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アニメの作画を語ろう
animator interview
大平晋也(2)


小黒 でも、『AKIRA』って、確かにリアル指向ではありますが、生々しいという感じではないような……。
大平 いえ、僕にとっては、凄くリアルなアニメなんですよ。
小黒 『御先祖様』と「骨董屋」の間に、『おもひでぽろぽろ』がありますが、これは大平さんにとってはステップにはなっていないんですか。
大平 『おもひで〜』は、あくまで仕事としての参加ですね。とにかくジブリの作品は、冒険ができませんからね。
小黒 それじゃあ、「骨董屋」に話を戻しますね。この作品では、生々しいものを……。
大平 うん。そういうものを、やりたいなあと思ってました。
小黒 あれは、原作も同じ内容なんですか。
大平 ええ、ほとんど同じです。
小黒 じゃあ、敢えて生臭い話を選んでやられたわけですね。
大平 そうですね。実は、原作では半分ぐらいがHなシーンなんですけど、それは描けなくて、ちょっと惜しかったなあ。それに、主人公は絵描きなので、惹かれたところもありました。「食えないんだよなあ」というくだりには自分を投影してね。
小黒 ははは(笑)。過去の世界の場面は、今見ても相当細かい芝居をしてますよね。
大平 そのあたりは、やっぱり原画の方の力ですよ。
小黒 いえいえ。細かくなりますけど、主人公が女の子を突き飛ばすあたりの原画はどなたなんですか。
大平 あれは田中達之さんです。
小黒 あ、そうなんですか。あの辺りで、柳沼(和良)さんはやってないですか。
大平 ちょっとだけ手伝ってもらいました。主人公の織田が台所に駆け寄っていくところ。
小黒 ああ、あそこが柳沼さんですか。
大平 回想場面に入ってすぐのところは、オープロにいらした、結城(明宏)さん。で、次が(橋本)晋治君。それから2カットばかり、磯(光雄)君にやってもらってるんです。で、柳沼さん、その後が田中さんですね。
小黒 今思えば、かなりの豪華メンバーですね。
大平 ありがたい事です。みなさんから教えてもらう事ばかりでした。
小黒 「骨董屋」では大平さん自身の達成感は、まだまだ?
大平 そうですね。スケジュールがなかったですねえ。動画、仕上げがズタスタでした。
小黒 でも、この頃で、思い描いているものって、もうはっきりしていた?
大平 ええ。当時は、そうですね。
小黒 話を『八犬伝』の1話に戻しますね。「骨董屋」のコンセプトが「生々しい」だとすると、『八犬伝』1話の作画面でのコンセプトというのは、どうなるんですか?
大平 どうですかね。特に考えてはいなかったかな(苦笑)。
小黒 あの時は、新しいものをやろうとは思っていたんですか?
大平 そういうのはなかったと思います。
小黒 じゃあ、自分達がやりたい事をやった。
大平 そうですね。
小黒 今まで「アニメスタイル」で語られてきた話を総合すると、『AKIRA』で近代的なリアルなアニメの萌芽が現れて。で、『御先祖様』で、「あ、これからリアルなアニメというのは、こうなるのか」というのが見えた。その『御先祖様』のノウハウで作られたアクションアニメが『八犬伝』の1話かな、と。
大平 あー、なるほど。そんな感じですね。
小黒 「そんな感じ」でいいんですか?(笑)
大平 「そんな感じ」です(笑)。
小黒 でも、『御先祖様』はシリーズの途中で変わってるから、そう断言するのも、まずいかもなあ……。
大平 『御先祖様』は1話と6話で全然違いますからね。うつのみやさんの描き方自体が、コロッと変わってますもんね。
小黒 1話の時は、形が凄くはっきりしてるんですけど、終わりの方になると、割とグニャグニャしてますよね。
大平 うつのみやさんの線自体が、1話の時は、もの凄く繊細な線だったんですよ。線1本ずれても、なんか絵柄が狂っちゃいそうな画でね。ところが、6話になると極太の線でしょう(笑)。イケイケっていう感じの、凄く走ったような画でしたよね。
小黒 どちらかと言うと、『八犬伝』1話は、その終わりの方の画に近いですよね。
大平 そうですね。『御先祖様』の、のびのびしてるところが凄くよかったんで。
小黒 大平さんの印象だと、『御先祖様』の後半はのびのびしてるんですね。
大平 ええ。
小黒 なるほど。『八犬伝』の1話って、キャラクターの形を「ちゃんと捉えていない」ところが新しかったのかも知れませんね。動いてる途中で形がグニャッと変わってもいいんだ、みたいな。
大平 その辺は、ちょっとディズニー的な感覚みたいなのもありました。
小黒 形に対して割と自由に捉えようみたいな気分がありますよね。
大平 それは昔からかもしれませんね。エフェクトに対する感覚とも似ているのかも。
小黒 つまり、「山下さん的」な感覚?(笑)
大平 そうですね。キャラクターもエフェクトでいいんじゃないかな、って(笑)。
小黒 キャラクターをエフェクト的に捉えてるわけなんですね。じゃあ、その時に優先させる事は、なんなんですか? 動きの気持ちよさなんですか? それとも、リアルっぽさなんですか?
大平 やっぱり、気持ちよさですかね。
小黒 『八犬伝』の1話の時は、動きの気持ちよさの方が大事だったんですね。
大平 そうですね。
小黒 聞くところによると、大平さんはこの頃「これからはディズニーだ」と言ってた、とか?
大平 そこまで言ったのかは覚えてないけど、一時期、本当にディズニー作品ばかり観てた時期はありました。
小黒 ディズニーのどこら辺の作品を御覧になってたんですか。
大平 『ピノキオ』が好きだったんですよ。
小黒 やっぱり初期のものなんですね。
大平 『ピノキオ』は確か2作目ですかね。『白雪姫』や『眠れる森の美女』も凄く好きだったんですけどね。
小黒 初期のディズニーっていうのは、どこら辺が好きなんですか。
大平 柔らかい感じが凄くよかったんですね。まあ、『眠れる森』はまた全然違ってましたけど……。肉感的なフォルムが凄く好きでしたね。それは山下さんもそうだったんですけど(笑)。
小黒 ああ、なるほど(笑)。
大平 当時、山下さんは何を描いても、どこかブクブクしてましたよね(笑)。そう考えると、あんなぷる時代の森本(晃司)さんの作画も、やっぱり肉感的なものがありましたよね。
小黒 『スペースコブラ』とか?
大平 ええ。コブラが落ちるシーンで手すりをつかむんですけど、その腕のアップにもの凄く肉の質感があって、「おお、凄い」と思った事がありますね。
小黒 ここでもう一度仕事の流れを整理すると、『AKIRA』をやって、『御先祖様』をやって、『八犬伝』1話があって、「骨董屋」に行く――つまり、アクションから今度は生々しい方へ生々しい方へ、と移っていったわけですね。
大平 それは、周りにそういう人間が多かったっていうのが、やっぱり大きいんじゃないですかね。晋治君なり、田辺(修)さんなりが、もの凄く近くにいたんで。
小黒 「骨董屋」の後のお仕事は何になるんでしょうか。
大平 『ユンカース』です。





