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『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』トークイベント
in TAF2007・レポート


 7月7日に待望の劇場公開を控えるSTUDIO4℃の最新オムニバスアニメ『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』。そのスペシャルトークイベントが、先日開催された「東京国際アニメフェア2007」の中で行われた。司会を務めたのは当サイトの編集長でもある小黒祐一郎。3回にわたって催されたイベントから、2回を抜粋してお伝えしよう。

 1回目のゲストは、『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』参加監督の1人である渡辺信一郎と、エグゼクティブ・プロデューサーを務めるSTUDIO4℃代表取締役・田中栄子。渡辺監督作品「BABY BLUE」は、意外や意外、高校生の男女を主人公にした青春ラブストーリーだ。

▲「BABY BLUE」監督の渡辺信一郎 ▲田中栄子エグゼクティブ・プロデューサー

渡辺 今回のラインナップを見ると、非常に濃厚なものを作る方が並んでらっしゃいますよね。ここで僕まで濃いものを作ってしまうと、ひたすらトンカツを食べ続けるような胸焼け状態に陥ってしまう(笑)。1本の映画として観る場合、制約なしに自由に作れるとはいえ、多少のバランスは必要なんじゃないか。だから僕としては、飲み会の最後に食べるシメのお茶漬けのような、シンプルですっきりしたものをという発想で、この作品を作りました。
── スチルや予告編映像を拝見すると、これまでの渡辺作品のイメージと違って、かなり爽やかな青春ものの印象ですね。
渡辺 仕事のお話をいただく時は、やっぱりドンパチやアクションをやってくれというオファーが多いんです。今回は、自分の中にある引き出しの中で、普段オファーを受けないようなものを作ろうということもあって、青春ものにチャレンジしました。
田中 今回、菅野よう子さんが音楽を担当してくださってるんですが、その打ち合わせに監督と佐伯(幸枝)というプロデューサーが一緒に行きまして。その場で監督が「この話は、実は僕の高校時代の思い出で……」と言うのを聞いたらしいんです。私はそれを聞いて「これって渡辺信一郎の初恋!?」と思った瞬間、胸がキュンとしちゃいましたね〜。
渡辺 えーと、話がだんだん大きくなっていってるんですけど(苦笑)。まあ、自分の経験した事も“一部”入っている、という事です。私小説ならぬ私アニメを作っているわけではないので、そのままの事が実際にあったわけじゃありません。
── 渡辺監督の作品といえば、どんなパートナーと組むのか、というのも気になるところだと思うんですが、今回の「BABY BLUE」ではどなたをデザイナーに起用されたんですか?
渡辺 キャラクターデザインと作画監督は、安彦英二君という人です。今までキャラデザインはやった事がなくて、現場でアニメーターをやっていたんですけど。たまたま彼の描いたスケッチを見る機会があって、それが今回の作品に凄く合っているかなと思い、お願いしました。


 この作品はキャスティングも話題のひとつ。映画「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した柳楽優弥と、「バベル」でアカデミー助演女優賞にノミネートされた菊地凛子が、主人公である高校生の男女を演じているのだ。

田中 主人公には渡辺監督に似た人がいいと思いまして、イメージ的に雰囲気が似ているという事で、柳楽優弥さんに演じていただきました。そして相手役のヒロインは菊池凛子さん。アカデミー賞の授賞式に向かう前日に、この作品のアフレコ収録をしていただきました。
渡辺 基本的に僕は抑えた芝居というのが好きなんですけど、抑えすぎると存在感がなくなってしまう場合もあります。抑えていながら声だけで存在感が出せる人という事で、この2人にお願いしました。実際やってみると、演技のニュアンスの部分ももちろんですが、役者としてカンがいいので、アフレコで画に合わせて喋るのも、どんどん巧くなっていくんですよね。予想以上によかったと思います。


 渡辺監督はかつてSTUDIO4℃で『THE ANIMATRIX』の2エピソードと、ナイキのCMの1編を監督し、湯浅政明監督作品『マインド・ゲーム』では音楽プロデューサーを担当。今回も監督のみならず、『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』全7タイトルの音楽プロデュースを手がけている。そんな渡辺監督にとって、STUDIO4℃とはどんな会社なのか?

