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アニメの作画を語ろう
animator interview
大平晋也(1)


 これまでも「アニメスタイル」で、たびたび話題になってきた、大平晋也の登場である。彼もまた、現在のリアル系の作画を語る上で、決して欠かす事ができぬ人物だ。
 それほど、彼が演出・絵コンテを担当した 『THE 八犬伝[新章]』は斬新な作品であった。その映像のリアルさ、生々しさ、そして、表現の力は日本のアニメ史においてトップクラスに位置するものであり、多くのクリエイターとファンが、この作品の出現に衝撃を受けた。
 彼はかつてはスタジオNo.1系の派手なメカアクションを得意とするアニメーターとして活躍しており、 『AKIRA』への参加をきっかけに、リアル志向を持つようになったのだそうだ。そのあまりに斬新な仕事と、新章4話を終えた後に一度アニメ界から引退したというプロフィールのため、ファンにとって半ば伝説的な存在となっている彼だが。果たして、その創作の秘密とは?


2001年1月20日
取材場所/名古屋
取材/小黒祐一郎
構成/小川びい、小黒祐一郎
PROFILE

大平晋也(Ohira Shinya)

1966年生。愛知県出身。アニメーター・演出家。高校卒業後、スタジオぴえろに入社。『忍者戦士飛影』で初原画。フリーとなってからは『マシンロボクロノスの大逆襲』、『BUBBLEGUM CRISIS』シリーズなどで、メカアニメーターとして名を馳せる。『AKIRA』、『御先祖様万々歳!』などで原画として活躍。その後、演出も手掛けるようになり、特にOVA『THE 八犬伝[新章]』4話は比肩するもののない異色作として、業界に大きな衝撃を与える。一時期アニメーターを廃業し家業に就いていたが、近年になって復帰。郷里で活動を続けている。近作に『フリクリ』への原画としての参加がある。

【主要作品リスト】

小黒 昔の話からうかがいますけど、そもそも、アニメーションに興味を持たれたのはいつぐらいなんですか。
大平 高校に入った頃ですかね。高校で美術部に入りまして。そこで、先輩が自主制作アニメをやってたんです。それの手伝いを始めたのがきっかけで。とは言っても、ペーパーアニメの色塗りのお手伝いをしていただけなんですけどね(笑)。その先輩の中に、1人、金田(伊功)さんが好きな人がいまして。「ああ、凄い面白い動きだな」というか、「変な人がいるもんだな」と思って観てたんです。
小黒 その先輩が、金田さん調の面白い動き描いていたんですか。
大平 ええ、そうです。
小黒 じゃあ、その先輩から、金田さんのアニメを観せられて……。
大平 あ、それはないです。
小黒 でも、金田系の作画に興味を持たれていたんですよね。