小黒 例の『ユンカース』のパイロットフィルムですね(注5)。本編はやられていないんですか?
大平 ええ、エンディングを少しだけです。パイロットを終えた段階で、スケジュール的に「お前にはもう任せられん」っていう事で、降板させられたんですね(笑)。
小黒 パイロットでは、作画監督でしたっけ?
大平 キャラクターデザインと作画監督です。
小黒 という事は、大平さんの画がベースになって、本編の画が作られた。
大平 本編の画は、全然違いましたけど(苦笑)。
小黒 時間がかかりすぎた、っておっしゃいましたけど、どれぐらいかかったんですか?
大平 うーん、何ヶ月ぐらいやっていたんですかね。半年ぐらいかな。
小黒 パイロットって、全部で何分ぐらいでしたっけ?
大平 3分ぐらいじゃないですか。
小黒 3分で半年!
大平 ははは(笑)。
小黒 原画メンバーはどなたなんですか。
大平 ああ、「その辺」です。
小黒 「その辺」(笑)。と言うと具体的には?
大平 橋本晋治君と、田辺さんと、結城さんと、大橋学さんですね。
小黒 パイロットフィルムは、勿論一部の人間しか見られないわけですけど、当時、見た人にはかなりの衝撃を与えたようですよね。
大平 そうなんですかね(苦笑)。
小黒 井上俊之さんの言葉を借りれば「かつてないリアルな芝居だった」という事ですけど。
大平 やっぱり、田辺さんのところが、そういう印象が強かったんじゃないですか(笑)。
小黒 (苦笑)。ご自身の狙いとしてはどうだったんですか。
大平 もう少しコミカルな方がよかったような気がしますね。
(注5)『ユンカース』のパイロットフィルム
劇場『ユンカース・カム・ヒア』の準備段階で作られたフィルム。残念な事に一般公開はされていない。ビデオソフト化の際は、是非とも映像特典として収録してほしいものだ。
小黒 その後が、『八犬伝』新章4話になるわけですけど。そもそもの関わりは?(注6)
大平 前々から『八犬伝』の新シリーズをやる時には、その内の1本を任せてもらえるっていう話を戴いていたんです。以前、僕が関わった『RIDING BEAN』の監督が、『八犬伝』でAICのプロデューサーをやられていた長谷川(康雄)さんなんですね。その絡みで誘われたんですよ。
小黒 新章4話は、かなり本気の仕事だったんですよね。
大平 もうこれで、この業界を辞めようと思ってましたからね。だから、自分の気持ちの中で、最後にちょっと一花咲かせてと思って。
小黒 実際にこれで1回お辞めになっているんですよね。
大平 そうです。
小黒 湯浅(政明)さんに声をかけたのは、どうしてなんですか。
大平 これまで同じようなメンバーとばかりと付き合ってたもんですから。別な人と組んで、ちょっと新しいものに挑みたい、という気持ちがあったんです。そんな時に、橋本の兄貴から、「『(クレヨン)しんちゃん』で面白い画を描いてる人がいる」と聞いたんですね。見てみると、「おお、この人だったら行けそうだな」と。それで、シンエイ動画に電話したら、その場に湯浅さんがいらして、「いいですよ」と、あっさり受けてもらえた(笑)。それでコンテのラフの一部を見せて、「こんなのやりたいんだけど。割とリアルな方向で描ければいいかな」なんて話をしたんですね。湯浅さんも「ずっと、『しんちゃん』みたいなものばかりやっていたんで、そろそろ、こういうのがやってみたかった」って言って下さって。で、湯浅さんが自分のつながりのあるアニメーターの方達を連れてきてくれて、これは面白いものができそうだ、と。
小黒 そのあたりの話は湯浅さんからも聞いてるんで、多少は分かってるつもりなんですけど。最初に考えていたものと、実際にできあがったものって、ちょっと違うものになったのでは?
大平 いや、そうでもないですね。

