アニメ音楽丸かじり（39）
『けいおん!!』『みつどもえ』主題歌が発売！
和田 穣
『けいおん!!』17話「部室がない！」は、軽音部メンバーが練習場所を求めて右往左往する話だった。最後は練習スタジオに行き着くわけだが、そのスタジオ描写のリアルさが、バンド経験者なら思わずニヤリさせられるような完成度。初回利用時に会員証の作成を求められたり、メンバー募集のチラシがごちゃごちゃと貼られていたり、飲食や喫煙に厳しかったり……僕も学生時代から多くのスタジオを利用してきたクチだが、何度も「あるある！」と笑ってしまうような場面を見かけた。
練習スタジオといえば、以前から個人的によく利用しているのが秋葉原のスタジオ。アニメやＰＣ・家電の街という印象が強いが、実は音楽スタジオもかなり充実している場所なのだ。駅自体も都内各所からのアクセスがよく、メンバーの住所や勤務先がバラバラ、という社会人バンドにはぴったり。
特にLaOX MUSICVOX（旧・楽器館）の７・８階にあるmusicVOXstudioは、秋葉原駅から徒歩１分という立地のよさで、個人練習にも対応していて使いやすい。イケベ楽器の地下にあるスタジオリボレ、昌平橋そばにあるSTUDIO音楽館はいずれも15部屋以上を有する規模があり、ライブを行えるスペースまであるのが強み。この３店が代表的だが、秋葉原には他にもいくつか練習スタジオがある。
かつてはアニメファンとロックファンの両者は、どこか互いに相容れない空気があったように思うが、最近ではGACKTや大槻ケンヂがAnimelo Summer LIveに出演するなど、だいぶ状況が変わってきた。今後は、秋葉原でアニメグッズを買い込んだ後、仲間とスタジオに入り、お気に入りのアニメソングを演奏する。そんなライフスタイルが当たり前になるのかもしれない。
さて、８月の上旬は発売されるサントラがとても少ない一方で、主題歌がなかなかに豊作だ。まずは冒頭でも触れた『けいおん!!』の新ＯＰ主題歌「Utauyo!!MIRACLE」を紹介しよう。８月４日にポニーキャニオンからリリースされ、初回限定盤は着せ替えジャケットにピクチャーレーベル仕様だ。これまでのＯＰ曲と同じく、作詞・大森祥子、作編曲・Tom-H@ckのコンビによるノリのいいロックチューン。
前ＯＰ曲「GO! GO! MANIAC」もかなりハイテンションで突っ走る楽曲だったが、テンポはさらに上がって、サビで倍テンになる激しさ。この異様なまでの多幸感とか、歌詞が聞き取れないほどの疾走感というのは、日本のロック史を振り返っても他に類似例が見あたらないように思う。そして、この難曲を軽々と楽しそうに歌いこなした声優、豊崎愛生の歌唱力にも注目したい。彼女の個性が、日頃はだらけているがいざ楽器を手にすると才能を発揮する、平沢唯のキャラクター性とシンクロしているのもポイントだ。
興味深いのがサビの音域で、１期ＯＰの「Cagayake! GIRLS」は最高音がＢだったのが、「GO! GO! MANIAC」ではＦ♯、「Utauyo!! MIRACLE」ではＦまで一気に５度も跳ね上がっている。現代のJ-POPでは、女声の最高音はＢからＤくらいが一般的だから、これはかなり高めのキーだ。そのあたりの事情は「Ｃｕｔ」８月号の『けいおん!!』特集に詳しいが、作曲者のTom-H@ckが、豊崎愛生の音域や個性をより正確に把握した結果だという。
『みつどもえ』ＯＰ「みっつ数えて大集合！」がいよいよ11日に発売される。かねてより注目していた楽曲で、前々回の記事でも楽曲を分析している。そちらも参照していただきたい。歌うはみつば、ふたば、ひとはの丸井三姉妹役で出演している高垣彩陽、明坂聡美、戸松遥の若手声優３名だ。ディレクションが効いているのか、きちんと役のイメージに合った歌い方を徹底しており、どのラインをどのキャラクターが歌っているのかが分かりやすいのが好印象。このようにメロディでそれぞれがソロをとり、サビで全員が合唱するのは『涼宮ハルヒの憂鬱』ＥＤや『らき☆すた』ＯＰをヒットさせた、ランティスの黄金パターンだ。
作編曲とサウンドメイクを担当する前山田健一は、アニメソングやアイドルソングの作曲家として活躍している人物。また、ヒャダインの名義で「FINAL FANTASY」シリーズなど有名ゲームのＢＧＭに自ら歌詞をつけ、複数の登場キャラクターを演じ分けながら歌うという活動でも知られる。これらの音源は動画サイトにアップされ、合計で3000万再生以上という人気を誇っている。
この「みっつ数えて大集合！」では、得意とするゲーム音楽やアイドルソングのエッセンスを、アニメ・声優ソングのフォーマットにうまく落とし込んでおり、2010年型アニソンのサウンド傾向を示す、ティピカルな例と言えるだろう。
（価格はすべて税込）
（10.08.03）