大平 他の先輩や同級生の連中にも、金田さんとか「No.1調」の物が好きな連中が多かったんですよ。で、その影響を受けて、僕が憧れたのが、山下(将仁)さんだったんです(注1)。当時、TVで見た『うる星やつら』の、柳のオジジの回でしたっけ? あれを見たのが、ちょうど夕食時だったんですが、ご飯が喉を通らなくなるぐらいのショックを受けたんですよね。だから「アニメーターで誰が一番好きか」と言うと、やっぱり、山下さんが自分の中でトップだったんですよ、当時。とにかくちょっと変わったアニメが好きだったんです。
小黒 それがきっかけで、アニメーターになられたんですか。
大平 アニメーターになったのは、家の事情で、ちょっと進学が厳しかったからなんです。「アニメージュ」を見てたら、スタジオぴえろの募集があったんで、「ま、これでいいや」と(笑)。
小黒 すると、どうしてもアニメをやりたくてアニメーターになったというわけではないんですね。
大平 そうですね。学校に行けないなら、もう働くしかないかなと思って。
小黒 大平さんは、ぴえろに入られて1年ぐらいで原画になったと聞いていますが。
大平 正確には8ヶ月です。
小黒 最初に原画を描いた作品は何になるんですか。
大平 『忍者戦士 飛影』です。韓国の原画の、エフェクトが酷いものの手直しをするようなところから始めたんです。
小黒 専門学校などを経ないで、いきなり、ぴえろに入ったんですか。
大平 そうです、そうです(笑)。
小黒 凄いですねえ。
大平 凄くないですよ(笑)。動画チェックの方が、親切に教えてくれたんで。……全然ダメでしたけどね。振り向き、走り、歩き、基本的なものが全くダメでした……。
小黒 最初の頃は、大平さんは「メカアニメーター」という感じでしたよね。
大平 ええ、やっぱりメカものが好きだったので。ぴえろでも、メカものと魔法少女もののふたつの班に分かれてまして。で、「お前はメカの方だ」と言われたんです(笑)。
小黒 メカアニメーター時代というのは、いつ頃までになるんですか。
大平 どうだろう。『AKIRA』までぐらいですかね。それまでは、ほとんどAICや葦プロのメカものばっかりでしたからね。
小黒 そのあたりで、自信作みたいなものってありますか?
大平 自信作かあ……(苦笑)。ちょっと見当がつかないですね。
小黒 例えば、『マシンロボ』のバイカンフーの合体なんかはどうですか。
大平 あれは、あんまりよくないです(苦笑)。でも、あの頃が一番楽しかったかも知れないですね。好きなものが描けていたわけだし。
小黒 好きなものがと言うか、好きな事だけ描いていた?
大平 そうそう、そうですね(笑)。
小黒 『BUBBLEGUM CRISIS』シリーズは、結構まとまった仕事ですよね。
大平 100カットぐらいはやっていると思います。1、2巻をやって、それから3巻を手伝いで少しだけやりました。
小黒 その頃は、思い通りに描けているんですか?
大平 「思い通りに描ける」というような事は、いつまで経ってもないんじゃないですか(笑)。
小黒 じゃあ、その頃、ご自身の中でターニングポイントになった仕事というと、なんでしょう。
大平 ターニングポイントとは違うかもしれませんが、思い入れがあるのは、『GALL FORCE』の2本目です。あれで、巨大なビーム砲みたいな物を描いたんですよ。それまでは、割とカット数を上げる方だったんですけれども、その時は、1カットにひと月以上かかってしまって。……その辺からちょっとおかしくなり始めたんですかね(笑)。
小黒 その1カットというのは、普通の秒数なんですか?
大平 僕は5カットぐらいしかやってなかったんですけど、尺で言うと、5秒とか3秒ぐらい。
小黒 それは、どうしてそんな事になったんですか?
大平 ひたすらエフェクトを描いてたんです。
小黒 えっ。でも、5秒のカットだったら、どんなに頑張ってもそんなに枚数は描けないんじゃないですか。
大平 いや、1コマなのは勿論ですが、重ねもたくさんありましたから。
小黒 じゃあ、凄く分厚い原画になっちゃった?
大平 ええ、そうなんですよ。300枚ぐらいですかね。
小黒 300枚?
大平 ええ。
小黒 原画で!?
大平 でもね、それとは別に、もっと記録的な枚数を描いたものがあるんですよ。結局、それはフィルムにならなかったんです。「こんなもん、処理できない」って言われて(笑)。『PROJECT A―KO 3』の時の事なんですけど。C子が巨大恐竜に変身するカットがあって、1カットで、カット袋2袋パンパンにした原画を上げたんです。確か動画枚数が1000枚以上(笑)。
小黒 それはTVアニメの1話の3分の1ぐらいですね。でも、1コマでも、そんな枚数にはならないでしょう。
大平 それは重ねがありますから。とにかく重ねる事ばっかりやってましたから。情報量を多くすれば、よく見えるんじゃないかって(笑)。
小黒 重ねの枚数でいうと、どのぐらいまでやったんですか?