(注6)『八犬伝』新章4話  『THE 八犬伝[新章]』4話「はまじ 再臨」。彼の役職は演出・絵コンテだが、実際にはレイアウトや原画の修正もしている。詳しくは「作品紹介(4)」を参照。
小黒 あ、そうなんですか。湯浅さんからは、もうちょっとキャラを似せるつもりだった、と聞きましたけど(注7)
大平 それはそうでしょうね。
小黒 大平さんとしては、あの画でOKなんですね。
大平 全くもって、OKです。
小黒 コンセプトとしては、リアルという事以外に何かあります?
大平 うーん、リアルと生々しさ、みたいなものが出ればと思ってました。
小黒 ここで言うリアルって「写実」の事ですか?
大平 うーん……どうですかねえ。
小黒 湯浅さんは、自分でビデオの前で演技して、そのビデオを見ながら作画した、とおっしゃってましたけど。
大平 ああ、たくさんスケッチしてましたよね。
小黒 そもそも、画も湯浅さんと2人で直してるんですよね。
大平 結局、そんな風になっちゃってましたね、スケジュール的な問題で(苦笑)。
小黒 最初は演出だけするつもりだった。
大平 勿論そうです。
小黒 せいぜいレイアウトチェックぐらいまでで。
大平 いや、本当の事を言えば、スケジュールがあれば全部やりたいんです(笑)。
小黒 レイアウトも原画も作監も。
大平 でも、そこまで1人ではできないから。
小黒 それで湯浅さんをパートナーに?
大平 ええ。湯浅さんは、充分以上に素晴らしかったです。「ああ、ここまでやってくれるとは思わなかった」というぐらい、よかったですね。

(注7)湯浅さんからは
湯浅政明の『THE 八犬伝[新章]』4話に関する発言は、「アニメージュ」99年2月号「この人に話を聞きたい」、「アニメスタイル」本誌2号を参照。

●「animator interview 大平晋也(3)」へ続く

(01.05.14)


 
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