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STUDIO4℃・田中栄子インタビュー(4)
創造への愛、『GENIUS PARTY』の意義



小黒 あと、うちの読者はいちばん知りたいところだと思うんですけど、大平晋也さんの作品は何分あるんですか?
田中 何分だろう。まだでき上がってないですからね。
小黒 プロモーション映像を見た感じだと、2分ぐらいで終わりそうな感じでしたが……。
田中 あ、そんな事はないですよ。10分以上はあります。これはホントにここで言っちゃいけないかもしれないけど、大平さんに初めて子供ができたのね。それで、子供ってこんなに素晴らしい想像力や可能性を持ってるんだ! というのを描きたくて作った作品なの。
小黒 じゃあ、今回はこれまでの作風とは違って、どちらかというとおっかない絵柄ではないんですね。そうでもない?
田中 そこにはやっぱり、彼独自の創造性とかいろんなものが入ってくるわけだから。あくまで発想の出発点。でもね、自分に子供が生まれて、あんまり可愛くて、初めて「描きたくなった」作品であるというのは、凄いと思いません? そういうところでの、作品を受け止める人と監督との付き合いって、必要だと思うのね。そこで仲間になっていくというか。絵画でも何でも、その人の人となりを知る事によって、より奥深い鑑賞の仕方ができてくるのと同じように、アニメーションもそういう参加の仕方ができるんじゃないかと。
小黒 具体的には?
田中 絵画って、やっぱり作者の人となりも見たいじゃない。それを知る事によって、例えばその画家が耳を削ぎ落としてまで求めたものの凄さみたいなものが、さらにグッと伝わってくるでしょう。そういうドラマが『GENIUS PARTY』にもある。作品自体を切り離されたメッセージとして受け取るんじゃなくて、作り手の思いが受け手の中にもシンクロして、作品が50%、そして作り手と受け手の気持ちが50%、合わせて200%みたいなね。計算合わないけど(笑)。受け手の受け入れる力こそが、作品を凄くしていくと思ってるから。
小黒 大平さんという人のバックボーンを知る事によって、50%がさらに掛け算で増えていったりするわけですね。
田中 そういうところは今まで伝えてこなかったし、表現してこなかった。でも、小黒さんが今まで注目してきたのは、そういうところなんだよね。イベントとかで「こういう作品をもっと身近に楽しもうよ」って、前から仕掛けてきてるじゃない。その行為自体がそうだもんね。私、そこから学んでるの。
小黒 田中さん、巧いなー(笑)。
田中 そんな事ないよ、ホントにそうなんだもの。私が今まであなたに評価されてきて、今度は私があなたを評価してみたら、やっぱりそういう事なんだから。気がつけば今回の企画も「ああ、同じところにいるんじゃない」って。
小黒 それを「GENIUS」と名づけるところが田中さんらしいですよ。
田中 ネーミング、いいでしょ。
小黒 単純に、ふたつの意味が考えられますよね。参加しているクリエイター達が天才だという意味か、あるいは彼らの天才の部分を見せていくという意味か。どっちなんですかね?
田中 両方。もっと言うと、「GENIUS」というのは、個々の人間1人1人が地上の星である、というような意味も含んでる。何か特定のものを表しているというよりは、いろんな理解の仕方をしていける総称としてつけました。
小黒 なるほど。
田中 最初はみんなから反発もあったのね。俺達はそんな「GENIUS」っていうほど偉かないよ、みたいな。でも森本さんなんかは、「GENIUS」と呼ばれた以上は、責任もって凄いものを作らなきゃいけない、という風に受け止めたし。その言葉の受け止め方も人によって違うというのが、また面白いでしょ。
小黒 マンガ家の福山庸治さん、画家のヒロ・ヤマガタさんと、映像作家じゃない方も参加してますよね。かなり驚いたんですが、これはどういうキャスティングなんでしょうか?
田中 ご本人と話をしていて、やる事になったんです。
小黒 福山さんはマンガ家で、ストーリーテラーでもあるから分かる気もしますけど、ヒロ・ヤマガタさんは風景画で知られている方じゃないですか。どんな作品を作られるんですか?
田中 今はニューヨークにいらっしゃるので、今度来日した時に、最終的な事を決める打ち合わせをします。どういう形で作るのかは、本人と話してみないと分からないですね。でも2月くらいにはSTUDIO4℃に入りますよ。
小黒 凄くドキドキしますね。ひょっとしたら、アニメ界に新しい表現が生まれるかもしれない。
