感みたいな部分が映せればなって。
小黒 『TRAVA』は「PARTY7」の石井さんとのコンビで、企画としては「PARTY7」オープニングの発展系ですよね。最初キャラ表を見せてもらった時に、アクションものっぽいキャラだったから、「PARTY7」のオープニングみたいな事が全編あるアニメかなって思ってたんです。でもそんな事は全然なかった。「会話アニメ」だった(笑)。
小池 そうですね(苦笑)。あれは脚本が凄く気に入ったんです。だから、なるべく脚本にある世界を崩さないで、トラヴァの喋る空間や世界のリアルさを作り出したかったんです。ああいうやつがいるところに行きたいなっていうふうに思えるような世界観にしたつもりなんですよ。ドラマらしい事は一切なしにして、アクションを格好よく見せるような事も省いて。アクションをするにしても、淡々と状況をこなすようなキャラクターにしたかったんです。
小黒 じゃあ、むしろ2話は異色だったんですね。
小池 2話は今石(洋之)君に好きなようにやってもらったんで(笑)。同じテンポでも飽きちゃうし、今石君のカラーも好きだったから、僕の画をどういうふうに変えてくれるのかなと思って。見事に今石君が自分のテイストを生かしつつ、『TRAVA』の雰囲気も出してくれたんで、あれはあれでオッケーかな、と。
小黒 2話はどういう分担になっているんですか。
小池 後半は今石君のコンテで、原画もほとんどそうですね。間に合わなくて2カットだけ吉成(曜)さんという方に手伝ってもらいましたけど。今石君のところは、僕は作監を入れてないんです。
小黒 小池さんのコンテで、今石君が描いてるところがあるんじゃないですか。
小池 ないですよ。今石君がコンテを描いたところは全部、今石君が原画描いて、僕がコンテを描いたところは僕が全部描いています。今石君の原画を見て、ちょっと「崩し」もやってみたいなと思って、動かしてみたところはあるんですけどね。宇宙船の中なんか。
小黒 ああ、あそこは小池さんの作監なんですね。
小池 ええ。あれは今石君の原画を見て……。
小黒 真似てみた(笑)。
小池 ええ。触発されたんですよ。
小黒 じゃあ、今石さんになるのは星に着いてからなんですね? 途中で、トラヴァ達が女の子にメカを紹介するあたりから今石君の画かと思った。レイアウトの感じが違うから、あのあたりは小池さんのコンテで、今石君が原画を描いたのかと。あそこは小池さんなんですね。
小池 そうです。『フリクリ』を観てはいたんですけど、原画を見るのは初めてだったんで、今石君の画にはびっくりしました(笑)。
小黒 びっくりした? どういう事なんです。
小池 あの、画の自由度と言うか、動かし方の自由度と言うか。今までの僕の引き出しには全くないような動きがあったんですよ。それで僕も真似てみましたけれど、今石君じゃないと、ああいう感じはできないんだなと(笑)。
小黒 なるほど。同じ「金田の流れ」といっても、小池さんとは全然違いますよね。愉快系というか。
小池 今石君は崩し方にセンスがあるじゃないですか。普通の人があれをやっちゃうと単なる崩れた画になっちゃうんです。あの人には崩しの魅力があるんじゃないんですか。しかも、創作意欲が凄くある。あの調子でフィニッシュまでもっていくモチベーションって、もの凄いものがありますよね。『アベノ橋 魔法☆商店街』の3話なんか、めちゃめちゃ凄かった。やりすぎだろっていうくらい、ハイテンションのまま、ずーっといくじゃないですか。

