大平 他の先輩や同級生の連中にも、金田さんとか「No.1調」の物が好きな連中が多かったんですよ。で、その影響を受けて、僕が憧れたのが、山下(将仁)さんだったんです(注1)。当時、TVで見た『うる星やつら』の、柳のオジジの回でしたっけ? あれを見たのが、ちょうど夕食時だったんですが、ご飯が喉を通らなくなるぐらいのショックを受けたんですよね。だから「アニメーターで誰が一番好きか」と言うと、やっぱり、山下さんが自分の中でトップだったんですよ、当時。とにかくちょっと変わったアニメが好きだったんです。
小黒 それがきっかけで、アニメーターになられたんですか。
大平 アニメーターになったのは、家の事情で、ちょっと進学が厳しかったからなんです。「アニメージュ」を見てたら、スタジオぴえろの募集があったんで、「ま、これでいいや」と(笑)。
小黒 すると、どうしてもアニメをやりたくてアニメーターになったというわけではないんですね。
大平 そうですね。学校に行けないなら、もう働くしかないかなと思って。
小黒 大平さんは、ぴえろに入られて1年ぐらいで原画になったと聞いていますが。
大平 正確には8ヶ月です。
小黒 最初に原画を描いた作品は何になるんですか。
大平 『忍者戦士 飛影』です。韓国の原画の、エフェクトが酷いものの手直しをするようなところから始めたんです。
小黒 専門学校などを経ないで、いきなり、ぴえろに入ったんですか。
大平 そうです、そうです(笑)。
小黒 凄いですねえ。
大平 凄くないですよ(笑)。動画チェックの方が、親切に教えてくれたんで。……全然ダメでしたけどね。振り向き、走り、歩き、基本的なものが全くダメでした……。
小黒 最初の頃は、大平さんは「メカアニメーター」という感じでしたよね。
大平 ええ、やっぱりメカものが好きだったので。ぴえろでも、メカものと魔法少女もののふたつの班に分かれてまして。で、「お前はメカの方だ」と言われたんです(笑)。
小黒 メカアニメーター時代というのは、いつ頃までになるんですか。
大平 どうだろう。『AKIRA』までぐらいですかね。それまでは、ほとんどAICや葦プロのメカものばっかりでしたからね。
小黒 そのあたりで、自信作みたいなものってありますか?
大平 自信作かあ……(苦笑)。ちょっと見当がつかないですね。
小黒 例えば、『マシンロボ』のバイカンフーの合体なんかはどうですか。
大平 あれは、あんまりよくないです(苦笑)。でも、あの頃が一番楽しかったかも知れないですね。好きなものが描けていたわけだし。
小黒 好きなものがと言うか、好きな事だけ描いていた?
大平 そうそう、そうですね(笑)。
小黒 『BUBBLEGUM CRISIS』シリーズは、結構まとまった仕事ですよね。
大平 100カットぐらいはやっていると思います。1、2巻をやって、それから3巻を手伝いで少しだけやりました。
小黒 その頃は、思い通りに描けているんですか?
大平 「思い通りに描ける」というような事は、いつまで経ってもないんじゃないですか(笑)。
小黒 じゃあ、その頃、ご自身の中でターニングポイントになった仕事というと、なんでしょう。
大平 ターニングポイントとは違うかもしれませんが、思い入れがあるのは、『GALL FORCE』の2本目です。あれで、巨大なビーム砲みたいな物を描いたんですよ。それまでは、割とカット数を上げる方だったんですけれども、その時は、1カットにひと月以上かかってしまって。……その辺からちょっとおかしくなり始めたんですかね(笑)。
小黒 その1カットというのは、普通の秒数なんですか?
大平 僕は5カットぐらいしかやってなかったんですけど、尺で言うと、5秒とか3秒ぐらい。
小黒 それは、どうしてそんな事になったんですか?
大平 ひたすらエフェクトを描いてたんです。
小黒 えっ。でも、5秒のカットだったら、どんなに頑張ってもそんなに枚数は描けないんじゃないですか。
大平 いや、1コマなのは勿論ですが、重ねもたくさんありましたから。
小黒 じゃあ、凄く分厚い原画になっちゃった?
大平 ええ、そうなんですよ。300枚ぐらいですかね。
小黒 300枚?
大平 ええ。
小黒 原画で!?
大平 でもね、それとは別に、もっと記録的な枚数を描いたものがあるんですよ。結局、それはフィルムにならなかったんです。「こんなもん、処理できない」って言われて(笑)。『PROJECT A―KO 3』の時の事なんですけど。C子が巨大恐竜に変身するカットがあって、1カットで、カット袋2袋パンパンにした原画を上げたんです。確か動画枚数が1000枚以上(笑)。
小黒 それはTVアニメの1話の3分の1ぐらいですね。でも、1コマでも、そんな枚数にはならないでしょう。
大平 それは重ねがありますから。とにかく重ねる事ばっかりやってましたから。情報量を多くすれば、よく見えるんじゃないかって(笑)。
小黒 重ねの枚数でいうと、どのぐらいまでやったんですか? |
(注1)山下(将仁)さん 金田伊功の流れを汲むアニメーターの1人。極端なデフォルメとタイミング、個性的な絵柄でマニアックなファンの人気を集めた。代表作に『うる星やつら』、『鉄人28号[新]』、『DALLOS』等がある。文中で話題になっている「柳のオジジ」とは、『うる星やつら』97話「怪談!柳のオジジ!!」
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