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animator interview
沖浦啓之(2)
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小黒 『BLACK MAGIC』は、もちろん、かなり気張ったお仕事になるわけですよね。
沖浦 ええ。1年近くやっていましたから。それまで、ひと月に100カット描くとかそんなスケジュールでやってたので、じっくり時間をかけて作っていく作品って、想像もつかない世界だったんですよ。後で『BLACK MAGIC』を好きだって言ってくださるマンガ家の方がいたり、誉めてくださるコメントを見る機会が多くて、やれてよかったなあという思いはあります。ただ、今観ると、きたなーい仕上がりなんですけどね(苦笑)。
小黒 今観ると、なんとなく仕上がりが粗い気がするんですよね。
沖浦 まあ、当時から粗かったですけどね。
小黒 ああいった印象になっているのは、動画以降の問題なんですか。
沖浦 背景とか、色の印象でもあるんじゃないですか。もちろん作画の不備もありますし。
小黒 あの時期のOVAとしては充分過ぎる仕上がりなんですけどね。TVのように枚数を気にしなくてよい仕事というのは、これが初めてですね。
沖浦 そうですね。枚数の事を気にしないでやれるっていうのは。
小黒 公称35000枚でしたっけ?
沖浦 いや、あれはないと思うんですよ。多分、水増しした数字じゃないかと思うんです。俺の感覚では1万数千枚とか、そんなもんだったんじゃないかと。
小黒 47分もあるわけだから、もうちょっといってるんじゃないですか。
沖浦 枚数を使いそうなカットでも、今みたいに、なんでもセル分けして描くわけじゃないから。要領よくTVの技術の延長線上で描いてるんですよ。むしろ、使いたくても使い方を知らなかった、と思うんですよね。だから多分、そんなには行かないと思う。もしも、本当にそれだけの枚数がかかっていたら申し訳ないけど(苦笑)。
小黒 ご自身で原画をお描きになったのは、最後のビルの上のシーンですね。
沖浦 そうですね。100カットぐらいあるかな。それと、最初に66が登場したあたりのシーンも描いています。木の幹にトラップを巻きつけて66が登場して。
小黒 その後の、道路での戦いは違うんですか?
沖浦 道路のところまでいくと、もう違う。森の中で兵士が何人か倒されて……あ、道路もやってます。車を振り回して爆発するあたりまでですね。
小黒 その後の、66がアクロバット的に回りながら戦ったりするところは、違うんですね。
沖浦 ええ、直後は吉田さんで、途中、アクロバット的なところは毛利さんが少しやってたりします。
小黒 あれは毛利さんなんですか。
沖浦 パイプを使って(兵士の攻撃を)絡めとって、でんぐり返りをしたりする。今見ても素晴らしいあのカットなどは毛利さんですね。
小黒 エレベーターの中で、全作画で主観っぽいカットがありますよね。あれは森山(ゆうじ)さんだとうかがったんですが。
沖浦 あれは森山さんはラフ原ですよ。原画はスタジオMINのイッチーさん(市川吉幸)ですね。あそこは原画が素晴らしくて、修正は入れないで、ほぼそのままです。
小黒 ビルの上のシーンは相当な量をお描きですよね。
沖浦 あそこも、少し手伝ってもらってはいるんですよ。ロングショットでビルが壊れて、装甲車の上に石が降ってきて兵士が逃げるところは、大平(晋也)君が。
小黒 あ、そうなんですか。
沖浦 その辺はちょっと手伝ってもらっています。でも、他のところは大体はやってますね。最後の66が吹っ飛ぶところも、今だったらもっと違うやりようがあったんだろうと思うんだけど、あの時期ではあれが精一杯でした。
小黒 『(赤い光弾)ジリオン』のオープニングはどこをやってるんですか?
沖浦 『ジリオン』のオープニングは、背景動画でチャンプがバイクで走ってきて、前からくる敵メカを撃つカットと、敵のロボットが手を振り下ろすのをアップルがジャンプして撃つカットですね。
小黒 そのふたつ?
