アニメ音楽丸かじり(2)
『とある魔術』サントラ、『ef』主題歌収録作が発売!
和田 穣
いやあ、素晴らしかった。何が良かったって『とらドラ!』の16話「踏み出す一歩」ですよ。クライマックスの対決シーンに向かって、感情の高揚とクールダウンを繰り返しながら、徐々に振り幅を広げていく構成。これには楽曲のチョイスによるところが大きかったように思う。前回の記事で紹介した重要曲「Lost my pieces」は、やはりここぞという一番のクライマックスで使われていた。そのあたりもチェックしてみると面白いと思う。
オリコンチャートでは興味深い動きがあった。新番組『WHITE ALBUM』のOP、水樹奈々が歌う「深愛」が1月21日付のデイリーランキングで1位に輝いている。果たしてウィークリーでも自身最高の、そして声優個人としては初となる1位を狙えるか。
一方でアルバムの方では「CODE GEASS COMPLETE BEST」がウィークリー(1月26日付)でトップ。ご存じ『コードギアス 反逆のルルーシュ』の主題歌集で、1期、2期のOP・EDをコンプリートしたものだ。
去る2日に2度目となる武道館公演『I'VE in BUDOKAN 2009 〜Departed to the future〜』を成功させ、10周年の幕開けを華々しく飾ったI've。彼らが音楽を担当する『とある魔術の禁書目録』のサントラ第1弾が23日にリリースされた。OP「PSI-missing」とED「Rimless〜フチナシノセカイ〜」のTVサイズを含む全26曲で60分を収録。このCDがなかなか面白かったので詳しく取り上げたい。
ジャケットには当麻やインデックスを差し置いて、不敵な表情で電撃を放つ御坂美琴のイラスト。キャラクターデザインの田中雄一による描き下ろしだ。副題には「ELECTROMASTER」とある。これは美琴の二つ名「電撃使い」を意味するだけでなく、ほとんどが電子音で構成されている音楽性とも関連があるのだろう。
なおファンならばご存じかと思うが、この画でも見えているように美琴の恐ろしく短いスカートの下は短パンなので、例えめくれても安心だ。「いや、むしろ短パンの方がグッとくる」という業の深い方、僕も同感なのでお友達になりましょう。
BGMの作曲は井内舞子の手によるもので、彼女にとって初めての劇伴全曲担当という事になる。いわゆる劇伴の世界というのは今も昔も変わらずピアノやストリングスなど生楽器をよく使うものだけれど、このCDでは過去にあまり前例がないほどハウス・トランス・エレクトロニカ寄りのサウンドを志向しているのが特徴だ。音色もシンセやサンプリングを多用し、激しいノイズまで加えたデジタル色の強いもの。ブックレットの作曲者コメントによれば、このあたりは錦織博監督の意向も働いているという。
2、4、7、8、16、17など楽曲の中核をなすアッパーなダンスチューンはいずれもソリッドな音作りで痛快だ。これらはイヤホンで聴くよりもクラブやイベントの大音量で聴きたいなあ、と思わせる。
個人的にお気に入りなのが3「運命の始まり」で、激しいデジタルビートの上に歪んだエレキギターの不協和音、そこにオペラ調のボイスが載るという前衛的なナンバー。スティーブ・ヴァイのソロ作品を思わせる仕上がりだ。劇中でも激しい場面展開やアバンタイトルなど、要所で効果的に使われている。
14「偉大なる力」では立体音響を思わせる凝った空間処理が施されている。リスニング環境によっては包み込まれるようなサウンドを味わえるだろう。9、11など日常シーンの音楽でも、よくあるピアノやアコギではなく、エレピとエレキギターを用いるあたりに本作ならではの個性が光っている。
このあたりの音楽の方向性が、作品の細身でネオテニー的なキャラクター、都会的な背景美術と調和して独特のドライな質感を生み出しているように思う。当然ながら他のI'veメンバーが手がけたOP曲・ED曲との相性も抜群だ。
『ef - a tale of memories.』OP「euphoric field」、『隠の王』ED「HIKARI」、『ef - a tale of melodies.』OP「ebullient future」などを収録したELISAのデビューアルバム「white pulsation」が21日に発売された。まだ19歳という新鋭だが、合唱やオペラの経験があるというだけあって、澄んだ高音の響きが美しい歌い手だ。ついでながらお顔もたいへん美しい。彼女は昨年夏のAnimelo Summer Live 2008にも出演を果たしたので、大舞台にも物怖じしない堂々たる歌唱をご記憶の方もいることだろう。
CDのハイライトになるのは上記の3曲に加えて、いまノリに乗っている上松範康(Elements Garden)が書き下ろした3「ENDLESS ANTHOLOGY」、11「雪花幻想曲」をまず挙げたい。特に3は切ないメロディ、ドラマティックな曲展開、疾走するような激しいストリングスの動きなど、「これぞ上松節!」と言いたくなる要素がてんこ盛りだ。水樹奈々の「ETERNAL BLAZE」に代表される一連の曲調が好きな方にはオススメできる。個人的には今夏に劇場公開予定の『魔法少女リリカルなのは The MOVIE』の主題歌はこれでよいのではないか、と一瞬思ったくらい(笑)。
その他の曲では、ELISAの可能性を探るかのように様々な曲調にトライしているようだ。支倉千代丸による9「鵬翼のプロフェシア」は、いつもの千代丸メロディにゴシック要素を加えてELISAの歌を載せた結果、ALI PROJECTの方向性に接近しているかのようで面白い。
7は複雑なコード進行、3拍子のリズム、ピチカートを多用した音作り、高音域のコーラスなどヴァレンシアの楽曲によく似ている。この路線が気に入ったリスナーは、そちらも併せて聴いてみるとよいかも。
12は素朴で伸び伸びとしたメロディに、アコースティックで気の利いたアレンジが映える佳曲。菅野よう子と組んでいた頃の坂本真綾の楽曲を思わせる雰囲気だ。
一通り聴き終えて思うのは、結局のところ現状でELISAのヴォーカルに最も合っている曲調はやはり『ef』の2曲なのだろうということ。彼女は英語の発音もいいし、これらの高音域の声を活かした切ない楽曲が今は一番しっくりくる。
ところでこのCDは帯のキャッチコピーが強烈だ。「純白の歌声が天空まで響き渡る至高のアンソロジー」というやたら壮大なコピーにはある種のロック魂さえ感じる。
かつて1990年代に「ゼロ・コーポレーション」というレーベルがあった。ヘヴィメタルのベテランバンドを主に扱っていたが、ここの名物はその大仰とも言えるほどのキャッチコピー。多くのCDに「感涙」「壮絶」「究極」「鮮烈」など熱すぎる言葉が踊っていた。僕はよくゼロのCDを買っていたのだが、毎回大いに楽しませて貰ったものだ。だからこのCDのキャッチコピーを最初に見た時、ジェネオン内部にはゼロのファンがいるのだろうか? と想像してしまった。
(価格はすべて税込)
(09.01.26)