(注4)『TRAVA Fist★Planet』
ビデオマガジン「Grasshoppa!」に収録されたマッドハウス制作のアニメ。来年エピソードをまとめてDVD化の予定。
小黒 小池さんは「PARTY7」、SMAPのコンサートのアニメパート(注5) 、『TRAVA』、それから制作中の『THE ANIMATRIX』と、自分のオリジナル作品が立て続けにきていますね。
小池 全部、ショートフィルムですけどね。自分が好きにやりたい作品をやれる状況を与えてもらえるのは嬉しい事なので、できる限りは頑張りたいと思います。僕の作風は、さっき言った背景なしの全セル的処理になっていますが、あのスタイルで全部自分で描いて長編を作るのは、物理的に無理なんです。もっと仲間を増やしていかないといけないなと思っているんですが。
小黒 全セルは、作風なんですか?
小池 作風ですよ。……作風じゃないですか?(笑)
小黒 いや、確かに作風と言えば作風ですが(笑)。ずっとあれでやっていくんですか。
小池 うーん。背景を使っていかないといけないんでしょうね。「いけない」っていうのは、言い方悪いですけど(笑)。
小黒 セル画のペタっとした質感が好きなんですか。
小池 それもあるし、自分がこういう画面が作りたいという時に、いちばん把握しやすいんです。
小黒 全部作画した方が?
小池 ええ。今の段階では、描こうと思えば全部を作画できない事もないなと思ってるんです。どうしても背景じゃないと表現できないみたいな事が出てくれば、背景を使うやり方に移行しようと思うんですが。とりあえずは今のスタイルでやればいいかなって思います。
小黒 ストーリー主体ものをやる気はないんですか?
小池 ありますよ。ある程度の長さのものを作ろうかって、丸山さんと話してるところです。ビシッとくるようなものがあれば、ぜひやってみたいんですけど。
小黒 当面は短編が続いてもかまわない、と。
小池 ストーリーものや長編っていうのは、「意味」が出てくるじゃないですか。何かこういう事を伝えたい、という。そういう自分の哲学的な部分を出していくには、まだ勉強不足かなって思うんですよ。オリジナルものは特にそういうものが必要だから、もし原作もので自分に合うものがあれば、やってみたいですね。
小黒 自分が、今変わったスタイルでやってるという意識はあるんですか?
小池 変わったスタイルを狙ってやっているというわけではないんですよ。ああいう描き方が普通にしっくりくるんです。
小黒 今、巧いアニメーターというと、リアル志向の人が多いですよね。
小池 リアルさを追求したり、デッサンをしっかりとったりする事への興味は僕の中にはそんなにないですね。どちらかと言うと、見栄えよさとか、気持ちよさとか、話の中でのキャラクターの言動の面白さみたいなものを大事にしたい。インスピレーションがいちばん大事かなって思ってるんですよ。それをどういうふうに画にしていくかっていうのが大事なんで、結果的にリアルな方向とは変わってきちゃうんじゃないですかね。
小黒 小池さんは、川尻さん影響も強いから金田さんの直系ではないけれど、大雑把に言えば金田系ですよね。金田系の作画って色んなタイプのものが出てきて、もう出尽くしたかなと思ったところで小池さんが出てきたんだと思うんです。「PARTY7」のオープニングには「まだこれがあったのか」という感動がありましたよ。
小池 ありがとうございます。
小黒 純粋に動きの気持ちよさを追っているのもいいですよね。
小池 そうですね。映像も流行りがあるので、気持ちのよさって随時変わっていくと思うんですよね。その中で、自分がどういうものが観たいか、どういうものが気持ちいいか、というのを具体的に作品に出していければいいなって思うんですけどね。
小黒 普段描いてる画っていうのは、「PARTY7」のような、あるいは『TRAVA』のような画なんですか?
小池 仕事以外では描かないんです(笑)。
小黒 描かないんですか。あれが小池さんの素の画だと思っていいんでしょうか。
小池 あれが素ですね。『THE ANIMATRIX』もああいう画だと思います。
小黒 イラストレーションやマンガといった、アニメ以外の事は当面ないんですか? 
小池 マンガはいい脚本があれば描きたいなって思いますけど、自分で話からやりたいとは思わないです。イラストに関しては、一枚画に執着がないんです。だから必要に迫られないとやらない。最近「GUNGRAVE」っていうゲームの版権用のものを描いたんですけど、それでやっとイラストは4枚目ぐらいですね。しかも、自分の作品のものは1枚も描いていない。
小黒 今までで4枚ですか。それは少ないですね(笑)。『TRAVA』は版権イラストがないですよね。「PARTY7」の宣伝関係も本編の画を使ってますし。
小池 そうですね。『TRAVA』に関しても、「PARTY7」に関しても、上手い具合に本編の画をコラージュして作ってもらっているんですよ。それなら自分が描くよりいいかなって(笑)。
小黒 今までに描いた版権のうちの、他の3枚も川尻ものなんですか?
小池 いや、その前の3枚は「アニメージュ」の映画の紹介で、「ターミネーター2」と「ゼイラム」を描きました。

(注5)SMAPのコンサートで使われたアニメーション。「PARTY7」オープニングに続く彼の作品で、このフィルムでも彼の独特の個性は遺憾なく発揮されている。
小黒 ああ! あのコーナーですか。随分前ですよね(注6)
小池 10年以上前ですね。
小黒 まだ小池さんが新人原画マンのころですね。今度ちょっとチェックしてみます。
小池 そうですか(苦笑)。あとは、『カードキャプターさくら』の版権を1枚やってます。
小黒 版権イラストを描きたいという気持ちはないんですか。
小池 ないですね。昔はあったんですけどね。駆け出しの頃は、そういう仕事もやれるようになるのかなと思っていたんですけど。いざやってみると、向いてないなって感じですか(笑)。
小黒 そうなんですか。
小池 1枚画の気持ちよさを追っていきたいというのが、僕にはないなと気づいちゃったんです。それよりも映像をやって、自分のカラーを出していくほうがいいと思っているんですよ。
(注6)「アニメージュ」1989年10月号〜1992年1月号に連載された「M.T.V.」というコーナー。アニメクリエイターに実写映画のビジュアルを描かせるという企画だった。

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(02.11.15)


 
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