沖浦 ふたつですね。あれは『BLACK MAGIC』で大忙しの時にやってたんですけど。
小黒 制作プロデューサーの石川(光久)さんがカットを送りつけたんでしたっけ。
沖浦 違います。それは劇場『(機動警察)パトレイバー』の時で。
小黒 ああ、そうでしたね。
沖浦 この時は、石川さんの事はほとんど知らなかった。電話で「ちょっとオープニングをやって欲しいんだけど」と言ってきたんです。「たかしさんに頼んでいるんだけど、たかしさんが(原画を)放さなくて、出してくれない。もうスケジュール的に危ないんだけど」。それで「『この人とこの人にだったら原画を出しても(任せても)いい』って言うんだよねえ」と言ったんです。それは多分、俺を喜ばせようという石川さんの脚色が入ってるんじゃないかと思うんですけどね。で、こっちも「本当にたかしさんが、そんな事を言ってくれてるの!?」って思うじゃないですか(笑)。『BLACK MAGIC』で大変な頃だったんですけど、そこでまたさらに2日……。
小黒 ……家に帰れない事になったわけですね。
沖浦 ええ。「余計に帰れないようにすればなんとかなるかな」とか、色々計算して。せっかくだから(石川さんに)「やってもいいけど、その代わりたかしさんの原画を全部、シートも一緒にコピーしてください」と言って、それでやったんですけどね。
小黒 コピーは戴けたんですか?
沖浦 ええ、すぐに。原画のコピーを見たら、もう、苦労が吹っ飛びましたよ(笑)。
小黒 それが初めて見た、なかむら原画だったんですか。
沖浦 いや。『ウラシマン』の新幹線の回(第26話「ネオトキオ発地獄行き」)なんかは、アールで動画をやってたので、そのコピーを全部とってあって、それを見てはいたんですけどね。
小黒 で、『ジリオン』の各話作監を経て、ターニングポイントになる『AKIRA』に突入するわけですが。
沖浦 そうですね。まあ、『AKIRA』は(東京)ムービーから電話をもらって声をかけていただいたんです。大友(克洋)さんが『BLACK MAGIC』などを見て、使えるんじゃないかと思ってくれたのかな、とは思うんですけれど、直接訊いた事がないので、そのあたりは定かじゃないんです。だけど、わりと早めに声をかけてもらっていたので、何かしら好印象をもって頂いていたのではないか、と。ま、勝手に思ってるんですけど(笑)。行った時には、井上(俊之)さんとか、川崎(博嗣)さんとか、ただっ広いスタジオの中の一部分だけに原画の人がいるような状況だったんです。
小黒 『AKIRA』には上京して参加されたわけですよね。
沖浦 そうですね。谷さんに「実は『AKIRA』をやってくれないかと声をかけられているんですけど」と言ったら、谷さんが気持ちよく「やってこい」と言ってくれたので、「じゃあ、とりあえず半年ぐらい行ってきます」と。実際、7ヶ月か8ヶ月くらい東京にいたんですけど。
このあたりの話は、この前出た『AKIRA』の本(「アキラ・アーカイヴ」講談社)に詳しいんですけど、井上さんをはじめ、植田(均)さんとか、川崎さんとか、江村(豊秋)さんとか、錚々たるメンバーの絵を初めて見て、「なんでみんな、こんなに巧いんだろう」と。本当に色々なものを見て目の肥やしにしたり、同時に自分の技術を磨いたり、本当に充実した毎日でした。
制作が進んで、色んな人が入ってくる中で、やっぱりよくない原画も当然出てきて、作品自体が大分荒れた感じになってきたなあ……なんて油断してる頃に、新井(浩一)さんとか浜洲(英喜)さんとかが現れて。最初、レイアウトが制作の机の上に置いてあったんですよ。それまで全然見た事もないような絵で、スタジオの中にいる人の絵じゃないんですよね。「どこの巨匠だ」と思うくらい達筆なんです。後で聞いたら、それが新井さんの絵で。かと思えば、もの凄い緻密な原画があって。「この異常な集中力の人は誰だ?」と思ったら、浜洲さんだったり。時期的にはもう少し前かもしれませんが、田中達之氏が登場したり――と、そういう風に次から次へと新しい衝撃が、これでもかというぐらいに押し寄せてくる。本当にそこに居合わせる事ができた楽しさは、他にはなかなかないものだったと思うんです。
小黒 これまで何人か『AKIRA』に関わった方に話をうかがっているんですが、辛かったとか、大変だったという人の方が多いんです。でも、沖浦さんはかなりポジティブに捉えてますよね。
沖浦 いやまあ、現場では辛い事も多かったですよ。制作とはだいぶやり合ったし。
小黒 実際にお描きになったのは、具体的には、映画前半の街中で犬が撃たれた直後から?