渡辺 一緒に仕事をする前から、STUDIO4℃は非常に個性的というか、面白い会社だなーとは思っていました。実は『COWBOY BEBOP』の劇場版をやっている頃、TVシリーズをやろうという話が一度STUDIO4℃から来ていたんです。その企画自体は流れてしまったんですが、後に『THE ANIMATRIX』で初めて一緒に仕事をするようになりました。
── 他の会社と違って独特というか、困ったところはありますか?
渡辺 そうですねえ……中に入ると、時間の流れ方が世間と微妙に違うんです。他の会社だと怒号が飛んでたり、騒がしかったりして活気があるわけですけど、STUDIO4℃は一歩足を踏み入れるとシーンとしていて、時間の流れがインド並みにスローなんです(笑)。その時間感覚に合わせて切り替えて接しないとやりづらいですね。
田中 幸いな事に世間を知らないもので、「これが普通」と思ってやっています。スタッフ全員、作品づくりに集中して、黙々と緊張感をもって仕事をしていると言い換えてもらえれば、ちょっと綺麗かなと(笑)。
── 今回、渡辺監督はジーニアスの1人として今回の企画に選ばれたわけですが、天才と呼ばれるのはいかがですか?
渡辺 いやですねえ(苦笑)。元々そういうコンセプトだから参加したわけではなくて、「オムニバスをやるから1本やらない? 好きなものを作れるよ」と言われて、「やります」と返事をしたら、後で『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』というタイトルを聞かされて「えっ、そうなの?」みたいな(笑)。
田中 監督にとっては逃げ場のないタイトルだと思っております。それでも受けて立ってくれたという事は、もう紛れもないジーニアスです! 渡辺監督には今回、全作品の音楽プロデューサーもやっていただいてるんですが、第2弾、第3弾でも引き続きお願いしたいと思っています!
渡辺 えーと、考えておきます(笑)。
── 音楽プロデューサーとして全体をご覧になられていかがですか?
渡辺 今回、初めて監督をされる人も結構参加されていて、「あ、こういうものを作るんだ」というフレッシュな作品になっています。そこに私とか河森(正治)さんのような年寄りも混じって(笑)、安定感のある作品もあり、いいバランスで面白いものになっていると思います。

 この時、話題に上った『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』第2弾は、すでに制作が進行中。こちらも錚々たる顔ぶれが揃っている。次に控える7人のジーニアス達と各作品タイトルは以下のとおり。

前田真宏「ガラ」
田中達之「陶人キット」
大平晋也「わんわ」
ヒロ・ヤマガタ「(untitled)」
中澤一登「MOONDRIVE」
ニコラ・ド・クレイシー「Le manchot melomane」
森本晃司「次元爆弾」

 トーク2回目のゲストは、『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』第2弾への参加が決定したばかりの前田真宏監督と、6月にDVDがリリースされる『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアス監督。2人は『THE ANIMATRIX』「セカンド・ルネッサンス」で監督とプロデューサーとして一緒に仕事をした仲。今回が久々の再会だったという。

▲第2弾に参加する前田真宏監督 ▲特別ゲストのマイケル・アリアス監督

── お2人から見て、STUDIO4℃の印象というのはどんなものなんですか?
前田 やっぱり、代表の田中栄子さんの印象が凄くありますね。クリエイターの思うように仕事をさせたい、という意識がとても強い人で。大なり小なり、いい仕事をしている会社というのはそういうカラーを持っていると思うんですが、STUDIO4℃は特にそう感じます。それに呼応して、いろいろなスキルやいいスタッフが育っている「工房」という性格が強いですね。
アリアス 他の会社でやった事がないから分からないけど、凄くモノ作りに適してる組織だと思うんですよ。逆に、僕が昔働いていた海外のビジュアルエフェクトの会社と雰囲気が似てるかもしれない。いろんな人がいて、上下関係もあまりなく、みんなでディスカッションしながら作品を作っていく。社長兼プロデューサーの田中さんは、スタッフから監督までそれぞれのいいところを引き出すために、日々そういう現場を作っていくために努力してる。それは凄くいいな、と思います。
前田 いい意味でラジカルな会社というか。世間の流行に合わせたり、商業主義の中で作るだけじゃ面白くないと思ってる人達が集まっている感じですね。

 森本晃司、田中達之、ヒロ・ヤマガタなど、強烈な個性の作家陣がひしめく『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』第2弾。その中で前田監督が仕掛けるエピソードのタイトルは「ガラ」。気になるその内容とは?

前田 僕のパートは、一言で言えば「花さかオーケストラ」みたいな事をやろうかと。絵が動くとこんなに楽しいんだ、映像と音楽がシンクロするとこんなに面白いんだとか、そういうアップな気持ちになるものをぜひ作りたいですね。生きる楽しさみたいな。『THE ANIMATRIX』は非常にダークで世紀末的なトーンがありましたけど、今回の企画は多彩な人達が集まったお祭りだと思いますので、それに相応しい、素直に面白いものを作りたい。
── 他の参加メンバーに対して、ライバル意識みたいなものはあるんですか?
前田 ありますよー、及ばずながら(笑)。『THE ANIMATRIX』の時もそうでしたけど、スタジオ内で監督達が同時に仕事をしている時は、互いにあんまり仕事を見ないんですよ。一応ライバル心とかプライドがあるから。でも繋げて観ると面白かった。例えば誕生日パーティにプレゼントを持ち寄って「どうだ!」って見せ合うような。「こんなの作ってたんだ!」みたいな素直なサプライズがあって、凄く楽しかったんです。その楽しさをもういっぺん体験したいな、というのが参加した動機でもありますし、「俺のプレゼントは誰にも負けないぞ!」という気持ちもあります。
アリアス 僕は大体、そういう場から逃げちゃう方だから(笑)。でも前田さんや森本さんは、いつもアイディアが有り余ってる感じだから、それがちゃんと昇華される場として『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』は楽しみにしてます。いろんな作家さん達が短く濃く作るのって、長編作品ともTVシリーズとも全然違うテンションだと思うから、見終わった後は案外疲れるかもしれないけど(笑)。


●関連サイト
『Genius Party<ジーニアス・パーティー>』公式サイト
http://www.genius-party.jp/

STUDIO4℃公式サイト
http://www.studio4c.co.jp/

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(06.05.18)

 
 
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