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東京国際映画祭レポート(2)
『ケモノヅメ』&『TOKYO TRIBE2』


 今回の東京国際映画祭「animecs TIFF2006」で、今 敏監督特集と共にもうひとつ大きな柱となったのが、「WOWOW HDTV ANIMATION特集」。『シュヴァリエ』や『太陽の黙示録』など、ハイクオリティかつ意欲的な内容の全4タイトルがスクリーン上映された。
 映画祭終盤の10月28日には、湯浅政明監督の『ケモノヅメ』1〜4話の上映と、11月11日に放映スタートを控える話題の新作『TOKYO TRIBE2』第1話のプレミアが開催された。

 『TOKYO TRIBE2』は、ストリートファッション誌「BOON」で9年間にわたって連載された、井上三太のコミックが原作。愛と暴力が渦巻く都市トーキョーを舞台に、様々なTRIBE(=族)が繰り広げる壮絶な闘いと友情のドラマが描かれる。若い世代から熱狂的に支持される原作のアニメ化に真っ向から挑むのは、意欲的な企画を次々に手がけるマッドハウス。監督を『機動戦艦ナデシコ Martian Successor Nadesico』『学園戦記ムリョウ』の佐藤竜雄が務め、原作のスピリットを損なわないエキサイティングな作品世界の構築に挑んでいる。

 当日は『TOKYO TRIBE2』から多彩なゲスト陣が来場。原作者の井上三太、監督の佐藤竜雄、声優の浪川大輔(出口海役)、三宅健太(メラ役)、小林ゆう(スンミ役)、エンディングテーマを担当したスチャダラパーの3人、音楽を手がけたMUROの総勢9名による舞台挨拶が行われた。

▲『TOKYO TRIBE2』スタッフ&キャスト。前列左から小林ゆう、原作者の井上三太、佐藤竜雄監督、浪川大輔、三宅健太。後列左から音楽のMURO、スチャダラパーのSHINCO・BOSE・ANI

 今回、原作者自らのラブコールに応えて音楽監督を務めたのは「KING OF DIGGIN'」の称号を持つヒップホップ・アーティスト、MURO。TVアニメのサウンドトラックを手がけるのは、これが最初となる。

MURO「全てが初めてで、いろいろとやり甲斐がありました。まだ絵がない段階だったので最初はインストで行こうと考えていたんですが、このサントラに参加したいというMCが凄くいっぱい増えてきて、みんなで協力してできた作品になっています。それも本当に各トライブ感が出てるんですよね。千葉のクルーもいれば、水戸のクルーも、東京のクルーもいるし。だからそっちはそっちでひとつドラマができちゃってる感じで(笑)。そういうところも楽しめると思います」

井上「MUROさん、謙遜がちに言ってますけど、ホントに世界中の凄い方達が集まってきて。これもひとえにMUROさんの人徳っていうか、日頃の行いの賜物っていうか。なんか校長先生みたいだけど(笑)、ホントに凄いんですよ!」

 その言葉どおり、『TT2』のサントラには海外からも豪華メンバーが集結。ウータン・クランのゴーストフェイス・キラーやレイクウォンらが参加する他、ジャスト・ブレイズやアルケミストといったプロデューサーも名を連ねている。MURO曰く「マニアも頷ける内容」だとか。また、クールなオープニングテーマを手がけるのは、ILLMATIC BUDDHA MC's。そして人気ラップグループのスチャダラパーがエンディングを締めくくる。これも井上三太が熱望したコラボレーションだ。

スチャダラパー・BOSE「アニメのエンディングをやるっていうので、僕らもちょっとドキドキして、力み過ぎちゃって(笑)。やっぱりホラ、昔からアニメのエンディングって面白い歌が多いじゃないですか。それを凄くイメージして、3人で一所懸命考えました」