沖浦 直後からですね。
小黒 撃たれた犬が地面に落ちるところは違うんですか。
沖浦 いや、シーンが変わって、ビルのPANダウンするカットからです。
小黒 犬のシーンは前の方の担当なんですね。
沖浦 ええ、天才・竹内(一義)さんの仕事です。
小黒 じゃあ、沖浦さんの仕事は、モブシーンからその最後までですね。
沖浦 ええ、そうですね。
小黒 後の『人狼』でやっぱり映画の冒頭にモブシーンがあるじゃないですか。ご自身の中で『AKIRA』のリトライという意識はあったんですか。
沖浦 それは全然関係ないです。押井(守)さんのシナリオでそうなってるだけで。
小黒 偶然ですか。
沖浦 結局、ああいうデモ隊とか学生運動とか――『AKIRA』の場合は学生運動ではないですけどね――そういったものが大友さんと押井さんの中で共通しているんでしょうね。
小黒 世代的なものなんですかね。
沖浦 そうなんでしょう。同じ事を描いていると言ったら、むしろ「何の作品をやってもアーミーを描いている井上さん」というのが(笑)。
小黒 ああ、なるほど。
沖浦 あの頃から、そういったシーンの原画を持たされていて、いまだに描いてますからね。兵隊がぞろぞろ出てきたら井上さん、っていう。
小黒 原画の描き方に関して、『AKIRA』に参加した事で変わった部分はないんですか?
沖浦 うん、ありますね。
小黒 『BLACK MAGIC』って、当時はかなり緻密な作画に思えたんですけど、今見ると、まだ大らかなんですよね。
沖浦 ええ、そうですね。別にパースをとってきっちり描いているわけじゃなくて、見た目を士郎(正宗)さんのコンテの印象に近づけるように頑張って描いている、というだけでしたから。結局、『AKIRA』では自分はそんなに変わってなくて、『AKIRA』で勉強した事を、その後の仕事に反映させているんだと思うんです。
スタジオでは、隣に江村さんが座っていて、仕事をしながらよく喋っていたんですよ。『きまぐれオレンジ☆ロード』で貴志さんが作監だった回で、江村さんが自転車のシーンの原画を描いていて、その原画を見た事があるんですけど、レイアウトも原画も凄くカッコよかったんですね。その原画について訊いたら、「自転車が難しくて、ぴえろの周りを自転車に乗ってグルグル回ったんだよ」と言われて。やっぱり巧い人は、そうやって実際にやってみて勉強して描くから、巧くなるんだと思ったんです。巧さの上に、理屈が加わってるんですね。考えると当たり前の事でもあるんだけど、当時はなかなかそんな事をする人はいなかった。今でもそうですけど、想像力だけで描こうとするもんなんですよ。何か自分でやってみて、実証を得てからでないと描けないっていうのは、やっぱり巧い人には共通してあるものだと思うんです。
レイアウトに関しても、簡単に言うと、望遠と広角で違ってくるという事を、あまり考えた事がなかったんです。そうしたら、江村さんが本を一冊をくれたんですよ。それは写真の本で、同じように撮ってもレンズによってこれだけ違うんだ、というのが分かるんです。その本で江村さんは勉強したというんですよ。さらに、パースのとり方も教えてくれて……。それがその後、仕事に反映する部分では大きいかな、と。
小黒 それは主に江村さんのノウハウであって、『AKIRA』全体のノウハウじゃないんですね。
沖浦 ええ。『AKIRA』のノウハウっていうのは、要するに大友さんやたかしさん、森本(晃司)さんの、ある意味天才的な巧さじゃないですか。もちろん、理論もあるんだろうけど、大友さんって、引いた1本の線に味があって、それが格好いい人だから。パースをちゃんととってなかったとしても、サマになってるというか。それは真似できるものではないですからね。江村さんが教えてくれたのは、理屈で画面を構築していく事だったんです。辿り着くところは同じようなものかもしれないけど、アプローチとしては違うんです。
小黒 『AKIRA』でアニメーションに、レンズの感覚が持ち込まれたというわけではないんですね。