(注1)山下(将仁)さん
金田伊功の流れを汲むアニメーターの1人。極端なデフォルメとタイミング、個性的な絵柄でマニアックなファンの人気を集めた。代表作に『うる星やつら』、『鉄人28号[新]』、『DALLOS』等がある。文中で話題になっている「柳のオジジ」とは、『うる星やつら』97話「怪談!柳のオジジ!!」
大平 A、B、C……Nぐらいまでだと思うんですけど(注2)
小黒 それは撮影の限界に近付いてますね。「何かを乗り越えよう」という意識があったんですか。
大平 うーん、そういう考えは特別なかったんですけどね。ただ好きで描いてるだけで。
小黒 あの頃の大平さんで印象的だったのは、形が変わってるという点と、黒ベタの塗りなんですけど。
大平 黒塗りはやっぱり、山下さんの特許ですからね(笑)。
小黒 ああ、そうですね。大平さんも、山下さんのようにマーカーを使ってたんですか?
大平 制作の人からは山下さんの「真似っこ」は嫌われましたけどね。
小黒 真似、という事は、山下さんの原画を直接見た事があるんですね?
大平 ぴえろに『DALLOS』の原画が山積みにされてたんですよ。それで制作の人にお願いして、必死になって山下さんの原画だけ探して、「これは宝物だ」なんて言って、持って帰っちゃった(笑)。
小黒 その頃、他に影響を受けた方はいないんですか?
大平 そうですねえ、梅津(泰臣)さん、田村(英樹)さんかなあ。メカ作画では、アニメアールの吉田(徹)さんとか。
小黒 梅津さんは、どの辺に心惹かれたんですか。
大平 やっぱり、今まで見た事なかったような画ヅラだったからですね。緻密だし。それに1コマだし(笑)。
小黒 田村さんは、どの辺りの作品が?
大平 『BIRTH』とか、『プラレス3四郎』とかですかね。
小黒 要するに、その頃は「かっこいい画」を目指していたわけですよね。
大平 そうですね。
小黒 その後、『AKIRA』になるんですね。『AKIRA』は、どうして参加なさったんですか。
大平 あれは、自ら「やりたい」って言って、原画持ち込んで、大友さんに見てもらったんです。
小黒 どこをやられたんですか。
大平 最初は、他の方の引き上げ分の手伝いだったんです。エレベーターの中から、金田達が乗ったフライングポットが出てくるところですね。ベビールームへ向かう、ちょっと前。向かうところは、確か新井浩一さんがやられているんで、エレベーターから出てくるあたりですね。
小黒 他は?
大平 ラストの崩壊シーンです。それから、エンディングの手伝いかな。本当はエンディングをやる予定だったんですけど、時間の都合でみんなで分けてしまったんですよ。
小黒 じゃあ、キャラクターと言うよりは、エフェクト作画なんですね。
大平 ほとんどエフェクトでした(笑)。
小黒 その時には、「人物も描きたい」っていうような考えは、あったんですか。
大平 いや、そういう考えはなかったです。
小黒 その後、『御先祖様万々歳!』に参加なされますが、どういう経緯で参加したんですか。
大平 『御先祖様』は、うつのみや(さとる)さんと一緒に、橋本の兄貴もやってまして。
小黒 橋本晋治さん?
大平 いや、橋本浩一さんです。お兄さんの方です。その人の口利きで、やらせてもらったんですよ。
小黒 『御先祖様』という作品は、大平さんの中では大きいんですか。
大平 うーん、あまり仕事をしたくなかった時期なんですよ(笑)。『AKIRA』で疲れたんですかねえ(笑)。その前の『ライディングビーン』も、ほとんど直しをやってなかったような気が……(笑)。
小黒 うつのみやさんの仕事からは、影響は受けてないんですか。
(注2)A、B、C……Nぐらいまで
A、B、Cとは、それぞれAセル、Bセル、Cセルの事。撮影時に一番下になるのがAセル。2番目がBセル。Nまで使ったという事は、セルを14枚重ねたという意味。
大平 やっぱり受けてると思います。それは『八犬伝』の1話に出てると思いますよ(注3)
小黒 『THE 八犬伝』の1話は、『御先祖様万々歳!』の直後ですよね。