井上「いやホントにね、若い人って『ぶっちゃけ』って言葉を使いますけども(笑)、僕もぶっちゃけますとね、色々あって心が弱ってた時期なんですよ。そんな時、昔からお付き合いのあるスチャダラさんとかMUROさんが作ってくれた曲を聴いて、車の中でちょっとポロッときちゃって(笑)。記者の方に言いたいんですけど、泣けます! このアニメ、このエンディング、このスコア、泣けます! ここ太字でお願いします(笑)」

▲原作者の井上三太
▲エンディング曲を手がけたスチャダラパー

▲主人公カイ役の浪川大輔
▲カイと対立するメラを演じる三宅健太

▲謎めいた美女スンミ役の小林ゆう
▲新境地に挑む佐藤竜雄監督

 作品の類を見ないスタイルと強烈なキャラクターは、声優陣にとっても魅力的かつチャレンジングな内容だったようだ。

浪川「自分にとっては今まであまり経験した事のないキャラクターというか、こういう役をやりたかったというのもありますし、普通のアニメって悪の部分は隠すような傾向にあると思うんです。でも、この作品ではそれを堂々と『どうだ!』って見せているので、芝居の方も心の底から気持ちよくやらせてもらっています。本当にエネルギッシュな、パワー溢れる作品だと思います。演じる方もかなりのパワーを使ってやっているので、その辺を楽しみにしてください」

三宅「原作を読んだ時から、この溢れんばかりのエネルギーと疾走感というのが本当に衝撃的で、その衝撃に惚けているような状態でメラをやらせていただいております。常に心の中に繊細なものを抱えていて、いろいろ葛藤している非常に難しい役です。常に戦っている状態でして(笑)。作品的にも、若者のエネルギーのぶつかり合いというものが非常につぶさに描かれているので、このパワーに負けないように観ていただきたいなと思っております」

小林「スンミという役は、とてもミステリアスでアンニュイで、でも可愛くてセクシーで、とらえどころのない猫のようなキャラクターです。私は普段、少年とか元気な役が多いので、こういう大人っぽい女性の役にチャレンジさせていただくのは初めてで、本当に嬉しいです。それと同じくらい、身が引き締まる思いがしています。アフレコの時、監督始めスタッフの皆さんが後ろの方から『大人の女を演じるんだよ、頑張って!』と言ってくださって、そういう皆さんの温かい励ましの中で、思い切り頑張らせていただいてます。スンミはとても魅力的な女性なので、そのたくさんある魅力をひとつでも多く、私が頑張る事でお伝えできたらいいなと思っています」

 最後に、佐藤監督が作品の映像的なポイントについて語った。今回のアニメ化で監督が特にこだわったのは「色彩」であるとか。

佐藤「三太さんの原作を拝見すると、単行本1冊1冊のカバーページが、色彩にとてもこだわっているんですね。漫画って基本的にモノクロなんですけど、そういう構成がされているので、各トライブが仕切っている街にもそれぞれ主張があって、色がある。モノクロのページをめくっていても、トライブの色を感じるんです。だから、まず『今回は色だな』と。ブクロ、シヴヤ、シンヂュクといったそれぞれの街の色を決めていきました。それもすでに三太さんがイラストで描かれていて、大体のイメージは掴めていたので、そういう意味では凄く楽でした。あとは『夜のドライブって楽しいね』っていう感じ。主人公のカイ達が車を走らせるシーンがあるんですけど……わりと殺伐としたトライブ同士の抗争の合間にある、そういう仲間同士の交流。これもホッとする色彩が設計されているので、その辺を実現できるといいかなと思って、色々やりました。ただ、まだやりきれていないので、どんどん進化していくと思います」

 TVアニメの限界を超えた過激な描写も満載の『TOKYO TRIBE2』は、11月11日(土)深夜1時よりオンエアスタート(R―15指定)。映像で表現された濃密な「夜」の気分も味わってほしい。

 続いては、同じくマッドハウス制作の湯浅政明監督作品『ケモノヅメ』1〜4話をスクリーン初上映。劇場の大画面と迫力の音響で観ると、さらに強烈なインパクトを放っていた。今回の上映で初めて作品を観たという人の感想が気になるところ。