沖浦 それはないです。
小黒 そういう事をやってる人もいたというだけであって。
沖浦 ええ、そういう事です。
小黒 実際に、レンズを持ち込んだ作画が行われるのは、後の劇場『パトレイバー』なりの作品という事ですね。
沖浦 ま、そうですね。もちろん、昔からそういう事を意識して作画された事はあったんです。あれはたかしさんが描いたのかな、いちばんインパクトがあったのは『ヤマトよ永遠に』の波動砲のシーンですよね。
小黒 あ、これですね(と、銃把を握って撃とうとするポーズをとる)。クライマックスで古代が波動砲を撃とうとするカット。
沖浦 ええ。俺の中では、あれが初めてインパクトを受けた望遠のカットなんです。
小黒 なるほど。確かにあれは望遠か。
沖浦 たかしさんじゃないのかもしれないですけどね。でも、後でサーシャが撃たれるところが、たかしさんの作監に見えたので、そうではないかと勝手に思っているんですが。そういうのは、断片的には昔からあったんだとは思うんです。
小黒 少しずつ色んな人がやっていた、と。でも、それを映画1本通して、スタイルとしてやろうとするのは、もう少し後なんですね。
沖浦 そうですね。いや、もしかしたらその『ヤマト』のカットも、マルチの計算間違いでそうなっただけとかね(笑)。
小黒 フレームの収まりのよさを考えたら、たまたまそうなっちゃったとか。
沖浦 ね、そういう事もあるかもしれないけど。ただ、そういうのが「カッコイイな」と思ったんです。でも、たかしさんは「生きている人形」でも、やってましたよね。
小黒 なるほど。
沖浦 ええ。『AKIRA』はそういうきっかけを色々与えてくれて、可能性を広げてくれた作品ですね。『AKIRA』をやって、狭めたとも言えるんですけどね。
小黒 それは沖浦さん自身の可能性を?
沖浦 ええ。アニメに関する視界を拡げてくれたと同時に、仕事の……。
小黒 幅ですか。
沖浦 幅を狭めたとも言える(笑)。
小黒 なるほど、沖浦さんが、はっちゃけたアニメとか、あるいは美少女ものとかに行く可能性もあったわけですね。
沖浦 そうですよ(笑)。(作品リストを見ながら)あ、『スケバン刑事』がないですよ。
小黒 『スケバン刑事』もやってるんですか?
沖浦 1話をやってるんです。『老人Z』の直前で、これが多分、アールでの最後の仕事ですね。
小黒 『スケバン刑事』はどんなところをやったんですか。
沖浦 観ればすぐに分かると思いますけど。
小黒 分かるんですね(笑)。じゃ、観ます(編注:「誕生編」のタイトルが出た直後の、女性がヤクザに乱暴されそうになるシーンでした)。話が前後しますが、『AKIRA』の直後には『ピーターパンの冒険』もありますね。TVでこれだけやったシリーズは、『ピーターパン』が最後になるんじゃないですか。
沖浦 そうですね。(リストを見ながら)この辺、3話ぐらい続けてやったんですよね。
小黒 フックのロボットシリーズ(編注:20話から23話。シリーズ中盤のクライマックス)ですね。21話はクレジットされてはいないけど、やってるという事ですか。
沖浦 その後かな。大平君のところを、ちょっと手伝った事があるんですよ。画面で見ると大したカットではないんですけど、それがフックのロボットシリーズの最後かな(23話「謎が深まる!ティンクの故郷を探せ」)。
小黒 ロボットシリーズの最後の大平さんって、あれですよね、お城が崩れて……。
沖浦 そうです。
小黒 ワニが飛び跳ねるところですよね。
沖浦 そのカットは大平君かな。シリーズ終盤でも、大平君は凄く大変な作画をやっていましたね。嵐がきて子供達の乗っている船の帆が風を受けて猛烈にはためいたり(40話「最後の決戦!ピーターパン対フック船長」)。
小黒 『ピーターパン』のスタッフは『AKIRA』からの流れなんですよね。
沖浦 そうですね。わりと凄い人が参加してましたね。どの回だったかな、賀川(愛)さんが原画の回はなかったでしたっけ。
小黒 賀川愛さんですか。