大平 そうです。『八犬伝』1話は、ワクワクしてやってたんですけど。
小黒 あれも、かなりアニメとして面白い作品ですよね。
大平 あ、そうですかね?
小黒 演出もお話も面白いんですけど、作画がかなり面白いですよ。何度観ても飽きないというか、何度観ても驚きがあるというか。
大平 ははは(笑)。1話は、橋本晋治君と共同作監だったんですよ。
小黒 お互い直し合ったりはしてないんですか?
大平 いや、してないです。
小黒 じゃあ、このシーンは橋本さん、このシーンは大平さんという形で、そのままスーッと通ってしまった?
大平 スーッとは、なかなかいかなかったですけど、そういう風にしてしまいました。
小黒 例えば、1話で気に入ってるシーンというと?
大平 うーん……雷ですかねえ。
小黒 雷?
大平 望遠で山を映している時に、雷が落ちるんです。あのカットぐらいかな、自分で描いたものの中でマトモだったのは。
小黒 ええっ、そうなんですか。人の動きなんかはどうなんですか?
大平 うーん……(苦笑)。
小黒 橋本さんとはどうやってシーンを分けたんですか。
大平 コンテがもともとラフなものだったんで、コンテの清書からやってほしいと言われたんです。その時点で自分が清書したところを、それぞれ作画の受け持ちにしたんです。
小黒 コンテの清書から……という事は、コンテ段階から、既にああいう画になってるんですね?
大平 そうです。
小黒 となると、構図や動きも、コンテ段階でかなりまとまっていたわけですか。
大平 ある程度は、もうまとまってました。
小黒 ああいう画の仕上がりと、安濃(高志)さんの演出の方向性との関係はどうだったんですか。特に衝突みたいなものはなかった?
大平 何も言われなかったですね。かなり寡黙な方で。「まあ、いいんじゃない?」という感じでした。
小黒 ここで確認しておきたいんですけど、そもそも、『八犬伝』っていうのは、動かし屋のアニメーターが集結した作品だったんですか。
大平 結果的に言うと、そういう風になったんですかね。
小黒 今の時点で日本のビデオアニメ史を振り返ってみると、『八犬伝』って、凄く特異な位置にある作品だと思うんですよ。「どうしてこんなものが作られたんだろう」って(笑)。
大平 そうですね、特異だと思います(苦笑)。もっとも、内部では色々あったんですけどね。元々、僕が参加する事になったのは、AICに仲盛文さんって方がいらっしゃったんですけど、その人が、僕の事を気に入ってくれて、いろいろとお世話して下さったんです。だから、『八犬伝』の作監に抜擢というのも、仲さんの口添えとお力が大きいんですよ。

(注3)『八犬伝』の1話
『THE 八犬伝』1話「万華鏡」で彼は、橋本晋治と共同で作画監督を担当。詳しくは「作品紹介(3)」を参照。
小黒 『八犬伝』の後が、初の監督作品になる「骨董屋」ですね(注4)。ここで、大平さんの方向性が変わってきていると思うんです。フルアニメ的にかなり細かく芝居を付けようとしていますよね。
大平 そうですね。まあ、出来はどうあれ(笑)、そういうつもりでスタートさせました。
小黒 その方向性というのは、大平さんのご自身のものなんですね。
大平 『ガルフォース』でちょっとおかしくなった時ぐらいからですかね、そういうフルアニメ的な志向が出てきたのは。で、『AKIRA』で、ああいう緻密な作品に関わるようになって。それで、リアル志向というか、リアリティというか、「生々しいものを描きたい」と思うようになっていったんですよ。
(注4)「骨董屋」
雑誌形式のOVA「レンタマン」に連載されたオムニバスシリーズ『夢枕獏とわいらいと劇場』の1本。彼は、脚本・絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督・監督を担当。

●「animator interview 大平晋也(2)」へ続く

(01.04.28)


 
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