▲湯浅政明監督初のオリジナルTVシリーズ『ケモノヅメ』

 上映前には、制作作業の合間を縫って駆け付けた湯浅監督(この日は12話の放映日)と、佐藤監督によるトークショーが行われた。客席で『TT2』第1話を観ていた湯浅監督の感想は――

湯浅「あんなファミレスには行きたくないなあ(笑)。なんか悪い人達がいっぱい出てくるし。それに比べれば自分のは、真面目な人ばっかり出てくる可愛いドラマだな、って思いましたね」

佐藤「僕も『ケモノヅメ』は何本か拝見させていただいて、可愛らしい動物の活躍するファンシーなアニメだなと思いました(笑)」

湯浅「そうそう。『ケモノヅメ』にもサルが出てくるんですよ。だから今日はサル繋がりで」

▲湯浅監督と佐藤監督。忙しいさなか、束の間のリラックスムード

 かつて亜細亜堂でほぼ同時にキャリアをスタートさせた2人が、同じ放送局の同じ枠、同じ制作スタジオで立て続けに監督作を発表する(しかも両作とも愛と暴力満載のR指定作品)という奇妙な縁。トークの中では、下積み時代の懐かしい思い出話も。

佐藤「僕は会社に入るのが半年ズレたんですけどね。湯浅君と一緒に試験を受けたんですけど、彼は絵が巧かったから、僕は『また次においで』って言われて。それで2度目に面接を受けた時に、社長の芝山(努)さんが、いかに湯浅君が巧かったかっていう話を延々とするんですよ」

湯浅「作り話ですよ(笑)。口ではこんなおべんちゃら言ってますが、ホントにエリートでね。凄く出世が早くて、僕が必死で動画を描いてる頃、彼は演出助手とかで活躍してて。『今日はちょっと、神田に資料を探しに行ってきたんだ』なんて」

佐藤「そうだっけ(笑)。他には、今の亜細亜堂の主力で『忍たま乱太郎』とかをやってる藤森(雅也)君ともほぼ同期で。みんなで近くにある大学の学食に行ったり、それこそファミレスに行ったりしてましたね」

湯浅「なかなかファミレスも行けませんでしたけどね、貧乏だったんで。学食だと300円でメシが食えるんですけど、俺は最初それすら食えなかった。コンビニでカレーパンとピロシキを買うのが精一杯で。そんな話は別にいいッスよね(笑)」

 『ケモノヅメ』は最終話の追い込み作業中、『TT2』もまさに制作真っ只中であり、そういう意味でも今回は貴重なツーショットとなった。

湯浅「こんな事してる場合じゃないんですけどね。早く帰って描かなくちゃ、みたいな」

佐藤「だから僕も、こんな軽装でやって参りました(笑)。あまりにも貧しい格好だったので、急遽SARUのTシャツを貰いまして、これを着て出てくださいと。国際イベントなのにあんまりだ、と(笑)」

 もっと2人の掛け合いを聞いていたかったが、あっという間に時間切れ。最後に2人から、それぞれのシリーズの見どころが語られた。

佐藤「とりあえず展開が凄く早いんですよ。それでいて、カイとメラという2人の少年達の心の流れを丁寧に追っているので、その辺の構成と、さっき言った色彩ですね。それから音楽への期待と。まだみんな手探りでやっているので、どんどん色々な創意工夫を織り込んでいきますので、期待してください」

湯浅「『TOKYO TRIBE2』もそうだと思うんですけど、今回はお話がやりたいなと思いまして。基本はラブストーリーで、ラブ・バイオレンス・コメディみたいな。結構クサイぐらい、半笑いになるぐらいマジな感じで展開していくと思うので(笑)、笑うなり真面目に観るなり、好きなように楽しんでもらえればと思います」



■東京国際映画祭レポート(3)に続く

●関連サイト
『TOKYO TRIBE2』公式サイト
http://www.tt2-anime.com/

『ケモノヅメ』公式サイト
http://kemonozume.net/

東京国際映画祭公式サイト
http://www.tiff-jp.net/ja/


(06.11.10)


 
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