沖浦 これも記憶違いだったら申し訳ないけど、確か賀川さんだったと思うんです。女性が描いた女の人って、独特の色気があって好きなんですよ。男が描くと、どうしても自分の理想とか出ちゃって、気持ち悪いじゃないですか。女の人が描くとこう、さり気ない、裏づけのある色気みたいなものが出てくるんですよ。で、賀川さんが描いたウェンディが凄くよくって、感動した覚えがあるんですけどね。
小黒 それは、沖浦さんの回じゃないんですね。
沖浦 いや、僕の作監の回です。原画を見て「凄い!」と思った。
小黒 「悪魔になったウェンディ」(28話)かな。
沖浦 そうかな。テロップに名前が出ていたら、多分、その回だと思いますけどね(編注:28話でした)。
小黒 沖浦さん的に手応えがあったのが、12話(「海賊も逃げる?マイケルの怖い話!」)じゃないかと思うんですが。
沖浦 12話ですか。実は『ピーターパン』では初期の頃に、レイアウトを手伝ってもらえないかと言われていたんですよ。だけど、原画が描きたいので、レイアウトや作監は断っていたんです。でも、12話の時に、どうしても人がいないって事で、確か半パートだけ作監をやる事になった。手伝うような感じでパタパタとやったんですね。そういえば、12話で都留(稔幸)さんが原画で入ってたんですよね。海賊の2人が、ピーターパンの家に忍び込んできたところで。
小黒 変なトラップに引っかかって、身体が伸びたり、作画でショックを入れたりするところですね。
沖浦 そうそう。それがメチャメチャよくって、「なんだ、この凄い人は?」と思った。
小黒 いいですよね。もの凄く濃い原画ですよね。
沖浦 ええ、凄いです。もの凄い画力で描いてるんですよ。それが、時間がなかった事もあって枚数を気にしたのか、俺のところにくる前に、演出が枚数を減らしてきたんですよ。シートの横に変えたタイミングが書いてあったんです。1コマで1枚中割りが入っていたところが、2コマ中なしになったりしていて、ただ、あんまり原画が素晴らしいから、それをしちゃいけないんじゃないかと思って、演出に「都留さんのところは全部、そのままにしてくれ。他のカットで削るから」と言ったような気がします。ま、結局(他のところで)削れたかどうかはちょっと疑問なんですけども(笑)。都留さんのところは意地でもそのままにしました。
小黒 あの話でいちばん目立ってるのはあそこかもしれませんね。
沖浦 ええ。そうですよね。
小黒 ピーターパンがする怖い話の中で、ガイコツの恐竜みたいなのが出てくるじゃないですか。あのあたりは沖浦さんの原画じゃないんですか。
沖浦 いや、それは違うかも。あまり覚えてないですけど。
小黒 沖浦さんが、作監として手を入れたところなんですかね。
沖浦 そうかもしれない。12話はどこを描いたかなあ。いや、12話は原画は描いてないかもしれない。16話(「ウェンディ怒る!ピーターパンて大嫌い」)は、川下りがあるやつですよね。
小黒 そうですね。2人の海賊がウェンディを誘拐してカヌーで川を下るんです。その前にピーターパン達がトカゲで遊ぶのに飽きちゃって、「じゃ、帰ろう」と言うところは沖浦さんですよね。
沖浦 そうです。
小黒 アレは相当、イケてますよね。かなり『AKIRA』っぽい感じで。
沖浦 (笑)。その前後の川下りも俺がやっています。投げ縄みたいなのを使うんですよ。
小黒 他に『ピーターパン』で思い出深いシーンはありますか。
沖浦 思い出深い……。とにかく大変だったという思い出が(笑)。まあやっぱり、20話がいちばん大変だったですね。
小黒 20話はずっとバトルですよね。物が壊れるわ、大砲も撃つわ。
沖浦 そうですね。磯(光雄)さんがやってるんですよね。
小黒 ええ、例の大砲を撃つ時に、海賊の手下がフタをかぶるカットですよね。
沖浦 そうですよ。カッコいいんですよ。
小黒 エフェクトもいいし。それからフック船長が、大砲をカタカタカタと動かす時の、密着マルチもイケてるんですよね。あそこも磯さんですよね。
沖浦 磯さんです。シーンが分かれてましたっけ?