田中 一緒に作るスタッフも、違う目線をどんどん受け止めていくと思うし、絶対に面白い化学変化が起きますよ。いろんな人とやってみたい、という気持ちは凄くある。どこまで変化していくのか。
小黒 やっぱり『GENIUS PARTY』は今後も延々と続けていきたい企画なんですか。
田中 もちろん!  まあ、お金が続く限りね(笑)。だから、きちんと回収していける道筋をつけなきゃいけない。
小黒 『GENIUS PARTY』に関して、どこかでスポンサーに入ってもらう事は、もちろん考えているわけですよね。
田中 そうですね。だけど、市場の原理というのは理想論とは違うので、これから立ち向かわなくてはいけないんですね。好きな人に直接協力してもらう事が理想よね。「大人なんだから1人1万円出してよ」と(笑)。3万人なら3億でしょう?
小黒 それだけあれば『GENIUS PARTY』は作れますか。
田中 10何本も作るのは無理だけど、作り続けていくというところでは大きい。さらに仲間が1万人増えたら、また1億増えていくわけでしょう。その人達に、DVDの売り上げとかを還元していく。
小黒 いわゆるファンドですか。言うまでもないけど、ハードル高いですよ。
田中 高いよね。大体、1000円だって人に出さないもんね(笑)。
小黒 こういった作品を熱烈に観たい人って、若い人が多いと思うんですよ。たとえば、美大生とかデザイン学校の生徒さんとか。そういう人はあまりお金を持っていないから(笑)。
田中 うん、そういう学生さん達から1万円を出してもらおうとは全然思ってないの。やっぱり私達ぐらいの年齢のところで興味を持ってもらわないと、やっぱり市場が成熟していかないんじゃないかな、と思う。
小黒 じゃあ、当面の希望は「アニメファンの成熟」ですか。
田中 アニメファンというか、クリエイティブ・ファンかな。それが大事ですね。それができるようになれば、自分達は自由に発信していけるんだけど、なかなか難しい。「デジタルジュース」をやり続けていたら、一緒に楽しもう! みたいなところまで行けたかもしれない。
小黒 年に1度「デジタルジュース」がある、ぐらいのペースが理想ですよね。
田中 そうね。制作サイドもそれに慣れていけば、もっとサプライズのあるものを共有できる関係になれたかもしれないけど。
小黒 今思えば、STUDIO4℃のオリジナルショートアニメをパッケージとして世に出した最初の作品ですよね。
田中 よく出しましたよ、無謀にも。もっと真剣にSTUDIO4℃ブランドみたいなものを考えて、そこで何かが生まれてくる状況ができるといいんでしょうね。最近やっと世間を見渡せるようになって、「みんなやってるんだなー」と驚いたりしてます(苦笑)。
小黒 でも、継続こそ力なりですよ。STUDIO4℃って何年目でしたっけ?
田中 会社自体の始動から数えると、16年ぐらいかな。大きな流れで言うと、『MEMORIES』を作ってから、『STEAM BOY』のパイロットをやって、『SPRIGGAN』があって、『STEAM BOY』を作り始めて、その後『アリーテ姫』、それから『マインド・ゲーム』……あっという間よね。1本作るのに3年かかるから、知らない間に老けちゃう(笑)。
小黒 そういえば、森本晃司監督の長編はどうなっているんでしょう?
田中 今は『GENIUS PARTY』の作品の方に集中しております。それが終わったら。
小黒 これは森本さんの完全オリジナル作品、しかも長編なんですね。完成は2009年とか?
田中 いやー、あんまり先は考えずに(笑)。本当、アニメーションって時間かかるね!
小黒 当面、控えている大きなプロジェクトはそれ1本ですか。
田中 そうですね。今後のSTUDIO4℃はどうしたらいいんでしょう?(笑)
小黒 ファンとしては、もっと定期的に新作が観られるといいな(笑)。それがいちばんの願いじゃないですか。
田中 そうね。『鉄コン筋クリート』作って「ああ疲れた」なんて言ってちゃいけないのよね。次の作品がちゃんと仕掛けてあって、という事よね。
小黒 あと、映像以外の活動も久々にやってほしいですよ。イベントとか。
田中 『GENIUS PARTY』でやりたいよね! 「映像よ街に出よう」っていうのをポリシーにして。1ドリンク飲みながら、クラブ上映とかできたらいいな。
小黒 ああ、それは向いてる気がします。



●関連サイト
STUDIO4℃ 公式サイト
http://www.studio4c.co.jp/

『GENIUS PARTY』公式サイト
http://www.genius-party.jp/




(06.12.28)

 
 
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