小黒 間が飛んでいましたよ。ピーターパン家の方にカメラが移って、また戻って。
沖浦 そうですよね。磯さんの原画も衝撃的でしたけどね。だから、全体でもの凄い物量だったんです。この話は、最初は俺は作監じゃなかったんですよ。12話で作監をやった後に、16話では最初の予定通り原画をやったんですが、20話の途中で「作監をやれ」と言われて。20話の原画の作打ちをした時は、俺はそこを持ってる一原画マンだったような気がするんですよね。気がつくと作監になってた、ぐらいの。
小黒 この話で、沖浦さんが原画をお描きになったのは、ロボットに乗ったフックがミサイルをバーンと撃って、ピーターパンがよけるところですよね。
沖浦 あ、違います。それは次の回で。
小黒 そうか。あれは22話だ。
沖浦 20話はあの、罠がいっぱい仕掛けられてるところにピーターパンが入っていって、岩が落ちてきて、水の中に落ちて、というところですね。自分の原画だけでもヒイヒイ言ってるのに、作監の仕事がきてしまって(笑)。
小黒 この頃、なかむらさんとのお付き合いはどんな感じだったんですか。
沖浦 TVシリーズなので、やりとりはほとんどないというか。あっても文書のやりとりが多かったですね。こっちは大阪にいて、制作とも電話で話すぐらいだから。
小黒 あ、そうか。この時は大阪のアニメアールに戻ってるんですね。じゃあ、作監作業する時は、原画が送られてくるんですか。
沖浦 ええ、そうです。(20話では)自分の原画が終わる頃には、俺の机の上の棚には原画がドワーッと乗っていて。これは枚数も1万枚を越えたんですよね。もの凄い物量で、1日30カットとか40カットとか見ないと、終わらないんですよ。最後の方は、1カットに30分しかかけられない……いや、いよいよ最後になると、もっと時間がなかった。でも、そのぐらいで見ないとダメだったから、画を描き出す前に、考えないと間に合わないんですよ。その一例としては、まず原画を睨んで、「ここはマズイなあ。どうすればいい、どう修正すればいい? ……切り貼りだ!」と思って、画をズラして、まず切り貼りをしてタップの位置を変えて、動きを変えちゃうんですよね。ある程度組み替えて、その上からまた全然違う絵を描くんです。軌道だけ(切り貼りした)原画で作っておいて、その上に画を乗せるかたちで、一発描きをすれば修正が終わるように。
小黒 なるほど、動きを考えながら画を描かなくていいように。
沖浦 ええ。もうパニック寸前でしたよね。結局、「とても間に合わん」という事で、一部を川崎(博嗣)さんと大久保(富彦)さんに手伝ってもらって、逢坂氏にも何カットか、ちょっとエフェクトみたいなやつの直しを手伝ってもらって。それでやっと間に合ったと思ったら、さっき言ったロボットのシーン(22話)の原画を入れられて。この前のたかしさんのイベント(アニメスタイルイベント第5回「なかむらたかし特集」)の時にも、流しましたよね。
小黒 ええ、流しました。
沖浦 その次に、城が崩れてるところを手伝って(23話)。本当に週刻みでそんな仕事が舞い込んでくるので疲れきって、「もうダメだ」と思って、ロボットシリーズが終わったところで1回休ませてもらったんですよ。で、気分転換に『デビルマン(妖鳥死麗濡編)』をやって。
小黒 ああ、気分転換なんですね。
沖浦 (笑)。
小黒 でも、『妖鳥死麗濡編』の発表は翌年ですよ。
沖浦 それはビデオの発売が翌年という事ですよね。多分、22話と28話の間に入ったのが『デビルマン』だったと思うんです。……いや、28話と37話の間かな。その間、俺の代わりに、谷さんが『ピーターパン』の作監をやってくれて。俺が『デビルマン』を喜びながら描いてる時に、谷さんが『ピーターパン』を修正していたのを覚えています。なんか「悪いなあ」という気もしましたね。で、その後でまた『ピーターパン』に戻ったんです。(リストを見ながら)『ヴイナス戦記』が後になっていますけれど、これは『ピーターパン』より前ですね。
小黒 『ヴイナス戦記』の作業は公開の前年なんですね。
沖浦 前の年です。『AKIRA』終わってからの参加ですね。
小黒 『ヴイナス戦記』はどこをやったんですか。全然分からないんですけど。
沖浦 『ヴイナス戦記』はラストで、最後、スロープのところで主人公と敵の大将が戦車で戦うところを。スロープの上で斜面が崩れていって。最後に全部崩れて煙だらけになるところまでかな。
小黒 ああ、クライマックスですね。何カットぐらいですか?
沖浦 50くらいかな。
小黒 という事は、あのシーン全部ですね。『ヴイナス戦記』では、安彦(良和)さんの一原とかレイアウトはあったんですか。
沖浦 それは、ないです。
小黒 そうなんですか。じゃあ『(巨神)ゴーグ』や劇場『(機動戦士)ガンダム』とは作りが違うんですね。
沖浦 ええ。安彦さんのコンテを拡大して、レイアウトにするというやり方が基本で、描きたかったら(自分でレイアウトを)描いてもよいという事だったんです。俺のところはスロープの関係で、組線(セルと背景を合わせるための基準にするための線)の多い場面だったので、確かレイアウトは一応全部、自分で描きましたね。多分止めて見たりすると、キャラで分かるんじゃないですか。いや、神村(幸子)さんが修正を入れてると思うので分からないかな。
小黒 実写との合成を除けば、『ヴイナス戦記』は全体にビジュアルの完成度は高いですよね。
沖浦 そうなんですよ。作画的には、貧乏ビスタで作ってるとは思えないですもんね。
小黒 あれって貧乏ビスタなんですか。
沖浦 ただ、「カットによって好きなサイズで描いてくれ」という指示がありました。「描き込みが大変な時は大判で描いてくれ」とか。安彦さんも「煙はリピートは考えなくていい。リピートを考えたら時間がかかるから、描き送りで描け」と言っていました。
小黒 ええっ!?
沖浦 いや、本当にそうなんですよ。
小黒 そういうもんなんですか。
沖浦 描き送りで描いてると、原画が10枚あろうが15枚あろうが、自分で計算して描いていけるんですけど、リピートにするなら、最初からリピートできる形にしないと描けなくなっちゃうんです。「ここからここに絵をつなげるために何枚必要だ」とか「ここで詰め方がおかしくなるから、元のを直さなきゃ」とか、色々出てくるんで、時間がかかるんです。最初にそういう的確な指示があったのでやりやすかったですね。
小黒 話を『ピーターパン』に戻しますね。『ピーターパン』はご自身の中で大きい仕事になるんでしょうか。
沖浦 そうですね。いや、大きいと言えば大きいんですけど。ひとつの仕事をするたびに、何か新しい物を必ず得たいなあと思ってやっていたんですよ。もちろん、『ピーターパン』の中でも、たかしさんのコンテ、レイアウトの設計については、勉強になる事は山ほどあったんですけど、ただ、たかしさんがコンテを描いてる以外の回だと、やっぱり普通のアニメなんですよね。そういう意味では、ジレンマがあったと思うし。
小黒 なるほど、普通の回は、あまりやりがいがないわけですね。
沖浦 ええ(笑)。どうしてもそういうのがあるから。自分の仕事としても途中からキレが悪くなってきたようなところがあったんです。最後の方で原画を描いたような回でも、自分で描いていてもハマらないというか、自分が思ったようなイメージに、なかなかならないようなところもあって。ま、若干その辺では発散しきれてないような感じがありました。
●「animator interview 沖浦啓之(3)」へ続く
(04.07.23)
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